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ダンジョン居酒屋さんまるいち  作者: 6k7g/中野在太
メガ・バハムートVSグレート・ルールー
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メガ・バハムートVSグレート・ルールー⑫

「うひー、食べたねえ呑んだねえ、満足感ただごとじゃないよこりゃ」


 顔まっかのルールーが、お腹さすりながらお酒をちびりちびり。


「ですねえ。おいしすぎました」


 いい加減もう満足かね。

 でもバハムートの身、まだ余ってんだよな


「あのさ、揚げ物って――」

「入るわよ」

「食べる!」

「余裕ですっ!」


 最後まで喋らせてよ。


「じゃあちょっと待っててな、ぱっと作るわ」


 卵、牛乳、小麦粉を合わせてかちゃかちゃっとかき混ぜ、バッターを作る。

 バハムートの切り身をくぐらせ、パン粉をはたいたら揚げ油にとぽん。


 あぶくを吐きながら沈んでいった切り身が、すぐさまぷかっと浮かび上がる。

 

 じゃわじゃわじゃわじゃわ。

 

 高温で、芯まで火が通り過ぎない加減に揚げたら、いったんバットに置く。


 で、これね。

 バハダシに、酒と醤油と砂糖を加えて煮立てた醤油だれ。

 カツを、さっとくぐらせる。

 箸で持ち上げて醤油だれを切ったら、こいつをほかほかのごはんにオン。

 茎わさびの醤油漬けを刻み、ちょこんと乗せる。


「ほい、バハカツ丼」

「わーもう! 大将もう! 絶対おいしいやつじゃん大将!」

「こんなの畜生でもおいしいって分かるやつじゃないですか!」


 詩怨は箸を手の中でくるっと回し、バハカツの身を割った。

 油と汁と醤油だれのまざった液体がじわっとごはんに染みこむ。


 カツとごはんを、いっぺんにぱくっ。


 ざくざく、もちもち。


 一口目を呑み込んだ詩怨は、お椀を口まで持っていき、どわーっとかっこみはじめた。


「はふっ! はむっ! んんん! やば、やば! ふんぐ、ふんぐ!」


 ランチを五分で済ませたいビジネスパーソンのスピード感だ。


「おかわりっ!」


 空のごはん茶碗を突き出される。

 え、まだ食えんの?

 なんかその……イカ腹みたいになってるけど平気?


「にゃっ! おかわり制度ありなの!? あたしも!」

「私も」


 みんな食うんだ。


「第二陣やるから、ちょっと待っててな」


 食器を受け取りながら、俺は応じた。

 こうなりゃ行くところまで行こうじゃないか。

 なんつったって今日は世界を救ったんだからな。

 祝勝会だ祝勝会。

 

「揚げ終わったら俺も呑むからね。料理とっといてよ」

「お、大将も呑んじゃう? いいね、死ぬまで呑もーう!」

「逃がしませんよ! 決して!」


 逃げも隠れもせんよ。

 限界のその先まで突っ走ろうじゃないか。





 気づいたら朝だったし、店内はきれいさっぱり片付いていた。


 カウンターにへばりついたほほを剥がして、顔を上げる。


「おー、起きた起きた。大将、おはよ」


 ルールーが、ダスターでさっとテーブルを拭いた。


「あ、悪いね。皮脂が……」

「にゃっはっは」


 俺の肩をぽんぽんすると、ルールーは掃除に戻った。


「いつもしてたんですか? 掃除を? 本当に?」


 ぶんむくれた詩怨が、文句つけながら食器を洗っている。


「してたよ! 最低限でしょそれは!」

「ぬうう……」


 ルールーに言い返され、ぐうの音も出なくなっちゃってる。


「いいよ別に。個人のキッチンって規模じゃないし」

「こっちの気分の問題よ。気にしないで」

「ミル姉さんに言われちゃうとなあ」


 俺は一瞬で丸め込まれ、三人が掃除してるのをやや気まずくも見守った。


「ほい終わり! どーだ!」


 ルールーは湿ったダスターをシンクにぺちーん! と叩きつけた。


「ありがとね、助かったわ」

「朕もがんばりましたよ!」

「詩怨も。ありがと」


 厨房の床にホースで水を流し、トラップに溜まった生ゴミを始末し、掃除も一段落。


「んんー……あふっ」


 ミル姉さんが大きくのびをして、あくびをかみ殺した。

 なんとなく、終わりの雰囲気が出てきた。


「みるちゃんみるちゃん、アーティファクト掘りに行かない? 防具ぼろっかすになっちゃったからさー」

「いいわよ。ルーと冒険するのってはじめてかしら」

「そそ! うひょー! 楽しみになってきた!」


 昨日の今日でハクスラすんの?

 冒険者ってすごいな。


 で、俺たちは階段を昇り、フローリングに。

 魔法ジープも片付けられ、ぶっこわれた押し入れと床のタイヤ跡が昨日の名残。


「大将、昨日はありがとね! おいしかった!」

「またなね」

「ん! 次はみんな連れてくる」


 ルールーは「ばいばいっ!」と手を振り、壁の向こうに消えていった。


「S級のDPSにどこまでついて行けるかしらねえ」


 ミル姉さんはそんなことを言いながら、わくわく顔だ。

 根っから冒険者なんだなあ。


「しお、それじゃあ四日ね」

「はい! 掛川、楽しみにしてますねっ!」


 遊びに行く約束してたんだ。

 掛川ってなにがあるんだろ、花鳥園とか?


「それじゃあサンマルイチ号さん、またね」

「うーっす」


 ミル姉さんも、ダンジョンへと。


 友達が帰った後の、しんと静まる瞬間。

 ぼんやり開いた俺の手の中に、するりと、詩怨の小さい手が滑り込んできた。


「分かるよ」


 俺が言うと、詩怨はうなずいた。

 ちょっと寂しいんだよな、静けさが。


「でも、二人ですから」


 そうだな。

 二人だ。


 ぎゅっと手を握る。

 詩怨は俺を見上げて、笑う。


「今日は臣下さんの部屋で寝ますからね。なんかこの部屋、血なまぐさいし」

「リフォームなー。いくらぐらいかかんのかな」

「るがちゃんとミルに出させましょう。四分の三ぐらい。どうせ貯め込んでますよ」


 俺たちは手をつないだまま、俺の部屋に向かう。

 詩怨の歩幅に合わせて、ゆっくりと。

メガ・バハムートVSグレート・ルールー おしまい!

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