ホーン・ブーブス②
「そうなんです! 狙われているんです! 呪詛術で!」
呪詛術って、白龍ヨーカが使ってた特殊能力だったっけ。
異世界リンヴァースの名士で、詩怨の首から下を食いちぎって、大イスタリ宮を支配しようとして、冥王ヴェルガシオンに殺されて、最終的にはアイスバインになった方。
(オマエと私はゲームをするよ、ヘルガワ)
声が言った。
(ニンゲン、オマエは観客だ)
ゲームは、これまた白龍ヨーカの持っていた権能だ。
アルセーに聞いただけで生焼けの知識だけど、権能としてのゲームが成立するためには、観客が必要らしい。
だがヨーカはアイスバインになった……これあんまりフェアな言い方じゃないね、俺がしっかり下処理してじっくり煮込んでみんなに振る舞った。
それはともかく、死んだヨーカの呪詛術と権能を持っていて、俺たちを狙う奴といえば、心当たりは一人だ。
冥王ヴェルガシオン、その権能は強奪。
つまるところ、肩固めでやっつけたはずのヴェルガシオンが生きていて、強奪したヨーカの力で俺たちを襲撃したっぽい。
その結果が、この互い違い壁尻シチュエーションというわけだ。
壁尻ってこんなにお互い為す術ないものだったっけ。
「ゲームと呪詛術……最悪の組み合わせですね。やばすぎますよ臣下さん」
相手がヴェルガシオンと知ってか知らずか……どうも気づいていないっぽい詩怨が言った。
こういう状況で、知ってること喋りたいから聞いてほしい雰囲気出してくるんだもんな。
まいったなこれ、詩怨に説明するべきかな。
「呪詛術って、食らう側の精神の具現化なんです」
迷っていたら、詩怨がぺらぺら話し出した。
「ほら、熱いと思ったら熱いってやつがあるじゃないですか。渋川剛気が柳龍光にやったあれです」
「え? どれ?」
「お湯……」
「あー分かった、水の入ったヤカンを『お湯……』って言って投げ渡すやつね。ほんでお湯だと思い込んだ柳が、あっつ! ってびっくりしてヤカンを手放しちゃう一連の」
「そーうそうそうそうそれそれ! んへへ! 通じますねえ臣下さん」
俺としては、詩怨がどういう経路でバキを知ったのかが気になってるけどね。
「たとえばなんですけど、負けたら罰ゲームってルールを作りますよね。その、罰ゲームの執行に呪詛術を組み込むと領域展開です」
「必中必殺になるって理解で良い?」
ジャンプ好きだね君。
俺も好き。
「こっちがもう罰ゲーム受けちゃうなこれはって精神になってるから、呪詛術が直撃するんです」
ルールという共通の枠組みの中では、呪詛術をとても行使しやすいってわけね。
あつらえたような組み合わせ、というか、白龍ヨーカがあつらえたんだろうな。
「しかしやばいですよ臣下さん。これはとにかくやばすぎる!」
ぜんぜん危機感がなさそう。
あ分かったこれ、心の疲れが取れて、元気になりすぎてるんだ。
全然まともな精神状態じゃない。
そりゃそうだよ、知りもしないサンシャイン池崎を小声で急に擦るのが面白いと思ってるんだもん、まともな精神状態なわけないよ。
今この状況で、相手がヴェルガシオンだと分かったら、どうなっちゃうんだろう。
え? 困ったな、本当に対処方法が分からない。
具現化した心の闇みたいな存在と向き合ったことも、ましてや襲撃されたこともないし。
(出された質問に、答えるゲームだよ。全部で十問。五問以上の正解で、勝ち。間違えるごとに、罰ゲーム)
「なるほど……いいルール設定ですね。その程度の“縛り”なら、観客が一人きりでも成立し得るでしょう」
駄目だもう、能力バトルのつもりでいる。
自分で喋ったジャンプ漫画の話に吸い寄せられすぎている。
「臣下さん、大規模なルール設定には大規模な観客が必要なんですよ」
それは知ってるよ、こないだ満員札止めのコロシアムでMMAやってきたから。
(では、問題です)
おたおたしている内に、ゲームが始まってしまった。
(第一問。ヘルガワの名前は?)
「はあ? ふざけてるんですか? 地獄川詩怨です」
じゃんじゃんじゃんじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん――
フリー素材っぽいSEが、どこからともなく聞こえた。
回答後のタメを作って、回答者と視聴者をドキドキさせるタイプのやつ。
でおーん……
おどろおどろしいSEが鳴るなり、ぎゅぐん! みたいな音を立ててポータルの外周が小さくなった。
縁のところが首に食い込んでめちゃくちゃ息苦しいしケツがどんどん迫って来る。
「なんでえ!?」
詩怨が、ケツを怒りにぷりぷり震わせた。
やめて、ケツの圧迫で奥歯が折れそう。
(外れ。正解は、ヴェルガシオン・レイドイー・オルガノシオネー・グラント・ピュケナウーです)
「引っかけ問題だ!」
(罰ゲームは、ポータルが縮むよ)
「なんてこった! 最終的には輪切りのソルベです!」
「バラバラにされてガラスケースに詰められて、郵送されちゃうってこと? 死ぬのみならず?」
「それは言葉のあやですけど死にます!」
「ヘルガワはただの肉袋だから、二つに別れても復活できる。でも人間は死ぬよ」
「ううー! 卑怯者め! 絶対に屈しません!」
(では、次の問題です)
ヴェルガシオンはてきぱき進行した。
(第二問。ヴェルガシオン・レイドイー・オルガノシオネー・グラント・ピュケナウーが生まれたのはどこ?)
「大イスタリ宮三百一層! ピュケナン!」
じゃんじゃんじゃんじゃんじゃんじゃんじゃんじゃん――
ててーん!
(正解です)
「楽勝!」
詩怨はケツにぎゅっと力を込めた。
高反発すぎて頬骨割れそう。
「よーし! 取り返していきますよ臣下さん! すぐおうちに帰してあげますからね!」
「いやその詩怨、少し落ち着いて――」
口を開いた瞬間、地面に渦巻状の暗闇が発生し、骨だけの腕がにゅっと出てきた。
(ニンゲン、観客は静かにしていろ)
槍みたいに尖った指先が、俺の頬を引っ掻いた。
痛い。
「なにやってるんですか! 臣下さんには手出し無用です!」
詩怨がケツをぷりぷりさせた。
ケツで意を伝えようとするのやめない?
(次の問題です)
ヴェルガシオンが詩怨のケツを無視した。
(第三問。ヴェルガシオン・レイドイー・オルガノシオネー・グラント・ピュケナウーが、大イスタリ宮三百一層のピュケナンで、最初に殺したのは誰?)
俺たちは二人揃って完全無欠に言葉を失った。




