第六話恋詩(シャンソン)
「確かに、ジルは、自らの罪を認めたよ。囚われの身となり、やつれていたが、酒や悪友と縁が切れて、奴の本来の人好きする性格が顔に滲んでいたよ。元はハンサムで、育ちがいいから、綺麗な立ち姿で、少し長くなった髪をリボンでひとまとめにした姿は、おとぎ話の王子さまのようで、女どもがため息をもらしていたなぁ。殺人鬼なのに。」
ブレアティは、上手いジョークを言ったような軽い笑いをもらした。
「裁判は、バカな俺らが見ていても嘘臭くて、ヘタな茶番に見えたよ。が、傍聴人もブルゴーニュの強面が座っていたし、役人も金を握らされたような、ろくでもない奴等だったさ。」と、そこでブレアティは、一度カルロの顔を観察する。
「ああ、不満は聞かないぜ、何て言ってもあの時は滅茶苦茶だったからな。拷問と屁理屈を重ねた話で、すっかりジルは、不利な状況に置かれていたんだ。で、最後の告白の時、ジルは、全てを諦めて、胸に秘めた、本当の、自らの罪を告白し始めたのさ。」
ブレアティは、甘さのある切ない微笑みをたたえて、彼なりの恋詩をうたいだした。
それは、処刑前、ジルが最後の告白をするシーンだった。
みなさん、私は、観念しました。
かくなる上は、騎士として正直にお話ししましょう。
確かに、私は、罪を犯しました。
それは、神を冒涜するものであり、
口にするのも、穢らわしい告白なのです。
しかし、それは、少年殺しなどと言う、俗な行為ではなく、
私の犯した罪は、
より罪深く、おぞましい。
私は、自らを騙し、あの聖女ジャンヌダルクをも騙していたのです。
私は、あの女を、一人の女性として愛していました。
あの清らかな唇に触れ、彼女の柔らかな胸の膨らみを頬に感じながら、切ない気持ちを告白し、恋路の雨を降らせたいとすら考えていたのです。
その告白が始まるや否や、裁判所の雰囲気が一転したのだ。
ジルの口から放たれる、ジャンヌと言う愛しい人の名前の音に、女性たちが彼の真実の愛を直感したのだ。
裁判官や役人は、それをやめさせたいと考えたが、下手にやめさせたら、傍聴人は彼らを非難するに違いない。
役人は、ジルの告白を止めることはできなかった。
聖職者は、保身のために耳を塞ぎ、讃美歌を唱え出した。
その聖なる響きに合わせて、ジルは生来の美しい顔に、愛の輝きを乗せて傍聴する女性に切なげな微笑みを投げ掛けた。
「私が愛したのは、あの方ただ一人。何故に性も違う少年に情をかけると思われるのか?私が恐れるのは死ではなく、ただ、この恋情ゆえに、死してなお、あの方の側にいられないと言う事実なのです。私は、罪人です。恋と言う名の罪人なのです。かつてアダムが追われたように、あの方の住まう楽園の扉は、この気持ちゆえに固く閉ざされる。ああ、哀れな私の為にどうか祈って貰えまいか?ただ一度、死の瞬間にあの方が私に会いに来てくれるように。」
ジルの処刑は異様な雰囲気で始まった。
傍聴していた人間たち…少年を殺された被害者の親までもが、ジルの罪が許されるようにと祈りを捧げ刑場へと連なった。
「あれは、なかなか面白い見世物だったよ。ジルは、泣きながら、人々に憐れまれ、刑にふくし、役人はとても記録に残せない残忍な行為とだけ書くしかなかったのだから。」
ブレアティは懐かしく語り、それから、気持ちを切り替えてカルロを見た。




