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 以前の練習から一週間が経った日、いつも通り凪と練習をするために学校の最寄り駅で待ち合わせをしていた。

 大きくはないが小さくもなく、綺麗でもない、よくありそうな普通の駅である。

それを支える大きな柱が出口付近にあり、その周辺に入らないよう設置されている腰くらいの高さの柵に腰かけて凪を待っていた。

 バス停からも近く、どの改札口から出ても必ず通ることになるこの場所は、使う路線がそれぞれ違う私たちにとって最適な待ち合わせ場所であり、"いつものとこ"なんて呼んでいたりする。

 小学生の頃に遊びに行く時なんかのことを思い出して、少し嬉しいようなワクワクするような気持ちになるけど、凪とはそこまで付き合いが長いわけじゃないから少々違和感がある。

 夏休みに二人で会って練習なんかしてるけれど、入学してからまだ四ヶ月と少ししか経っていない。

 まあ凪はそんなこと考えもしてないようだけど。

 というか、そもそも凪はあまり人と関わるのが得意なタイプじゃないだろうし、今の状況なら既に練習なんて何も告げずに来なくなってもいいようなものだけど、何故か今日まで練習は続いている。

 続けていたい理由が何かあるのかな。

 私の方は、なんとなく軽音部って楽しそうだし、バンドにも憧れがあるし、みたいなふわっとした理由で入ったものだから固執するような理由はない。

 なんならもう辞めるという選択を凪に迫ってもいいんだけど、凪はどうやら続ける意志を持ってるみたいだし、それはなんだか可哀想かなと思う。

 でも実は凪もそんな事を思ってるのかもしれなくて、お互い辞める機を待っているとか・・・。

 んーーと小さく声に出しながら少し悩んだけど、面倒になった。それならそれでいいや。

 のんびり、やってくべ〜。

 考えながら下を向いていた顔を上げると、たくさんの人が右に左に歩いている。

 駅前という事もあり、この辺りの地域としては比較的人は多い方だろう。中には路上ライブの準備なのか、マイクやアンプをセットしている大学生くらいの人もいる。

 上手かったらあんなこともしてみたい。いや、どれだけ技術があっても恥ずかしさがあるし、やっぱりやらないかな。

 すると、こちらを見ている人がいるのに気づいた。凪ではない。

 Tシャツにジーパンというラフな格好だが、すらっとしていて女性にしては背が高いからオシャレな印象を受ける。

 けど、腰に届くほど長い黒髪のインナーは赤色に染まっていて、よくいるバンギャっぽい・・・んん?

 「あ、やっぱり日比野さんじゃーん!」

 「おおぉ、そうだよなあ、なんか見た事あるなって思ったよ。えーーーと・・・。」

 ヤバい、ヤバいぞ。名前が思い出せない。

 彼女は同級生で、かつ元々は私達とバンドをやっていた。いや、やる予定だったのだが紆余曲折あって居なくなってしまった一人だ。

 会うのは夏休み前以来、つまり1ヶ月ぶり。けど、あまり長い時間を過ごしていないとはいえ、流石に名前を覚えていないのはマズいだろ・・・。

 私の反応を見た目の前の彼女は明るく話しだした。

 「ん?あたしは今バンドのスタジオ練習中でさ、ちょっとコンビニまで買い出しに来たんだ。」

 そう言いながら手に持っていたビニール袋を掲げてくる。

 よかった、何しているのかを聞きたい。というふうに受け取ってくれたみたいだ。本当、よかった。心底安心した。流れた冷や汗が少し引いていく。

 「そうなんだ、他の学校の子達とバンド組んでるって言ってたもんなあ。」

 バンドメンバー、いや、旧バンドメンバーの中で唯一の経験者だったのだ。まあそれこそが今日までの紆余曲折の一因になっているとも言えるけど。

 「そうそう。そっちは・・・。あんまり聞ける立場じゃないけどさ、どう?」

 「いやあ、誰が悪かったって訳でもないしさ、そんな気にしないでよ。今は凪・・・一ノ瀬さんと2人。」

 「そっか・・・。本当何も出来なくて申し訳ないんだけどさ、頑張ってね。」

 「大丈夫大丈夫。ありがとうな〜。」

 彼女が軽音楽部を既に辞めていることは知っている。先輩たちが部室の前で話しているのを耳にしたらしく、教えてくれた。

 経験者だったし、数多くいる1年の中でも先輩の記憶に残っていたのだろう。私も非常に悲しい。

 非常に、非常に悲しい。つまり彼女を説得して戻ってきてもらうということは出来ないのだ。

 再度メンバーを集めるという目標の当てにはできない。

 「じゃあ、また・・・あ。」

 彼女は駅の方に何かを見つけたようで、私も振り返るとそこには凪がいた。

 凪は少し驚いた表情をした後、こちらには近寄らずどこかに行ってしまった。

 おーい、待ち合わせしてたじゃないか・・・。

 「あはは・・・。一ノ瀬さんの方には、印象悪いみたいだね。謝ってたって伝えてくれるかな。」

 申し訳なさそうに彼女が言った。

 別に怒るような子でもないと思ってたし、文句みたいなものも聞いたこと無かったから、この反応は予想外だ。内心は違ったのかな。

 「んーーわかった。伝えておくよ。」

 最後まで名前を思い出すことは無かった彼女に手を振り、別れる。

 さあ、凪ちゃんはどこ行っちゃったんですかね〜。

 周りを見渡すと、名前の分からないあの子が去っていったのとは別の方向から近寄ってくるのが見えた。

 「よ、吉田さん・・・。びっくりした。」

 あ〜思い出した。苗字のわりに可愛い名前だと感じた記憶がある。次に会ったら名前で呼んでみよう。・・・怒られはしないだろう。

 「凪、実は夏休み前のこと怒ってたの?」

 「いや怒ってはないけど、出会うことを想定してなかったから驚いちゃって。」

 想定してない人に出会うと逃げるのかこの子は。

 まあ色々あった人間だからっていうのもあるだろうけど。

 「吉田さんから、凪に謝っておいてって言われたよ。あれは完全に怒ってると思われたね。」

 「うあ〜、そう見えますよねえ・・・。」

 吉田さんはちょっとモヤモヤしてるだろうな〜今。

 次会うのも夏休み明け以降だろうし、2人ともクラスが違うから9月中旬の文化祭まで会わないことも有り得る。

 誤解は解いてあげたいけど、そのために会いに行くのも面倒だし、申し訳ないが自然と出会うまでそのままになりそうだ。

 「ちょっと遅れちゃってごめんね。じゃあ行こっか。」

 凪がバス停に向かおうとするが、私は腰かけた柵から動く気が起きなかった。

 多分、スタジオで練習してると言っていた吉田さんと私たちとの差を感じてしまって、もうそこまで届かないんじゃないか。みたいな諦めの感情が足枷になっている。

 もちろん練習をしなければ届くかどうかも分からないわけだけど、凡人にはこんな時が出てきてしまう。それにバンドメンバーも集まる気がしない。

 二重の壁。高いな〜。

 そして私の中の悪魔が提案する。

 「凪~。今日サボっちゃおうか。」

 凪が振り返ると肩あたりまであるセミロングがふわっと宙に舞う。

少し考えるような表情をした後、凪は私の隣に腰かけて。

 「どこ、いこっか?」

 と首を傾けながら聞いてきたのだった。

 本日の勝敗結果・私の中の悪魔の勝利。



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