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ダンジョン居酒屋さんまるいち  作者: 6k7g/中野在太
メガ・バハムートVSグレート・ルールー
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メガ・バハムートVSグレート・ルールー⑩

 『サメ 解体』で出てきた動画を観ながら、バハムートに挑む。


 まずは背びれやら胸びれやら尻尾やらを、キッチンばさみでじょぎじょぎ切り取る。


 で、頭を落とす。

 包丁をぬぬぬぬっと沈めていくと、背骨の抵抗。

 ぐっと押し込む。

 ぎょりぎょりぎょりっと音を立て、わりあいあっさり断ち切れた。


「あー、へー? 軟骨魚類なんだな」


 サメっぽい見た目のモンスター、骨までサメなのか。

 骨というか、これはあれだ、脊索ってやつだ。


「身質はマグロっぽいな」


 断面は、サシの入るまっかっかな赤身だった。

 皮の近くは背側も腹側も、しっとりサシの入った桃色。


 脊索に対して垂直方向と水平方向に包丁を入れ、背側の身を取る。

 腹側の身も、同じように。


 腹身を持ち上げると、ばかでかくて黄ばんだ内臓が現れた。


「これなんだろ、肝臓?」


 首をひねっていると、ミル姉さんが厨房を覗きに来た。


「あれ? 腕……」


 生えてるね、腕。


「生やしたわ」

「生やしたんすね」

「祝福したのよ。しおのバフも合わせて」


 まあ、ミル姉さんがやったっつってんだからやれたんだろうね。

 事実生えてるし。


「それ、立派な魔臓ね。もらっていいかしら?」

「魔臓っすか」


 既知の臓器ではないな。


「魔力の発生器官のことよ。バハムートは酸素を代謝して魔力を作り出せる、例外的なモンスターなの」

「例外以外を知らんなあ」


 そういや、ウィルオウィスプが土中の魔力を根茎に蓄えるとか聞いたわ。

 窒素みたいな感じで分布してんのかもね、魔力。


「干したものは魔法使いギルドに高く売れるのよ」

「そういうことなら、いくらでも持ってっちゃってください」

「助かるわ。ありがとう」


 ミル姉さんは、剥がした魔臓をステン槽にべちゃっと置いた。

 飽和食塩水をつくって、上からだばーっと注ぐ。


「よかったわね、サンマルイチ号さん。次の仕入れ代、これで賄えたわよ」

「えー? いや、あー……ありがとうございます」


 たぶんリンヴァースの尺度でめちゃくちゃ高値がつくんだろう。

 ご厚意に甘えとこう。


 バハムートをひっくり返し、反対側からも身を取る。

 で、皮をびーっとはがしたら解体完了。


「さてさて、どうしたもんかね」


 腹身の端っこをそいで、食ってみる。


「お……おおー?」


 ブリだ。

 

 しゃきしゃきした歯ごたえ、口の中でとろける脂と、赤身っぽいわずかな酸味、ふわーっと広がる甘み。

 ブリだこれ。


「えー分からん、分かんなくなってきた」


 背側の端っこをそいで、食ってみる。


「あれ? サメだね?」


 脂ののりは上々で、噛めば噛むほど旨味が出るんだけど、全体的には淡泊。

 くせのない白身の印象ながら、舌にじりっとわずかな酸味を感じる。


 なるほどなるほど。

 腹と背で使い分けなきゃならんわけだね君は。


「奪う砂漠! ヴァスティタス!」


 いきなりミル姉さんが叫んで俺はびくーってなった。


「えっなになになに、なんすか」

「魔法を使ったのよ」

「いや理由もセットで……あー、なるほど」


 ミル姉さんは、ひからびた棒みたいなものを手にしていた。

 バハムートの魔臓だろう。


「魔法使えたんすね」

「ほとんどの中級魔法は使えるわよ。これでも勇者だもの」


 勇者って、敬称じゃなくてジョブの一種なんだ。


「なるほどなるほど」


 あ、ちょっと見えてきた感じするな。


「すんませんけど、お手伝いお願いしていいっすか」


 お願いすると、ミル姉さんはうれしそうにした。

 甘えられるの好きなんだよな、ミル姉さん。

 ついつい遠慮しちゃうけど。


「こっちのね、この背側の身と、ヒレっすね。これをからっからに乾燥させてもらいたいんすけど」

「あら、面白いことを思いつくのね。おいしそうだわ」


 何をしたいのか、だいたい伝わったようだ。

 察しのいい人と話すと手間がなくていいね。


「お手数ですが」

「はい、よろしく頼まれました」


 というわけで、俺は腹身と向き合うことに。

 あーでも、まずはシンプルにやろうか。


 脊索を切り出し、すいすいっと刻んでさっと茹でる。

 梅干しを裏ごし。

 で、脊索、梅肉、おかか、めんつゆをボウルでがちゃーっと和える。

 大葉を敷いた小鉢に盛って、白ごまぱらり。


「バハムートの梅水晶ね。これつまんでて」


 ルールーと詩怨に提供。


「大将うえーい!」

「臣下さんうえーい!」


 やけにご機嫌だと思ったら、こいつら既に白州でハイボール作って呑んでんじゃん。

 え、撮影は?

 と思ったらテーブル席にスマホがぽつんと立ってた。

 定点カメラじゃん。

 それ数ページに渡って獣のように盛りあうときのカメラワークであって、酒とツマミで勝っていくときのカメラワークではないんじゃない?


「しおちゃんうえーい!」

「るがちゃんうえーい!」


 もういいよ、好きにしなよ。

 君らのおかげで仕入れ代浮いたし。


「ねー大将、小鉢もひとつお願いできる?」

「おかわり? いいけど」


 ボウルに残ったのを小鉢で出すと、ルールーは、隣の席に置いた。

 そこには、お酒を満たしたグラスが一つ。


「ヴィカス博士だったっけ? 誰だかよく知らないけどさー、がんばったね」


 こちん。

 机上のグラスに、ルールーは自分のグラスを当てた。


「お疲れ。かんぱい」


 で、ハイボールをついっと呑んだ。


 これが冒険者流の悼み方か。

 なんだよ、粋じゃん。

 ちょっと気合い入っちゃうな。



 バハムートから柵を取って、すっすっと刺身包丁を入れる。

 赤身っぽいところ、中トロっぽいところ、大トロっぽいところ。

 鉢につまを盛って、大葉を敷いて、きれいに並べて、お出しする。


「お待たせ。バハムートの刺し盛り、三人前」

「おっ大将、分かってるねえ」


 うれしそうにしたルールーが、大トロっぽいところをひょいぱくっ。


「にゃっ」


 一瞬にしてとろけた。


「にゃー……」


 それはもう一瞬にして、とろけた。


「お酒……」


 とろけながらも要求は忘れんね。


「はいどうぞ、銀嶺立山ぎんれいたてやまの純米吟醸」


 日本一のブリどころ富山より、すっきりおいしい純米吟醸だ。


「おほー……にゃー……」


 一口いって、ルールーはてろてろになった。


「甘口でさっぱりしてるからね。刺身にめっちゃ合うよね」

「お゛ほー……」


 こっちのクッソ汚い声は詩怨だ。

 トロケ顔で天を仰いでいる。


「白いとこもいいんですけど、これ、この、赤いとこ! 血の味やっばいです! ばかほどおいしい!」


 で、銀嶺立山ぐいーっ。


「お゛っ」


 絶好調だね。


「あー合いすぎる! 合いすぎちゃいます! 無限か!?」

「行けるとこまで行こーう!」

「この世の果てまで!」

「投げ捨てに行こーう!」


 ルールーと詩怨はがっと肩を組んで歌いはじめた。

 二人して大興奮だ。

 作りがいあるねえ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ただ悲しむだけじゃない悼み方がすてき。 続きを読むのが毎回たのしみです!
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