嘲笑のなかに若さを………
嘲笑のなかに若さを………
たき ひでなが
目の前から寄って来る君は 車イスに乗っている
君の口は 下唇が横に曲がって 引きつり 端からは 涎が流れている
右の手の指は 鈎状に曲がって膠着し 掴むこともできなそうだ
そんな君が 前をむいて笑っている 見つめ続けている
私の前を行く 三人の女子高生を
女子高生達は、君の視線を受けると
笑う
何が可笑しいのか 笑いは止まらない
「ヤーダー」
少し甲高い声が、通りに木霊した
君は それを聞き それを見て楽しいのか
君も笑い出す
目をきらきらさせて
涎を拭こうとももせず
そんな君を見て 車イスを押している母親は 静かに頭を垂れた
やがて、女子高生と君がすれ違う
だが 君の視線は 笑う女子高生から離れない
「ヤーダー」
と 再び 一人の女子高生が笑いながら応えた
その笑いに応えるように
君も笑う
母親の頭は また一段と低くなった
君よ その笑いを止めるな
君の笑いは いま青春の光を浴びているのだ
例え その光が嘲笑であろうと
君は 若いからこそ その光を浴び 受け止めることができるのだ
母親よ 頭をあげろ 胸を張れ
息子の若さを 精一杯感じ、その成長を誇るがいい
若さは、特権なのだ