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秋人さんとユウタンくん  作者: はかな
2/2

「俺さぁ悪いけど動物ダメなんだよな、ほら毛とかなんか無理って言うか。アレルギーってわけじゃないんだけどさ。」


「そうですか、僕は外でも良いですよ。」


「てかこの状況やばいよな。

いい歳こいたやつが、公園で猫相手に独り言だろ。

こんなん佐伯とかに見られたらまずいわ…。」


村田さんは、頭をポリポリ掻きながら苦笑いを浮かべました。


人間には色んな髪色の人がいます。

猫も色んな毛のがいるから当たり前だと思っていたのですが、どうやらそうではないらしく。

駅前の美容室で髪色を変えてる人を沢山見ます。


村田さんの髪は真っ黒です。


「佐伯さんは、村田さんの恋人さんですか?」


「いやーあいつはただの大学の後輩。

ただ近所に住んでっからよく会うんだよ。」


そうなのか、人間の世界は色々あるな。


「で、誰探すの。猫?」


「人です、僕の飼い主です。」


「なんだよ、お前迷子か。じゃあ送っててやるよ。」


優しい瞳で見つめてくれる村田さんには悪いのですが、僕はただの迷子ではありません。


「それが、分からないんです。」


「分からないって?」


「覚えてないんです。住んでたところも飼い主さんの顔も名前も。」


「なんだよそれー、そりゃくそめんどくせぇな。」


はい出ました村田さんの口癖、伝家の宝刀【 そりゃくそめんどくせぇな。】


「うーんヒントくれよヒント。」


「ヒントって言われても、ただ覚えてることがちょっぴり。丸い物と油の匂い。」


「えっ何それなぞなぞかよ。

…ドーナツか、ドーナツなのか? いや待てよコロッケ、かにクリームコロッケか。

お前の飼い主揚げ物屋じゃねぇかな?」


うーん揚げ物屋さんなのかな。



とにかく次の日 村田さんは会社に行ったので、僕は商店街を探して見ることにした。


お惣菜屋さんを何軒か見て回ったけど、やっぱり何にも思い出せない。


疲れたので、公園でひと眠り。


ゆうたん、誰かに優しくそう呼ばれる夢をいつもみる。


きっとあの声の人が僕の飼い主さん。




今日は金曜日、村田さんは歓迎会で遅いって言ってたな。


村田さんは電車で数駅行った所の農薬会社に勤めてるけど、自身は農薬は作ってないらしい。


農家さんやお店に作った農薬をすすめたり、アフターフォローする営業の仕事。


世の中には色んな仕事があるもんだ。


僕は仕方なく横田のおばさん家に行ってディナーだ。


「あっゆうたん!」



「さくらちゃん、久しぶりだね。」




さくらちゃんは、僕より小ちゃい三毛猫だ。


飼い猫らしいんだけど、時々外を1人で散歩してる。



「おばちゃん所に行くの?」


「うん、お腹減っちゃってさ、一日中歩き回ってたから。」


「そうなんだ。」


「僕さくらちゃんに言った事あったかな、今僕の飼い主さんを探してるんだよ。」



「うん前に聞いたよ。

ねぇゆうたんは、今の暮らしには満足してないの?」


「そんなことないよ、ここは良い所だし。さくらちゃんもみんなも優しいしね。


でもねさくらちゃん、僕忘れられないんだよ。

僕の名前を呼ぶ優しい声が。」


「そっか。早く見つかると良いね。」


そう言ってさくらちゃんは可愛い笑顔を見せた、みんなこの笑顔に弱いんだ。


「ありがとう。」

そう伝えて、僕は横田のおばさんちに急いだ。




その日村田さんはかなり酔って帰って来た。


「ご機嫌ですね村田さん。」


「おーゆうたんさんではないですか?

村田さんだなんて水くさい、気軽に秋人でいいっす。」


正真正銘の酔っ払いだ。


「で、ゆうたんさんのお家は見つかりましたでしょーか?」


「それが村田さん…。」


「秋人でいいっす。」


「はぁ、じゃあ秋人さん。

商店街を歩いてみても何にも分かりませんでした。」


「さいですか。じゃあ明日一緒に探しましょうね、そうしましょう。」


「ありがとうございます!」


ペコっと頭を下げて、おやすみなさいと秋人さんはお部屋へ帰られました。



次の日


「秋人さーん、秋人さーん。」


もうお昼なのにいくら呼んでも秋人さん出て来ません。


10時にいつもの公園で待ち合わせって言ったのに来ないから、おしゃれアパートに迎えに来ました。


「あぁ猫ちゃんこんにちは。」


声の方を見ると、小さな女の子が僕を見つめていました。


みゃー。


僕は礼儀正しく鳴きます。


「お隣のお兄ちゃんに用事なの?」


みゃー、みゃー。


これは良いぞ、僕は秋人さん家のドアに体を擦り付けてアピール。


「じゃあ愛華がピンポンしたあげるね。」



女の子は目一杯背伸びしてインターホンを押してくれました。



「あれぇ でないねぇ、お兄ちゃんいないのかな。」


何度か押すとやっと秋人さんの声がしました。


「はい。」


「あっ、お兄ちゃんいた。

愛華だよ、お兄ちゃんの家に猫ちゃん来てるよー。」


「秋人さん、僕でーす。」


「愛華ちゃん?猫?」


ドアが開いて中から出て来た秋人さんは、髪がボサボサで洋服は昨日別れた時のまんまです。


「お兄ちゃん、ほらこの猫ちゃん。」


「あぁそっか、ゆうたんわりぃ。」


「このこゆうたんて言うんだ、お兄ちゃん飼ってるの?」



愛華ちゃんはしゃがんでじーと僕の顔を覗き込みます。


「飼ってるわけじゃ無いんだけど、まぁ友達かな。

愛華ちゃん教えてくれてありがとね。」



「うん。あっ愛華これからりっちゃんの家行くんだった、お兄ちゃんまたね ゆうたんもねー。」


みゃー。


「愛華ちゃん気を付けてね。」



「はーい。」



パタパタ駆けて行く愛華ちゃんを、目を細めて見送る秋人さんに僕はちょっぴり驚きました。


「秋人さんて、小さい子好きなんですか?」


「俺はロリコンじゃねーよ。」


怖い顔で睨まれてしまった…。


「いやそう言う意味じゃなくって、なんか僕と話てる時と違うし。物凄く優しって言うか。」


「あぁまぁ、ほらあれだ。

俺妹がいたからさ、なんか懐かしいなってさ。」



そう言って秋人さんはバツが悪そうに頭をガシガシ掻いたのでした。

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