とにかく現状把握してみるか
水面から陸地へと己の体を移動する事に恐らく相当な時間を費やしたと思う
その甲斐あってどうにか水中からの脱出は成功した様だ
一難去ってまた…ではないが大元の問題が全く解決していないので一歩前進、というよりも単にゼロに戻せただけなのだが
おっと、こんなネガティブ思考を展開しても仕方がないな
元々絶望からの復活だ、今はこの状態で何が出来て何が出来ないのかを調べてみるとしよう
時間的感覚は全く感じられないがそれこそ時間はたっぷりあるのだ…ろうから。
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正直どの位時間が経過したのかは分からない
この体は今の所人間の三大欲求は発生していないのだ
「性欲」はこの状態で湧いて来たら呪ってやる事として肝心な「食欲」と「睡眠欲」が湧いて来ないのが不思議でならない
生命体として活動するからには何らかのエネルギー補給を必要とする筈なのだが全く腹が減った感覚がない
睡眠欲に関してはどうなのだろう?
人間や動物であれば睡眠はホルモン分泌や自己修復の為のインターバルとして必要不可欠という認識はあるが
そもそもこの体は有機質なのだろうか?
ゲノムを持っているのか、そもそも細胞とかあるのかも想像が付かない
何となくの知識だが思考と運動を司る部分があるのだから最低でも単細胞生命体ではないのだろう
そんなとりとめのない事を考えながらも今行っているのは出来る事と出来ない事の仕分け作業だ
再び水中へ転落するのは何としてでも避けたかったのであれからかなり努力して水辺?から離れる努力はしたつもりだ
そのお陰かこの体の使い方と言うか動かし方は結構イメージ通りに出来る様になって来た
恐らく雫形(肉まんっぽい?)体を平らにし、進みたい方向に吸盤を作るイメージを送り抵抗を生み出して再び雫形に戻す
するとゆっくりではあるが思った方向へ進んでいる感覚が生まれる
効率が悪すぎるな…と試行錯誤を繰り返している内に水に落ちる前に習得したキャタピラのイメージを付加する移動方法を遅まきながら思い出した
ナメクジの腹足や足波を使った歩行方法、と言えば何となくイメージしやすいだろうか?
たった一人なのに誰かに説明する様に語っているのは何もしたくてしている訳じゃない
こうしていないと孤独に心が押し潰されて発狂しそうになるのだ
死の恐怖から逃れた!と思ったら孤独感に苛まれるとは思ってもみなかった
逆に孤独感には終わりが見えないので死より苦痛を感じるのだ
誰かに語り聞かせるつもりも可能性もないが己を保つ為にこの語り口調はずっと続けて行こう
さて、移動手段を得た所で次に必要だと思われるのはやはり食事だろう
飢餓感がなくても生命体として活動している以上、エネルギーの枯渇からは逃れられないと思ったからだ
まぁこの体に必要な栄養素も食事方法もそもそも消化器官が備わっているのかも分からないがきっと何らかの方法で吸収分解はしているのだろう
ところでエコー画像の様な視界も慣れて来るとかなり細かな違いも判別出来る様になり
白黒の濃淡や生前?の記憶に照らし合わせた感覚で相当な視界を獲得する事に成功していた
遅いながらも移動能力と視界を手に入れた事により今自分が何処に存在しているのかが判明した
やはり洞窟内部だった
ただこの洞窟は何処かの天井が崩落しているらしく光が横方向から射し込んでいるのが分かっている
更にこの洞窟内には水晶の様な結晶が発生しており射し込んだ光を反射させて洞窟内をかなり奥迄照らしているのも分かったのだ
最初そんな事とは露知らず角柱状の物体が光り輝いているのに気付いた時
(うおっ⁉聖剣発見かっ‼)
と腕もないのに興奮したのは内緒だ
厨○病っぽいリアクションをしたのは恥部でもあるが男性なら心ときめく気持ちはきっと共感してくれるだろう
その後聖剣と勘違いした水晶の角柱を何とか引き抜こうと必死こいて漸くソレが結晶だと気付いた時には気力も体力も大幅に削られていた
ガッカリ感を表現してみたくなり水晶のある岩場から転げ落ちてみた所、射し込んだ光によって育ったのであろう草?の上に落ちた
その時である
体表に触れた草が体内に取り込まれたかと思った瞬間融解したのだ
(えっっ⁉と、溶けた?)
そう言えばそんな「設定」が生前?の世界であった気がする
となるとこれが「補食」という行為でこれによりエネルギー補給が成立したのだろうか?
全く補給出来た感覚はないが取り込めると言う事はそうなんだろう、きっと。
それから暫くは認識出来る範囲の草を体内に取り込む事に専心した
エネルギーに変換されるのかは分からないが餓死は避けたかったのだ
恐らく周囲の草はほぼ補食した後に何の気なしにさっき発見した水晶の角柱によじ登り補食出来るか試してみた
結果として時間は掛かるが溶けさせる事が出来るのは分かったがそれが栄養として吸収されたのか迄は分からなかった
結局アニメやラノベの様に初っ端からチュートリアルが用意されていたり何故か知識として認識している事はなく
全てゼロから試行錯誤するしかないという事実を突き付けられたのである
まぁこの体がどれだけ生きるのかすら分かっていないのだから逆に調べる時間は腐る程ある
牛車の様に遅い移動方法も要改善だし生命維持の為に何を補食すれば良いのかもさっぱり分からない
この体になってしまった原因を探るよりも生きる為にしなくてはならない事はそれこそ山の様にあるのだった
(…とにかく補食出来るモノは片っ端から補食していくか)
こうして始まった新しい人(?)生は絶望や恐怖よりも希望と疑問に満たされて生き生きとして来たのである