始まり
僕らは日常では考えられないような状況に立っている。
誰もが1度は「今いる世界を飛び出して、他の世界に行きたい」という願望を抱いた事があるだろう。他の世界とはアニメの世界だったり。ドラマの世界だったり。はたまた、ゲームの世界だったり。
空想上の絵空事を妄りに考えていると現実を背けたくなる。届かない世界には、とても魅力的な何かがある。現実とかけ離れていることを考えるからこそ、他の世界に行きたい願望が生まれるだろう。
「ねえねえ!陽向人!お腹空いたからファミレス行こうよ!」
僕が学校の昇降口で上履きのスリッパからスニーカーに履き替えている時に後ろから声をかけられた。いつも放課後にファミレスに誘ってくる人はこいつしか居ない。
「なんだよ羅奈。一昨日も昨日も今月は金欠だって言ったじゃんか」
こいつは真海羅奈。幼稚園生からの幼馴染だ。僕達は高校1年生でクラスが一緒だ。僕の名前は伊乃陽向人。なんだかんだで毎日、羅奈と一緒にいる時間が多い。
外からは蝉が鳴いている。蝉の鳴き声を聞くと、ただでさえ暑い夏なのに余計に暑く感じてしまう。早く熱気が包まれている夏が終わって快適な気候である秋になることを望みつつ、体操服が入ったナップサックを肩にかけ、僕は外へと歩みを始めた。
「ちょっと待ってよ!」羅奈が急いで靴箱のロッカーを開ける音がする。僕は羅奈を見向きもせず日光がさんさんと差している外へと出た。
「ファミレスが駄目なら、一緒に帰るだけでもいいでしょ?」一昨日も昨日も同じフレーズを耳にした。特に一緒に帰れない事情が無かったから僕は帰り道を羅奈と2人で歩くことにした。