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9 封印の秘密


「あちゃ〜。……コレは、ちょっとやらかしちゃったかしら?」


 ここはダルトン子爵家の地下。そして旧カルトゥール邸の地下室でもある。

 久々のそこそこ大きな魔法。地下室ごと違う場所への転移。しかも、旧カルトゥール邸とダルトン子爵家の地下の土地ごと入れ替える必要があり、少々複雑な魔法だったのだ。魔法は無事成功した。…が、そちらに集中するあまり、かなりの魔法の衝撃が起こってしまった。コレは、気付く人は気付くわよね。


 すぐにそう気付いたので、もう魔法の痕跡は消したけれど……。

 あとは、この国にどれだけある程度の力を持った魔法使いがいるか、ということになるわね……。

 …お父様も、気付いたかしら? …うん。コレは知らぬ存ぜぬで突っ切るしかないわね!


 ローズはこの部屋の封印を掛け直し、自室に転移する。そろりと居間を覗くが、まだ父は帰っていなかった。ホッと息を吐きながら、買い物をしそびれていた事を思い出し、籠を持って玄関に向かう。――と、


「お姉様! 帰っていたんだね! さっきの、気が付いた!? なんだかすごい衝撃を感じたんだけど、アレってどこかで強い魔法が使われたってことだよね!」


 弟リアムが興奮気味に話しながら駆け寄って来た。


 ――リアムが気付くという事は――。


「ローズッ! 先程の衝撃、アレはいったい……!!」


 父が大慌てて帰って来たのだった。


 …そうよね、お父様も気付く、ということよね……。さて、どうやって誤魔化そうかしら……? 『知らぬ存ぜぬ』、通用するかしら……?



 ローズの微妙な笑い顔を見たダルトン子爵は、自らの興奮を抑える為に一つ大きな息を吐いてから言った。


「……ローズ。お前があの日、封印を解いた時から何か秘密を持っている事は分かっている。そして、あの日を境にお前は少し変わった。

この不甲斐ない父に話して何になるものでもないかもしれないが、秘密というものは1人で抱えていていい時もあるが、そうでないことも多々あるものだ。1人で何もかもを抱え込んでしまうがために間違いを起こすこともある。

ローズ。私とリアムはお前の味方だよ」


 …ダルトン子爵は、あの封印が解かれた日からずっと悩んでいた。

 初めこそダルトン子爵家の長年の悲願であった、魔力の解放が叶った事を喜んだ。…しかし、それまで苦しい生活ながらも3人で協力し合っていた家族、娘のローズが時々全くの別人のように感じるようになったのだ。特に魔法関係の話になると、まるで老練な魔術師を相手にしているような気分になる。


 そして、ほぼ何もかもをローズ1人で解決していく姿に、父親であるのに不甲斐ない思いを一層強くしたのだ。…仕事が上手くいかず元々不甲斐ない父であった事は分かってはいるのだが……。

 ローズが変わった理由も知りたいが、何より家族力を合わせてこの事態を乗り切りたいのだ。ローズだけに苦労させたり悩ませたりはさせたくない。


 その強い思いで父は娘に語りかけた。


「そうだよ。僕も当然お姉様の味方だよ。今までも協力し合ってきたじゃない。お姉様が抱えている苦労だって3人で分け合えばラクラクだよ」


 リアムもニッコリ笑いながら言った。最近のリアムは家の手伝いをしながらも、学園に入る為の勉強を頑張っている。


「…お父様。リアム……」


 ローズは先程までの、いかにしてこの2人を誤魔化そうか、などと考えていた自分を恥じた。封印を解いて前世の記憶や魔法まで思い出したローズは特殊で、この2人にそれを説明しても仕方がないと思っていた。


 だけど――。

 2人は、ローズがローズであってマイラでもある事を感じとっていた。そして、本心から一緒に苦労を分かち合おうと言ってくれている。

 

 私は前世のマイラの時も1人で突っ走ってしまって失敗したけれど、それは今も変わっていなかったのね――。


 ローズは意を決して2人に話すことにした。


~~~~~


「「…『魔女マイラ』の、生まれ変わり……!」」


 封印のあった元開かずの間に移動し説明を受けたダルトン子爵とリアムは、まるで合わせたかのように同じ言葉を発した。


「…ええ。あの封印が解けた時、私にマイラとしての全ての記憶が戻ってきたの。だから、私はどうしても王国に囚われたくなかったし、また大事な家族に被害が及ぶようなことにはしたくなかった。それに時間が経ったとはいえ、もしマイラの一族とバレたら悪い事が起こる気がしてならなかったの」


 ダルトン子爵は、納得したように言った。


「…だから、姿をそのままに、力は最小限にしていたのか……。そして、ローズが封印を解いたからそれを使えたのではなく……」


「そう、私が『マイラ』だから。そもそもこの封印を作ったのは私。私マイラか、ダルトン家直系の者が3人揃わなければ、この封印は解けないようにしていたの。…マイラは弟をダルトン子爵に預けてこの封印を施したわ。ダルトン子爵はあの時直前に命を助けた私にその恩で協力してくれる、と……。その位の短い繋がりでなければ、周りにバレる可能性があったの」


「魔女マイラの弟の一族、なんだね。僕ら……。お姉様、マイラは結婚はしていなかったの?」


「…してないわ。王立大学の学生の時に戦争に関わるようになったしね。でも、求婚はいっぱいされたのよ! この国の王族は勿論、他国の王族や騎士達にと凄かったんだから! だけど、好きでもない人と結婚なんて考えられなかったし、当時は戦争の真っ最中だったもの。…稀代の魔女なんて呼ばれるようになって、それからその力を手に入れる為の結婚の申し込みが後を立たなかったわ。……アレは本当に人間不信になるわね」


 ため息を吐きながらそう語るローズに、2人はなんとも言えない顔をした。


「最後にはマイラの両親も亡くなって年の離れた弟1人が残された。他の一族は国外に逃げていたわ。それでマイラはダルトン子爵と契約を結び、封印を施したの」


「『契約』……?」


 ダルトン子爵が呟く。


「そう、『契約』よ。子爵はその時御子息を亡くされていて、マイラの弟を養子にして盛り立ててくれる事を約束してくれた。マイラはその代わりにこの家の発展を約束して『術』を施した。それは弟の身を守る為の魔力の封印と、この子爵家に幸運やお金周りが良くなる術、領地が豊かになる術……」


 ローズがそう説明していると、ダルトン子爵は思わずといった様子で口を挟んだ。


「…それは、今のダルトン子爵家に全くないものだ。それは期間限定の術だった、という事か?」


 苦々しい表情で言う父に、ローズは更に説明を続けた。


「…半永久的なものよ。2人共、これを見て。この石の配置。この石達は私が魔力を込めた『魔法石』。コレをこの魔力を施した特殊な板の上それぞれの所に配置する事によって半永久的に魔法は続くの。…けれど、ココとココ。不自然に空いた箇所があるでしょう?」


「!! まさか……。誰かが石を持ち出して、それで?」


 ローズはショックを受けた様子の父に言葉を続けた。


「…この辺りは、幸運やお金周りが良くなる術の場所。おそらく先先代の時に持ち出したのね。そしてここ……。領地の大地の恵みをもたらす箇所。8年前、コレをとったから飢饉が起こったのだと思う」


「……!」


 父は言葉を失ったかのように黙り込んでしまった。この部屋はダルトン子爵家の直系しか入れない。…ということは、ここの石を持ち出したのは……。


「…今の2人の力は本来の3割程よ。2人の身体が慣れてくれば徐々に上げていくつもりなの。それから、今日の大きな魔法なんだけれど……」


 2人が息を飲んでローズを見る。


「マイラの元の屋敷の、地下室をこの屋敷の地下に転移させたの。魔導書もあるから2人でまた勉強してね」

 

 サラッと何でもない事のように言うローズに、2人は固まった。


「…え、と……。マイラの屋敷の地下室から……、書物を運んできた、の……?」


 立ち直ったリアムがポソリと問いかけた。


「? ううん、地下室ごとよ。マイラの屋敷跡は一等地だから近々再開発があるらしいのよね。あの地下室にはマイラの私物やカルトゥール家の大切な物をいっぱい入れて封印してあったのよ。掘り起こされても面倒だし、丸ごとこっちに移動させたの」


 書類をケースごと持ってきたわ、位の気軽さで言うローズに、2人は再び固まったのだった……。






お読みいただき、ありがとうございます。


ダルトン子爵も色々悩んでいたようです……。

そして子爵家の直系の誰かが魔法の石を取ったことで、子爵家の凋落となってしまいました。子爵は心当たりがあるようです。

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