episode4 占い師
え?話が進んでない?知らんな
妹の恐怖に震えながら教室へと戻ってきた俺は静かに椅子に腰を下ろした。まだちょっと震えてやがるぜ。
「でだ、久我よ俺の妹を見てどう思った」
一つ前に座る鳴無が椅子の背もたれの方に向かって座りながら、椅子で震える俺に語り掛けてくる。妹を見てどうだったか?何を言っているんだこいつは。
何故自分の妹の感想を恐る恐る聞くのだろうか。しかも俺にとっては見たこともない妹の事を。
「お前……さては見ていなかったな?」
美香ちゃんたちの事で一杯一杯だった為、他の生徒の事なんぞ気にかけている暇など俺にはないのだよ。
だが、あれだ。確か体育館に行く前にそんな話をしていたような気がしないでもないが……ふむ。
一体いつ紹介されたのか。名字だけで行けば「く」と「お」なのだから鳴無の妹の方が先に来る。先に来ていた場合、自分の妹について考えていたため見逃している。
クラスか?確か1組から呼ばれていくはずだったから…そのあとの組だった場合、既に入学式に興味を無くしていたので、聞き逃している。
ちなみに余談だが、1年の時は学科が振り分けられていない。ただ単純にランダムのクラス編成。2年から学科ごとに振り分けられるが、自分の希望した学科に行けるかどうかは分からない。定員があるのだ。
さて、総評するならば。
俺が悪いと言う事がお分かりいただけるだろう。
鳴無に対してキリっとした表情を向けて
「悪いな、俺の妹以外に興味がない」
「これだからシスコンは」
鳴無がため息をつきながら俺に苦言を呈してきた。
「お前に聞いた俺が馬鹿だったな」
「お、そうだな」
「イラつくなぁ」
本当にイラついてそうな顔をしていらっしゃる。仕方ないだろ、俺は自分の興味ないものを認識するのに時間がかかるのだ。悪い癖ではあるんだけど、どうしようもない。
鳴無はやれやれとでも言いたげに俺との会話をやめて前を向いてしまった。寂しいことするなよぉ泣くぞぉ。
「なあ久我、お前の妹可愛いな」
「せやろ?いやー朝元、お前モブキャラ一般人のくせに見る目だけはあるなぁ。一般人に昇格させてあげんこともないぞ」
「それでもモブなんですが」
鳴無との会話の後に、待ってたとばかりに朝元が話しかけてくる。朝元は隣の席になっているため結構話すのだ。
それにしても朝元にも分かるか、分かってしまうか我が妹の可愛さが。
やはり罪なものよな。
「しかし二人とも可愛いな、どちらかとお近づきになりたいものだ」
あ?こいつ今なんつった?
美香ちゃんか美咲ちゃんとお近づきになりたいと言ったか?
「朝元」
「な、なんだよ」
「苦しいのか痛いのどっちがいい?」
真顔でそう問いかける。いや、実際には真顔になれていないかもしれない。眉がピクピク動いてるかもしれないし口端も上がっているかもしれない。
けれど心構えとしては真顔で少しトーンを落とし問う。
もちろん朝元の処刑方法だ。選択肢を与えてあげるなんて俺はとてもやさしいな。これが俺じゃない誰かだった場合、有無を言わさずできうる限りの事をして殺していただろう。
それほどの重罪を犯したのだ朝元は。
「どっちも嫌だよ!何真顔で聞いてんだ!」
「なぁに終われば全て感じなくなる」
「それ死んでるよね?間違いなく俺死んでるよね?」
何を当たり前な事を言っているんだ。貴様を殺す話をしているというのに。
「申し訳ないが俺はまだ死にたくないんでな、さっきの発言は取り消そう」
「水と火どっちがいい?」
「なんでだ!?」
さっきの発言を取り消すと言う事は美香ちゃんたちが可愛いと言う事も取り消すと言う事。ならば殺すしかない。
朝元死すべし慈悲はない。
「これ以上お前の妹について話すと、俺が殺されるかもしれんから話変えるが、鳴無ぃお前の妹も可愛いなぁ?」
「お前はあれを可愛いと称すか」
朝元に話を振られた鳴無はちらりと朝元を見ながら苦言を呈していた。
どうにも妹を褒めるという行為をしたくないらしい。一体何が気に入らないのだろうか。
俺なんかは気に入られようと何年も頑張っていたというのに、こいつは避けようとしてやがるな。
何がそんなに気にくわないのか、今聞けば話してくれるのだろうか?それともまた、会えばわかる的な事を言われてはぐらかされるのだろうか。
「おーし、帰りの会始めるぞー」
堤下が小学校で使いそうなショートホームルームの名前を言いながら入ってきた。
いや、実際に小学校でしか使われないだろうな、帰りの会って。
確かあれは、その日の行いの反省会みたいなものだったか?
掃除をサボっていただとか喧嘩していただとか、後は犯人探しとか。
まぁ、良い子ではなかった俺にとってあまりいい思いでのないものだ。
「いいか、お前らは今日から2年生だ。高校3年間の内で最もたるんでしまう時期だ。しかし、それで事件なんて起こしてみろ?3年生の就職に関わるし、1年には示しが付かない。
2年ってのはある意味じゃ一番大事で一番責任のある学年だ。その事を肝に命じて生活するように、特に!馬鹿4人衆お前たちな!」
「言われてるぞ、朝元、鋪野、二兎、鳴無」
「何を言い出すかと思えば俺ではなくお前の事だろう」
「ぼ、僕の事じゃないと思うよ?久我くんの事だと思う」
「ふむ、僕と久我君のコンビに、他の男が混じっているのは気に入らないな」
それぞれが、それぞれの思いをぶつける。一人を除いて全員が自分ではないと主張する。
こいつら本当にとんでもない奴らだ。
大人たちは汚いからすぐに俺に責任を押し付けてくるが、まさかこいつらも汚い大人たちと一緒だとは思わなかった。
「な?朝元」
「そう思うだろ朝元」
「あ、朝元君もそう思うよね」
「朝元君も僕と久我君の間を邪魔するのかい?」
「なんでお前らは俺を巻き込むんだ!!」
机をたたきながら立ち上がり俺達に叫ぶ。叩いた手が痛かったのだかろうか、手をひらひらさせている。痛いのなら最初から叩かなければいいものを。
しかし巻き込むとはいったい何の話をしているのだこいつは。
意味の分からないことを叫んでいる奴に首を突っ込むといい事は無いので無視をする。他の三人も「何言ってんだこいつ」といった表情で見た後、正面をむく。
「お前ら本当に行動パターンが同じだよな」
がっくりと項垂れながら席に着く朝元は放っておいていいだろう。
結局あの後は特に問題と言う問題もなくホームルームも終わり後は帰るだけになった。
若干堤下とバトルが繰り広げられたが、特筆する必要もないだろう。
「さーて皆の衆帰るとしましょうか」
「おっおっおっ、ちょっと寄りたいところあるから寄っていいか?」
「いいけどどこ行くんだ?」
「公園に桜見に行こうかと」
鳴無が桜を見に行こうと提案してきた。
しかし、この時期に桜って咲いてるんですかね?
確かに春だけれども俺の記憶では入学式の時期ともなると既に散っていると思っていたが。ま、品種によっては咲いていてもおかしくないのかな?
「俺は良いけど」
「ぼ、僕も暇だからいいよ」
「久我君がいr」
「よっし行くか―」
鋪野は無視でいいんですよ。無視したって今みたいに「ふむ、強引にセリフを切られるのも悪くない」と悶えている。
あいつは一体何を目指しているのだろうか?
・・・・・・
てなわけで鳴無の案内で公園にやってきたわけだが。奇麗なピンクが咲き誇る桜が辺り一面に!なんて事はなく青々とした葉っぱが付いている木しかない。そもそもここ桜の木ねーし。
在りもしない桜を見に来た?こいつ遂に頭の中枢からやられたか薬でもやってるんじゃないかと心配になってくる。
「鳴無、お前薬物は犯罪ぞ?」
「そ、そうだよ鳴無君」
「何で薬やってる前提何だお前ら」
だってなぁ、特に木に詳しいわけでもないけれどここの公園に桜が無いことくらい知っている。地元の公園だからな。
だからこそ離れたところの公園にでも行くのかと思っていたのだが。
「なぁんでこ↑こ↓何ですかねぇ」
「一瞬汚いな」
「そうかい?僕的には綺麗だったが」
「ほ、鋪野君はちょっと価値観が違うから」
二兎が鋪野に突っ込みを入れている。ちゃっかりときつい言葉でだが。
だが鋪野は何も気にしていない。二兎や鳴無の事は友だとは思っていても、それ以上でもそれ以下でもない。
「ま、ちょっとな」
どうにもこいつは直ぐに理由を言う事ができない病気にかかっているらしい。妹の事といい桜の事と言い。個人的には理由とかはすぐに言ってほしいものなのだが。
しかしだとしたならば一体ここで何をしようか。公園、紛れもなく公園。滑り台にブランコ、雲梯にジャングルジム。鉄棒に砂場とごくありふれた公園だ。
子連れのお母さんとかがそれなりに居て子供が遊び親が見守っている。ごくありふれた光景。
そこに高校生、それも野郎どもが遊ぶなんて考えたら、とてもシュールではなかろうか。遊ぶというか、使っていてもあまり違和感がないのが雲梯と鉄棒ぐらいだろうか?
雲梯なら手の力を鍛えることもできるし大人になってやっても、決して損はない。鉄棒は、ほら体操とかでも鉄棒って種目あるやろ?それに魅入られたとでも言っておけばなんとか。
こんなところでやるなと言う話ではあるのだけれど。
と公園をぐるっと見回していると、水飲み場付近に人だかりができているのを見つける。今日は暖かくはあるけれど、決してすごく喉が渇くほど暑くはない。
公園で遊んだから喉が渇いたのかとも思ったが、よく見ると誰一人として水を飲んでいる様子は見られなかった。
「な、あそこ何だろうな」
「む?ふむ、行ってみるか」
まだいないようだしな。とボソッと呟いたのを俺は聞き逃さなかった。もしかしたら桜と言うのは木の話ではなく、人かペットの名前のようだ。
ここで少し追求したい気持ちも湧いて出たが、ここまで来たら最後まできっちりと付き合ってから突っ込んでやる。
そう心に誓いながら人だかりの方に行くと、占い師の人がいた。
簡易的な椅子とテーブルを公園に持ち運んで来たのか、椅子に座りテーブルには商売道具の水晶を置いてある。
この占い師さん見た目はとても日本人には見えない。金髪で碧目、スラっとした体格で、なのにおっぱいはボインボインだ。
その占い師はこちらに気が付くと。
「あら、久我君たちどうしたのこんな時間に?はっ、もしかして……遂に退学に?」
「おうおう、どうしてそんな発想になったのか後でゆっくり聞こうじゃないか」
「ああそうだな、後で事務所に来てもらおうか」
「じ、事務所なんてないでしょ鳴無君。でも、何で退学と思ったのか僕も知りたいなぁ?」
「と、言う訳だ。仕事が終わってからでいいよ、その間久我君と遊んでいるから。だからちゃんと理由を教えてほしいね綛谷さん」
見知った占い師であった。
その占い師の苗字は綛谷。名前はまだない、ではなく教えてくれなかった。
どことなく不思議な雰囲気を纏っている綛谷さん、実は占いが超当たるともっぱらの噂で昔は一日に自分のできる限りでやっていたのだけれど、噂が噂を呼び捌ききれなくなったため今では限定20組までなのだ。
ちなみにお一人もしくは一組500円なので、一日20組だとしても500×20で一万円になる。
単純に一月を30日計算しても30万。そっからいろいろ差し引いてもまぁまぁ手元に残る。暮らしていけない事は無い、むしろちょっと贅沢できる。
俺が貧乏人なのもあるが月30万はいいと思う。
おっと話がそれた。
それと当たることはおもちろんなのだが、人気なのはそこだけではない。他のちゃっちい占い師は決して悪いことは言わない。濁していうかもしれないがストレートには言わない。
だが綛谷さんはズバッと言う。
たとえどんなに理不尽な結果であろうと。言われたくない結果であろうと。しかしそれを承知で皆来ている。
一度結果に納得のいかなかったDQNが綛谷さんに殴りかかってきたことがあるらしいが、むしろ返り討ちにされてトラウマを植えられたなんて噂もある。
奇麗なものほどトゲがあるとはよく言ったものだ。
それに、ちゃんと1カ月以上前に予約して、交通費全額と宿泊費の半分、後は占いの基本料500円を払えば出張して占ってくれる。
随分割高になるが、綛谷さんは基本この地域でやっているため、離れたところの人がここまでくるとしても結局交通費がかかる。
しかしそれだけ出しても占ってほしい人は結構いるらしい。
本人に一度聞いたけど、あまりここを離れたくないから出張は月1か2位しか入れないと答えていた。
いろいろ勿体ない気もするけれど、これはこの人のやり方なのだから俺がとやかく言うのはお門違いなのだ。
といろいろ考えている間に今日の最後のお客となったようだ。
「はーいそれでは、申し訳ありませんが今日はもう20組終わりましたのでまた明日でお願いします」
「そんなぁ」
「くっそお間に合わなかったか」
「あ、明日もここでやりますか!?」
今日並んで、占ってもらえなかった人たちが悔しがっていた。本気で悔しがってるもんだから、そこまで重要なのかなぁなんて他人行事で見守る。
所詮他人ですしお寿司。
「はい、明日もと言うか今週は雨や強風ではない限りここでやりますよ。ちゃんと役所の方にも許可をいただいているので、安心してくださいね」
許可を取るのは大事だよね
さて
「じゃ、事務所に来てもらおうか」
「え、本当に事務所あるの?」
「何を言っているんだい綛谷さん、そこにトイレがあるじゃろ?」
「久我君!僕と言うものが有りながら女に手をだそうだなんて!神が許しても僕が許さないよ!」
「おめーは黙ってろホモ野郎!男に興味ない何度言ったら理解する!」
ちぃ、鋪野の野郎。せっかくちょっと危ない雰囲気出そうと思ったのに。俺をあまり甘く見ていると痛い目にあうぞってね。
「久我、お前も知ってるだろうが本当にやればお前が死ぬぞ?」
うん知ってる。
僕は返り討ちに合ってトラウマ植え付けられるような阿呆な事は致しません。それにこの人には大変お世話になっているし、これからも多分お世話になる。
そんな人に自分から敵対するような真似はしない。綛谷さんも笑ってキャー久我君に犯される(≧∇≦)なんて言っている。
可愛い。
「そ、それで何で僕たちが退学させられたと思ったんですか?」
二兎が話を進めようと本題に入っていった。正直な話聞かなくても大体の理由は分かる。みんなも分かっているはずだがあえて聞く。
「日頃の行い」
そうなんだけど、そこはせめて占いの結果と言ってほしかった。