93 魔石の意志
「あの『勇者の倒した古代龍』の話の魔石が、巡り巡ってこの王国の『勇者の守り石』か……。なんとも皮肉な話だね」
レオンハルトは苦笑して言った。
「そうでございますね。その魔石には嘘をまとわす呪いでもかかっているのではないでしょうかね。もしくは『偽物の勇者を引き寄せる呪い』とか? ……はぁ」
パウロはヤケクソのようにそう言って大きな溜息を吐いた。
ローズはそんなパウロを見て苦笑するが、一応パウロの言った事を真剣に考えてみる。
「あの魔石自体に、呪いですか……。確かに強力な魔力の篭った石ではありましたが。おそらく魔石となってから500年以上は経っているというのに、未だ恐ろしい程の力を秘めていますものね。
それでいて、魔物避けの力を発動させる為に相当大きな魔力の贄を必要とする……。考えてみれば、今も尚危険な魔石ですわね」
魔女マイラの時にそのように加工したのではあるが、とにかくあの時も初めは何をしても力を跳ね返されて随分と苦労した。
「そう考えればそうだね。新たな魔力を供給しなければ魔物避けとはならず、無害な物となるのかと思っていたが、決してそうではないという事か……。確かアレは今は封印されているのだったか」
「はい。レオンハルト様に力を注入された状態でしたので、魔物避けの力を発動させない為に私が仮に封印しております。今回妖精族の方とあの魔石の相談もするとエルフの長は仰っておられましたわ」
「確かに、あの魔石は一王国に置いておくにはかなり危険な物なのかもしれないな……。過去その魔石を持っていた国は何ともなかったのだろうか?」
レオンハルトがそう言うと、うーむとパウロが考えて答える。
「本の中では、勇者が古代龍の魔石を持ち帰り暫くは勇者の国にありました。力が大き過ぎて普通の魔石のように利用する事も出来ず、国宝として管理されていたとか……。その後盗難にあい、そこからは世界各地へ転々とし最終的に我が国へと……。おそらく最初の国と同じようにどの国もその魔石を利用出来なかったのでしょうが、特別その国々に呪いがかかった、という事はないかと思いますが」
「……今、一度でもその魔石を持った事があると分かっている国は分かりますか?」
ローズの問いに、レオンハルトは地図を取り出し3人で眺める。
「最初の『勇者の国』はここ、そして盗み出され次に歴史に姿を現したのはこの国、その次に文献に載っているのはこちらの国、そして……」
3人で魔石が回ったと思われる国々をチェックしていく。地図には勇者の国から東のアールスコート王国にかけて辿ってきた軌跡が分かる。
「……あれ? この印の付いた国って……」
パウロが思わず声に出す。レオンハルトとローズも少し驚きつつ頷いた。
「……こう、地図になると一目瞭然なのだな。これらは我が国が200年前に戦争してきた国々とほぼ一致する」
レオンハルトは書棚からもう一つ地図を出してきた。……この国がカルドラ王国と呼ばれていた頃に戦争をした国々に色付けがされている。それは先程印を付けた古代龍の魔石が回ったと思われる国々とほぼ一致していた。
魔石が回っていない国も勿論あったが、それは戦争をしている国と同盟国であったりしたからで、こちらから攻撃を仕掛けた国は魔石が渡ったと伝えられる国々だった。
3人は息を呑み、その2つの地図を何度も見比べる。
「……ですが、200年前に戦争を始めたのは、隣国が我が旧カルドラ王国の豊富な資源や作物を狙い、隣国の軍事力を武器に不利な条件を推し進めて来たから、と聞いた事があります。……この王国は後付けで散々都合の良い歴史を伝えて来ましたが、戦争の始まりはおそらくそれで間違いはないのではないかと私は思っているのですが」
パウロが珍しく真剣な顔で2人を見て言った。
「そうだな。戦争の始まりはおそらくそうであったのだと私も思う。
……問題はそこからだ。幾ら思いがけず最初この国が勝利を収めたとして、何故次から次へと他国にまで戦いを挑んでいけたのか。
我が国に現れた『魅了』。……それだけで戦力や武器などが遥かに劣る事をどうやって補っていけたのか。人を操るというそれだけで、世界中に影響を及ぼす程の戦力を持ち得ることが出来たのだろうか?」
レオンハルトもそれが今まで疑問だった。前世で帝国側から見ていた時も不審に思っていたが、属国とした国の人や物資を使っているのだろうというのが帝国の結論だった。
だが、やはり肝心の自国の戦力がそれ程無いのに戦いに勝ちそこまでやっていけた事。それが全て『魅了』の力で成し遂げたというのか。
「オスカーに、確認せねばならないか……」
前世あの200年前の戦争の最中に暗躍した弟は、父である国王とは別の離宮でエルフ達に再教育されている。『魅了』の力を無くし、今は随分と落ち着いていると聞いている。
「……そうですね。それが1番だと思います。前世私も幼い頃にはもう戦争は始まっていたので、その辺りの詳しい事情は分からないのです。
私のところにあの『古代龍の魔石』がやって来たのは王立大学生の頃ですが、それまでには王宮で十二分に研究し尽くされた後のようでしたし。
……あの魔石はあの当時から、禍々しい力を発していたのは確かです。ですから、私はあのままあの魔石を使いこなす事ができないなら『封印』してしまおうと思っていました」
ローズがそう言うと、パウロがはっとした顔をした。
「ちょっと、お待ちください……。それって」
「? マクレガー様?」
ローズは急に顔色を悪くしたパウロにどうしたのかと声を掛けた。するとパウロはローズとレオンハルトの顔を交互に見ながら言った。
「それは……、もしかして、『封印』をしようとしたから? ……あの魔石は『封印』されそうになったから、それをさせない為に何かに使えるようになった、という事なのでは?」
「「!」」
ローズとレオンハルトは顔を見合わす。
「まさか。……あの魔石は『意志』を持っている、と?」
「……確かに、あの魔石は一般の魔法使いには『封印』は難しかったのかもしれません。それが封印出来そうな者が現れたので、『魔石』は私にワザと使われた。……『封印』されてしまわない為に。そしてこの国に影響を持ち続ける事に成功した、ということかしら」
レオンハルトとローズは信じられない思いで考えを口にした。
「この国に、影響を……。それは、200年前からこの王家に『魅了』の能力者が絶えず生まれ続けていることとか。この国の王家にはそれまでにも『魅了』の能力者が生まれてはいたようだ。だが……、それまでの文献を見る限りあの戦争時までは『魅了』持ちが生まれるは本当にごく稀。そしてそれ程強い力ではなかったようだ。ましてや200年前あちこちの戦地で数知れない程の人々を『魅了』し続ける程の力は持っていなかったのだと思う」
兄弟で唯一『魅了』を持たなかったレオンハルトは、魅了の力の存在を知った時から文献などを調べ尽くしていた。今では歴史上の『魅了』の事はほぼ分かっているつもりだ。
それを一緒に調べていたパウロも頷いた。
「そうでございますね。あの魔石はおそらく意志を持って我が国の王家が元々持っていた『魅了』の能力を目覚めさせ、さらに強大にしたのだと思います。そして偶然会った魔女マイラに『封印』をされそうになったので、魔石として働く事にした。といったところでしょうか?」
「でも、この魔石は意志を持っていったい何をしようとしているのかしら? 戦争や災厄を起こして、人に復讐をしようとでもしているのかしら?」
ローズはあの魔石がどんな意志を持っていたのか、そしてもしかして前世の自分達はあの魔石によって運命を歪められたのかと少し重い気分になった。
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