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ダンジョン居酒屋さんまるいち  作者: 6k7g/中野在太
シルフの照り焼き
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シルフの照り焼き⑧

「ぷひー……」


 詩怨は、皮の脂でくっついた唇から、破裂音の息を吐き出した。


「モツ炒めやってみたけど食う?」

「ぷひ!」


 素嚢ガツやら心臓ハツやら気管サエズリやら銀皮つきの砂肝やらレバーやら、なんでもかんでもニラと塩と黒こしょうとチューブにんにくで炒めてみた。

 大皿に雑に盛ってご提供。


 箸でがばーっとすくって、どじゃーっとほおばる。


「内臓! 内臓やっば! いっぺんに色んな味!」

「まあこれはビールでしょ」


 手渡したクリアアサヒを、即かしゅっ、即ぐいーっ。

 缶をだーんと机に叩きつける。


「んかあっ!」

朝昇ちょうしょうじゃん」

「一本いただきましたっ!」


 詩怨は一瞬でクリアアサヒを空にした。


「もうこれは……しゃきしゃきなのと、くにゅくにゅなのと、こりこりなのと、ぷりぷりなのと……ばかほどおいしい!」


 なんかだんだん押し切られてきたな。

 いいんじゃないの、ばかほどおいしい。

 流行るまでやろうぜ。


「あー朦朧と……朦朧としてきました。ちょっこの、この、脂と、お酒がすごい、原始の多幸感でこう、ユーフォリア以外のなにものでもないです」


 ユーフォリア以外のなにものでもなくてよかったよ。

 

「はいー……というわけでね、人類どもー……チャンネル登録と、あとなんか……なんか忘れたけど、よろしくどうぞー……」


 またぞろ適当に打ち切ったな。

 元気な内に動画終わらせれば?

 ナレーション後入れでもいいし。


 詩怨は口を閉じたままあくびして、なんの断りもなく寝にはいった。

 食って呑んですぐ寝て最高だな。

 後片付けしたら、部屋に運んでやるか。





 で、翌朝。

 しこたま重い中年の体をぎしぎし動かして洗面所に辿り着き、ぼへーっと歯を磨く。

 顔を洗って顔を上げると、鏡越しに、詩怨と目があった。

 扉から半身を乗り出して、こっちの様子を伺うように見ている。

 

「おはよ」


 鏡越しに声をかけると、詩怨はなんか背筋を伸ばした。


「あ! お、おはよう! ございます!」

「えっなに? 気合い入ってんね」

「先に言おうかと! タイミングを!」

「ほーん?」

「へ……へへ……」


 いやー分からん。

 なんでへらへらすんの。


「おはようって、誰かに、久しぶりに言いました」

「ああ」

「むずかしいですね。どこで言うんだろうってなっちゃいます」

「いいよ別に。好きなタイミングで」


 俺は顔を拭いながら、ややあれこれ考えた。


「んー……なんかだるいから今日休みにするわ」

「えっ大丈夫なんですかそれ?」

「平日だし、予約入ってないし。ツイッターとインスタで告知しときゃいいでしょ」


 それなりにキャッシュある自営業の強みだよね。

 それぐらいしか良いことないとも言える。

 外食なんて人類のやるこっちゃないよ本当に。


「後でららぽーとでも行くか。詩怨の日用品も揃えなきゃなんないし」

「や、ドラッグストアで揃えますけど」


 なんなんだよこの察しの悪さ。

 いやもう、ここまで来たら俺が悪い。

 察し悪い奴に察してもらおうとしちゃダメだよな。


「服見たり、フードコートでめし食ったり、成城石井でフルグラ買ったりしようぜ。で、帰ったらプライムビデオで映画観んの。テンションだけで買ったお高い総菜つまんで、酒飲んで」


 詩怨はぽかんとした。

 えー?

 ここまで言っても駄目?

 中年の照れ隠しにぜんぜん容赦ないね君。


「ふたり暮らしってそういうことでしょ」

「あ、あああー! わー! わー!」


 詩怨はインパラみたいなねじれ角を掴んで、なんか、上下した。


「い、行きます! 行きますよ今すぐ! 歯ブラシとイブと鉄のサプリ買わなきゃですし!」


 きれいにドラッグストアで揃うもんだけ列挙したじゃん。

 プリキュアの光るパジャマは要らない?


「金出すけど、動画が収益化したら返してくれ」

「はい! 一瞬で返しますよ! 絶対バズりますから!」


 で、俺たちはららぽーとまで、ふたりでてろてろ歩いていく。

 正しいかどうかは知らんよ。

 でもたぶん、ふたりでららぽーとぷらぷらするのは楽しいだろうなって、俺はもう思っている。

シルフの照り焼き おしまい!

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― 新着の感想 ―
[一言] で、翌朝。 から最後にかけてのやり取りが良いです。 ちょっとずつ信頼関係ができてく段階のむずがゆい感じが、文章から伝わってきて、ずっと読んでいたくなります。何回か読み返してニヤニヤしました。…
[良い点] ふたり暮らしってそういうことでしょってところ良いですね!結局言わされてしまうの…! シオンが嬉しそうなの良いですよね。父性が働いてしまいますよ。
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