メガ・バハムートVSグレート・ルールー③
「サメだ……」
空飛ぶサメが、詩怨を咥えている。
「えっなになになに! なになになになになんですか!?」
助け出そうとしたそのとき。
べぎべぎばぎぼぎばぎごしゃごしゃごしゃ。
背後から、耳がぶっつぶれるかと思うような破壊音がして、俺は足を止めた。
「えー?」
ばかでかい竜巻が、行く手の全部を巻き上げながらアサイラムに迫っていた。
「みゃっ……! しゃー!」
竜巻を見たルールーが、なんかシャーシャー言った。
「みゃおっ!」
で、竜巻に背を向け、ぴょんぴょん跳ね飛んでどっかに消えた。
「えー……情報が多すぎるんだけど」
「臣下さああああん!」
空飛ぶサメの両顎に咥えられた詩怨が、ジタバタしている。
なにはともあれ、まずはあれだな。
しゃがああああああ!
「えっえっ」
いきなり目の前にもう一匹のサメが現れて俺の脳は完全に停止した。
いや、無理だって。
ルールーとサメと竜巻がいっぺんに来るのは無理だって、常人だもん俺。
体を横倒しにしたサメが、大口を開け、ぐわーっと俺に迫る。
俺は竜骨砕きの呪文がエンチャントされた包丁を抜いて、思い切り振り下ろした。
サメはまっぷたつになりながら直進し、上半身と下半身が地面をごろごろ転がった。
しゃがああああ!
しゃっがおおおおおおおん!
次から次へとサメが飛んでくる。
どうも、巨大竜巻からぽんぽん射出されているらしい。
「ああもうめちゃくちゃだよ」
俺は地面を蹴った。
しゃがああああ!
襲ってくるサメの鼻面を蹴飛ばし、更に上昇。
しゃげおおおおおん!
飛んでるサメの背中に着地。
しゃがああああああ!
「すまんねどうも」
逆手に持った包丁を、サメの脳天にぶっ刺す。
サメはぐるんと目を剥いて死んだ。
包丁を引き抜きながら、更に高く飛ぶ。
「臣下さん! ナイスですよっ!」
両顎にがっちり挟まれた詩怨が、俺に向かって手を伸ばした。
「お待たせ」
俺も腕を力いっぱい前に出して、詩怨を掴もうとする。
じゃごおおおおおおおおお!
ひときわ強大な鳴き声がした。
俺と詩怨の間に、ばかでかいサメが割って入った。
そいつは、縦に連なる二つの頭を持っていた。
上の頭はやや小さく、血の詰まった腫瘍のように赤黒くいびつで、だが青ざめた瞳には確たる殺意。
「臣下さっ」
つるんと、詩怨が丸呑みされた。
モチを呑む奇祭みたいに呑まれた。
「うそじゃん」
双頭のサメが体をくねらせ、ぶっとい尾が眼前にぐんぐん迫ってきて、避けることも身を守ることもできず、触れた瞬間にすさまじい衝撃。
垂直高速下降した俺の体は数回弾んで、ごろごろ転がった。
「んぐぐぐぐぐ……」
クッソ痛いんだけど。
身を起こし、空を見る。
俺をぶっとばした双頭サメは、他のサメを引き連れて鋭くUターンし、竜巻に突っこんでいった。
編隊の最後部には、詩怨を呑んだサメがいた。
「うっわ、ええー?」
連れ去られちゃったんだけど。
え?
やばいんだけど。
「こっちだ!」
呆然とする俺の腕を、誰かが掴んだ。
「速く、急げ! メガ・バハムートだ! これが終わりだ! ジエンドイズナーイ! バハムート台風だ!」
ジエンドイズナーイおじさんだった。
「え、あ、はい」
俺は引っぱられるがままに歩いた。
ナーイおじさんは倒壊を免れた家に飛び込むと、床下収納みたいな蓋をパカっと開け、俺を蹴り込んだ。
「急げ! 急げ! 終わりは近いぞお! ウッフッフッフ!」
ぐいぐい背中を押され、急勾配の階段を転がるようにして駆け下りていく。
階段はやがて手彫りの洞窟に行き当たり、通路の先に、扉があった。
「えー……えー?」
ぜんぶ意味が分からない。
なんでこんなことになったんだ。
グルメレポートをしにきただけなのに。
「ジエンドイズナーイ!」
ナーイおじさんが、急かすように怒鳴った。
ちょっと待ってって。
バフも切れたし、ミル姉さんもぼこられたし、詩怨がさらわれちゃったんだって。
整理する時間がほしいんだけど。
一人にしてくんないかな、小一時間。
冷たく濡れた風が、びゅうっと吹き込んだ。
竜巻が俺たちの直上に達したのだろう。
大量のゴミやら瓦礫やらが、風といっしょに飛び込んでくる。
気圧が急降下しているのか、頭が締め付けられるように痛い。
「急ぎたまえ!」
ナーイおじさんは、石壁に建て付けられた分厚い鉄扉のバルブに手をかけた。
「ええい、くそっ! 開かん!」
バルブを揺するも、びくともしない。
いつから使われてないのか、だいぶ錆びているみたいだった。
「……手伝うわ」
血まみれの腕がにゅっと伸びてきて、バルブを掴んだ。
「ミル姉さん!」
ハピネスチャージプリキュアのきったねえバッグを肩にかけ、血と埃でよれっよれのミル姉さんが、ふらつきながらも立っていた。
「お互い……生きてて、よかったわね」
傷だらけの顔に疲れきった笑みを浮かべ、ミル姉さんはバルブをぐいっと回した。
ごぞぞぞぞ、と岩を削りながら、厚い扉がゆっくり開く。
かび臭く乾いた風が俺たちの間を通り抜けていく。
「さあ、入れ、入りたまえ! 急いで! ああくそっ!」
おじさんは、わずかな隙間に体をねじこもうとしたものの、体の前後にぶら下げた看板ががっつんがっつん引っかかってキレた。
「ふざけやがって!」
悪態をつきながら看板を脱ぎ捨て踏みにじり、おじさんは扉の向こうに消えた。
「私たちも、行きましょう」
「っす」
なんでいかれたおじさんに付き従っているのかさっぱり分からないまま、俺もまた、扉を抜ける。




