3章 第40話 奴隷オークション開催までの夜明けの朝(2/3)
「奈緒殿それにアンス殿、あゆむ殿は3人は血の繋がったご兄弟だったとは?
3人ともまったく顔が似てなくて、それがしには全然分からなかったで
ござるよ」
三国志演義の劉備玄徳した桃園結義ように兄弟の杯をかわさずに
あゆむを納得させるためにその場繋ぎのノリで即興でなった義兄弟で
いわば継ぎ接ぎを隠すために接着剤で固めた壺みたいな関係だからな。
生まれは違うけど死ぬ時は一緒ってそんな大それた誓いもなく、
今更似ていなくて当たり前だよって、八重に真実を話せる勇気もなくて……
「しかしいくら仲むつまじい兄弟でも異性で寝るのはどうかと
思うでござるよ。まぁ、なぜ故か? それがしも奈緒殿たちと一緒に
川の字に参加していたので今回は何も過ちは起こらなかったでござるが」
「奈緒殿の体はまだまだ未発達とはいえども立派なおなごでござる。
兄上と同じ布団で寝ているとその……兄上が発情して奈緒殿に
いつ牙を向くか分からないでござるよ」
真剣に俺に持論を語ってくれている八重。
だけど何気に傷つく言葉が時々入り混じっているんだよな、八重って。
未発達とかって八重の女性らしい体から見たら俺はまだまだ子供に
映るかもしれないけど俺だって愛川家にいる時は努力はしていたんだよね。
毎朝牛乳の飲んだ程度ではお腹が痛くなるだけで報われなかったけど……
「わたしのことをアンスは毛嫌いしているから心配無用だって」
八重のウソをつけないって性格は裏表がなくていいことだと思う。
だけど敵を作りやすい諸刃の剣も含まれているから、心配になってしまい
つい過保護になって八重のことを思ってしまう。
あゆむと出会ってから覚えた俺の悪いクセだ。
「誰が奈緒を襲うだって、そんなことは大地がひっくり返っても
ないから安心しろ。ござる娘」
アンシャがイスに腰掛けながら俺たちの方を振り向いて言う。
こっくりとアンシャは寝ていた思っていたけど
実はちゃんと聞き耳を立てて俺たちの会話を聞いていたんだ。
これからもうかつなことはアンシャの近くはしゃべれそうにないな。
「ほらね、八重。アンスもこの通りそう言っているだろ?」
「……しかし父上が口を酸っぱくしてそれがしに『殿方は夜になると狼に
なっておなごを襲うから警戒をおこたるな』って言っていたのでござるよ」
「それはだな、八重のお父さんが娘のことを心配して……」
ガタン。
「ボクがお姉ちゃんと一緒に寝ているとしまいにもふもふの狼さんに
変身してお姉ちゃんを襲うようになってしまうの? ござるのお姉ちゃん」
自動ドアのように勝手に扉が開くとあゆむの震えて怯える声が聞こえた。
自然と八重に向けた言葉を止める俺。
俺たちの会話が外まで筒抜けになっていたんだろうか?
不意に部屋に入って来たあゆむはショックの余り硬直してしまったみたい。
あゆむの手に持っていたバスケットが徐々に斜めになっていき、
しまいにパンがこぼれ落ちていく。
「あゆむ殿は……そう奈緒殿と一緒に寝てもお月様を見ても
狼さんになることは絶対にないってそれがしが保証するから
安心するでござるよ。ですな奈緒殿」
「……ああ、そうだよ、あゆむ。狼に変身するヤツはやましい心を持った
悪いヤツだけだから、あゆむには該当しないだろ。
あゆむは怪獣ナオゴンから世界を守るヒーローなんだもんな」
あゆむのことをあゆあゆって言うことも完全に忘れて
脂汗をかきながら必死で八重の言葉に合わせる俺。
だが肝心なあゆむももうあゆあゆのことの設定を忘れていたみたいで。
きりっとカメラ目線のドヤ顔をしてあゆむは。
「ボクが狼さんに変身した悪いヒトからお姉ちゃんを守ってあげるね」
どのヒーローかまではさすがの俺でも分からなかったが
お約束の勝利ポーズをするあゆむ。
「ありがとうな、あゆむ」
パチパチパチ……
「無事に狼さん問題が解決して良かったでござるよ。
しかし怪獣ナオゴンとな? そんな得体の知れないバケモノが
この大地に推測していたとはまだまだ世界は誠に広いでござるな~」
「……そうだね、世界は広いよね八重」
でもその怪獣ナオゴンの正体は俺だったんだけどね。
「ではそろそろ落ちたパンを拾うか? あゆむ」
「はーい。お姉ちゃん」
拍手する八重の天然だと思うボケに軽く応対してから
俺とあゆむは一緒になって落ちたパンを拾ってはバケットに戻していく。
「狼さんがどうしたって、みんな時間がかかっちゃってごめんね。
パンを発酵させるのにどうしても時間がかかっちゃって。
魔法でかなり短縮させたんだけど味が悪くなっていたら本当にごめんね」
狼さんはどこかに旅だって平和が訪れたひとときの時間を迎えない間に
あゆむに続きアリルさんが頭を下げながら部屋に入って来る。
アリルさんの握るバスケットからはまたたくさんのパンが顔が出していた。
「もぐもぐ、これはもしやあんパンでござるか? あゆむ殿。
うまいでござる、うまいでござる」
八重も落ちたパンを拾うのを一緒に手伝ってくれていたと思っていたのに。
床に落ちた無数のパンを何も気にしないで拾い上げては
そのまま口に含みもぐもぐ口を動かしている八重の姿が目に映る。
「いったいどうしたの? 八重ちゃん」
床に散らばったパンを口に入れている八重の姿に動揺するアリルさん。
その八重の予想外の行動に唖然とパンを拾う作業を止めてしまう俺とあゆむ。
「それがしはその……お腹が減っていたのであゆむ殿を脅して
このパンを全てを強奪したのでござるよ。
すまないが皆はアリル殿の持つパンを召し上がって下されでござる」
すました顔で顔色も変えることなくを平然と答える八重。
その行為に鏡に写っている自分を見ているような苛立ちを覚える俺。
俺と一緒でなんて不器用なヤツなんだ八重は……
自分だけが悪者になれば全てを丸く収まるって思っている。
これじゃあ、孤立していた昔の俺の二の舞じゃないか?
俺が八重に抱いている思いをしゃべろうと口を広げるが
先にあゆむの口を開く。
「ずるいよ、ござるのお姉ちゃんだけあんなに先にあんパンを食べて。
ボクもアリルお姉ちゃんに手伝って、頑張って一緒に作ったのに」
そう言って床に落ちていたあんパンを拾い口に入れるあゆむ。
「はむはむ、作ったボクが言うのも変だけど甘くておいしいねぇ~」
あゆむは元々落ちていたものを拾って食べていた生活を
していたみたいだから特に床に落ちた物には抵抗はないらしい。
思えば俺も意図的に地面に落とされた給食を泣きながら
拾い集めて食べていたっけ。
「八重とあゆむだけずるいぞ、わたしにも食わせるんだ」
あゆむの無邪気な行動に苛立ちもすっかりと忘れ、落ちていたパンを
放り込んで口いっぱいにほおばる俺。
「もぐもぐ、この餡子はまた格別な味がする。
もしかしてこのほくほくする餡子はアリルさんの手作りなんじゃ……」
俺は奈緒と一緒に病院で食べた甘屋さんの餡子たっぷり
大福の餡子の味がまだ忘れなくて。
餡子の味だけは少しだけうるさくなっているのかもしれない。
「分かる~奈緒ちゃん。インターネットで日本のことを調べて
小豆から蒸して頑張って奈緒ちゃんために餡子から手作りしたんだよ」
「ボクも小豆を混ぜるのを手伝ったんだからね」
「うぅぅ、そうか? 通りで美味しいはずだ。
餡子が甘くて体の傷に骨身に染みるよ~。パクパク美味しい~」
また一口あんパンにかぶりつく俺。
「奈緒殿、そう言えば体はもう痛くはないでござるか?」
「うん、あれあれ……そう言えば全然痛くないや」
遠慮せずに床に落ちているあんパンをまた1つ握りしめていた俺。
俺は両肩をぐるぐると回してからまた両手であんパンを持ち
ハムスターのごとくかぶりつく。
「はむはむ、ほっぺが溶ける程に餡子が甘くて美味しい~」
「リータ家の特製の先祖代々から継ぎ足されてきた薬草を加えた
ガマの油が奈緒殿に効いたでござるな。確か速攻作用までもなかったと
思うのだがまぁ、早く直ることに越したことはないでござるよ」
やっぱり俺の体のぬるぬるの正体は八重の仕業だったのか?
でもそれは八重のありがたい行為による代償なので
少しオブラートに包みながら俺は……
「ありがとう、八重。でも今はだいぶマシにになって来ているけど
アンスに臭い、臭いって言われて酷い目にあったんだよ。もぐもぐ」
「……それは面目なかったでござる。すまぬでござる奈緒殿」
そう言って八重は俺の冗談混じりの言葉を真面目に受け取ってしまう。
手に持っていたあんパンを床に置いてまた俺に対して
土下座しようと行動を移す八重。
「顔を上げてよ? 八重。土下座するならわたしの方だよ。
わたしは八重に感謝仕切れない程の恩を感じている」
「でもそれは誰かを思う心があっただな……何だかもうまどろっこしいなぁ。
俺をお友達だと思ってくれているならこれからはそんな真似を2度と
しないでくれると嬉しいな、八重」
「……奈緒殿」
「そうだよ、八重ちゃん。八重ちゃんはもっと自分に自信を持たないとだね。
八重ちゃんは奈緒ちゃんを救おうと必死に頑張っていたんだよ」
「アリル殿まで、それがしのことを……かたづけないでござる」
だけど俺たちの言葉も八重の心の芯には届かなかったのか?
八重の動作は見うる見る内に土下座の体制に姿が変わっていく。
「だから何でまた土下座を続けようとするんだよ、八重。
やっぱりわたしって友達失格だったのかな?
こんな自分勝手な俺だと嫌われて仕方ないよね」
やっぱり俺には自分から友達を作ることはできなかったんだ。
「これは……その奈緒殿に敬意を表明する土下座でござる」
八重の回りくどくて遠回しの言葉。
「はい? 八重。お友達って言うのは上下関係はない無礼講の関係だと
思うんだけど…… 違うかな? アリルさん?」
「何でわたしに聞き返すのよぉ~奈緒ちゃん。ここはきっぱりと
奈緒ちゃんの気持ちを八重ちゃんに伝えないとダメだよ」
「……でもわたしにはまだ友達の提議のことはよく知らなくて」
春美は話の流れで向こうからお友達(仮)になったから?
情けないことに春美もそもそもお友達って言えるかも疑問に
思えてくる始末だし……自分が情けない。
「友達の提議って…… はぁ、そんな難しいことわたしは1度たりとも
考えたことないけどなぁ~。2人ともとにかく不器用過ぎるのよ。
ここはお見合い会場かって感じだよ。まったく」
「友達には礼儀も必要かもしれないけどそんなものは後回しでって
もう~わたしまで頭がこんがらってきてよく分からなくなって
きたじゃないの~」
「今から奈緒ちゃんと八重ちゃんは2人はお友達なの。
わたしが公認してあげるからそれでいいでしょ、2人とも」
アリルさんのありがたいお言葉。でもここだけは再確認しておきたい。
やっぱりアリルさんの口からその言葉を聞きたいんだ。
「……3人じゃやっぱりダメかな?
アリルさんも含めてお友達になるのって」
俺は照れながらもアリルさんに思いを伝えた。
俺はもう勝手にアリルさんをお友達リストに登録しているけど、
アリルさんの口から承認許可を聞かないともう心のつかえが
抑えきれないから。
「もうわたしの口からそんなこと言わせないでよ。もう3人はお友達だよ」
「うぅぅありがとう、アリルさん」
感極まってアリルさんに抱きつく俺。
「きゃーー……やめてよ、奈緒ちゃん。
こんなみんなが見ている前で恥ずかしいって」
「奈緒殿、アリル殿。かたづけないでござる」
「さあ、八重も遠慮しないでアリルさんの胸に飛び込んでくるんだ」
「それがしにはまだハードルが高すぎるでござるよ奈緒殿」
顔を真っ赤にして八重の瞳に涙が浮かぶ。
八重は俺と会うまでどんな生活をしていたのか俺には分からない。
でもあの直ぐに困ったら土下座するあたり両親虐待かはたまたクラスメイトから
自分を守るために身につけた1人で生きるためのすべかもしれない。
俺には変なプライドがあってそんな発想は微塵も浮かばなかった。
八重は俺と似た環境で生きてきたかもしれないけどやっぱり歩んできた道は
ヒトそれぞれ違うのだと改めて思う俺であった。
「お姉ちゃんだけずるいよ、ボクも混ぜてよぉ~」
あんパンを夢中に食べていたあゆむも俺が八重にかけた言葉に反応して
アリルさんの胸に飛び込んできた。
「奈緒ちゃんに続いてあゆむくんまで、嬉しいけど
ちょっと苦しいって……2人とももうちょっと落ち着こうね」
「は~い」
俺とあゆむに抱きつかれて苦笑いしているアリルさん。
それを微笑んでみている八重の姿。
お友達って本当にいいなって思える瞬間であった。
またまた友人から素敵なイラストを描いて頂きました。
1章第11話 天使エニシエルとの戦 凜々しい奈緒
2章第14話 再会する天使 アキエル
がそれぞれの文章の最後に画像を追加しています。
前回と同じ理由から初めての読者様にイメージを膨らませて頂くために
初登場シーンのバックナンバーに追加しました。
イメージイラスト追加前から読まれていた読者様にはお手数を
おかけすることになってしまって誠に申し訳ありません。
興味がある方はまた一度ご覧になって下されば幸いです。




