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エピローグ━失敗?━

さー、勢いであげてしまいました!

どうなることか生暖かく見守って頂けると幸いです

「そこ、指が掛かると思うから上手く引っ掛けて体重移して」


「は、はいっ‼」


キレイなインストラクターのお姉さんに指示された場所に指を掛け、徐々に力を込めて体を引き上げていく


「くっ…よっ…っ‼…はぁ、はぁ…」


「そう、そのままこっちに体捻って右足はそのままね‼」


(む、無茶苦茶な指示するなぁ…)


俺は今、休日を利用してボルダリングをしている


「あっ‼そこじゃないって‼」


「は、はひぃ?」


「だぁ~かぁ~らぁ~っ‼左手をこっちに運ばないと力が逃げちゃうでしょ?」


「は、はい…よっと、どうだ?」


正直こんな苦行を休日にやるなんて何処のドMなんだ?と言われても仕方ない


俺も誘われなければこんな辛い事をしたいなんて思わなかっただろう


そう、俺はパブで偶然出会った「インストラクター」と意気投合し、流れでボルダリングを体験する羽目になってしまったのだ


勿論ボルダリングに興味があった訳じゃない


インストラクターのお姉さんとお近づきになりたかっただけだ


「ま、真奈美さんっ‼ゆ、指がつりそうだ…」


「もう少し、あと少しで上だからねっ‼」


「お、おっけい‼。。。あ」


「えっ⁉」


突然体が浮遊感に包まれた


次に見えたのは「万が一」の時の為に打ち込まれた金具が岩場から抜け、ハーネスに繋がっていたロープがたわむ場面がスローモーションの様に目の前で繰り広げられていく


「きゃあぁぁ~っ‼」


真奈美さんの悲鳴が上から聞こえて来たと同時に俺は地面に叩きつけられた


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


…チュンチュン…


(。。。ん?)


あれだけの高さから岩場に叩きつけられた


死んでなくてもかなりのダメージを覚悟していたと言うのに今俺には痛みが一切感じられなかった


それどころか岩場にいた筈なのに何故か背中に当たっているのは柔らかな草花の感触だった


(痛た…くはないな…どうなってるんだ?)


確実に骨折はしているだろう、と覚悟していた俺の体は力を入れるとあっさりと半身を起き上がらせる


「…てか此処は何処よ?」


辺りを見回した時、その異常さに考えがまとまらなくなる


目の前にそびえる岩山やゴツゴツとした岩場の代わりに広がっていたのは春を感じさせる草原だった


「あ~…やっぱ俺、死んだんだな?」


つい先程滑落した岩場から突然草原に寝転んでいるなんてあり得る訳がない


目が覚めるとしたら叩きつけられた筈の岩場か病院のベッドの中だろう


なのに今、体を支えている手のひらにある感触は草花の柔らかさなのだ


…グルル…


「…え?」


グオァッッ‼。。。ガッッッ‼


「いっ…痛てぇぇぇーーー⁉」


背後で急に獣の唸り声が聞こえたかと思ったら急に右肩に痛烈な痛みを感じた


「ガッッ⁉な、何だよぉ⁉」


情けない声で痛みの元を見定めようと視線を動かした


…ガチュッ…ブチブチ…ゴリュッ


「イッ!?イギィィィッー‼」


正体までは確認出来なかったが多分獣だろう


その獣は俺の右肩に食らいつくと同時にその強力な顎で俺の右肩付近を食い千切った


もう正体なんかどうでも良い


今まで感じた事のない痛み、恐怖、無力感が入り雑じる中、俺はとにかく逃げようと体を捻った


なのに…逃げようと捻った先でまた別の痛みに襲われた


「ギィィッ⁉」


人とは思えない声を発せさせたのは脇にいた別の獣だった


ガリリ…グチュ…ゴリュッ…


何故だ?何故獣達は息の根を止めてから「俺を食べ」ないんだ⁉


痛みで頭がおかしくなったのか俺は何処かのテレビ番組で見た肉食獣の補食シーンを思い出していた


虚ろな目をした草食動物の喉元に鋭い牙を立てて仕留めるライオン、やがて力尽きた草食動物の肉を食むライオン達


仕留められた草食動物はトドメを刺された後に食われていたと言うのに…

俺は「生きたまま」食われている


「ゴブッ…お、おかしいな?い、痛くねぇや…」


獣の荒々しい口の動きに合わせて揺らされる体だけがこれが現実なのだ、と教えてくれているだけで先程まで感じた痛みや恐怖はもう感じない


(…食われて死ぬんだな…)


早くこの現実から逃れたくて俺はそっと目を閉じてみる


グッ、グッ、と鼻先で押されながら食べられていく感触は次第に薄れていった


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


…ピチョン


…ピチョン…


(。。。ん。。。)


俺は何処からか聞こえる水の滴る音に起こされた


(。。。ヒィッ⁉)


薄らいだ意識が次第にクリアになっていきついさっき獣達から与えられた恐怖や痛みがフラッシュバックして叫ぶしかなかった


後退りしようとしてバタつかせたつもりの手や足は感覚どころか視界にも入らな。。。視界?


そう言えばさっきから目を明けている「つもり」だったが見えていなかった


一瞬にして俺は「獣達に食われた後」の自分の四肢を脳内でイメージしてしまう


(と、とにかく生きて…はいるよな???)


こうして思考を巡らせている、と言う事はどんな姿でも生きている証なのだろう


そう気付いた瞬間、今度は文字通りの「絶望」が俺の全てを支配した


「生きている」だけで他は何の手がかりも感触も視界も得られていないのだ


ダルマの様に四肢を奪われ目を潰され他もどうなっているかも分からない


そんな状態は果たして「生きている」と言えるのか?


例えこのまま治療を受け、助かったとしてもその後の人生は?


頭の中からありとあらゆる絶望的な未来が吹き出し、それが恐怖に変換されて吹き上がって来る


(…いっそのこと楽に死にたいな…)


どの位絶望感を味わったのかは分からないが最後の最後に出てきたパンドラの箱に残されたモノは

おとぎ話で見た希望、ではなく絶望から逃れる為のささやかな「望み」だった

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