3章 第42話 奴隷オークションの支度(1/2)
俺はスニゲスいる部屋のドアをゆっくりと開ける。
「大丈夫? スニゲスさん」
ドアの隙間から見えてくるスニゲスさんの姿。
スニゲスさんはちょうどベットから上半身を起こして
何やら口を大きく開いていた。
「おぉー、奈緒ちゃんか!?」
そこにはスニゲスさんの横でリンゴをフォーク刺しているアリルさんがいて。
一瞬、気まずい空気が流れるじゃないかと思ったんだけど……
「もうおしめは取れたのか? 奈緒」
お酒に酔っ払わなくてもスニゲスさんは
出会った時のスニゲスさんそのままだった。
「最初からそんな物つけているかってっ」
即答してリズムよくスニゲスさんに返事する俺。
これが男同士の友情ある?
「そうか? ならここでおしっこを漏らされても困るんだが、
無事そうでよかった」
「スニゲスさんこそ、そんな悪口が叩ける元気があってよかったよ」
俺とスニゲスさんはパシッとハイタッチ。
「そろそろここを出て行くの? もぐもぐ」
アリルさんが行き場の失ったリンゴを自分の口に入れながら言う。
「うん。だからその……世話になったみんなに挨拶してから
出発しようと思って、わたしってお邪魔だったかな?」
もしかしてスニゲスさんとアリルさんは付き合っているんじゃないだろうか?
恋などちっとも関心がなくてうとかった俺なのに……
奈緒の体になってからは妙に恋バナに興味が湧いてくる。
これも男女の思考の差なのか?
「もしかしてこれのこと、奈緒ちゃん?」
またアリルさんはテーブルに置いてあるりんごをフォークで突き刺すと。
「スニゲスさんの利き腕がまだ思うように動かないみたいだから
お口に入れるのをお手伝いしていたんだけど」
「……そうだったんだ」
「なになに? 奈緒ちゃん、まさかわたしとスニゲスさんが
付き合っていると本気で思っていたの?」
「別にそんな意味じゃないってっ」
「またまた嫉妬しちゃってまた可愛いところあるんだから。
動物園のワニさんにエサを食べさせるみたいで楽しいよ。
奈緒ちゃんも実践してみる?」
笑顔でリンゴ付きのフォーク俺に手渡してくれるアリルさん。
「俺をあんな四足歩行しかできない種族と一緒にしないでくれ。
奈緒を奈緒猿だと言って侮辱しているのと同じことだぞ」
「……わたしってまた猿なの? 酷いな~ スニゲスさんは、あはは」
デジャブを思い返して少し苦笑いする俺。
「でも女に食べさせて貰おうことは決して悪くない。せっかくアリルさんが
剥いてくれたりんごだ。その、なんだ奈緒。手にしているりんごが色が
変色する前に口に入れてくれると嬉しいだが……」
「ごめーーーん、スニゲスさん。あーーーんしてくれる?」
そう言って俺は豪快に開くスニゲスさんの口に恐る恐るりんごを落とす。
お口が閉じるとバリバリ、もぐもぐと凄い音が鳴り響いてくる。
芯や皮も取らなくても何でも粉砕しそうなスニゲスさんのあご力。
スニゲスさんの本気はもしかしたら武器を使うよりも
そのあごを使った噛みつき攻撃にあるかもしれない。
「そうだ、ここにはもうタートスの爺さんにいないのかな?」
アリルさんとスニゲスさんの甘いひとときで忘れていたけど
「押し倒すんじゃ」でお馴染みのタートスの爺さん。
俺と八重のピンチを見つけてくれた恩もあるからな。
あのエロ爺さんにもちゃんとお礼を言っておかないと。
「タートスさんなら奈緒ちゃんが苦しそうにうなされていたから
『ワシは女の子のきゃっきゃうふふの笑顔しか見たくない』って
嘆いてだいぶ前に家に帰って行ったよ」
「……あはは、そうなんだ、でもそれってタートスの爺さんらしい言葉で
何だか安心したよ。わたし1人だと誰も押し倒す相手がいないから
また今度八重と一緒に遊び行かないとだね」
「うふふ、その時は是非わたしも誘ってよ、奈緒ちゃん」
「もちろんだよ。アリルさん」
「あの爺さんの家に女性3人だけで行くのとても危険だ。
俺もお前らの警護に行くぞ、痛てて」
顔を引きってまで話に入ってくるスニゲスさん。
「スニゲスさんはまた体の傷を完璧に治すことから始めようね。
じゃないと安心してタートスの爺さんの理不尽な要求から
わたしたちを守れないからね」
「奈緒、お前って小便臭いガキだと思っていたが少しは大人を
気遣うように成長しているんだな」
「小便臭いガキは余計だって、もう~ スニゲスさん」
「うふふ、それで成長した奈緒ちゃんはこれからかなり危ない橋を
お兄さんたちと一緒に渡るんですってね、冒険者初心者の
奈緒ちゃんなのに」
「それは……」
またあゆむだろうか? また余計なことをアリルさんにしゃべって。
それだと必然的にもスニゲスさんも知っているんじゃ……
「通りで早めにおしめとお別れした訳だ。
おしめと違ってパンツは身軽いが横から漏れる恐れもあるから
立ち回りに気をつけるんだぞ、奈緒」
助け船を出すかのようにスニゲスさんは
また冗談を言って俺を自然に送り出そうとしてくれている。
「はい? だからおしめは蒸れるから卒業したんだって」
だから俺は笑ってノリッコミで言葉を返す。
「うふふ、奈緒ちゃんたら」
「おしめを卒業してもまだまだ背伸びしているガキとは変わらない。
お前たちに何かあったらまたタートスの爺さんを脅して直ぐにでも
助けに行くからな。決して死に急ぐんじゃないぞ、奈緒」
「困った時はまた相談に来てね。もうわたしたちはもう
ガルタさんのギルドの仲間いやお友達なんだよ」
「……うぅぅありがとう、アリルさんにスニゲスさん」
まさかアリルさんたちからお友達って言葉を聞くとは思っても
みなくて……
「どうしたんだ奈緒? ガキならまたいつものように俺たちに
抱きついてもいいんだぞ」
心の準備もまだできていないのにまじまじ言葉にして
言われるとその……恥ずかしくなって、抱きつくに抱きつかれじゃないか?
「それは……帰って来た時の楽しみに取っておくよ。
人生楽しみがないと苦しいもんね」
ここは大人の女性して抱きつきたい衝動を抑えないと。
わたしはもう野生の猿じゃないんだ。
「また奈緒ちゃんは泣いちゃって、もう弱い子なんだからっ」
自分でも気づかずに俺は泣いていたんだ。
「俺じゃなかったわたしは約束するね。
無事に帰ってくるまで泣かないって……」
「そんなことはお子様が決して口にするんじゃない。
泣きたいときは泣くのが正しい生き物のあり方だろっ」
「そうだよ、奈緒ちゃん。奈緒ちゃんが泣く前にそんな悪いヤツら
とっととみんなの力で追い返してやるんだから」
「ありがとう、2人とも。じゃあ行ってくるね」
これ以上2人に話しているとお別れが辛くなるだけだから……
「ああ、何かあったらまた俺たちのことを思い出すんだぞ」
「頑張ってね、奈緒ちゃん」
俺にはまた帰るところが1つ増えたんだ。
「うん、バイバイみんな……」
俺は涙を堪えて部屋を出ると部屋の外の壁にはまた仲間がいてくれて、
「別れは終わったでござるか?」
「もたもたするな、奈緒。ドンダレフがお前が着る馬子にも衣装の服を
用意してくれているんだぞ」
「オムツはしていないみたいだけど大丈夫? お姉ちゃん」
俺のことを心配してくれてヤツらが待っている。
「みんな待たせてごめん、行こうまたスニゲスさん部屋に」
「気でも狂ったか? 奈緒。
僕たちはもうアリルたちに先に挨拶してお前が出てくるのを待っていたんだぞ」
「そうでござるよ、ここはアンス殿の言う通りでござるよ。
それにもう時間も少なくなってきているでござるから」
「お姉ちゃんって……やっぱり頭はおチビちゃんだよ」
どうやら3人は俺に気を遣ってくれて部屋には入ってこなかったらしい。
3人はもうアリルさんたちに別れの挨拶を済ましたって言っていたけど
もうそんなことはどうでもいいんだ。
「そんなしゃべっている時間があるなら、さぁ行くぞ」
「汚い手を僕に触れるなって」
そう言って俺は恥をしのんで、アンシャの手を握り先陣をきって
もう一度スニゲスさんたちがいる部屋に入って行く。
スニゲスさんとアリルさんはみんな揃って何事かって感じで
恐縮していたけどみんなでお礼を言うことに意味があると思うんだ。
それは1人だった俺ができなかったことだから。




