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ダンジョン居酒屋さんまるいち  作者: 6k7g/中野在太
メガ・バハムートVSグレート・ルールー
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メガ・バハムートVSグレート・ルールー⑧

 突っこんできたメガ・バハムートを儀鋸でずたずたに引き裂く。

 死骸を一顧だにせず、淫紋バハムートはグレート・ルールーへの最短距離を往く。


 斬り殺し、刺し殺し、裂き殺し、血と肉片の土砂降りを潜り抜けたその先に、グレート・ルールーが待っていた。


 倒れたままでバハムートの執拗な攻撃を受け続けたグレート・ルールーは、口を開き、ぜえぜえと息をしている。


「ぎりぎりまで近づいてください! 血を口に落とします!」


 しゃがっ!


 命じられた淫紋バハムートは、更にスピードを上げて矢のように降下していく。

 やがて視界が、グレート・ルールーの顔に埋め尽くされる。

 

「ほんの一滴……多すぎれば、ルールーは知性を取り戻してしまいます。ほんの一滴でいいんです」

「そりゃまた繊細な話だね」

「“月”のバフは本来、月の魔力の過剰供給によって相手を破裂させるものですから」


 詩怨は中指の先を糸切り歯で噛み、血の玉を浮かび上がらせた。

 雨に濡れないよう手でひさしを作って覆い、ルールーを見下ろす。

 

「チャンスは一瞬。ルールーの吸気に合わせて、血を落とします」


 時間の感覚がバグって、なにもかもがゆっくりだった。


 淫紋バハムートが鋭角で突入し、口の直上に達する。

 吐息のなまぬるい気流に、淫紋バハムートの体が激しく揺れる。

 ごおっと音を立て、ルールーが息を吸う。

 身を乗り出した詩怨が、腕を伸ばす。

 指先で血の玉が震え、自らの重みに耐えかね――


 赤黒い軌跡が閃く。


 突然、視界が開けている。


 淫紋バハムートの頭と、詩怨の手首が、失せている。


 双頭のバハムート、レッド・ヘルメットが、頭上を泳いでいた。

 腫瘍みたいな赤黒い顔の膨らんだ口に、淫紋バハムートの顔と詩怨の腕を咥えている。


 背面ターンから垂直降下したレッド・ヘルメットが、血の滴る手首と頭をルールーの口めがけて吐き出す。

 吸気の勢いで、肉片と血を、ルールーは吸う。


「み゛ゃあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」


 絶叫したルールーが、喉をかきむしながら足をばたつかせた。

 その姿が、見る見る内に縮んでいく。

 向かい風に慣性を殺された淫紋バハムートの死体ごと、俺たちは落下する。


 見上げた空を、レッド・ヘルメットが横切り、竜巻に吸い込まれていった。

 擬似的な知性?

 詩怨より察しが良いんだけど。


 背中が地面に触れ、時間の感覚が元に戻った。

 俺と詩怨はグレート・ルールーの作ったクレーターを泥水と一緒に滑り落ちていった。

 

「ぶえっ、うえっ、泥まっず。しゃりしゃりする」


 うぺぺっと泥水を吐き捨て、俺は詩怨を抱いたまま立ち上がった。

 見上げれば、食い気に逸ったバハムートが空にひしめいている。


「よーし、一匹ずつバラすわ」


 強がって、俺は儀鋸ギーコを片手に構えた。


 強靱な尻尾で雨を叩き、バハムートが突っこんでくる。

 黒い空そのものが落ちてくるような、凄まじい圧力。

 何匹ぐらい道連れにできるだろうか。

 十匹はがんばりたいところだね。


邀龍ようりゅうの型……」


 声がした。


東風解凍こちこおりをとくッ!」


 それは斬撃の“壁”。

 無数の太刀筋を浴びたバハムートたちが、サイコロステーキ状の塊となってどばどば降ってきた。


「にゃっはっは! やってやった! いえーい!」


 後ろから飛びつかれ、俺は儀鋸を杖に踏みとどまった。


「大将ぉー! ひっさしぶりじゃーん! 元気元気? そっちの子はどしたの?」


 変わんないねー君も。


「こっちの子は地獄川ヘルがわ詩怨しおんってVチューバー。で、色々あって世界を救おうとしてるとこだね。失敗したけど」

「だいじょーぶ! 失敗が人を強くする! がんばっていこーう!」


 ルールーは腕を振り上げた。

 けも耳ざむらい、ルールー・ルーガルーとの、ずいぶん久しぶりに感じる(理性的な)対面だった。


「までも、とりあえず逃げよっか」


 ルールーは俺を小脇に抱え、ぽーんと一跳ねでクレーターを飛び越えた。

 穴の淵に、頭を失った淫紋バハムートが横たわっていた。


「……ごめんなさい」


 詩怨が小さく、謝罪の言葉を呟く。


「詩怨、痛む?」

「これぐらいなら、すぐに生えますから」

「生えるんだ」


 回復力がナメック星人のそれじゃん。


輪血鬼りんけつきの権能ですよ。血を分け与えるために、再生能力が高いんです」


 傷口には、既に薄い皮膚の膜が生じていた。

 まあたしかに、そうでもなきゃ気軽に舌を噛みちぎれないよな。


「がくってなるよー」


 ルールーが着地し、俺たちを下ろした。

 ヴィカス博士の運転する魔法ジープが、ばじゃじゃじゃじゃ、と濁流を切りつけながら滑り込んでくる。


「撤退よ。百層から脱出して、完全封鎖と反転魔法弾を行政に要請する。バハムートネードごと、百層そのものを消し飛ばすの。他に道はないわ」


 助手席のミル姉さんが、青ざめた顔で告げる。


「にゃっ! みるちゃーん! 殺そうとしてごめんねえ、でも戦えて楽しかった!」


 駆け寄ったルールーに頬ずりされたミル姉さんは、苦笑を浮かべた。


「私も楽しかったわよ、ルー。さあ、二人も乗って。急ぐわ」

「うっす」


 俺は詩怨を抱っこして、魔法ジープの後部席に乗り込んだ。


「博士、お願いします」

「う、う、ふ、ふ、ふ……ジエンド……イズ……」


 やばいやばいやばいやばい。

 ジエンドイズナーイおじさんが出かかってるよヴィカス博士。

 ってくれ頼むから。


「しお、最寄りのポータルは分かるかしら?」


 詩怨は目を閉じ、こめかみに指を当てた。

 インパラみたいなねじれ角でぐるりと周囲を探る。


「北に二十キロ。たった今生じました」

「博士! さあ、急いで!」

「フーッ……フーッ……!」


 びゃばばばばば、と泥水をかき分け、魔法ジープが走り出す。

 ますます数を増やして空を覆い尽くすバハムートが、雨のように降ってくる。


「生きて帰すつもりゼロみたいっすね」

「任せて! 尻ぬぐいしてくる!」


 ドアを蹴り開けたルールーが、ルーフに這い上がった。


邀龍ようりゅうの型っ! 黄鶯睍睆うぐいすなくッ!」


 斬撃のベクトルに従って空を逆流した雨粒が、沸騰しながらバハムートの群れと交差した。

 全身穴だらけにされたバハムートが、泥水の中にぼとぼと落下する。


「もっぱつ邀龍の型っ! 魚上氷うおこおりをいずるッ!」


 寄り集まって煮えたぎる水塊となった雨がレンズ状に広がり、飛び込んでくるバハムートを茹で殺した。


「にゃっはっは! 雨だと技のキレが増すねえ」


 からから笑うルールー。


「ジ……エンド……ウッフッフ……」


 やばい笑みを浮かべるヴィカス博士。


 ミル姉さんも詩怨も、シートにぐったりもたれかかっている。

 ことここに至って俺にできるのは、ただただ祈ることだけだ。


「ああああっ!」


 詩怨が悲鳴を上げ、跳ね起きた。


「なになになに。どうしたの」

「ぽっ、ポータルが!」

「え? 消えた?」

「ちがう! 生じたんです! すぐ近くに! ああ!」


 俺はおそるおそる、バハムートネードの方を見た。


 紫色の巨大な平面が、竜巻の目前で、ちろちろと揺れていた。

 平面と竜巻の間にはまばゆく光る無数の稲妻が生じ、互いにゆっくりと引き合っている。


 そういや言ってたね、博士が言ってたね、自分でポータルをつくって階層間を移動するって言ってたね。


 終わりじゃん。

 完全無欠に文句つけようなく世界の終わりじゃん。


 ジエンドイズナーイ。

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[良い点] 問答無用でガンギマリすぎる(笑)
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