表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/43

3章 第33話 多種多様な種族が暮らす都市 ニュートラル

「ここがニュートラルなの? お姉ちゃん」


「そうさ、あそこに大きな門が見えるだろう?

 あの奥が多種多様な種族が暮らす都市ニュートラルだ」


紫かかった雲が無数にある空。

ニュートラルは池に囲まれ、高い石壁に覆われている。

外部との接点と極力切り離し距離を取っている孤立した独特の都市でもある。

中央には大きな吊り橋があり、唯一の外に繋がる門へと続いている。

門の前に立つ1つのヒト影が見えた。


「限りなく薄くなって感じるが春美の気配がする」


ぽつんと佇んでいるアンシャの独り言。

よかった、まだ春美は生きている。


「お前の力を頼りにしているよ、アンシャ」


そっとアンシャの傍に歩み寄る俺。


「魔神と呼ばれた僕を力を頼りにするとは……天使レオエルも

 随分と落ちぶれたな」


「今は愛川奈緒として生きているからね」


「またそんな屁理屈をこねて、やっぱりお前はおチビちゃんだよ」


「また照れちゃって……もう」


からかいも含め俺はアンシャにスキンシップを図ろうとすると。


「ボクが春美お姉さんを助けるんだぁーーー」


そう言って急に門を目がけて走り出すあゆむ。


「こら、待てぇーーあゆむ」


俺は心配してあゆむの後を追う。


「元気なちびっ子どもだな、まったく……」


アンシャのぼやく声が聞こえた。


「あんなところに犬さんが立っているよぉ~。

 もふもふの犬さんだぁーーー、ヤッホーーーー」


「……はぁはぁはぁ……ちょっと待ってくれって、あゆむ~」


思ったよりもあゆむの好奇心旺盛に目をキラキラさせて

走るスピードは早く、俺の足では追いつかない。

俺がスカートを履いているのもあるけど男女の筋力の差も

関係しているかもしれない。


「立ち止まれぇーーー、人間のガキども。我々を愚弄する気か?」


門に突っ立っている犬の獣人がぶっそうなことを叫んで

拳銃を構える姿が見える。


「ライフル? かっこいいーーーー」


だけどあゆむは2本足で白銀の鎧を装着した犬の拳銃に興味津々なのか?

あゆむの加速する足は止まらない。


「お願い、あゆむには撃たないでぇーーーー」


パァーーーン 

俺の言葉も届かずに獣人による無造作にも放たれた銃声。


「あゆむっーーーー」


俺の叫びにようやくあゆむも自分の命が危ないことに気づくも……

時既に遅し、残酷にもあゆむに向かって飛んで行く鉛の玉。


「へぇ……」


あゆむに当たりそうになった瞬間。

銃弾が軌道を変えて空へと舞い上がっていく。


「……あわわ」


不可思議な現象に救われたあゆむはただ魂が抜けたように

橋の上に座り込んでしまう。


「大丈夫か? あゆむ」


俺はあゆむに手を伸ばす。


「……お姉ちゃん怖かったよぅ~」


たぶんあゆむは驚いて腰を抜かしたのだろう。

あゆむの手を取ると体がやけに重く感じる。

あゆむの口癖でよく俺に言っていた「パンツにおしっこを

漏らすんじゃないぞ」が自分に返ってくるとは思っていなかったのかも

しれない。あゆむの下には小さい水たまりが広がっていた。


よくもあゆむをっ。俺は門番の獣人に一発殴ってやろうとすると……


「僕の下僕たちにいきなり発砲するとは? お前は何様のつもりだ」


俺たちの後ろをのこのこと歩いていたアンシャが

あゆむを救ってくれたんだろうか?

アンシャが俺よりも先に門番の獣人に敵意を剥き出しに怒っている。


「これは失礼。奴隷が暴走して俺を攻撃しようと思ったのでな。

 ちゃんと縄や首輪をつけるなりして奴隷を管理してくれると

 こちらとしても助かるんだが……」


「あゆむ、少しだけそこで待っていてくれ」


俺はあゆむの手を離し、門番の獣人に向かっていく。


「誰が奴隷だぁーー。お前こそしょせん犬もどきなんだから、

 おとなしく首輪をつけろって言うんだ」


あゆむのこともあったんだろう?

門番の獣人に俺は無意識につっかかっていた。


「なんだ礼儀知らずの生意気なチビは?

 女の奴隷は希少価値が高いからと言って俺が抵抗できないと

 思ったかぁーーーこのクソガキめっ!」


ドンッ……


「うぅぅ……何でアンシャ……わたしは守ってくれないの?」


門番の獣人に力いっぱいにお腹を蹴られた俺。

お腹を両手で押さえながらも俺はアンシャに抗議する。


「レオエルならそれぐらい余裕でかわせると思ったんだけど

 やっぱり無理だったか?」


「それは俺の身体能力を過信し過ぎだよっ。

 これでも体は乙女なんだからね、うぅ……」


「ちんちくりんのおチビちゃんが乙女ねぇ……

 がははぁーーー、こんな主と奴隷の関係は今まで見たことがないわ。

 よほど自由奔放に飼われていたんだな。このクソガキは?」


いきなり俺の頭を撫でて、腹を抱えて笑う門番の獣人。


「何がクソガキだ、もう髪の毛がくしゃくしゃになるからやめてよね。

 おぉ……まだお腹が痛い」


「すまなかった、すまなかった、大事なお腹なのになぁ。

 我々の国のために立派な赤ちゃんを産んでくれよ」


「……赤ちゃん?」


「よかったな、レオエル。愛する矢ノ内を失ってお前は生涯独身の道を

 歩むんだと思っていたよ。春美のことは僕たちに任せて

 お前はニュートラルで精々婚活にいそしんでくれ?」


パチパチパチ……


「結婚するの? お姉ちゃん、おめでとう」


この2人は俺とそんなに別れたいの?

たぶん意味も分かっていないと思うけどあゆむは無邪気に拍手して

俺ことを祝福してくれている。


「お前らなぁ~、奈緒はこんな身なりでもまだ高校生だぞ。

 そもそも結婚できる年齢に遠く立ってしていないんだよっ」


「そこは安心しろ、クソガキ。日本の法律では無理かもしれないが

 このニュートラルでは大丈夫だ。医学も神通力や魔力など様々な

 ものを取り入れて進化を続けている国だから母体にも安全で優しいぞ」


「母体にも安全で優しいって、そもそもそんな問題じゃないだろっ。

 俺のそう、気持ちはどうなるのさぁ? まだ恋愛だってしたことも……」


「それで、このおチビちゃんを売るならどこに行けばいい?」


「てめぇーーーーアンシャ、今大事な話をしているんだから

 勝手に話を進めるなってっ」


「今大事な話をしているのは俺の方だ。ガキはちょいと引っ込んでいろっ」


門番の獣人に俺は首の根元をひょいと掴まれ、


「何をするんだよ……女の子にはもっと優しくしろって、このこのっ」


暴れる俺を門番の獣人は空中に持ち上がられると

そのまま手で口を押さえ付けられてしまう。


「もごもご……」


「元気のいいガキだな。でだ、こんなじゃじゃ馬の女でも売る方法は2つある。

 1つは闇商人に売るのが手っ取り早いが、安く買いたたかれるのが落ちだ」


「なら、どうすれば高く売れる?」


「やっぱり2つ目の正当なルートでは明後日から始まるオークションがいいな。

 大富豪たちが美男美女を追い求めてわんさか集まって半月に一度の

 ニュートラルのお祭りみたいなものだからな」


「そうか? ところでこのおチビちゃんの手洗い扱いは大目に見るが

 あゆむを撃った行為は頂けないな。代償としてお前の片腕を1つ貰おうか?」


アンシャがクールに左腕を突き出して門番の獣人に向ける。


「おい、冗談はよしてくれ。せっかくいい情報を教えてやったのによ」

 あゆむってガキに発砲したことは誤るからさ」


アンシャの銃弾を操った力を肌で感じ取ったんだろうか?

門番の獣人が明らかに怯えている。


「もごもご……(しかし俺への腹パンの謝罪の言葉を忘れているぞ?)」


「お前の誠意はそれだけか? 言葉では何とでも言える。

 内心はどう思っているんだろうな? やっかいなヤツに絡まれたとでも

 思っているのかな?」


アンシャの目つきがだんだん悪い方に変わっていく。

俺と契約した中に獣人ってカテゴリーは含まれていなかったよな?

ここで騒ぎを起こさないでくれっ、アンシャ。


「……降参だ。俺の負けだよ」


門番の獣人は両腕を高く上げてバンザイする。

急に門番の獣人に手を離された俺は地面に強くお尻をぶつけてしまう。


「……あ、痛いっ」


「これは失礼。このガキだけは少々手やらに扱っていいんだろっ」


「そうだ。そのままニュートラルを囲む池に放り投げても

 僕は笑って見て見ぬ振りしたのにとても残念だ。

 もう一度チャンスをやってもいいぞ」


「おい、アンシャそれはないだろうって……痛たたっ」


両手で真っ赤になったと思えるお尻を押さえながら応える俺。


「がははぁーーー。久しぶりにこんな愉快な漫才を見せて貰った。

 こんな色気もないガキでも高く売れるように服装をコーディネートした

 方が動く金額もかなり変わってくるぞ。馬子にも衣装ってな」


「あゆむと言う名のガキを間違えて撃った謝罪の気持ちも込めて

 使ってくれ。俺の責めてものの償いだ。このカネで少しでもクソガキを

 高く売って生活の足しにくれ」


そう言って門番の獣人はズボンのポケットから布袋を取り出して

アンシャの手に乗せる。


「これがこの国のお金か?」


アンシャが布袋を縛っているヒモを解くと金貨が数枚と銀貨に

銅貨が入っていた。


「こんなキラキラ光る硬貨は見たことがないよ~」


あゆむが布袋の中を覗き込んで目を大きく丸くさせて驚いている。

これだけお金があればかりそめの翼が買っても余裕でおつりが

出るんじゃ……


「ありがとう、おじさんっ」


「……まったく自分が奴隷として売られるのに喜ぶ何て間抜けなガキだなぁ。

 まぁ、バカだから手放すのにも心が痛まないんだと思うけどな」


「バカとは心外だよ、おじさん」


俺が奴隷になって潜入したら奴隷の取引のオークション会場の

待合室で春美と出会えるかもしれないんだ。


「悪かった、クソガキにも奴隷と生きる道の方が素敵な主人に拾われて

 裕福で幸せに暮らせる可能性も0じゃないかもしれないからな。

 少々ムダ口をしてしまった。ではそろそろ入国の手続きをするか?」


「あゆむってガキは売りそうにないが奴隷で申告していると入国手数料が

 かなり安くなるから、奴隷2人で登録しておいてやるよ」


「それでお前さんのことなんだが天使なんだけど翼はなく魔神の気も

 混じって感じるだけど何者なんだ? アンシャと呼ばれた者よ」


「……そうだな、僕はいったい何者なんだろうか?

 地に落ちた天使だから堕天使で登録を頼む」


「それとあゆむは僕の下僕だから奴隷の登録はいらない。

 そこにいるお尻を抱えているヤツだけお願いする」


「お兄ちゃん……」


「何で……肩書き何かにこだわるんだよ、アンシャ。

 せっかく獣人のおじさんが安くなるって進めてくれているんだから

 それに乗っかった方がいいって」


アンシャのあゆむの気持ちも分かるけど今は少しでも軍資金は

多い方が越したことはないのに……


「これだからレオエルはおチビちゃんの体と一緒で心の器が小さくて困る。

 獣人よ、レオエルがうるさいんだ。とっとと手続きをしてくれ」


「……ああ、了解した。人間界の通貨もニュートラルの硬貨と

 両替してニュートラルの入国手数料込みで差っ引くからな」


「それでいい」


嬉しそうにしているあゆむを見て俺はこれ以上アンシャに

文句は言えなかった。

もちろん俺たちは門番の獣人に貰ったお金しか

お金らしいお金は持っていなくて……

せっかく門番の獣人から貰った布袋もお布団のように軽くなっていく。


「俺のお金が……」


布袋を見つめる俺。


「別にレオエルのカネじゃないだろっ。意地汚い真似は諦めろ」


「お姉ちゃんの貧乏性っーーー」


「……おじさん」


「そんな潤んだ瞳で俺を見ないでくれ。

 これも仕事なんだ。俺がお金を渡さなかったら入国を諦めるか?」


「それとも入国する旅人をカモにする闇商人にお前は安く買いたたかれて

 ニュートラルの入国手数料になって、直ちに消えていたかもしれないんだぞ」


「……そんなぁ」


俺が知っていた頃のニュートラルは入国する手続きのお金を

回収していなかった。それに気になる奴隷制度の設立。

時が進めば人間が変わるようにヒトで作られた国もまた変わる。

時代の変化を痛感する俺であった。


「何はともあれ、ようこそ多種多様な種族が暮らす都市ニュートラルへ。

 今門を開ける。我が兵よ、開門しろっーーーーーー」


門番の獣人が天高く声を荒げとガラガラガラ……

滑車が回る音が聞こえてくると共に門が上がっていく。


「くずくずするな、レオエル」


「ああ……うん、悪い」


時より俺はお金に目がくらみに門番の獣人の気配りと優しさに

あゆむを肩書きでも奴隷にしようとしていた自分が恥ずかしい。

しかしアンシャのあゆむへの配慮が変わって行くことが

ちょっと嬉しかったのである。

それに比例して俺の扱いが酷くなってきている気もするが

アンシャの心を開いているようなので……まぁその辺りは目をつぶるか?


「お姉ちゃん、早く来ないと置いていくよぅ~」


心配そうに振り返るあゆむに。


「ごめん、あゆむっーー今行く」


俺はアンシャとあゆむの後を小走りで追った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ