91 フェルの心配
「えっ!? ドラゴン!?」
素っ頓狂な声をあげたリアムを見て、フェルは申し訳なさそうな顔をした。
『済まぬの。ほとんどの魔物達はまとめてあるのだが、我らとてせっかくの安住の地には余計な騒ぎを起こすような者は認められぬ。……そう魔物達に通達を出したら一部の魔物達が離反してこの有様なのじゃ。奴らは人間と対立し襲い続けようとしておるのだ。……そして遥か遠き地に棲む伝説級のドラゴンを担ぎ出そうとしているようでな』
「伝説級の、ドラゴン……。それは、かつて人の勇者が倒したとされる古代龍のような、ということかしら……」
ローズがポツリと言うと、「古代龍!!」とまたしても驚きと興奮を隠せない様子のリアム。そして学園から借りてきたという書物の中からまた一冊を取り出した。
「姉様! もしかして、これのこと? マイラの時代よりももっと遥か昔に勇者が古代龍を倒した英雄譚だよ!」
何やら変に興奮しているリアム。彼が学園で借りてきたのは、『金獅子』や『古代龍を倒した勇者』。……リアムの好みがよく分かる。
「……そうね。それにその話に出てくる『古代龍』の魔石が、この王国の元『勇者の守り石』よ。とは言っても、その話に出てくる勇者が本当に古代龍を倒したのかは怪しいところなのだけれど」
世界各地の剣豪や魔法使いが集まっても、『古代龍』は倒せないと思う。とてもではないがローズでも無理だ。その『勇者』は、おそらくは『古代龍』が相当弱っている時に倒したのか、もしくは既に病気や老衰で死んでいたのか……。
『そうじゃな。ヒトに『龍』は倒せまい。そして、今回のドラゴンはお主達の想像通り普通のドラゴンでは無い。古代龍に限りなく近いドラゴンだ。
しかし彼らドラゴンは普段は平和に暮らしているから奴らに手を貸すことなどないと思うが……。離反した奴らは相当追い詰められているのか『なりふり構わず』の状態じゃ。なんらかの騒動は起こりそうだとお主らも知っておいて欲しいのじゃ」
フェルはそう言ってその白いふわふわの耳をピンと立て、真っ直ぐなつぶらな瞳でこちらを見た。
「分かったわ。……ありがとう、フェル。教えてくれて。この話は王国側の方にお伝えしても?」
『ああ、勿論じゃ。さっき仲間から奴らがドラゴンの所へ行ったと聞いて、慌ててお主らに伝えに来たのじゃ。この国に奴らがおかしな動きをせぬように今は統制をしているが、何か事があって契約がご破算になっては困るでの。我らの内情を伝えておかねばと思ったのじゃ。……特に今は、エルフ族がおらんからの』
「エルフ族が? どうしていないの?」
いつかエルフ族にも会いたい! と夢を膨らませるリアムが聞いた。
「妖精族との話し合いに行かれたのよ。今回の我が王国との決め事や周辺国の様子など事細かに説明されるそうよ。……妖精族の一部のお方は特にあの200年前の戦争から人間がお好きではないようだから……」
「……妖精族!! うわぁ、本当の本当に、彼らも存在するんだね……! 僕は流石に妖精はただの伝説かと思ってたよ……」
キラキラした目を向けてくるリアム。きっと今度は妖精族関係の本を借りてくるかのもしれない。
『まあ確かに200年前までは妖精族の一部はまだ人間と関わりを持っておったな。……しかし元々それほどこちらの世界に関わりを持たない種族じゃ。我も数えるほどしか会ったことはない――』
フェルが言い終えるより早く、リアムがフェルをローズの膝の上から抱き上げた。そして視線を合わせきらきらした目でフェルに問いかけた。
「フェルは妖精族に会ったことあるの!? どんな感じ? やっぱり羽がついてて飛んでたりするの!? エルフ族も美しいそうだけど、彼らは更に美しくて神秘的っていうよね? ……うわぁ、いつか僕も姿を見られる日がくるのかなぁ!」
リアムは大興奮してフェルに迫った。フェルはその勢いに少し引いていた。
「リアム! フェルが驚いているじゃないの」
ローズはリアムの勢いに驚いて止めようとし、リアムはハッと我に返りフェルを椅子の上におろして「ごめん……」と頭を撫でた。
フェルは『構わんよ』と頬をリアムの手に擦り寄せてから言った。
『妖精族は……、美しい。それは恐ろしいほどにじゃ。人や魔物の生とはかけ離れた存在。神に近いというのが1番しっくりくるじゃろ。
……ローズも、会った事があるのではないのかの?』
フェルは最後チラリとローズを見て言った。
「……そうですね。私も、お会いしたことが、あります。光のような存在でしたね」
ローズがその時の事を思い出しながらそう言うと、またしてもリアムが食いつこうとして……、はっとして息を一つ吐いてから姉に尋ねた。
「姉様も、会った事あるんだ。いいなぁ……。でもフェルは魔物達の長だから分かるけど、姉様はどうして会ったの? マイラの時だろうけど、あの時代にはカルトゥールの一族であれば会うことが出来たということ?」
羨ましそうに姉を見ながら言うリアム。
「…………そうね。当時の父もお会いしたことがあったようだから、そうかもしれないわ」
少し言葉を濁しながら言った姉に、リアムは少しおやと思った。
『……まあ、そもそもカルトゥール家の初代は妖精族から力をいただいたと言われておるから、縁は深いのかも知れんのう』
「えっ! そうなの? 僕知らなかったんだけど」
じっとローズを見るリアムとフェルに、ローズはポツリと話し出した。
「カルトゥールの初代は魔法研究に大変熱心だったそうで、それを見た妖精族の方が力を与えてくださったの。それ以来、妖精族の方々はカルトゥール家を見守って下さったわ。カルトゥール家の家紋の中には妖精が描かれていたはずよ」
「! そうなの? わー! 見てみたい! というか、これからのカルトゥール家の家紋もそれになるんでしょう? すごーく楽しみだよ!」
「家紋のお話はお父様と少ししたけれど、昔のカルトゥール家の家紋をそのまま復活させようと仰っていたからきっとその内に見られるわよ」
そんな話をしながら、ローズは魔物達の動きや妖精族の事を考えていた。
……もしかして、妖精族はカルトゥールの事を嫌ってしまわれたのだろうか? ――そう少し不安に感じながら。
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