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ダンジョン居酒屋さんまるいち  作者: 6k7g/中野在太
シルフの照り焼き
14/63

シルフの照り焼き⑦

 荒野と化した十五層から、五体満足で帰宅。


 戦利品は、首をねじきられたシルフが、つごう二十匹ほど。

 そのうち五匹は、蜜シルフだった。

 胸のあたりが肥大化し、金色の内容物が透けて見える。


素嚢そのうかな。どうすりゃ蜜取れるんだこれ」

「分かんないです」

「分かんないで拾ってきちゃったの?」

「はい」


 すこしも頼りにならんな。


「とりあえずまとめて下処理すっか」


 毛を掴んで引っぱると、たやすく抜けた。

 わしわしむしっていく。


 毛が無くなるともう食材だなこれ。

 なんか地肌が青ざめた灰色で、すっげえまずそうだけど。


「えーと、こっからどうすんだ」


 iPadには、『うずら 下処理』で出てきた動画。


「はー、なるほどなるほど、関節を……うっわ」


 え、それ手でむしっていいもんなの?

 うーわ。

 うわ本当にガラが取れた。


「臣下さん、分かっちゃいましたよ! 内臓ごそっと引っこ抜けました!」


 蜜シルフをばらしていた詩怨が、成果物を得意げにかかげた。

 でろっとして赤黒い、たぶんなんか気管みたいなものの先に、蜜をたたえた袋がぶらさがっている。


「わー! なんでしょうねこれ、なんだろう……キンタマキラキラ金曜日って感じですね!」

「ツイッター開くたび、そんな解剖学的にリアルすぎる絵を思い浮かべてたの? 本当に?」

「取れた! キンタマが!」


 詩怨は、ひきちぎった素嚢から、ボウルめがけて蜜をしごきだした。


「こうするとだいぶ蜜だな。どれ」


 小指に付けて、シルフ蜜をひとなめ。


「お、おー。おおー?」


 がつんと甘味、やや酸、柑橘っぽいかすかな香り……あとから旨味が来たぞ。

 上等な非加熱の蜂蜜に近いっちゃ近いが、なんだかよく分からん謎のアミノ酸っぽさが隠れてる。


「んーなんだ、蚕沙茶サンシャチャとか、ああいう感じだな」


 蚕の糞を炒りつけて煮出した蚕沙茶には、怪しい旨味を感じる。

 あれは蚕の食った葉っぱが、消化酵素で分解されているからだ。

 ふだんシルフがなに食ってるかは知らんけど、似たような処理を体内でやってるんだろう。

 すっげえ変な食い物だ。


「あー、見えてきた見えてきた」


 ツボ抜きしたシルフと、シルフ蜜。

 遊び方が分かってきた。


「やっていっちゃいますか?」

「やっていっちゃおう」





「人類どもー! 地獄川ヘルがわ詩怨しおんちゃんねるです! はい、本日はコラボ動画第二弾! いよいしょー!」


 脚立の上の定位置についた詩怨が、リングライトを俺の手元に向ける。


「モンスターアペタイザーアンバサダーの臣下さんといっしょに、大イスタリ宮を食べ尽くしていっちゃいますよっ!」

「えー、今日はですね、シルフですね」


 またちょっと緊張してんじゃん俺。


「あんまり食べたことないって臣下さんも多いんじゃないかな? 深層のモンスターですからねっ! 本日はなんとぉ? これをね、豪快に炙っていっちゃおうかと! そういうことですねっ!」


 まな板の上には、頭を落とされガラとモツを抜かれ関節を外され、平たくなったシルフ。

 こいつに串をねじり入れる。


 ステンの焼き器にはあらかじめオガたんを熾し、網を敷いてある。

 で、よくあたたまった網に、シルフをオン。


 じゅああああああ。


 音が沸いて、表皮で脂がぱちぱち弾けた。

 灰色の皮の下、桃色だった肉が白く濁っていく。

 皮目の脂がしたたり落ちて、オガ炭がまっしろな煙を吐き出す。


「わーやっば! これ、油が……油が焼けるにおいですねっ!」


 脂に引火して、ぼあっと炎がシルフを舐める。

 細かい炭の粒子で、皮目がいい具合にすすける。


 ぱりっと焼き目がついてきて、頃合いだ。

 串を揺すって網からシルフを持ち上げたら、タレで満たしたバットにどぼん。


 醤油、酒、みりん、シルフ蜜に、チューブにんにくとチューブしょうがを絞り入れてみた。

 とろみがつくまで沸かしたら、タレのできあがり。

 びったびたにひたしてから、再び網にオン。


 じょわわわわわわ。


 焼き網に触れたタレがぶくぶく泡立って、弾けるたび、糖と醤油の焦げる香りを振りまく。

 脂とタレの波状攻撃を浴びた炭が、白煙をもくもくさせる。

 厨房まるごと甘っ辛いにおいになってきた。

 すっげえ腹減るぞ。


 表面がてりてりしてきたら、再びタレにどぼん。

 再びじょわわわわわ。


「おっほほほほほ!」


 詩怨が奇声を上げた。

 うまさの予感だけで気持ちが昂ぶっている。


 全体的にまっちゃっちゃのてりってりになってきた。

 網から引き揚げ、大葉を敷いた皿に乗せる。


「できたよ! シルフの照り焼きがっ!」


 詩怨が言った。

 ててーん、ワーー! パチパチパチ! みたいなフリー素材SEの幻聴がした。


「酒はまあ、日本酒だろうね」

「おっ! 出ちゃいますか?」


 カウンター席の詩怨が、足をばたばたさせた。


「出ちゃうよ。静岡の誇る平喜酒造が」


 県産酒造米の誉富士ほまれふじを使った、旨味どっしり酸味きりりの特別純米。

 こいつを、冷やでご提供。

 てりってりのタレといい勝負してくれると思うんだよなー。


「それじゃあさっそく、いただいちゃいましょう! いただきまーす!」


 串を持って、かぶりつく。


「ん゛っあ! んふぁふぁふぁふぁふぁ!」


 噛みついたまま俯いて、詩怨は爆笑した。


「はばっやばっ、ふんっぐ、んぐっぐっぐ」


 皮も肉もひとまとめに噛みちぎると、断面からきらっきらの肉汁がぱたぱた落ちる。


「あまっからっ、身離れ、肉が!」


 やっぱ向いてないんじゃない?


「ばかほどおいしい! これはねえ、ばかほどおいしいですっ!」


 出た出た出た。

 蛮勇が出てきた。


「えー? あの、もう噛む前の、口に入れたときにおいしいんです、なんだろ炭火のほら、煙の味がふぁーってなって」


 串を置いた詩怨が、手をばたばたさせた。


「タレが、タレがね、てろって甘辛くて、旨味うまみ! 舌にびゃーって旨味が! それでお肉がね、皮がむっちむちで唇てらてらで、なんだこれ、肉がぷりって骨からはがれて、肉汁びゃーです! ばかほどおいしい!」


 詩怨はグラスを手にとって、酒をついっとやった。


「お゛ほお゛お゛お゛お゛……」


 天を仰いできったねえ声。


「わーなんだろ、えっ水か? って一口目で思うんですよ。でも急にめっちゃおいしいんです。味がすごい、味がする」


 まあ水じゃないからね。

 味はするよね。


「あ、あああ……ぶり返した! シルフの味がぶり返した! お酒でぶり返しましたっ! ということは!」


 照り焼きに、がぶっと前歯を当てる。

 引き裂いた身を咀嚼して、詩怨は体をぶるっと震わせた。


「分かっちゃいましたよ! これだ! 隠れてた味が出てきた!」


 言わんとしてることは分からんでもない。

 酒入れたあとの二口目に現れる味、あるよな。

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