初登校その2
始業式とHRが終わった放課後。
「やあ、君がカーネイル家の次男?」
「いや、長女だ…ですわ」
話しかけてきたのはサラサラの金色の髪に、きれいな湖の底の色をそのまま閉じ込めたような青の目をしたイケメンだった。耳にかけていた髪がさらりと落ちる。
「本当は?」
しつこい御仁にニコリと笑う。今朝の二の舞にはならない。
「初めまして。カーネイル家の『長女』、アネスティア・カーネイルです。以後お見知りおきを」
席を立ち優雅に一礼してみせる。付け焼き場の礼だが、一応母上に及第点をもらったから大丈夫だろう。相手も優雅に微笑む。
「これは失礼した、アネスティア嬢。私はこの国の第一王子、ルーヴェン・アーカルド。以後お見知りおきを」
まさかの登校初日に話しかけてきたのはこの国の第一王子殿下だった。ちなみに第一王子殿下は私と同い年になる。そしてどうやら同じクラスらしい。殿下は固まる私の手を取って、その手の甲に口付けた。ぞわぞわと背筋を何かが這い上がる。周りでは女子の黄色い悲鳴が不協和音を奏でた。
「君とはぜひ仲良くしたいな。…言葉遣いは無理しなくていいからね」
殿下はそう言うとウィンクをして、教室を去っていった。初めての女子扱いに喜べたら良かったのだが、慣れない扱いと今までの教育の賜物で、実に気持ちわ…なんとも落ち着かない気持ちになった。
次に話しかけてきたのは、黒髪黒目の貴公子だった。
「なんか悪いな、うちの王子が突然。俺はシーラン・キルネス。あいつとは乳兄弟で幼なじみなんだ。よろしく」
見た目が貴公子なだけで、中身は割と親しみやすいらしい。王子の保護者臭がする。よろしく、とお互い握手を交わすと、また明日な、と言って彼も教室を去っていった。台風のような人達である。ちなみにそれから女子にはなぜか遠巻きにされ、結局今日出来た友達(?)はその二人だけとなった。