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3章 第30話 いざ、ニュートラルに再出発(1/3)

「もう少し上まで登れるけど本当にここでいいんだね」


そう言ってお兄さんは俺に同意を求めてから車を止める。

午前中から走行していたにも関わらず、もうお昼の1時を過ぎていた。


「はい。わたしたちのわがままを聞いて頂き、

 本当にありがとうございました」


道路の直ぐ隣には覆われる樹木の根が波打つように入り組んでいる。

アニメ「獣はみんな友達の輪」で見たジャングルような密林地帯。

木々に緑のコケが浸食してヒトの手が離れてもうそこは

大自然の一部になって大地へと広がっていた。


「ほら、アンシャもあゆむもお兄さんに頭を下げて」


俺がお兄さんに頭を下げてお礼伝えているのにあの2人ときたら……


「サファリパーク、サファリパーク、ルンララン~」


「日本にまだこんな自然が残っていたとはな」


あゆむは動物さんに会えることに胸を躍らせて、

アンシャは無造作に生えている植物に興味を示している。


「2人とも、もうちょっとお兄さんに恩を感じて一宿一飯の礼ぐらい

 言ってくれって。わたしが恥ずかしいじゃない」


言うことを聞かない子供みたいな2人につい苛立ちを覚えてしまう俺。


「何をいったい興奮しているんだ、レオエル。

 礼ならさっきお前が言っていただろう?

 その、なんだ? 感謝の気持ちとはヒトに強要されて伝えるものなのか?」


「それはそうだけど……」


アンシャにどう感謝の気持ちを説明したらいいのだろうって

考えているとお兄さんがゆっくりと俺に近づいてくる。


「別れ際に僕のことでケンカをしないでくれよね。

 はい、奈緒ちゃん。春美からの差し入れのお弁当にペットボトルのお茶ね」


お兄さんは顔色1つも変えないでお弁当とペットボトルが入った

可愛いクマさんが描かれたトートバックを俺に手渡してくれた。


「わたしたちはご迷惑ばかりかけていたのに

 こんなお気遣いまでして頂いて感謝しています」


思えば俺のビッチ疑惑が晴れるまで、お兄さんと春美に多大な迷惑をかけたけど

それも今となってはいい思い出だ。


「全然迷惑じゃなかったよ。むしろ楽しかった。

 それに春美も夜に頑張ってお弁当を作るからって

 奈緒ちゃんに言っていただろってね」


「お兄さん……」


「お姉ちゃん、いつもの感謝の抱きつきはどうするの?」


俺の直ぐ後方であゆむは腕を前後して走るランナーのポーズして

スタンバイしている。

もしかして助走してダイビングしてお兄さんに抱きつく気満々なのか?

元々抱きつく気もなかったのにあゆむに問われると

急に恥ずかしくなってしまう俺。

何だかアンシャの気持ちが少しだけ分かった気さえする。


「レオエルお前また顔が何だか赤くなってきているぞ。

 またあの兄とふしだらなことを考えているじゃないだろうな?」


「ビッチ、ビッチのお姉ちゃんだぁーーー」


俺の気苦労も考えないでお前らときたら……


「もうそんな分けないだろって、2人とも俺をからかうなって」


「あはは、奈緒ちゃん。もっと顔が赤くなってきているよ。

 奈緒ちゃんはいつも元気でほんとうらやましいよ。

 僕もその元気なエキスを少しだけでも分けて欲しいなぁ」


「もう~お兄さんまでわたしをからかわないで下さいよ~」


お兄さんと永遠の別れになるかもしれないのに場が和んでしまう。

でも憂鬱で暗く梅雨のじめじめした気持ちで別れるぐらいなら

断然この清々しい気持ちの方がいい。


「春美も本当なら奈緒ちゃん達に最後の別れを告げたかったと思うけど

 お弁当作りに精を出し過ぎたみたいで、書き置きに『疲れたから

 わたしを起こさないでよね。兄さん』って書かれてあったんだ」


「だから僕が春美の分も代弁して感謝の気持ちを伝えるよ。

 昨日の晩は自然と春美と会話ができた楽しかったんだ。

 これも僕を奈緒ちゃんが尋ねて来てくれたからだね。ありがとう」


俺たちは神月家のヒトばかりに迷惑をかけていたのに

兄さんから頭を下げてくる。


「頭をあげて下さいお兄さん。春美のお土産であるイチゴショートは

 2つとは言わずにホールごと買ってきて春美さんを

 是非喜ばせてあげて下さいね~」


「それはいい考えだね、奈緒ちゃん。ありがとう」


「こちらこそ、親切にして頂いて本当にありがとうございました。

 春美にもありがとうって、伝えておいて下さいね」


「うん、分かった」


「お姉ちゃんまだだの? あゆむもう待ち疲れちゃったよう~」


待ちくたびれたあゆむの声が俺の背中を後押しする。


「あゆむ待たせたな。わたしに続け~」


俺の合図とともにお兄さんに抱きつく時間差攻撃。


「待ってよ~、お姉ちゃんっーーー」


その数秒後にあゆむもダイブしてお兄さんに抱きついた。

そして2人同時に。


「ありがとうございましたぁーーー」


「お兄さん、ありがとう~」


「こちらそそ、どう致しまして。奈緒ちゃん、あゆむくん」


何だか胸の心の奥が何だか温かい。

このドキドキする気持ちこそがヒトを好きなる気持ちかもしれない。

まぁ、この場合は恋愛よりも感謝の気持ちのウエートが大半だと思うけど……


「アンシャお前も緑ばかりに興味を持たないで

 お兄さんに抱きついてもいいんだぞ」


「……また緑が不自然に動いた気がする」


富士の樹海の緑ばかり見て何やら呟いてアンシャ。

だが俺の発言を耳にして。


「おいレオエルっ。僕はきみのように淫らなおこないはしない主義なんだ。

 精々その男と最後の別れを楽しむんだな」


アンシャは少し不機嫌になった。


「僕はアンシャくんに嫌われているのかな?」


「アンシャはツンデレで愛情表現が苦手なヤツなんだよ」


「誰がツンデレだ。ぶっ飛ばすぞ、レオエル」


「今のがツンの部分ですね、お兄さん」


「あははそうだね。とても短い間だったけど楽しかったよ。奈緒ちゃん」


「こちらこそ、わがままを聞いて貰って助かりました。

 名残惜しいけどそろそろ行くぞあゆむ。お兄さんから離れるんだ」


あゆむよりも先にお兄さんから体を離す俺。

だけどあゆむは……


「あゆむはまたお姉さんのハンバーグが食べたいのだ」


そう言ってお兄さんから離れようとしないあゆむ。


「……あゆむ」


「そう言って貰えると春美も喜んでいると思うよ。

 あゆむくんもありがとうね。また奈緒ちゃんの用事が

 終わったら遊びに来てね。またいつでもご馳走するよ」


「ボク、お兄さんたちと約束するね~」


何だか? あゆむの笑顔が眩しい。

ここままあゆむはお兄さんたちと暮らした方が本当は幸せなんだろうな。

でもそれは俺がお姉ちゃんの呼ばせておいて育児放棄することにも

繋がるから…… そうだ、今俺があゆむに暴力を振るいさえすれば

俺のことを見限ってくれてお兄さんたちと一緒に生活できるんじゃ……


「どうしたレオエル? そんなに怖い顔をして?

 おしっこならそよでしてくれよな。そこでされる目障りなんだ」


「はい? もう~そんなんじゃないって」


俺の殺気にアンシャが気づいて止めてくれたのかもしれない。

俺はあゆむの頭をそっと後ろから優しく撫でて。


「悪るかったな、あゆむ。行こうっ」


「……うん、お姉ちゃん」


あゆむがお兄さんの手を離し、俺の差し出した手を握る。


「これで本当に最後のお別れだね。

 無事にアキちゃんを助けて帰って来るんだよ。奈緒ちゃん」


そう言って俺たちに名残惜しいそうに車に乗り込んむお兄さん。


「はーい、お兄さんもおたっしゃでぇ~。

 後、春美さんにもよろしくっーーーー」


「お兄さん、ありがとうーーーー」


俺とあゆむは車体が見えなくなるまで元気よく手を振り続け、

お兄さんを見送った。

相変わらずアンシャはツンのままで、ぶっきらぼうに

富士の樹海の緑を眺めていた。


「では改めまして、ニュートラルに行く旅の再開だぁ~」


俺は富士の樹海に叫んで1歩踏み出そうとする。


ぐ~きゅるきゅる……


「あゆむ、そろそろお腹が減ったのだ」


「へぇ……またか、またなのか? 俺たちはまたつまずくの?」


あゆむの言葉にテンションがだだスベりする俺。


「腹が減って戦もできぬって言葉が日本にはあるだろう」


「お兄さんよりも緑でそれ以上にご飯でって、

 もしかしてアンシャって食いしん坊さんなの、腹すかしさんなの?」


「そんな訳あるかっ!」


ごつんっ! 俺の頭にお星様がキラキラと回る。


「はぅ……痛いっていきなり何するんだよ、アンシャ」


「元々はお前の体の生理現象なのに僕を侮辱した報いだ」


そう言えば奈緒も普通に食事を取っていたな。

天使には食の欲求はずなのに奈緒は人間だった頃の習慣のおかけで

食べる物を摂取していたと思っていたけど……

俺たちが天使そして魔神と入れ替わったことで体に

色々と変化が生まれてきているかもしれない。


「取りあえず富士の樹海の中は虫がいっぱいいそうだから

 ここで春美の弁当を広げて食べるか?

 あゆむも弁当を食べるための準備を手伝ってくれ」


「やったーーー、ご飯だ、ご飯だ、美味しいご飯~」


俺が歌った聞き覚えのあるフレーズをあゆむが口ずさむ。


「レオエルがそこまで頼むなら仕方ない。

 僕も一緒に食べてやるか?」


「俺はアンシャに頼んだ覚えはないけど。

 2人でアンシャの分も食べような、あゆむ」


そうアンシャをからかって俺は近くにあった石に腰掛けて

お弁当のフタを開けた。さっきアンシャに殴られた仕返しである。


「僕の分を勝手に食べるとはいい度胸をしているな、レオエル。

 おチビちゃんが大きくなるまでひたすらに殴り続けようか?」


俺のささやかな抵抗にご機嫌を損ねたみたいで

俺に突っかかってくるアンシャ。


「……ダメだよ、お兄ちゃん。お姉ちゃんとケンカしちゃ」


俺に向かってくるアンシャをあゆむが体を張って制止する。


「どけ? あゆむ。このレオエルはおチビちゃんの奈緒の体で

 身も心も幼児化して行っているんだよ」


「たまに殴ってでも体で理解させて覚えさせて主従関係を

 はっきりさせてやらないとまたこうしてレオエルは

 だんだんと偉そうにつけ上がって行くんだ」


「ボクはどかないよ、お兄ちゃん」


アンシャの気迫に対峙して両手を大きく横に広げて

俺の前に立つあゆむ。


「……待ってくれって、アンシャ。

 それにもう……あゆむもどけてくれて構わないよ」


「何だ? レオエル。僕に素直に殴られる気になったのか?

 いい心がけだ。望み通りにボコボコにしてやろう」


「このお弁当はアンシャがいないと食べられないよ」


お弁当に中にはピンクにコーディネートさせた桜でんぶで

描かれたハートの中にアンシャの文字。

春美のアンシャに対する想いがいっぱい詰まったお弁当だった。


「赤で僕の名前を書くとは……まさかあの女は僕を呪い殺そうと

 企んでいたなんて少しも気づかなかった。

 殺意も見せないで僕に忍び寄るとは相当に手慣れたアサンシだな」


魔神と人間の似意識のズレとは恐ろしいって。


「鈍感だな、春美はアンシャのことが好きなんだよ」


「あゆむもお姉さんのことが大好きだよ。

 お兄ちゃんもお姉さんのことが好きでしょ?」


「ああ、好きだよ。あの屋敷での女の対応は非情によかった。

 料理も美味しいし、何よりも気配りの配慮が素晴らしい。

 でもその行為が全て演技だったとは恐ろしいものだ」


魔神と悪魔から祭り上げられた育った環境が

ヒトの心の優しさの形である愛情を踏みにじるなんて……


「そんなに春美のことを疑うだったら、俺がお弁当を

 全部食べてやるよ」


俺は箸で鳥の唐揚げを刺して口を大して放り込む。


「この鳥の唐揚げは美味いなぁ~

 もぐもぐ、この醤油に漬け込んだお肉が最高~」


「お姉ちゃん、あゆむがお腹すいたって言っていたのに

 先に食べるなんてずるいよ~」


「あゆむの分も残してあるって、さああゆむも存分に食え、食え」


「はーい。この卵焼きも甘くて美味しい~」


もちろんお弁当にあるピンクのハート中に描かれたアンシャの文字には

手をつけていない。さすがのあゆむも空気を読んでくれたのか?

俺が頼んでもいないのにあゆむはお弁当の中に描かれた

アンシャの文字には箸をつけなかった。


「次はどれを食べようかな? 蜜りんごのうさぎさんかな?

 甘くてジューシーで美味しそう?」


唯一の視聴者であるアンシャに向けてグルメリポーター

みたいに食の素晴らしさを発信して食べ続ける俺。

少しでもアンシャに春美の愛情が届けばいいなって願ってまた箸を動かす。


「それはあゆむが最後に食べようと思っていたのに」


「仕方ないなぁ~、なら俺は横に添えてあるきんぴらゴボウでも

 食べようかな? それともひじきの佃煮かな?」


アンシャの様子を伺いながら俺は箸を進めていく。


「もう毒味はそれぐらいで十分だ、レエオル。

 当然僕の分も残っているんだろうな?」


「……もちろん残っているよ。アンシャ専用の特等席がっ」


俺は笑ってピンクのハート中に描かれたアンシャの文字の部分の

ご飯をアンシャに勧めた。

アンシャも最初は顔を引きつりながら食べようとしていたが、

一口ご飯を含むだけで笑顔になり「美味い、美味い」って食べていた。

魔神の毒された心も食の愛情には勝てなかったみたい。

俺もあのあゆむさえ箸を止めて、アンシャの食事が終わるのを

2人して見届けるのだった。

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