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ダンジョン居酒屋さんまるいち  作者: 6k7g/中野在太
メガ・バハムートVSグレート・ルールー
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メガ・バハムートVSグレート・ルールー⑤

 ヴィカス博士の断片的な語りをつなぎ合わせていくと、何が起こったのか、だいたい想像できた。


 四十一層で発生したバハムートネードによって、博士は妻と子を失った。

 レッド・ヘルメットが混ざると、ただでさえ凶悪なバハムートネードがクッソ激烈なやばあじになってしまうらしい。

 そいつはたぶん、俺と詩怨の間に割って入ったあの巨大双頭バハムートだろう。


 妻子を失ったヴィカス博士は、バハムート調査に生涯を捧げた。

 だが、彼が命を賭けて執筆した論文はあっさりリジェクトされた。

 百層でバハムートネードが生じるなど誰も信じなかった。

 というより、信じたくなかったんだろうな。


 ここには、ダンジョン資源の集積地アサイラムがある。

 それが一発のサメ台風で粉々に吹っ飛ぶというのは、人類にとって都合が悪すぎる。

 そしてたいていの人間は、都合の悪い真実に目を向けようとしない。

 そのへんは異世界も地球も変わらんね。


 嘲笑を浴びた博士は学会を去り、孤独な研究に打ち込むうち……自作の看板をぶら下げてバハムートネードによる終末を警告する、ジエンドイズナーイおじさんになってしまったのだ。


「ウッフッフッフ……ジエンドイズナーイ……終わりは近いぞ……」


 きつすぎる。

 そんな人生あっていいのか。


「ルールーはきっと、調査隊に雇われていたのね」

「で、バハムートネードに巻き込まれたわけっすか」

「ええ。逃げる機会を逸して朔を迎え、グレート化してしまったんでしょう」

「グレート化してしまったんすねえ」


 そんな呼び名がついてたんだあの凶暴化形態。

 しかし間が悪いね、ルールーも。

 まあ即死してないだけいつもよりはマシか。


「とにかく、何が起きてんのかはだいたい分かりました。んで問題は、どうすりゃ詩怨を助けられるのかってことなんすけど」

「無駄だ。私の計算によれば、バハムートネードは百層に散らばるメガ・バハムートの群れを更に取り込み、拡大し続ける。閾値いきちを超えた時、魔力によって知性を駆動させるはずだ。多くの魔力型知性体と同じように」

「えーと、そうなるとどうなるんすかね」


 ヴィカス博士は机をだーん! と両手で叩いた。


「いいか、ここが重要なのだ! 生物は生存のために生存している! 繁殖ではない! エサが豊富な土地のボノボは少子化する! そして知性は適応のための究極の補助輪だ! 意図された更なる巨大化、意図された更なる膨張! 群体生物となったバハムートネードは自らポータルを発生せしめ、階層間を渡り歩くだろう! 群であり個でもある自身の生存をより豊かに、より押し広げるためだ!」

「……世界の、終わり」


 ミル姉さんが、ごくりと息を呑んだ。


「そうとも、終わりは近いのだ! メガ・バハムートの群れは大イスタリ宮から溢れ、リンヴァースを呑み込むだろう! その先には、そう! 地球がある! 広大な惑星を食べ尽くし、それでも止まらんぞ! 飛び出す先は宇宙だ! 闇と真空と放射線に適応し、銀河すべてを食らってもなお飽くことなく拡大する!」


 スケールがでかすぎるんだけど。

 地球どころか銀河系の存亡がかかってんの?

 グルメレポートしにきただけなのに?


「ここで食い止める他ないということね」


 ミル姉さんが、こともなげに言った。

 いやまあ、そうなんだろうけど。


「どうすりゃいいんすかね」

「すくなくとも、私ひとりの力では無理ね。ダゴン程度のモンスターに苦戦するぐらいだもの」

「あっ、へえー? えー、へー……やばくないっすかそれ」

「やばいわよ。でも、一つだけ策がある」


 ミル姉さんはすうっと息を吸った。


「グレート・ルールーを使うわ」

「ルールーを?」

「ええ。グレート化には段階があるのよ。朔の日が……つまり今日が、第一段階。月齢が増すにつれ、強化をより深めていくの。月の魔力を、知性ではなく身体力に振り分けちゃうのね」

「ああー、なるほどなるほど。めっちゃ強くなったグレート・ルールーをバハムートネードにべーん! てぶつけるんすね」


 俺は右てのひらに左拳ひだりこぶしをべーん! と叩きつけた。


「そういうこと。グレート・ルールーの力がピークに達するのは三日後ね。うまくタイミングを合わせれば、メガ・バハムートを全滅させられるかもしれない。そうでなくとも、勢いを弱らせることはできるはずよ」

「でもそれ、きれいに相討ちしてくんない限り、どっちかは残りますよね」


 ミル姉さんは静かに頷き、熾火のように闘志を滾らせた。


「勝った方が、私たちの敵になるのよ」


 なるほどですね。


「詩怨はどうなっちゃうんすか?」

「率直に言って、分からないわ。でも死んでいたとして、肉片一つあれば蘇生はできる」

「あー……はい」


 命が軽すぎる。

 死者蘇生が可能な世界の倫理観だ。 


「ヴィカス博士、バハムートネードの進路は予測できますか?」

「もちろんだとも! 備えてきたのだ! 統計学、占星術、竜秘学! ありとあらゆる学問を、そのために学んだ! ミリとリンを殺したバハムートネードを、終わらせるために……!」


 博士は床に這いつくばり、資料の山をかき分けた。

 百層の地図を取り出し、指でアサイラムのある場所をつつく。


「超大型のバハムートネードはメガ・バハムートのマーチングの性質上光源に向かうが、実際の進路はコリオリの力を受けて東にずれる」


 ずいーっとなぞっていって、指先はとある一点で静止した。


「三日後には、ここを通過するはずだ」

「トーラス荒野ね。開けていて、邀撃ようげきには都合のいい場所だわ」


 ミル姉さんが地図を覗いて言った。


「私はグレート・ルールーをトーラス荒野に誘導する。サンマルイチ号さんとヴィカス博士は、バハムートネードを観測してくれる? 進路の修正は、LINEしてくれれば対応するわ」

「うっす」

「分かった」

「さあ、動きましょう! リンヴァースを、そして地球を守るのよ!」


 ぱんと手を打ち鳴らし、ミル姉さんが声を張り上げる。

 こうして、人類の存亡をかけたメガ・バハムートvsグレート・ルールー作戦が開始されたのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ジエンドイズナーイ!このおじさんにすらキツイ過去があるとは…!意外性溢れました!
[一言] 大イスタリ宮、LINE繋がるんすねw
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