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ダンジョン居酒屋さんまるいち  作者: 6k7g/中野在太
メガ・バハムートVSグレート・ルールー
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メガ・バハムートVSグレート・ルールー④

 手彫りの洞窟は、おっさんの精神をそのまま具現化したみたいに乱雑だった。

 棚には用途不明の宝石やら武器やらがぐっちゃぐちゃに突っこまれている。

 ひとつきりのテーブル上には、なんか、きったねえ字とか図とかぐっちゃり描き込まれた紙。


「触るな!」


 きれいな水晶に手を伸ばしたら、とんでもない剣幕で怒鳴られた。


「えっすいません」

「そっちのアーティファクトは虚界の魔を召喚する! その武器は三百層の呪いの剣! おまえがいま触ろうとしたアーティファクトは、質量を全て魔力に変換するんだぞ!」

「ありがとうございます」


 うっかりで命を落とすところだった。

 異世界のアイテムに気やすく触ったら駄目だよな。

 でもなんでそんなもんがここに。


「備えてきたんだ! 私は終わりに備えてきた!」


 はー、ジエンドイズナーイおじさんはプレッパーおじさんだったんすね。

 いや、よしんば世界の終末に備えていたとして、プレッパーが虚界の魔を召喚する必要ある?


「フー……」


 壁にもたれたおじさんは、長く息を吐いて顔をぬぐった。


「フッフッフ……ウッフッフッフ……ジエンドイズナーイ……終わりは近い……ウッフッフッフッフ」


 ニヤニヤ笑ってブツブツ呟き始めてるんだけど。

 俺はミル姉さんを見た。


「失礼ですが、フレイディ・ヴィカス博士では?」

「……ジエンドイズナーイ?」


 ミル姉さんは怯んだ。


「ええと、大イスタリ宮の生物、とくにバハムート研究の泰斗だと伺っていますが」


 バハムートという単語を聞いたナーイおじさんの瞳に、知性がちかちか瞬いた。


「ああ……ああ、そうだとも! 私はフレイディ・ヴィカス! ヴィカスだ! そういう君は……驚いたな! ミルガルデヴャルド・ギョリンモルデルか! 勇者を我が研究室に招けて光栄だ」

「こちらこそ、光栄です」


 ヴィカスとミル姉さんはぎゅっと握手した。


「ミル姉さん、詩怨がさらわれちゃったんすけど」

「分かっているわ。今から解決策を話しあうの」

「あー……」


 映画とか観ててさ、こういう場面で「急いで助けなきゃ!」とか喚き散らす考え無しを、あほだなーこいつって笑ってたっけ。

 もう二度と笑わない。


「メガ・バハムートだよ。あれはメガ・バハムートなのだ……ウッフッフッフ……」


 ヴィカスが理性と狂気の間を行ったり来たりした。


「……そう、群生相化したバハムートを、我々はメガ・バハムートと呼んでいるのだ。階層間外来種として百層に現れ……ウッフッフ……」


 やべーってこのおじさん。


「博士の論文はつねづね拝見していました。本来の生息域から外れたバハムートは、餌の少なさに対応して小型化、かつ、群れるようになるのでしたか」

「え、なんか、サバクトビバッタみたいな……」

「その通りだとも、勇者。我々は群生相化したバハムートをメガ・バハムートと呼んでいる。きゃつらは群れ、同じ方向に進む。マーチングと呼ばれる、群生相に特有の行動だ! やがて多数の群れが合流し、マーチングが行われたとき……」


 ヴィカスが顔を覆い、ぶるぶる震えた。


「おお! バハムートネード! ジエンドイズナーイ! 終わりは近いぞ!」


 ミル姉さんは同情のこもった視線をヴィカスに投げかけた。


「ああそうだ、私は予測していた! だが学会の者は誰も! そう、誰も信じなかったのだ!」


 机上の紙束をひっかきまわしたヴィカスは、一つのフォルダを取り出してぱらぱらめくった。


「見たまえ! この第百層には、一定周期でバハムートネードが発生している! 超長周期のため、誰も気付かなかったのだ! 私はその痕跡を……おおおお! ジエンドイズナーイ!」


 ヴィカスは喉を絞るようなうめき声をあげ、机上の紙を腕でぜんぶ払い落とした。


「今更になって、ふん! リンヴァースと地球の合同調査隊が私の助力を乞うてきた! 門前払いにしてくれたわ!」


 ミル姉さんはフォルダを拾い上げた。

 ぺらぺらめくっていくと、最後のページに、一枚の写真が挟まっていた。


 今よりもずっと若いヴィカス、同じぐらいの年齢の女性、そして……小さな女の子だ。


「私は、四十一層での定期的なバハムートネードを調査した……安全なはずだったのだ! アンダーコントロールだった! そこで、おおおお! ああ、レッド・ヘルメット! 双頭の悪魔が……空に! 空に!」

「レッド・ヘルメットは歴戦モンスターよ。ギルドが懸賞金をかけているわ」


 ミル姉さんが補足してくれた。

 なるほど、同じバハムートでも強個体というか、ユニークがいるわけね。


「ウッフッフ……終わりは近いのだ……ウッフッフッフッフ……」

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