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3章 第31話 いざ、ニュートラルに再出発(2/3)

あれからどれくらいの時間を費やしたのだろう?

どこの景色を見てかも変わらない緑の光景ばかりで、

同じCMを何回も見せられているような苦痛と披露だけが

込み上げてくる感覚。

草むらからヘビの来襲にも驚かせかれるし、奈緒のかまってかまって

オーラが発動しているかもしれないけど俺だけ蚊に集中攻撃させるし、

ある意味でまた神月さんの家から再スタートしたい。


「レオエルにしか詳しいニュートラルの場所は分からないんだ。

 ちんたら歩いていないでもっと足を動かせ。

 あゆむを負ぶってまで僕は頑張って歩いているんだぞ」


こんなことになるなら、お兄さんから虫除けスプレーも

おねだりするべきだった。

欲張りを言えば筋肉を冷やすエアースプレーも欲しい。


「だって、だってわたしだってあゆむと同じで足が痛んだもん。

 真っ赤に膨れあがっているんだもん。

 俺もあゆむと一緒に抱っこしてくれよ~……アンシャーーー」


ごつんっ!


「はぅ……ちょっといきなり何するんだよ、アンシャ。

 暴力は反対だって……」


「僕に気色悪い真似をするからだ。

 それに今お前、歩きながら意識を失いかけていただろっ。

 少しはその大きめ目をこじ開けてよく見ろ。もう目の前は崖だぞ」


「はい?」


俺が足を止めると小石がころころと転がって崖から落ちていく。

地面に小石の接触した音も聞こえない程の高低差。

足元の真横には大きな地割れでできた亀裂の穴が地の底まで続いていた。


「もしかしてアンシャ、俺のことを助けてくれたの?」


俺のことを気嫌いしていても実はアンシャは俺のことを……


「安心しろっ。それはお前の願望が作り上げた幻だ」


「僕はそのまま落ちていくレオエルの姿を正直見たかったんだ。

 だから悪いことをしたな。さあ、もう遠慮はいらないよ。

 思い切り崖からダイブして僕をコケにしてきた悔い改めてくれ」


「またまた照れちゃって、俺に抱きついて欲しいのかな?

 ハグして欲しいのかな?」


ごつんっ!


「痛いなって……もう。だから殴ることはないだろう?」


「まったく、調子に乗っていやらしいヤツだ。

 ニュートラルにたどり前にお前に死なれると僕が困るんだよ。

 さっさと先頭を歩けレオエル。これもレディーファーストの一環だ」


「……何がレディーファストねぇ」


春美もアンシャもレディーファーストの起源通りに

女の子である俺を盾代わりにして道具ように使っている。

一説では毒味や地雷原を女性に歩かせて調べていたって話も聞く。

何でそこだけ頑なに古いんだよ~。もっと現代を生きようって。


後ろからアンシャに銃をつき出されている思いで

高台にある崖を道なりに登っていく俺。

水息吹が舞い踊るマイナスイオンがたっぷりと出ていそうな

滝の前で俺はまた足が止まってしまう。


「急にどうしたの? お姉ちゃん」


あゆむが疲れから目覚めたみたいでアンシャの背中越しから

俺に声をかけてくる。


「うん、ちょっと……ね」


あゆむに道に迷いましたなんてお姉ちゃんの威厳を壊す発言はできない。

ようやく俺のことを認めてくれるようにレベルアップを

積み重ねしてきたんだ。ここで失態して信頼を失う訳には……


「ごめん、謎の腹痛がきて……そのお花畑にお花を

 摘みに行きたいんだけど……」


ここは強引にでも誤魔化して、一人きりになって現状を

打破する方法を考えていかないとダメだ。

1つだけあてがあるんだけどあのヒトはまだいるのかな?


「僕の分もお弁当を食べようとした呪いだな。

 僕があゆむも見ててやるから、さっささと行ってこい」


「悪いアンシャ。恩に着る。

 あゆむも俺のことを心配してくれてありがとうな」


俺は天使だった頃に自分の翼でニュートラルのゲートに

羽ばたいて行っていたんだ。

空の陸では見える景色が天地の差で違うんだってみんなに大声で叫びたい。


「お姉ちゃん、パンツに漏らすんじゃないよ」


「誰が漏らすかってっ」


「その意気込みだ。弱っているレオエルは目障りなんだ。

 一刻も早く僕の前から早く消えてくれ」


「……もう、分かったよ。アンシャ。あゆむのことは頼む」


アンシャに罵られ、俺は顔をしかめてお腹を押さえながら

ゆっくりと両足を動かす。

これはもちろん演技だが、あゆむの心配してくれる気持ちと

俺を侮辱している苛立ちが合わさった複雑な感情が入り混じるって

少々困惑してしまう俺。

そんなややこしい気持ちを抱きながら茂みの奥に進んでいく。


ブーン、ブーン……


「また蚊の群れかよ、うっとうしいなぁ。

 まだあの木陰周辺におばさんはいるのかな?」


俺は爬虫類や虫にも好かれていたが実は霊にも好かれていた。

富士の樹海は自殺名所でもあるため薄々は警戒していたんだけど……

アンシャとあゆむにはテントウ虫ぐらいでびびってって

バカにされることもあったが、振り向くといきなり髪の長い女

が出没したら誰でもビックリするって。


「もうアンシャの死角から消えたよな」


魔神と呼ばれたアンシャの力でも霊の気配は多少感じているぐらいで

あのアンシャの反応から予測すると……

たぶん霊の実体化して見ることはできていないと思う。

天使エニシエルの戦いでもそうだったが隠している武器は

多いことに越したことはない。


「そう言えば霊と話すって俺が愛川家の元祖あゆむくんと

 話した以来だっけかな?」


あれは俺が霊だと思っていなかったから普通に話せたけど。

他の霊はどうだろう?

自殺で死んだってことは世の中に未練がたらたらで死んだってことだから、

俺も道連れに地の底に連れて行かれるんじゃないだろうな?


「考えても時間のムダだ。取りあえず、おばさんの霊を探してみよう」


俺はビクつきながらもおばさんがいた場所に歩っていく。

似たり寄ったりの緑を俺が念のために木につけたマーキングを

頼りに戻ると……


「いた、いたあのおばさんはきっと呪縛霊だったのかな?」


俺が見た木陰に一寸の狂いもなくおばさんが立っていた。

歳は30から40ぐらいだろうか?

細かく当てられたパーマに落ち着いた薄いグレー基準の服装。

どこにもいそうなザ・おばさんって感じの霊だった。


「さっきは無視して通り過ぎてごめんさない。

 少しだけお話いいですか?」


たぶん誰にも会話することなくさ迷っていた思われる霊のおばさんは

まさに狐につままれたような呆気に取られた顔をしている。

きっとおばさんも孤独で寂しかったんだろうか?


「あなたもしかして、わたしの姿が見えるの?」


「もう肉眼でばっりと見えていますよ。お姉さん」


この微妙な年頃の女のヒトにおばさんって言ってしまうと

機嫌を損ねて共に奈落の果てまで連れて行かれるかもしれない。

俺はにこやかに笑っておばさんもといお姉さんの言葉に応じる。


「あのう、この辺りで雪男のような大きい化け物や翼が生えた人間って

 見ませんでしたか?」


多種多様な種族が暮らす都市ニュートラルは同族に追われた者が

助けを求めるため移住するヤツらも多いと聞く。


「何年前の情報でもいいんです。どうかわたしに教えて下さい」


もうニュートラル行くための時空の扉の直ぐそこまで来ているはずなんだ。

神様にすがる思いでおばさんに頭を下げる俺。

だけどおばさんの顔は俺の気持ちとは裏腹に険しくなっていく。


「……それなら、20分ぐらい前にも見たわ。あれは特に酷かったわね。

 たぶん自殺志願だから何とも言えないけどバケモノに捕まって

 あの若い子も自分で死にきられなくてきっとも成仏できないよね」


「それって本当ですか?」


俺が知っていた頃のニュートラルは人間を襲ってはならないって

ルールみたいなものがあった。ヒトの血の匂いでも付着していると

門番の取り調べに応じらればならない。

入国までの時間も掛かるし、最悪入国の永久禁止だってある。

無意味な争いの火種を母国に持ちこなれたくないんだと思うけど。

取り仕切る国を収める長が替わったんだろうか?


「わたしのことを疑うならあなたを呪い殺しちゃおうかな? ってね」


おばさんの険しくなった顔が途端ににこやかになる。


「もう~緩急つけて冗談を言うのはやめて下さいって。心臓に悪いなぁ~

 わたしが知っている情報と食い違っていたのでそれで……つい」


「あなた、わたしのことも見えているしただの小学生じゃないわね」


この見知らぬヒトと出会う度に小学生に間違われる

リアクションから俺はいつ卒業できるんだろう?

新しく春美に用意して貰った服にまたもや魔女っ子アニメのキャラクターが

プリントされているのがちびっ子効果を更に倍増していると思うと

だんだんと悲しくなってくる。


「……こんなみだりでも一様高校に通っています」


「飛び級ってあなたそんなに賢い小学生だったのかな?

 自殺なんか考えないで今からでも遅くはない。お家に帰りなさい。

 あなたの今までしてきた勉強は何のためだったの?」


「お父さんとお母さんの気持ちは考えたことがあるの?

 いいからお家に帰りなさい」


霊のおばさんまでに説教させてもおめおめと家に帰る訳にはいかない。

もうお父さんに外泊の許可はしっかりと貰っているんだぞって

胸を張って言えるわけないよな。


「高校の自由研究で友達と一緒に富士の樹海の探索に来ているんです。

 それと飛び級するほど賢くなんかありませんって」


こうでも説明しないとおばさんに自殺志願者だと思われるからな。


「あのバケモノに襲われた若い子ってあなたのお友達だったのかな?

 何だか探している様子にも見えたけど?」


「わたしには友達なんて誰もいませんって」


奈緒は兄姉だし、アンシャは敵であゆむも義理の弟だし

アキエルは戦友で師弟関係? みたいなもんだから……


「友達がいないって最近の若者に多い傾向かしら?

 バケモノに連れていかれた子もスマートフォンばかり見ていたからね」


自殺志願者の子に悪いけど俺は正義の味方じゃないんでね。

身長と同じで他人に構ってやれるほどの心の器が小さいんだ。


「もしかしてあなたって……あの若い子を救おうとしているの?」


「その……ごめんさない。その子には悪いけどわたしにも

 構っている余裕はないです。急ぎの用事もあるのでそれで……」


「うんうん、内の旦那と同じ冷たいのヒトだよね。

 わたしちょっとあなたのことを誤解していたみたい。

 誰にでも優しいヒトだっと思ったから」


「お姉さんのわたしへの買いかぶりすぎですよ。

 わたしはヒトを蹴落としてもまっすぐに突っ走るタイプなの」


まさに天使だった頃の俺だ。みんなに注目させたい一心で

悪魔を殺すことで地位と名誉を追い求めていたんだ。


「あなたって見かけに寄らず野心化なのね。

 そこがわたしの旦那の好きなところでもあったんだけどね」


「お金周りが良くなるとわたしとの貧乏時代の思い出も忘れて、

 他の綺麗なヒトを付き合って、わたしは捨てられたの」


「あのヒト一筋に生きてきたからね。

 大量の慰謝料を貰ったけど身よりもなかったわたしは

 もう生きるのが嫌にやって気づいたらこの有り様だよ」


「わたしはまだ信じたヒトに裏切られたことはないから

 まだその気持ちは分からないけど一方的にわたしのことが好きで

 死んでしまったヒトの気持ちなら何となく分かるから……」


矢ノ内も悪魔に心の隙間ある欲望を増幅させてられて

快楽に溺れてしまった被害者でもあるんだ。

矢ノ内の立場から見ればやっぱり俺は裏切り者なんだ。

こうして俺はアキエルを助けるためにまた天界を裏切ろうとしている。

三国志演義で出てくる呂布奉先のようにヒトを裏切り続け

最後はひとりぼっちになって処刑される未来が

俺にはお似合いかもしれない……


「あなたも恋のことでいろいろと修羅場を経験しているのね」


「……別にそんなんじゃないって」


「長年ここに住み着いてさまざまなヒトの死に行く姿を見てきたけど

 あなたにはまだ死ねないって思う気持ちがわたしにはヒシヒシと

 伝わってくるの。あなたはまだ死んだらダメよ。正々堂々と生きなさい」


「お姉さん、わたしは自殺志願者じゃないんだよ。

 仲間を助けるために自分の意思で富士の樹海にきたの」


「あなた……仲間ってちゃんとお友達がいるじゃないの?」


「それは向こうがどう俺のことを思っているか?

 分からないから友達だって胸を張って言い切ることもできないんだ」


「それはただのあなたの傲慢な考えね。お友達ってあなたが思えば

 それは立派なお友達だよ」


「それだと矢ノ内と一緒で嫌なヤツになるよ。

 ヒトの気持ちを無断で押しのけて力尽くで従わせるって

 それってお友達だって言えるのかな?」


「恋人とお友達はまた別問題だと思うけどその矢ノ内くんって

 あなたの彼氏さんだったヒトなの?」


「嫌々違います。それだけは絶対に違いますってっ!」


「慌てているところが何だか凄くあやしいわね。

 そこを追求してもっと恋バナを聞きたいけどそろそろ時間みたい」


「ありがとうね、あなたと話せて淀んだ心がすっきりした。

 これでわたしも無事に成仏できそう」


「太陽が見えている方向に大きな滝があるからそれを左に

 迂回して進みなさい。ゲートみたいなものにバケモノが入って行く

 姿を何度も見た覚えがあるから」


「ありがとうございます。おばさん」


「緊張の糸が切れたのかしら? うふふ。今、おばさんって言ったわよ」


しまった、つい本音が口に。


「それはその……あのですね……お姉さん」


「うんうん、何だか無理に気を遣わせてしまってごめんね。

 もうわたしのことはおばさんでもいいわよ。

 それに現世とももうお別れだしね」


「うーーん、凄く楽しかった。

 わたしもあなたみたいな優しい子を産みたかったなぁ~」


「……俺は別に優しくなんか……ないよ」


「わたしには隠していてもそれぐらい分かるよ。

 これでもあなたの2倍ぐらいは長く生きていた先輩なんだからね。

 最後にあなたのお名前を教えてくれる?」


「……俺の名前は……篠染玲音です」


何だか俺はこのヒトにはウソはつけなかった。

それに愛川奈緒の名前を語るのも時々胸が苦しくなるから……


「レオちゃんか? いい名前だね。

 こんど産まれてくる子供にはレオって名付けるね」


「俺の名なんかひねくれた子供に育つだけだら、絶対にダメだよ。

 名付けるなら、そう奈緒、奈緒がいいと思うよおばさん」


「うふふ、そうだね。レオちゃん」


「……俺も最後にあなたのお名前を教えて欲しい。ダメかな?」


「じゃあ分かったわよ、レオちゃん。

 わたしの名前は……さよ……」


おばさんが名前を告げようとした瞬間、無情にも真っ白に光となって消えた。

もうおばさんの名前はさよりなのかさよこなのも分からない。

俺は手を合わせて無言でその場を後にした。

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