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ダンジョン居酒屋さんまるいち  作者: 6k7g/中野在太
シルフの照り焼き
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シルフの照り焼き①

 平日夜の居酒屋さんまるいちには、異世界人リンヴァーシアンのお客さんが多い。

 ロードサイドにばかでかい店舗が建ち並ぶ車社会で、国道沿いの個人居酒屋が集客するのは難しいのだ。

 ダンジョン居酒屋に業態変更してなければ、俺の代で潰していただろう。


「そんで大将、俺は言ってやったわけよ。ダンジョン経由の密入国を取り締まるなんてよお、冒険者の仕事じゃねえ! ってな!」


 ハイボールをやっつけながら、タイリクオオカミの獣人が武勇伝を語る。


「はー、そんなんあるんすね。めんどくさ」

「殺しゃいいんだいっぺん。だろ? リンヴァースのルールでよ」

「いんじゃないっすかね。蘇生できるし」

「そーうそうそう! それが正しい!」


 カウンターの端には、メスガキ系底辺バーチャルユーチューバー、地獄川ヘルがわ詩怨しおん

 トリスのトワイスアップをなめながら、タブレットをつついている。

 第二弾の企画を持ってきたのだろう。

 営業中に乗り込んできてメチャクチャにしない、ギリギリの気遣いだ。

 どうせならしっちゃかめっちゃかにしてくれた方が、こっちはこっちでイジりやすいんだけどな。


 とにかくまあ、今日も閉店。

 のれんを下ろして清掃作業。


「お酒もらいますねー」


 詩怨は厨房に侵入してストロング系チューハイを漁りはじめた。

 もう自宅じゃん、過ごし方が。

 気遣いがギリギリすぎて、好感度が上振れも下振れもしない。

 

 レジを締め、違算ゼロを確認し、現金を金庫に入れて閉店作業終了。


「お疲れ様です、臣下さん!」


 詩怨は三本目の缶に手をかけた。

 かしゅっ。

 ぐいーっ。


「んはー! うますぎますねっ!」

「そらよかったよ」


 俺も呑んじゃお。

 のどごしゼロを取り出して、即かしゅっ、即ぐいーっ。


「へゃー、キくわ。秒でキマる」


 つきだしのマカロニサラダが余ってたので、ちまちまつまみながらのどごしゼロ。

 糖質ゼロみたいな単語に踊らされるぐらいなら酒やめろよって最初は思ってたけど、馴れちゃうともうこれでいいよな。

 ぜんぜんうまい。

 この新ジャンル、仕事上がりに一缶まるごと容赦なく一気飲みするのに正解すぎる。


「臣下さん、第二弾もワイバーンで勝っていこうかと思うんですよ」

「まーいいんじゃない? まだ遊べそうな食材だしね」

「ですよねっ! じゃあ住みますね」


 なんか接続詞バグってない?


「いやーよかったです。アパートの更新契約書ずっと忘れてて、とうとう管理会社さんにすごく怒られちゃって、今めっちゃ気まずいんですよね。いいタイミングでした」

「早い早い早い早い」


 そういえば、ハピネスチャージプリキュアのきったねえバッグ、なんかすっげえパンパンじゃん。

 もしかして家財一式そこに詰まってんの?


「え? だめなんですか?」

「なんで意外そうな顔されてるんだろ」

「だって都合がいいじゃないですかっ!」

「中年男性が幼女と二人暮らしを始めたら、たいてい中年男性にとって都合の悪い末路が待ってるからなあ」


 白黒目と黒白目の眉根を全力で寄せて、詩怨は俺を睨んだ。

 

「臣下さん、朕はこれでも1600歳ですよ。自己決定権があります」


 その言い逃れあまりにも定番すぎてゼロ年代以来久しぶりに聞いたわ。


「地球上では外見年齢が問題になるんだよ。ツノ生えててもダメ」

「はー! なにそれ! はー!」


 キレながらため息つかれてもね。

 過去だれかにここまで無理のある図々しさを発揮されたことないぞ。


「あーあ! 都合がいいのにな! あーあ!」

「1600歳なりの自己決定権を主張したいなら、まず管理会社に謝ろうよ」

「いやです! 朕は人界の書類という書類を後回しにしてきた! 見るだけで怖いんです!」

「分かる。電話も怖いよな」

「めっちゃ怖い! なんでか分かんないけど怖いですよねっ!」


 そんな、我が意を得たりみたいなトーンで嬉しそうに乗っかってくるなよ。


「でも電話は取らなきゃなんないし、書類は書かなきゃなんないからなあ。で、動画撮る時だけここに来ればよくない?」

「まだ分からないんですか臣下さん」


 詩怨は、棒と脚立がありながらバナナを取り損ねた猿に説教する飼育員の顔をした。


「朕は楽しいことだけしていたいんですよ。朕が正しいのは、楽しいのと重なるときだけです」


 えー。

 そこまで開き直られたら、もう説得材料が手元に一つも残らないよ。


「とにかく、考え直そう。Vの者でいたいんだったら日本社会になじもう」


 むちゃくちゃふてくされた顔で睨んできたので、負けじとにらみ返す。

 

「……分かりました。たしかに、都合が良いのは朕にとってだけかもしれません」

「そんなに都合良いかね」


 住んでるアパートから来ても同じだと思うんだけど。


「理想的ですよ! だってここにはポータルがありますからねっ!」


 その一言で、俺はまっしぐらに青ざめた。


「前回だって臣下さんをここのポータルから……臣下さん?」

「あーいや。ええと、え? いつから?」

「いつからって、最初から気づいてましたよ。ここは迷宮大気が濃すぎますから」

「はー……なるほどねー……ふーん……」


 なんで俺がヒエッヒエなのかについて、ちょっと状況説明が必要だろう。


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― 新着の感想 ―
[良い点] しおんの、フリーダムぶりが面白いです!1600歳かあ…神とか人外系には結構ありましたね、見た目幼女のキャラ。
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