ワイバーンの松かさ揚げ⑦
「バズったあああああ! バズりましたああああ!」
ぴしゃーん! と引き戸を開き、詩怨が店に飛び込んできた。
「えーと、仕込み中なんだけど」
大量のマカロニをゆでていた俺は、完全に正当な抗議を申し入れた。
「臣下さん! ちょっとこれ見てください!」
カウンター席に飛び乗った詩怨は、ハピネスチャージプリキュアのきったねえバッグからクソ雑魚タブレットを取り出した。
無価値な抵抗を続けるよりも、付き合った方が早く終わるなこれ。
「ほら! バズりました!」
ディスプレイには、もう二度と見たくなかったHG創英角ポップ。
昨日アップされた最新動画のタイトルは、『初コラボ! ワイバーン肉食べてみる!』。
その再生数は、圧倒的な1062。
「臣下さんのおかげですよ! バズっちゃいました!」
この子、かつては登録者数六万のVチューバーだったんだよな。
辛酸をなめた時代が長すぎたのか、価値観のハイパーデフレが起きてる。
だが、ほっぺを真っ赤にして目をきらきらさせる幼女を見ているうちに、俺はまたも寄る辺のない父性が湧き上がってくるのを感じてしまった。
「よかったなあ」
俺はカウンター越しに、うっかり詩怨の頭をなでてしまった。
詩怨は一瞬、目をまんまるにした。
それから口元をむずむずさせ、照れたように、笑った。
「……うん!」
なんだろうな。
俺はこの瞬間、かなりの確度で理解してしまった。
きっと詩怨とはこの先、長い付き合いになるだろう。
「じゃあわたっ私っ朕、第二弾の企画を練ってきますねっ! 臣下さん、また今度!」
「気をつけて帰れよ」
「はーい!」
ハピネスチャージプリキュアのきったねえバッグを振り回し、詩怨は店を飛び出していった。
じゃあな、詩怨。
また呑もう。
◇
「トリスのトワイスアップ? 珍しいじゃねえか、大将」
カウンター越しにお客さんに話しかけられ、俺はにっこりした。
「ぴったりのツマミ開発したんで。よかったらいっしょにどうすか」
「お、言うじゃねえかよ。んじゃよろしく」
「ありがとうございます」
ワイバーンのバラ肉を揚げて、ベビーリーフを敷いて、トワイスアップをご用意。
「ワイバーンの松かさ揚げ、カレー風味っす」
「どもね、大将。んっはは、いいねえ。この……うお、やっべえなこれ! 大将、やっべえ!」
タイリクオオカミの獣人は、ざくざくっと松かさ揚げを噛みしめて、ご機嫌だ。
「バーチャルユーチューバーとのコラボ配信したんすよ。配信? 動画? まあとにかく、そのとき思いついたメニューっす」
「へえー?」
獣人のお客さんは、スマホで地獄川詩怨について検索してくれた。
再生数に貢献してやったぞ。
「大将、今日はヤバかったぜ。一層にスライムが湧きまくってよ、駆り出されちまったんだ」
「あー、あるらしいっすねそういうこと。あれ植物なんすよね、スライムって」
「そうそうそうそう! 条件が整うと一斉に発芽しやがるからよお!」
松かさ揚げをつまみながら、今日も冒険話に花が咲く。
居酒屋さんまるいち。
通称、ダンジョン居酒屋。
静岡県沼津市の国道一号線沿いにある、ちいさな店だ。
Googleの口コミは2039件、☆☆☆。
お、一件増えてんじゃん。
やったね。
ワイバーンの松かさ揚げ おしまい!




