episode5 野球拳
綛谷さんと別れて適当に昼飯を食い終わった後、俺たちはゲームをするために部屋に向かっていた。向かっていたと言ってもそう遠いわけでもないし直ぐについてしまうのだが。
向かう先は俺が住まわせてもらっている家、久我家である。正直な話義理父や義理母には耳にタコができるくらい、自分の家だと思いなさいと言われているが……どうにもそう思えないでいる。こればかりは俺の心が弱いから。
そんなことはどうでもいい。その家で家族4人+1人で暮らしている。可愛い妹だ何だと言っても所詮血のつながりのない他人なのだ。
家に向かうとどうしてもそんなことを考えてしまう。え?ゲーム?買ってもらったものですけど何か?
「しっかし久我の家に行くのも久しぶりだな」
「お前の久しぶりって間隔はとても短いのな」
鳴無が久しぶりだとほざいているが俺の記憶が正しければつい4日前にも来ている。それを久しぶりだと言えるのだろうか?
感覚は人それぞれだとしても4日で久しぶりとは、大変短いものである。俺なら多分1カ月くらいだと思う。下手したら半年かもしれない。
久しぶりの感覚の事はこの際どうでもいいとして(もともと関係ない)そろそろ家に着く。なんて事のない一軒家。大きすぎずかと言って5人が暮らすのに狭くもない。
1回はリビングやお風呂等みんなが使うスペースになっており、2階に各自の部屋がある。こうして改めてみると意外と広いのかもしれない。
「さて、と。ただいま~」
「おっ、なにソロっと入ってんだ」
「そうだぞ久我君、ここは僕と君の愛の巣ではないか」
鳴無とホモが何か言っているが無視である。二兎はなんとなく察したようで合掌している。あたかも自分は無関係だと言う様に一方うしろにいる。
後で絶対に肉の壁にしてやるからな覚えとけよ二兎。
心の中で二兎を生贄にすることを決めて玄関に靴が無いことを確認する。親は二人とも働いているためこの時間にいることはまずない。
いや、今日仕事じゃないや入学式だから学校にいたわ。あれ?これ妹からと義理親たちからおしかり受ける?
親父は、まぁ何とかこちら側に持ってこれるかもしれないが他は無理だな。特にシスターズは。当事者だからこそ俺を許さないだろう、特に美咲ちゃん。
体育館にいる時からこちらを見て笑っていた。今のうちに逃げる準備をしておいた方がいいだろうか。
いざとなったらこいつらを差し出してその間に逃げよう。
「さ、ハイッテドウゾ」
「く、久我君はまたロクでもない事を考えてるなぁ」
どうやら俺は思っていることがそのまま顔に出てしまう性格らしい。朝元にすらばれていたくらいだ、高校になって親友とも言えるようになったこいつ等にはお見通しだろう。
が、ろくでもない事を考えていると分かってもその中身まで分かるわけではあるまい。なら上等だ。十分だ。
警戒?そんなものはさせておけばいいのだ。警戒させておいてしばらく何もしずに普通に接する。そうしている間相手はいろん事を思考するだろう。これは罠だとか、本当に何もする気はないのかとか。
そうして考えているその隙を使うのもいいが、今回は完全に油断したところを狙うとしよう。だが、これには少し問題がある。
こいつらを盾にするための時間が妹たちの出現時によって崩されることだ。そもそもで出現しようとも怒っていなければいいのだが、十中八九激おこだ。
なのでその激おこシスターズがどのタイミングで現れるか。これが鍵となっている。
こいつらが油断する前に来てしまっても、こいつらが帰ってきてから来てしまってもどちらとも意味がない。この作戦はこいつらが油断しきった時に妹たちが来て、俺はこいつらをシスターズの折檻の生贄並び盾にする作戦なのだ。
どちらかが崩れてもだめだ。この作戦は諸刃の剣と言っても過言ではないだろう。そうとなればまずは部屋に案内してお茶とお菓子を用意してしんぜよう。と思ったがさっきコンビニで買って来たわ
「さ、部屋イクゾー」
「久しぶりに4人でやるとなると腕が鳴る」
「さ、流石ボッチを極めた寂しいプレイヤーだね」
「久我君を守るのは僕の役目か」
鳴無は全員をボコるつもりで、二兎は既に精神ダメージを負わせにかかり、鋪野は鋪野だった。
ちなみに俺が所有しているゲーム機は古いのは63から最新は忍天道のスッイチまで。もちろん携帯ゲーム機も完備。お子様用のゲーム機ビコもある。
絵本みたいなカセットを差し込みタッチペンで操作し、ページをめくれば画面も変わると言った当時にしては高性能なものだ。今でも仕組みが全く分からん。なんでページめくったらちゃんと捲ったことを認識するのだろうか。
もちろん忍天道だけではなくゾニーのゲーム機も持っているし漬物石だって申し訳程度に持っている。ソフトは1個しかないし起動したの一回だけだけど。中古で3000円だったから衝動買いした。コレクション用だから後悔はないけど邪魔。
最新のゲームから昔のゲームに切り替わると画質とかすごくしょぼく感じる。始めた当初はそれが最高にきれいでリアルにすら見えていたというのに、今となっては「ポリゴンじゃん」が第一感想で、「こんなに画質クソだっけか」が感想2である。
ただ画質云々はどうでもよく、やり始めると意外と面白くてまたはまってしまうのだ。そんなゲームだが昔は通信なんてものはなくゲーム機にコントローラー4つまでさして遊ぶのが一般的だった。
今からそのゲームをやるのだ。4人で。
最高にワクワクしてきた。一人でやってもつまらないものでも大人数でやれば意味もないし、冷静になれば何が面白いのかわからないが、でも笑ってしまう。そんなゲームを今からやろうとしている。
そう、こいつらの油断を誘うために。
「何やるよ」
「お、この超人生的ゲームは?」
「い、いきなり友情ブレイクゲームか」
鳴無が手に取り提案してきたのは、公式で[友情なんてくそくらえ!結局自分が一番なんだよこの阿呆共めが!]をキャッチコピーに売り出された友情崩壊ゲーム、超人生的ゲーム。
これを恋人とやれば100年の恋も一瞬で殺意に芽生えること間違いなしの作品である。
まずキャラを作成するところから始まる。性別や名前はもちろんのことながら、生まれてくるときの体長や体重や血液型なども選ぶことができる。
ちなみに血液だが-か+も選べるのだが舞台が日本だと-を選ぶと自殺行為である。白人が多く住む国でのスタートなら何とかなる。
何故か?このゲームには怪我や病気などのパラメーターもあり献血が必要になる可能性もある。そんなときに-の確率が5%しかない日本が舞台だった場合、献血可能の血が見つからずデッドエンド。他の人たちが死ぬまで見守り続けるしかない。とても暇である。
生まれ赤様あら始まるのだが、この時点でみんなはいはいできるなど天才な一面を見せてくれるがゲーム上そうしないと話が進まないので目をつむる必要がある。
さて、長く話したがそんな友情なんてくそくらえなゲームを最初に持ってこようとしている鳴無は屑野郎とでも言えるだろう。
「却下だな」
「流石にこればかりは久我君抜きにしてもダメだね」
「ぼ、僕もやだな」
満場一致で不可、速攻で金庫いきである。何故あんなものを買ってしまったのかと今でも後悔している。ただし売りはしない。むしろ処分代を請求されるだろう。それほどひどいのだ。
ボッチでやればそんな心配はないけどね。
しかしだとすると何をやろうか。ゾニーのゲームは数人でやろうとすると大体オンラインでやらないといけないんだよな。一つのゲーム機でやるとなるとゲームが限られてくる。ゾニーはボッチ専用、はっきりわかんだね。
そうなるとやはり忍天道しかない。ハードは決まった。なら次はソフトをきめなくてはならない。そのソフトが悩みどころで、超人生的ゲームなんてものを選んでしまわないようにしながら、複数人で遊べて楽しいやつ。
「やっぱり超人生的ゲームしかないだろ?」
「黙ってろ鳴無。そんなにやりたきゃ一人でやってな」
鳴無には一人でやってもらおう。精神がいかれてしまう可能性もあるかもしれないがそんなものは知った事ではない。
「やっぱり大闘争だな」
大闘争とは忍天道を代表すると言っても過言ではないソフトだ。忍天道が過去に出してきたゲームのキャラクターたちがプレイアブルキャラとなり戦うゲームだ。
ちなみにゾニーにも似たようなものはあるが、あれは確か週刊少年のマンガだったはず。
この大闘争、63の時代から出ているがその人気ぶりは落ち込むどころか年々プレイアブルキャラが増えているため増加していると言える。
ただやはり前作にいたキャラが今回はいないだとか、携帯ゲーム機と据え置きと両方買わなきゃキャラあげなよなど、いろんなところで不満が出てきていたりするが。
しかし今回スッイチで出る最新作では新キャラはもちろん過去のキャラが全員使えるとのこと、これは買わざるを得ないだろう。
しかし今はキューブの時代のをやろう。63はコントローラがないため外させてもらった。
「んじゃ、キューブ時代の大闘争やるべ」
「きゅ、キューブ時代が一番好きだな」
「そうか?俺は最新作に期待しているが」
「んー、僕としては63のが好きだけどコントローラがないんじゃ仕方ないね」
二兎はやはりわかっている。鳴無は分かっていない。鋪野はなかなかコアらしい。俺は全部通して好きなので特に肩入れする気はない。
たがあえて言うとしたならば、キューブ版こそ至高と言えよう。
ゲームを起動しようと準備をしているといきなり部屋の扉がバーンと開けられた。ビクッとなりながらなんだ?と思い扉を見ると。
「兄ちゃん、みぃつけたぁ」
「逃がしませんよ兄さん達」
なんと妹たちがいた。終わった。これから楽しくゲームをしようとしていたがそれは妹の出現とともに終わりを告げる。何故か?今からお仕置きが始まるからである。
だが、俺は諦めないぞ。直ぐに諦めてはなるものもならない。ここは他のやつらと連携してこの窮地を脱出しなければならない。そのためには奴らの協力が必須だ。
そのために鋪野たちへと視線を向けると、そこには綺麗な土下座をした男三人がいた。こいつら!
「お前らにはプライドと言うものがないのか!?」
「ふっ、プライドで生きていけるならプライドは捨てないさ。だが、俺のこの小さなプライドのせいで生きていけないというのであらば……こんなプライド捨てても構わん!!」
鳴無はこれでもかと言うほど目を見開き俺にそう言ってきた。生きるためにプライドを捨てるのは恥じゃない。死んでしまってはそれまでだ。確かに学校でそんなことを習った気がしなくもないが。だが鳴無よ今じゃないだろ。
「ぼ、僕はもともとそんなプライドないし」
二兎はいつもの二兎だ。プライドがないと言ってるがそれは本人が認めていないだけで、俺らからしてみれば、こいつもこいつでプライドがあるのだ。もしかしたらこいつのプライドが一番厄介なんじゃないかと思うほどでもある。
「確かにプライドはある。でも鳴無君も言っていたように僕の子のプライドを捨てるだけでこれからも久我君を愛せるならばプライドなんていらないさ」
鋪野の理由は少し、いやかなり不純だが目的のためにプライドを捨てるのは悪い事じゃない。それ自体は決して悪い事ではないのだが、鳴無も鋪野もそのプライドを捨てるのは今じゃないだろうと声を大にして言いたい。むしろ叫びたい。
くそっこいつらは既に役に立たん。俺だけでも逃げ出す方法はないか?
「なぁ兄ちゃん諦めようぜ?私も美咲ちゃんも今回ばかりは見逃すつもりはないよ」
「ええ、兄さん以外の方はよくわかってらっしゃるようですよ?」
よくわかっている?諦める?馬鹿な事を言う妹たちだ。もしここで俺が土下座をすれば許してくれるのか?答えは否だ。この妹たち、とくに美咲ちゃんは最初から許すという選択肢が無いだろう。
だが、一抹の希望をもって聞いてみることにしよう。
「じゃあ、俺がここで土下座して許しを請うたら、許してくれるのか?」
「あらあら、ナニを言っているんですか兄さん」
和らいだ笑みを浮かべる美咲ちゃん。もしかしたら許してくれるのかもしれない。そんな風に思ってしまうほど先ほどまでとは違って悪意のない笑顔を浮かべている。
ただし、次の言葉でそんな小さな希望は粉々に砕かれる。
「許す余地なんて最初からないでしょ?」
知っていた。だから言ったのだ俺は。最初から許す気がないのだと。
今のセリフを聞いた3人はすぐさま土下座をやめ美咲ちゃんたちから距離を取る。流石だ。動きに無駄がない。
「久我、貴様さては最初から分かっていたな?」
「たりめーだ、俺が何年お兄ちゃんやってると思ってるんだ」
「で、でも仲良くなったのは最近だよね」
「ふむ、つまり仲良し期間では僕が最長か」
鋪野の言葉を聞いた瞬間妹二人の眉がピクっとうごいた。それと同時に背中に嫌な汗を感じる。他の奴らも同じようだ。
「確かに私達はホンの数日前に仲良くなった。違うな。勝手に誤解して勝手に嫌いになってたのをやめた」
「きっかけはどうであれ今の私たちは兄さんと仲がいい。たとえその期間が短かろうと一緒に過ごした時間が長いのは私たちの方です」
何やら鋪野と妹たちの間で火花が散っているように見える。気のせいだろうか?気のせいであってほっしい。だって本当に火花が散っていたら部屋が燃えちゃうだろう?
「久我、現実逃避はやめた方がいい。速く止めないと本当に燃えるぞ」
「うおおおお、馬鹿野郎ども!直ぐにその火花を収めるんだよ!」
なんて日だ!入学式兼始業式の今日。学校では校長やPTA会長とかいうただの爺に目を付けられるし、綛谷さんには退学したと思われて、その理由が日ごろの行いだと言われ。そして今妹たちからお仕置きを受けようとして部屋まで燃やされそうになる。
とんでもないな。心が折れそうだ。
「なぁ、2人とも。どうすれば許してくれるんだ」
担当直入に。許す余地がないと言った。しかしそれはただ謝っただけの時はである。行動で示してやればきっと許してくれる。
俺の言葉に反応したのは美咲ちゃんの方だった。
「そうですね。では服を脱いでください」
「ふ、服をか?」
「ええ、服です」
服を脱げとはこれいかに。服、服と言う事は上だけでいいのだろうか?そう思いながら制服を脱ごうと手をかけると。
「もちろんですがパンツも含め全部ですよ」
「あの、それじゃあ全裸になってしまうんですが」
「ええ、そのために脱がしてるんですから」
どういうことだ!なぜ俺を裸にする?裸なんぞ風呂にでも入る時に視れるというのに。……まさかこいつらの前で裸にさせることにより俺に屈辱感を味合わせようとしているのだな!なんて恐ろしいことを考えるんだ。
考えろ、ただ脱がされるのも癪だ。しかし脱がないという選択肢は無いだろう。ないのならば作ってしまえばいい。
「なぁ、美咲ちゃん1つ提案なのだが。いいだろうか」
「……何ですか兄さん」
俺は極めて冷静にかついい声になるように心掛けながら美咲ちゃんに語り掛ける。これに失敗してしまえば俺は無残にも妹と友達の前でマッパになる。俺だけ。いじめかよ。
そんなことは回避せねばならない。男の裸なんぞサービスショットにもならないのだから。そう、男の裸がサービスショットにならないなら何がなるのか。
簡単な事だ。目の前に超絶可愛い妹たちがいるではないか。阿呆三人に視られてしまうのは嫌だから目隠しをさせるとして。脱がせてしまえばいいんだよ。二人を。そのためにはこの案に乗ってもらわなければならない。
慎重に、慎重に
「俺がただ脱ぐというのはあまりにも面白味が無いだろう?だから思うのだ。ここは1つエンターテイメントを取り入れてはいかがだろうか?」
「ふーん、で。どうしたいのさ兄ちゃん」
「ええ、私も兄さんが最終的に全裸になってくれるなら何の問題もありませんよ」
「そうかじゃあ」
「野球拳をしよう」