3章 第36話 ガルタのギルド(1/2)
ドワーフのおっさんの指示通りにまっすぐに西に進んでいくと狭い路地に
酒樽が多く積んであるお店があった。
「酒と言えばやっぱりギルドだろう?
まぁ、昼間から酒を飲んでいるヤツはろくな大人しかいないと思うけど……」
夜ならもっとヒトが集まるかもしれないけどこんな子供染みた奈緒の容姿で
夜に1人で出歩くのにはどう考えても危険すぎる。
それに酔っ払いに絡まれて遊び半分に話を聞いて貰っても正直困る。
いつだって俺は真剣なんだ。もちろん本人いわく。
「ふ~……」
パチパチ。
「よし、行くぞ」
軽く頬を叩き気合い入れ、フル装備したお姉さんになった立ち振る舞いを
思い出して男どもになめられないように気品あるおもむきで優雅に
ギルドの中に入って行く俺。
中にはカウンターバーとテーブル席が別れており、これと言って
変哲もないRPGでお馴染みである鉄板のギルドの風景だった。
「いらっしゃい、あなた1人でお使いなの? 偉いねぇ」
エルフ耳したお姉さんが俺を出迎えてくる。
金髪ロングで日本のメイドカフェに勤めているような
ヒラヒラのフリル付きの可愛らしい衣装を着ているエルフ耳のお姉さん。
いとも簡単に淑女になりきったプライドを踏みにじられてしまった俺は……
「お仕事を依頼ってわたしでも出来るのかな?」
無理に背伸びすることは諦めて、普通の女の子っぽくしゃべる俺。
「うん、できるよ。ペットにでも逃げられてしまったのかな? お嬢ちゃん」
「違うよ、お姉さん。わたしは魔神アンシャを討伐するために
仲間を集めているんだ」
しまった。RPGの基本である大魔王討伐って言うつもりだったのに……
このところのアンシャの卑劣極まりない行為に我慢の限界を越えて、
腹いせの意味も込めてつい言葉が勝手に先走ってすり替わってしまった。
ゴーズル家に恨みを持ったとかストレートにエルフ耳したお姉さんに
語ってしまうとゴーズル家の関係者がこのギルドを愛用していた場合
俺の計画が失敗してしまうと思ったのが裏目に出てしまった結果である。
「うん? 魔神アンシャねぇ??」
「今のはなしでなしで、もう一回?」
俺はしどろもどろになって言葉を訂正しようとするが……
「魔神アンシャって知っている? スニゲスさん」
カウンター席で飲んだくれている青い鎧を着込んだトカゲ男に
芋づる式に聞いてくれるエルフ耳したお姉さん。
「魔神アンシャねぇ、そんな古い童話出てくるような
古い魔神よく知っているなぁ。
そいつは確か熾天使に御用にさせたって話だぞ、おチビちゃん」
「そんな夢物語よりも俺と一杯飲もうぜっ。
当然俺がおごるからさ。ぷふぁーー、酒が美味いぜっ」
わざわざ俺の元まで歩いてきて先端から鼻先まである大きな口を開き、
俺の顔目がけてアルコール臭い息を振りかけてくるトカゲ男。
「……げほっ、げほっ、もう酒臭いなぁ。
せっかくのお誘いは悪いけどこう見えてもわたしは未成年なんだ」
「…………」
一瞬、鳩が豆鉄砲を食ったように固まるトカゲ男。
「……はい? みんな聞いてくれよ、このお嬢ちゃんは未成年だってよっ」
ぐわははぁぁーーーーーーー 俺は小学生のチビかと思ったよ」
「それはさすがにないんじゃないか? スニゲスさんや。
どう見ても園児だろうって」
「ここは大穴でおしめをしている赤ん坊かもしれないぞ」
「赤ん坊って、そりゃあねぇだろっ。ぐわははぁぁーーーーーーー」
酒の勢いもあったかもしれないけどどんどんと伝言ゲーム
ように巡り回って若返っていく俺。
トカゲ男含むギルドにいる連中は俺を酒のアテにして
ゲラゲラと笑っている。若く見られるのは女の子としては
嬉しいことだけどこれは明らかに俺を侮辱しているのではないだろうか?
「……トカゲのおっさん」
ミシミシときしむ床を歩いて俺はトカゲ男に文句の1つでも
言おうとするとエルフ耳のお姉さんが歩いてきて……
「もう~、未成年にお酒を勧めたらダメでしょう? スニゲスさん。
それとせっかくこんな若い子がこんな寂れたギルドに遊びに
来てくれたんだから、お嬢ちゃんを茶化さないでくれる?」
「自分の店を寂れたってアリルさんもけっこう口がひでぇな。
わははぁぁーーーーーーー……うぅ、おえぇ……」
「大丈夫? スニゲスさん。もう昼間から飲み過ぎなんだから」
トカゲ男の背中をエルフ耳したお姉さんがさすっている。
俺をコケにしたトカゲ男は勝手に自滅してくれたので、
ここはよしとしよう。
「ここは見ての通りに飲んだくれの多いギルドだから、このわたし言うのも
変だけど近くにあるゴーズルさんのギルドに行った方がいいよ。
うちよりもずっと綺麗で褒賞金の額もだんちに違うからね」
こっそりと俺にの耳元でささやいてくれるエルフ耳のお姉さん。
ゴーズルさんって言うまでもなくメリナスのオヤジが経営しているギルドだ。
悪の巣窟のであるギルドにゴーズル家に恨みを持っているヒトを募集って
掲示板に貼られて日にはゴーズルのギルドに登録している全ての
冒険者を敵に回すことになるかもしれない。
敵はもちろん多いよりも少ない方がいいに決まっている。
「わたしはそう、ドワーフのおっさんいやドンダレフのおっさんの紹介で
このガルタのギルドに登録しようと思ったんだ。この床も日本の鶯張りの床で
ミシミシって音が侵入者を警戒しているんだよね」
そう言って俺は軽くミシミシ鳴る床を飛び跳ねる。
ぴょん……ミシミシ、ぴょん……ミシミシ……
「そこの床は単に老朽化が進んでいるだけだよ。
そんなに飛び上がると底が抜けちゃうかもしれないから、
ジャンプするのはやめようね。お嬢ちゃん」
エルフ耳のお姉さんの言葉に足がすくんでしまう俺。
「……うん、古くても風情があっていいよ、お姉さん」
「ありがとう、気を遣わなくていいわよ。ボロはしょせんはボロだからね。
それよりもお嬢ちゃんはドンダレフさんのおじさんの知り合いだったんだね。
冒険の登録料はサービスしておくから」
「この紙に名前を書いてくれれば登録終了だよ。
ガルタのギルドへようこそ、お嬢ちゃん。
わたしの名前はアリル・ガルタよ。今後ともよろしくね」
そう言って俺にギルド登録申請の紙を渡してくれるアリルさん。
「サービスって……」
「そんなに目を輝かせて、サービスは登録料を無料にするって意味だけど
わたしって変なこと言ったかな?」
「うんうん、ありがとうアリルさん」
「きゃーくすぐったいって、お嬢ちゃん。もうやめてよ~」
俺は無料って単語に舞い上がりアリルさんに抱きつくと。
「百合もなかなかいいもんじゃな、くはぁ~酒がまた進むのぅ」
カウンターの客席から気持ち悪い声が聞こえてくるのであった。
この後、俺はアリルさんから書類を受け取り契約書に記入して
晴れて仮の冒険者となった。これでようやく俺から依頼が出せる。
「魔神アンシャを倒すのはまだまだレベルが足りないと思うから
ここは貧弱な盗みで悪さするコブリンの討伐にしようね、奈緒ちゃん。
初心者の冒険サービスで中央の目立つところに貼っておくね」
魔神アンシャの文字を消してコブリンに書き換えてくれて
掲示板中央の位置に貼ってくれるアリルさん。
魔神アンシャは飽くまで仮で内心どうでも良かった俺はアリルさんの優しさを
そのまま受け取ることにする。
「ところで奈緒ちゃん。概要欄に明日までの急募ってそうとうお金に
困っているの? 少しぐらいならわたしがお金を立て替えようか?」
「うんうん、別にお金って言う意味じゃくて……」
お金はかりそめの翼を購入するのに欲しいんだけど今はまた別問題で……
アリルさんにどう返事したらいいかって俺は考えていると。
「ところで娘よ。魔神アンシャの討伐って本当の話でござるか?」
俺が気づくとの横に戦国時代のような鎧をまとって頭には
忍び頭巾のような物で顔を隠した怪しげな人物が立っていた。
腰には大きな刀をぶら下げている。
何1つも気配も感じさせないなんて、武道の達人なのかな?
「アリルさんの知り合いのヒトですか?」
「わたしは初めて見るヒトだけど……」
「それがしはお主に聞いているんだ、小さき娘よ」
「……小さき娘よって、たぶんわたしのことだよね」
俺は自分に指さすと。
「お主以外に誰がいる。頭は大丈夫でござるか?」
無礼なことをオブラートにも包まずにストレート言ってくる
怪しげなござるのヒト。
「初対面の相手に頭は大丈夫ござるかって、もう失礼しちゃうな?
魔神アンシャのことならわたしの力不足でコブリンの討伐に変わったよ。
もう、アリルさんもこいつに何か言ってやってよ」
「うん、分かったわ奈緒ちゃん。ここはお姉さんであるわたしに任せておいて」
アリルさんは堂々と胸を張ってござるのヒトに。
「この子は強がり言ってみんなに注目して貰いたかった単なる
寂しがり屋の子だけなんです。そうでしょ、奈緒ちゃん」
「……アリルさん」
ここはアリルさんにオオカミ少年って思われても仕方ないよな。
今の力ではアンシャに勝てないことも事実だし。
しかし寂しがり屋って完全に的を射ているようで俺は何も言い返せない。
顔を赤くして黙り込む俺。
「でもゆくゆくは魔神アンシャを討伐するでござるな?」
負けずひるまずに俺に少し涙目になって再度聞きてくるござるのヒト。
「うん、そのつもりだけど……」
「なら話が早いでござる。それがしをお主の仲間に加えてはくれないで
ござるか? 最近、魔神アンシャの復活した情報を耳にしてこれは
天命だと思い共に戦う友を探し求めていたのでござるよ」
なんとござるのヒトは仲間になりたそうに俺を見詰めている。
「あんたの言いたいことはよく分かったよ。それではこっちの番ね。
わたしは絵本を読んで魔神アンシャの姿を知っているけど
あんたは魔神アンシャの姿をしているの?」
この質問の意図はアンシャがレオエルに寄生したって事実を
知っているか否かによるものである。
前者の場合はこいつと俺は戦う運命になるかもしれない。
「先祖が残してくれた巻物によると魔神アンシャは山のように大きく
青紫がかった桔梗の花のごとく色合いの鎧に包まれ、真紅の瞳で
睨まれるとたちまち魂が吸い取られてしまうと記述があったでござる」
間違いない。俺が天魔戦争で戦ったことある魔神アンシャの真の姿だ。
どうやら今のアンシャの姿は知らないらしい。
「なら最後に1つだけ質問するね。なんでアンシャにこだわる必要があるの?
ぶっちゃけアンシャよりも大魔王サタンとか倒した方が英雄になって
ちやほやされると思うよ。知名度の違いって言うヤツかな?」
ござるのヒトのアンシャに対する真意を確かめないと。
「それは……魔神アンシャを殺すことが我が受け継がれし先祖からの
悲願であるから故にそれがしが一族の無念を晴らさないと
いけないのでござる」
今のアンシャは俺との契約にあゆむに奈緒と母体の経由を重ねて
随分と丸くなっているけど当時のアンシャは殺戮を楽しむバケモノ
その者だったからな。こいつの一族に恨みを買っていても仕方ないことだ。
でも復讐だけに捕らわれて生きるのはとても辛いことだと思うから……
「ごめんだけどあんたは不採用ね。
先祖からの悲願を叶えるためって行動するって凄いこと思うよ。
自分ばっかりのことを考えているヤツよりも立派だと思う」
「でもそれって過去のしがらみばかりに捕らわれて、ここからは先は
わたしの持論だからね。失敗してもあんたは自分の意思がないから
他人のせいにして逃げて自分自身の成長を止めてしまっていると思うんだ」
「それはまだ己の価値を見つけ出していない証拠だよ。あんたには
自分の好きなことをして自由に生きて欲しい。だからわたしは
あんたとはパーティーは組まない。これで少しは納得してくれた?」
それは過去に自分を変えようとしなかった俺への当てつけでもある。
これも奈緒の体になったから違った目線で考えるようになったわけで。
自分の目だけでは明らかに曇って何でもがむしゃらに空回りして、
もがき苦しんでいたと思う。
「……奈緒殿はそれがしのことを思って、誠にかたずけのうござる。
それがしの考えが少し甘かったでござる。また1から修行して
自分の人生をもう一度見つめ直してみるでござるよ」
「あれ、わたしの名前知っていたんだ」
「立ち聞きで聞いてしまったので、すまんでござる」
「うん、別に減るもんじゃないしいいよ。
でもさっきの話の続きだけどわたしはそれが1番いいと思うよ。
新しい自分を見つけて幸せに暮らしてね」
「恩に着る奈緒殿。ではそれがしはこれにて失礼するでござる」
「じゃあね、バイバイ」
「奈緒殿もご達者でござるっーー」
お互いに頭を下げて俺は手を振ってござるのヒトと別れた。
案外いいヤツだったかもしれない。
「いいの、奈緒ちゃん。せっかく向こうからメンバーが
志願してきたのに断ってしまっても」
「うん。わたしにはあいつが血に縛れてかわいそうなヤツに
思えたからね」
「奈緒ちゃんって以外に大人だねぇ」
「うんうん、違うよ。あいつがまだまだ子供で自分の可能性が
あるのに何も前を見ていないようだから少し頭にきただけだよ」
「偉いね、奈緒ちゃんは……」
「アリルさん、また酒のおかわり頼むわっ。
ジョキぎりぎりまでにアルコールを注いでくれや」
トカゲ男の催促のアンコールが聞こえてくる。
「はい、はーい、スニゲスさん今行きます。ごめんね、奈緒ちゃん。
ここは小さいギルドだから仕事の受付と酒屋の接客が一緒なの」
「そちらこそ、いろいろと世話してくれてどうもありがとう、アリルさん。
掲示板にも中央の良い場所に告知を飾って貰って本当に感謝しています。
後はわたしは自分の足とギルトを利用してスカウトしてみるよ」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずってね。
頑張ってね、奈緒ちゃん。わたしは応援しているよ」
「ありがとう、アリルさん」
俺とアリルさんは握手を交わす。
「さっきの続きの百合の展開はまだかのぅ~
もうどちらでも構わん。へっく…… さっさと押し倒すんじゃ」
クソじじいはまた何を言っているんだよ。まったく……
「もう~タートスさんはまた飲み過ぎですよ、
スニゲスさんはもうちょっと待っていて下さいね」
てきぱきとお客さんに対応して俺の元を離れていくアリルさん。
カウンターの客席に座っているカメのじじいをスカウトするのは
神様に誓ってもしないと思う俺であった。




