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ダンジョン居酒屋さんまるいち  作者: 6k7g/中野在太
エンター・ザ・ドラゴン・イマジナリー
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エンター・ザ・ドラゴン・イマジナリー⑦

 凄まじいブーイングと叫声怒声、そこに混じって大歓声と嬌声。

 闘技場に次々とモノが投げ入れられる。

 ミズナラはゆるりと両手を広げ、ショーシャンクの空にみたいな格好でその全てを浴びた。


「悪いくせが、最悪の方に出ましたね」


 アルセーが口惜しげに呟いた。


「プロトンは、相手のあらゆる攻撃を受け切ってから反撃するんです」

「ゴロ巻きらしい話だね」

「ミズナラは、プロトンの調子が整う前に焼き切る選択をしました。さすが妖艶オリュンポスの支配者ですね。策の勝利です」


 たんかで担ぎ出されるプロトンの体を、アルセーの哀しげな瞳が追った。


「切り替えましょう、アルセー。プロトンを食ったミズナラを食えばいいのよ」

「……はい」


 ミル姉さんに肩ポンされて、アルセーはしょんぼりしながらうなずいた。

 うん、まあ、いいよ別に、詩怨がなんとかなるなら。

 みんながどれだけ好きにやろうと俺だけは忘れないからな。

 俺は詩怨の生首が入ったバッグをぎゅっと抱きしめた。


「さて、次は私の試合よ。行ってくるわ」

「噛まれないでくださいね、勇者様。わたしとるまで」

「あなたのための供物になった覚えはないわ。アルセーこそ、見上げてばかりいると小石につまづくわよ」


 だからばちばちしないでほしいんだけど俺を挟んで。





「東門よりッッ! おいでませ勇者様! まさかまさかのご参戦ッッ! 救世主が見据えるはやはり怨敵ヴェルガシオンの存在根かッ! さあ再び世界を救ってくれッッ! “勇者”ッッ! ミィいいいいいルガルデヴャルドッッ! ギョリンモルデルぅううううううう!」


 チェストガード、ショートパンツ、オープンフィンガーグローブ。

 めっちゃまっとうに総合格闘技っぽい格好のミル姉さんが、背筋をしゃんと伸ばして入場。

 観客席に向かって一礼し、静かに対戦相手を待つ。


「さあ西門からは! 胸を借ります勇者様! 俊英、虚界で武者修行! 為るかッ、大物喰い! とおるかッ、珊瑚衝さんごしょう! 気合い充分、挑むぞ超雌ちょうメス大決戦! “さみだれ”ッッ! ファザぁああああナぁあああああッッ・ノワゼット!」


 現れたのは、なんかスキュラっぽい女子。

 甘茶色の髪をサイドテールに結って、瞳は気が強そうに吊り上がっている。

 その右腕が、盾のような殻に覆われていた。

 石灰のようにざらついたテクスチャで、薄い板の積層構造。

 下半身は白っぽくてぬちぬちしており、かなり触手だ。

 俺は江ノ島で釣ったキロオーバーのアオリイカを思い出した。


「“さみだれ”ファザナは、オカタコブネとプレーンズ・エルフのミックスです。十七歳にして七戦全勝。リンヴァース格闘技界における、注目の新人です」


 腕組みして後方解説者面のアルセーが解説してくれた。


「勇者様がどう闘うのか……楽しみですね、ご主人」

「そうだねえ。わくわくしてきちゃうよ」


 俺は生首入りのバッグをぎゅっと抱いた。

 俺だけは絶対に忘れないからな。


「試合……開始ィいいいいいいいいいッッッッ!!!!!」


 どじゃーん。


 両者は歩み寄り、軽く拳をぶつけ合った。


「よろしくどうぞ、おばあちゃん」


 ファザナが挑発の笑みを浮かべる。


「あとで黒糖飴あげるわね、かわいいたこちゃん」


 ミル姉さんは鼻で笑って受け流した。


「後悔するですよ。ファザナと闘ったこと」

「是非させてちょうだい」


 短いやり取りの後、ふたりは離れた。

 互いに互いを回り合う、伴星のようなサークリング。


 ミル姉さんがぴくっと右肩を動かし、ファザナがのけぞる。

 ファザナの上体の戻りに合わせ、ミル姉さんが左のジャブを放る。

 右腕の殻でジャブをなんなく防ぎ、ファザナが左のダブルを放った。

 二発ともにパーリングで潰し、再び間合いを取る。


「おー……試合っぽい立ち上がりじゃん」


 ジャブで互いの制空圏を測り合うやり取りだ。

 殺意むきだしの目つぶしとかオーガ大回転みたいな試合を見てきた後だと、いっそ安心する。


「勇者様! 付き合わないで! 速攻かけて速攻!」


 アルセーが手をメガホンに怒鳴った。

 後方セコンド面だ。


 ファザナが下半身の触腕をぐっとたわめ、びゃっと飛び退いた。

 互いの距離、三メートルほど。


「まずいですね。来ますよ、“さみだれ”が」


 言葉の直後、破裂音が響いた。

 ミル姉さんの体が、のけぞった。


 続けて破裂音。

 ミル姉さんは一歩後退する。


「触腕です」

「え……ああ、あー、あーあー、ほんとだ」


 ファザナの触腕は下半身を一周するように八本あって、そのうち一本が極端に長い。

 そいつを鞭のようにしならせ、ひっぱたいたのだ。


「見えないのも無理はありません。砂地に対して保護色になっているんですよ」

「そこでタコ要素出てくるんだ」


 環境利用闘法じゃん。


「スナッピーなジャブです。数を集められるとキツいですよ」


 ミル姉さんは、射程外から触手で顔面をひっぱたかれまくっている。

 これは、きっついなあ。


 と、ミル姉さんの腕が持ち上がり、ジャブを受けた。

 触腕は勢いでミル姉さんの腕に巻き付いてから、粘液の痕を残し戻っていった。


はやいけれど、軽い。あなたの“さみだれ”ってこの程度だったのねえ」


 うわくちびるまで垂れてきた鼻血を舐めて、ミル姉さんはにいっと笑う。

 背を丸め、両腕で顔を覆い、“さみだれ”の吹き荒れる中、前進開始。

 ファザナは、くちびるを裂けんばかりに吊り上げ、嗤った。


「ようこそいらっしゃいです、勇者様ッッ!」


 ぱぁあああん。

 ひときわ高い破裂音が、ミル姉さんのガードを破壊した。


「なっ……ぐっ……?」


 ミル姉さんはバックステップで“さみだれ”の射程距離から離れた。


「威力が……?」


 ガードした腕の皮が裂け、血が滲んでいる。


「この程度です。勇者様のお身体に、傷をつける程度。どうですかあ?」


 煽られたミル姉さんは肩をすくめた。


「“ロック”と“フォロースルー”。それが“さみだれ”の秘密です」


 二人がサークリングを始めたところで、アルセーの解説がはじまった。


「繰り出した触腕の根元から任意の場所まで、筋肉を引き締めてロックします。すると、脱力の行き届いた先端部分のみが加速するんです。ご主人に分かりやすいよう説明すると、ヌンチャクみたいなものですね」

「ヌンチャクを振ったことは無いなあ」

「ロックの打撃には威を乗せられません。ですが、それこそが狙いなんです。弱打を意に介さず前進してきた相手に、“フォロースルー”を刺していく。つまり、筋肉をロックせずに、力いっぱい振り抜きます。インパクトと同時に、触腕を強く押し込む。これがフォロースルーです。全力の威を乗せる強打……いえ、轟打ごうだですね」

「保護色で見えないところから、リードブロウとフィニッシュブロウ、二種類の打撃が飛んでくるってことね。そりゃしんどいわ」

「けれど、これはまだ第一関門。勇者様がどう闘うのか、実に興味深いですね」

「ありがとうございました」

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― 新着の感想 ―
[一言] あ、ツイッター更新してましたね!安心しました。続きを楽しみに待ってます。
[一言] あー面白い。気軽なのもいいですね。ところで作者さんが体を壊したりしていないか、心配です。
[良い点] スキュラって何だっけ?後で調べ、あ、キロオーバーのアオリイカ?なるほど、理解しました。 って感じの流れは釣り人あるあるなのでしょうか?哲学ですね(多分違う アオリイカって500gを超えた辺…
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