退屈そうな神様がいました
昔、昔、ある世界に一人の男の神様がいました。
その神様はその世界を守る役目を担っているので守護神と言われていました。
ですが、そうそう世界の滅亡の危機が起こるわけではないのでいつも退屈でした。
毎日、毎日、退屈で退屈で仕方がなかった神様はある日思いつきました。
「一人でいるから退屈なのだ」
それから、頻繁に神界から下界に行くようになりました。
下界の生物達に神様の姿は見えないらしくどんなところにいてもだれも気づかないので神様は自分の興味のあるところを自由に回ることが出来ました。
そして、見て回った下界には多種多様の生物達が住んでおりみんな思い思いに暮らしていました。
その中で神様が目をつけたのは、'人間'と呼ばれる生物でした。
'人間'は他の生物のように怪力もなければ鋭い牙もなく体を守る硬い鱗すらない非力な生物で一人では何も出来ないけれど、頭を使い工夫を凝らし本来、自分達よりも格上であるはずの他種族の生物達と対等に戦えるようになったのです。
神様はそんな'人間'達を見ているのが楽しくて楽しくて仕方がありませんでした。
ですが、次第に雲行きが怪しくなり自分のことしか考えることができない者が現れ、次第に荒れてゆき、争いが頻繁に起こり始めました。
各地で争いが激化し他の生物に対抗するための力を自分の誇示のために扱うようになったのです。
神様は見ているのが段々とつまらなくなってゆき下界に行く回数が減ってゆきました。
あまりにも、同じことを繰り返すので飽きてきてしまい、下界に降りるのは最後にしようとし、ボーッと回っていました。
すると、一人の'人間'を見つけました。
その'人間'は特に表立った特徴もない黒髪を腰よりも下に伸ばしているだけの'人間'でした。
ですが、妙に気になったのでよく見るために近づくことにしました。
その'人間'は顔がしわくちゃで腰が曲がって白い髪をもつ'人間'に手を貸しニコニコと笑っていました。
何をしているのか気になった神様はついていくことにしました。
手を貸している'人間'は右手を貸しつつ、左手に籠を2つも持っていました。
神様はもうひとつをあの白い髪のやつにくれてやればいいのにと思っていると、二人は1つの小屋に行き着きました。
そこで黒髪の'人間'は白髪の'人間'に荷物を渡し二人は別れました。
それは自分に役得がない仕事はしなかった'人間'には考えられない行動だったのです。
興味を持った神様はその後その'人間'について回りました。
その後も黒髪の'人間'は同じような事を繰り返していました。
その間何度か他の'人間'に騙されたのにその行動を辞めることはありませんでした。
ついに我慢出来なくなった神様はその'人間'と話がしたくなりました。
ですが、'人間'から神様を話すことはおろか見ることさえ出来ません。
考えた神様はその'人間'に少しだけ力を与えることにしました。
すると、その'人間'の瞳と髪色が金色に変わりました。
驚いた'人間'が立ち止まったので神様は目の前に立ちました。
その'人間'は鼻まで届く位長い前髪だったので、表情は良く見えませんでした。
ですが、神様は気にせず問いかけました。
「なぜそなたは手を貸す?そのせいで騙されたことをなぜ学ばない?」
いきなり目の前に現れた金眼金髪で光輝く男にびっくりして黙っていましたが、'人間'は前髪が長すぎたので神様から顔は良く見えませんでした。
ですが、質問されたことに気がつきおどおどしながらも答えました。
「えっ·····あの······なぜそんな····ことを聞く····の?」
「気になったからに決まっているであろう?質問で返すな、さっさと答えよ。」
「え············えっと、性格······かな?」
「??性格とはなんだ」
「え·········えっと、その人特有の行動の仕方のことかな?考え方とか」
「ふーん、性格というのか、ならばなぜその性格とやらでそなたは手を貸す?」
「え······なんで·········なんでなんだろ····」
「おい、自分のことだろう?なぜ答えられぬ」
「自分のことでも分からないことはあるの」
「そうなのか········」
「·················ただ、これかもしれない·······って言うのはあるよ」
「それはなんだ?」
「ほかの人にね、”ありがとう”って言われるとこの辺りがポカポカ暖かくなるの、自分も笑顔になれるし········だからかも·········」
そう言って'人間'は教えてくれました。
「ほう·········それは興味深い。ならば、これからも'人間'のそれについて教えろ」
「それ·············それってポカポカ暖かくなるものについて?」
「そうだ、そんなもの私にも他の生物にもない。実に興味深い。」
「はぁ··········とりあえず、それって言ってるものを感情と言うの、だから、これからは感情って言って、分かりにくいから」
「ふむ、感情か·········よし、その調子でどんどん教えろ」
それから、'人間'と神様の奇妙な旅が始まりました。
ですが、神様は話をするためその'人間'から力を戻さなかったので、金眼金髪の容姿にとても苦労することになりました。
ですが、中には気にしない'人間'もいたのでなんとかやっていけていました。
その間、神様は前々から気になっていた事や今気になったことなどをどんどん聞いていきました。
神様と'人間'はどんどんと仲良くなって行きました。
ですが、ある時いつもの通り'人間'が他の'人間'に手を貸した時荷物を奪われてしまいました。
その'人間'は金髪の'人間'の手助けを利用して騙したのです。
金髪の'人間'は荷物を取り返そうと追いかけました。
ですが、その'人間'は一人ではなかったのです。
金髪の'人間'はまんまと騙され、悪い'人間'の集団の敵地で手を出されそうになりました。
その時、神様は顔を思いっきりしかめ眉間に皺を寄せ言い放ちました。
「触れるな」
その一言で十分でした。
見えない威圧に押された'人間'達は怯え走り去っていきました。
金髪の'人間'は座り込んだまま一向に立とうとしません。
痺れを切らした神様は金髪の'人間'に近寄ると膝をつき手を出しました。
「おい、何をしている。あやつらはもういないのだから座っている必要もなかろう」
「な········に······ヒッ·······いっ····ヒック····てるのよ」
「は?」
「な······ヒック·······いてる····ヒッ·······のが······分からないの?」
「泣く?」
「そう···········よ···ヒッ·····こん········なにも·····ハァ····ヒック···わかり·······ヒック···やすい感······ヒッ···情表現なんて···ない···ヒック·····のになんで····ヒック·········ハァハァ····気が······つか······ない·····のよ!」
「そなたの毛が長すぎるのだ。だから、前々からそんなものいらないと言っているのだ。」
そういうと、神様は'人間'の前髪を乱暴に後ろへと流しました。
その髪の間から見えた顔はとても綺麗でした。
すっと通った鼻に形のいい眉毛、口、大きな目の中にある瞳は自分と同じ金色に輝いており、髪が長いせいで焼けなかった肌は白く、そこへ大きな塊の水がポロポロと流れとても美しいものでした。
神様はとても見入り動きが固まってしまいました。
そして、初めてその'人間'が少女であることを知ったのです。
その少女はいきなり髪を挙げらたことに驚きましたが、神様の顔を初めて間近で見たためその美しさにこちらも固まってしまいました。
そして、どちらかともなく二人は口付けを交わしました。
神様は初めてだったのですが、番を得ることに関しては豊富だったので特に問題はありませんでした。
少女は神様の強い勧めで前髪を切り、その顔をあらわにしました。
すると、まわりは今までになかった反応を示しました。
いろんな人達が寄ってきて少女に取り入ろうとしたのです。
中には過去に金眼金髪だからと邪険に扱った'人間'もいました。
神様はそれが気に入りませんでした。
なので、少女を神界へ連れてゆきました。
少女は今まで一緒にいた神様を愛していましたし、親戚は皆亡くなった後だったので、下界に未練はありませんでした。
神界にいるので、少女は次第に神に近くなっていきました。
すると、少女が笑うたびに精霊が生まれるようになりました。
火を司る 赤の精霊
水を司る 青の精霊
土を司る 黄の精霊
植物を司る 緑の精霊
などその他大勢を産み落としました。
精霊は生まれてすぐに下界へと飛び出していきました。
そして、神様と少女を見習うように自分達も”お気に入り”の生物を見つけていきました。
その”お気に入り”達は選んだ精霊たちの色に眼と髪、もしくはそれに成り代わる物が変化し、加えてそれぞれの精霊が司る力を使えるようになったのです。
そして、黒の精霊を産み落としたのを最後に少女は消えてしまいました。
文字通り消えてしまったのです。
神様は白の精霊によっては修復しようとしましたが白の精霊を探すのに時間がかかってしまったので間に合いませんでした。
神様は発狂しました。
神様がひと吠えする度に周りから妖精が生まれました。
その妖精達は神様の荒御魂から生まれたのです。
その妖精達は例外なく怒りん坊で争いごとが大好きでした。
その妖精達は生まれてすぐに下界へと飛び出していきました。
そして、精霊達と同じように”お気に入り”を見つけていきました。
吠えるのをやめた神様でしたが、狂っているのには変わりありませんでした。
狂った神様は黒の精霊を切り殺そうとしました。
ですが、その剣は何かの盾に阻まれ届きません。
少女が邪魔をしていたのです。
少女本人を生き返せることは出来ませんでしたが少女の力の粒子だけは修復出来たのです。
その粒子が黒の精霊を守り、遺言を残していきました。
曰く、精霊達は殺してはならない
曰く、'人間'やこの世界を守り続けて欲しい
曰く、一人ぼっちにならないで
神様は少女に習った感情を頼りに涙を流すことが出来ました。
しかし、一向に悲しみは取れません。
そんな時、少女にそっくりな別の少女を見つけました。
気になった神様はその少女に力を与え、見守り続けました。
すると、寂しさが一時紛れました。
ですが、その少女は人間の寿命で死んでしまいました。
神様はまた悲しみました。
そしてまた別の少女を見つけました。
そしてまた失いました。
それを何回か繰り返した後、それがこの世界を守り続けることになることに気がつきました。
神界にいるよりも下界にいる方が神様の力が下界に届きやすくなっていたのです。
だから、神様は少女の遺言を守るためにい続けることにしました。
そして、その少女に似た少女に力を与え続けたのです。
その少女達は神様から力を与えられると例外なく金眼金髪に色を変えました。
その少女達のことを今ではこう呼ぶのです。
”神巫女”と