94 オスカーに会いに。
「魔石の、目的か……。災厄をもたらし人に復讐をしているのなら、古代龍は勇者に殺されたという事になるのか。
しかし、古代龍と人間は力が歴然としている。という事は、何らかの理由で弱っていた古代龍を『勇者』が倒して……倒せてしまった、という事か」
レオンハルトがそうため息を吐くように言うと、パウロはばっと顔を上げる。
「やはり! 勇者は古代龍を倒していたのでしょうか!?」
『勇者が古代龍を倒した』説に、目を輝かすパウロ。
「……そうかもしれませんが……。しかしそれは、古代龍には非常に不本意な事だったのかもしれませんね。誇り高き古代龍が人間に倒されその残された魔石までもがその後も人間に利用される……。その『念』……、『怨念』でしょうか。それがあの魔石に篭っていたというのなら、長い間人間達が振り回されて来たというのも事情としては分からないではありません」
「そうだね。とすると、目的はやはり『人間への復讐』。であればあの魔石をきちんと『封印』し然るべきところに祀れば『魔石』の怨念は晴れるのだろうか」
「ああ……。勇者が古代龍を倒した代償は大きかった、という事ですね。これだけの長い間人間の世界を翻弄させてきたのですから。
……では、きちんと祀ってもらう事が魔石の目的だったのでしょうかね」
利用されないという目的は勿論なのだろうが、『祀る』というのは人間の感覚だ。それが本当に『古代龍』の目的なのだろうか?
ローズが少し納得出来ずに考えていると、レオンハルトも同じだったようで考えていた。この問題を解決するヒントは……。
「レオンハルト様。とりあえず、オスカー様とお話をしに行きませんか? 今のところ彼だけが戦争の時の本当の事情を知っているのですもの」
ローズの言葉にレオンハルトは頷いた。
アールスコート王国の王都から離れた離宮。
ローズとレオンハルトとパウロは離宮の前に立っていた。
「はぁ……! 凄い……、凄かったです! まさか『転移』をこの身で体験する日が来るとは……!」
感動で打ち震えるパウロ。その横で苦笑しつつレオンハルトも頷いていた。
「ああ、本当に。私もレオンハルトとして初めての体験だったが、安定感が素晴らしいね。しかも2人も自分以外の者を連れて転移出来るとは」
「レオンハルト様。……ラインハルト様は、『転移』がお出来になられたのですね」
「ああ。それでも勿論自分1人しか転移出来ないし、そう何度も出来ない。ここぞという時にしか使えなかったよ。今の魔法使い達で使える者もそうじゃないのかな。貴女は毎日王宮や教会の行き来に使っているようだけどね」
「う……。正体をバレないようにあちこち行くのに便利なのですよ。いずれはバレるかもしれませんが、出来るだけ学園では平穏に過ごしたいので……」
「…………学園で、気付かれていないのかい?」
レオンハルトはそんな事はないだろうとは思いながら一応尋ねた。
「私のクラスの人達は分かっています。そしてクラスのみんなが守ってくれてるので、まだ他の人達は気付いていないと思います」
レオンハルトはそれを聞き、皆気付いているのではないかなと思いながらも黙って微笑んだ。
……しかし。
「あー…。それ、絶対みんな分かってるヤツですね。一応、黙っておこうか、みたいな。いい仲間達じゃないですか。うん」
ニコニコと笑いながらそう言うパウロにローズは衝撃を受ける。
「え!? でもクラス以外の人からは何も言われた事がなくて……。髪や瞳の色も以前のままにしているから、きっと気付かれていないのだと……」
「そーんな訳、ないじゃないですかー! 表面の色味が違っても、貴女の内から出る輝きを見れば分かる者には分かりますよ。何しろほぼ全国民の前で見事な癒しの魔法をおかけになったのですから!
……ああ、あれは今思い出しても鳥肌がたちます。きっと他の人達もそうですよ。忘れられるはずがありません」
「そ、そんな……。私の学生生活……」
見るからにガックリと項垂れるローズにレオンハルトが声をかける。
「ローズ。他の生徒達が敢えてそれを言わないのだとしたら、それはローズの穏やかな日々を守ってくれているということだよ。とても有難いことだね。皆、ローズの気持ちを尊重してくれているんだ。貴女はその皆の心を受け取り、穏やかな学生生活を送ればいいんだよ」
レオンハルトはショックを受けていたローズを慰め、パウロに静かに目をやる。
パウロはローズが本当に気付いていない事に驚きつつレオンハルトの視線に冷や汗をかいた。
ローズも「そうですよね……」ととりあえず気持ちを持ち直す。
「さあ、とにかく離宮の中に入ろう。……ああ、迎えが来たようだね」
レオンハルトが話を逸らすように離宮の方を見ると、そこにはここの侍従がやって来ていた。
「……レオンハルト殿下。ようこそ、おいでくださいました。オスカー様のご様子をご覧になりにきてくださったのですね」
少し涙ぐむように言う侍従。オスカーが大切に扱われているのだろう事に3人は少し安堵する。
「ああ。あの子は……オスカーは元気にしているかい? 今は学園にも通えていないから家庭教師は手配してあったのだが、きちんと勉強もしているのだろうか」
レオンハルトは末の弟を心配する優しい兄の顔だった。
……あのような事があっても、やはり2人は兄弟なのだ。ローズはそんなレオンハルトを微笑みながら見ていた。
「はい。最初こそ落ち込んでいらっしゃいましたが、今は色々お考え直されたようで……。勉強が遅れれば学園に戻りづらくなるからと、励んでいらっしゃいます。今はエルフの方々は会議があるとかでいらっしゃらないのですが……。……それでは、ご案内いたします」
ノックをして開かれたその部屋には、おそらく家庭教師とそして1人の少年。
「……オスカー?」
まずレオンハルトがその部屋に入ると、その少年オスカーは目を見開いた。
「……レオンハルト兄様? ッ! それに、マイ……ローズ」
そして、3人をじっと見てから、「兄様が来たから、今日は終わりでも良いですか?」ときちんと家庭教師に挨拶をし、家庭教師はこちらに礼をして侍従と一緒に出て行った。
パタンッ……。
扉が閉まって、3人はじっと様子を探るように見ながら黙っていた。パウロはその後ろで3人の様子を黙って見ている。
「オスカー。……元気にしていたかい?」
レオンハルトが最初に口を開いた。
「……レオンハルト兄様。あんな事をした僕に、何の用? そして、僕の前世の秘密もその罪も知っているんでしょう? 僕の事を裁きに来たの?」
オスカーは少し緊張したような顔で言った。
「オスカー。お前はあの時の会議の内容を知らなかった。知らずに、この国の為に良かれと思ってした事だ。私があの事でお前に対して思う事はない。
ましてお前の前世の罪など、今のお前には全く関係のない事だ」
レオンハルトははっきりとそう言い切った。
オスカーは驚愕の表情をする。
「嘘だ! ……レオンハルト兄様は綺麗事ばかり。誰がどう考えてもあの時の事は僕が兄様を疎ましく思っていたからしたんだよ。魔力も高くて賢くて立派で皆に頼りにされてて……! 母上だって、結局はテオドール兄様を1番可愛がってるし、そしてずっとそんな兄様達と比べられて誰も僕を見てくれない……! ……そんな時、前世を思い出したんだ。前世のゲオハルトも、僕と同じだったから……」
オスカーは泣いていた。
「……私を疎ましく思っていた事は知らなかったが、昔から私の心の支えの一つは間違いなくお前だったよ、オスカー。母の居ない私に、いつも笑顔で駆け寄って来てくれたのはオスカー、お前だけだった。それで私も今まで頑張ってこられた。私が立派だと言うなら、それは私を支えてくれたお前のお陰でもあるのだ」
「ッ! レオンハルト、兄様……! う、うわぁーー!」
オスカーは暫く泣いた。レオンハルトはオスカーの肩を優しくポンポンと叩いていた。
暫くして泣き止んだオスカーは、恥ずかしそうにチラとローズとパウロを見た。
「……あの。2人も、ごめんなさい……」
オスカーが意外にも素直に謝った。
『魅了』を解除され、暫く離宮に軟禁され改めて世界の理を勉強した。彼なりに考え、そして今回レオンハルトときちんと話をした事で少し落ち着いたのかもしれない。
「「いえ、いいのですよ」」
ローズとパウロの声がハモった。
3人はクスリと笑う。
「そしてローズ。……前世の事も、本当にごめんなさい。謝って済む事では勿論ないのだけれど……」
まさか、前世の事まで謝罪してくれるとは思わなかったローズはかなり驚く。
――しかし。
「オスカー様。先程レオンハルト様も仰いましたが、前世と今は別の人間です。……その記憶が残っている、……ただそれだけですわ。ですからそれに関して謝罪はいりません」
「ローズ……。……マイラ。僕は本当に馬鹿だった。君のその輝ける心を摘み取って自分のものに出来ると考えていたのだから。
――うん、僕はこれからは前を向いて歩くよ。そして今度こそ間違えない」
真っ直ぐにこちらを見る瞳に、3人は笑顔で頷いた。――オスカーはこれから良い自分の人生を切り拓く事が出来るだろうと、そう強く願った。
「……それで? 今日ここに来た本当の理由は?
ああ、怒ったり拗ねたりしてる訳ではないよ。今はまだ忙しいはずの3人がここに来るってそういうことかなぁって。ローズが2人を『転移』で連れて来たんでしょう?」
意外に察しの良いオスカーに3人は苦笑しつつ答えた。
「オスカーのところにはいずれ来ようと思っていたが、急に確認したい事が出来てね。……前世の事だ。大丈夫かい?」
レオンハルトがオスカーの様子を窺いながら問う。
「うん。……大丈夫だよ。……僕がしてきた罪を、話せばいい?」
「違うよ。今私達は『勇者の守り石』の事を調べている。……アレはその昔『古代龍を倒した勇者』の魔石で間違いないかい?」
「……うん。そう聞いてる。あの戦争を起こす前。……隣国が我が国に横暴を働き出していた頃にあれは持ち込まれたんだ」
オスカーは当時の事をゆっくりと話し出した。
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