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3章 第28話 神月家のひととき(3/4)

俺は春美さんの後ろについて歩いて行く。

屋敷と言っても昔の家なので、部屋数は少なく一部屋一部屋が

異様に広かった。


「わたしのお古で悪いけどあがったらこれに着替えてね」


お風呂場の外から春美さんの声が聞こえてくる。


「はーい。何から何までありがとう、春美さん」


屋敷の端にあったお風呂は壁や浴槽にひの木が使用されており、

小さな旅館ぐらいなら余裕で負けている気がする。


「手足が伸ばしても浴槽の壁にぶつからないって、

 ちびっ子の特権だよなぁ~ ちびっ子最高っ!」


「さーてと、次はシャンプー、シャンプー」


浴槽から飛び出て浴室で頭を洗う俺。


「髪の毛が長いからシャンプーするのにも時間がかかるんだよな。

 るんるるん~」


俺は鼻歌混じりで歌を口ずさみ、髪の毛を泡だらけにする。


「さすがに女の裸も見慣れると興奮がしなくなるな」


風呂場の鏡を見て少しため息する俺。

お医者さんが診察のために異性の裸を見過ぎて麻痺する感覚だと

同じことだと思うけど何か悲しくなってくる。

奈緒の裸を見たあの頃の初々しかった頃の心に戻りたい。


そう言えば病院で縫われた傷跡が跡形もなく消えていた。

俺がアンシャもといレオエルに抱きついていた即効性の効果も

あるかもしれないけどこれは女の子としては実に嬉しいことだ。

奈緒に体を返す時に生傷に耐えない体だったらと思うと

俺はどう奈緒に謝ればいいのだろってずっと考えていた。

男の傷は勲章かもしれないけど女の子になると話は別である。


「次に洗うのは体か?」


嬉し恥ずかしい気持ちよりも奈緒の体に触れる罪悪感が勝ってしまって

自分の体を洗うのが正直嫌なんだよな。

まだその心は男であった俺の誇りもまだ失われていない気持ちでもあり

女の子になりきれていない複雑な気持ちである。


「考えても仕方ない。不潔はお肌の天敵だってね。

 さーてといつも通りに目を閉じて体を洗うか?」


タオルで体のラインに触れると最近丸みをおびてきたと思う。

それは食べ好きで太ってきたと言うよりも遅れた成長がようやく

日の目を浴びたような感覚に近いものかもしれない。

身長がもっと伸びてくれたら、大人の女性に1歩近づけるかもしれないけど

浴槽で手を手足も伸ばすことも近所の駄菓子屋さんのおっさんから

残り物のおやつも分けて貰えなくなると思うと悲しくなる。

大人の階段を登るってことは実に寂しいことだ。


シャワーで綺麗に体についた泡を流してからまた浴槽に浸かる俺。


「あーあ、いいお湯だな~」


正直春美さんは俺のことをどう思っているのだろう?


「俺のことを尻軽、尻軽ってほんと失礼ちゃうな~。

 女の子が言っても立派なセクハラが成立するよな」


「でも春美さんに逆らうとご飯のお預けをくらうことに

 なりかれないからな。ここはぐっと堪えないと」


「うん、そろそろ体も温もってきたし……あがるか?」


俺はもう一度シャワーで体の汚れを落としてからお風呂場を後にする。

そして脱衣所のカゴに入っていたバスタオルで体をふきふきふき。

もう一つのカゴの中には春美さんのお古と思われた服がカゴに入っていた。


「うん? 女の子の絵が描いてあるぞ」


俺は服に描かれたキャクターが気になって服を広げて見ると……


「美少女戦記スクール・サンって何年前もアニメだよ。

 こんなに女の子がでっかく服にもパンツにもプリントさせていて」


「春美さんの嫌がらせにも程があるって。こんな小さいサイズ俺が

 着れるわけないって……あれ、あれあれ?」


俺がぶつぶつと文句を言って袖を通すと少しだけ上服が窮屈に感じるが

上下ともすっぽりと入ってしまった。恐るべきは奈緒の幼児体型だ。

奈緒が役者志望だったらまだまだ小学生役で

ご飯が食べていけるかもしれない。


「この屈辱はやっぱり春美さんに伝えて、新しい服と交換して貰おうっと」


アニメ好きの俺でもこの女の子のアップはさすがに恥ずかしい。

文句の1つぐらい言おうと春美さんを探し回る俺。

広い屋敷なので迷うと思ったが、途中でお肉のジューシーな香りに

胸いっぱいに踊らせてしまいお肉の匂いがする方向に流されて歩いて行く。

俺の嗅覚も捨てたもんじゃなかった。

お肉の匂いの先に春美さんは台所にてメロンを切っていた。

ガスコンロには匂いの正体であるフタに隠されたフライパンもあった。


「春美さん他の服はなかったの?

 この服はさすがに恥ずかしいよぅ」


俺は春美さんを見つけるなり、空腹のことはなるべく考えないで抗議する。


「わたしの見立て通りでお似合いじゃない?

 頑張ったら奈緒ちゃんも幼稚園にも通えるんじゃない、うふふ」


春美さんは包丁を止めてくすくすと笑う。


「さすがに無理だろって話をわたしは議論しに来たんじゃなくて

 春美さんが今来ているような普通の服を出してってお願いにきたの」


「奈緒さんのあなたの立場って分かっている? お風呂に食事に

 そしてお泊まりっていくらかかるかそれぐらい小学生の頭でも

 分かるでしょう?」


「確かにそれはそうだけど……わたしとアンシャたちとでは対応が

 違うのは納得いかないんだって。そうだ、レディーファーストだよ

 レディーファースト。だから女の子であるわたしをもっと優先してよ」


「うーん。なら、倉庫にある薪割りでもやって貰おうかな?

 レディーファーストだもんね、奈緒ちゃん」


「……へぇ。お風呂で綺麗さっぱりになったのにこれから力仕事?

 もうレディーファーストはやめるから、そんないじわるしないで

 わたしもご飯を食べさせてよって」


大魔王の魔力には逆らうこともできずに春美さんにあらがい続ける俺。

春美さんもついに俺の願いに根負けしたのか? 笑って。


「うふふ、もう、分かったから食事ができるまで

 イスに座っておとなしく待っていてね」


「はーい」


俺は春美さんの従順な犬のようにテーブルに座って

食事を来るのを楽しみに待っていた。

するとアンシャとあゆむが遊びに来て俺に絡んでくる。


「あはは……なんだいその姿は。子供服を着て油断させて置いて

 僕をだまし討ちするこんたんって訳なのかい?」


「お姉ちゃん、いっぱいアニメの女の子がいて恥ずかしくないの?」


「俺の存在を今まで忘れていただろ。今頃なってのこのことよく顔が出せるな」


「だって春美さんが食後のデザートがあるから20時に

 またこの場所に来てねって」


「ようはおチビちゃんの存在などデザートよりも小さいってことだな」


「アンシャお前また俺のことをバカにして……」


「やる気か? 表に出ろっレオエル。僕はいつも相手になるぞ」


「レオエル??」


春美さんが包丁を片手にちんぷんかんぷんな顔をしている。


「わたしのその小さい時のあだ名だから、気にしないで」


「そう、レオエルってダサい名前ね

 さあアンシャお兄様、あゆむくん召し上がれ」


俺の天使の名も食を司る大魔王である春美さんには叶わない。

春美さんがさっき切っていたメロンがテーブルの上に並べていく。

アンシャもメロンを目の前にして落ち着きを取り戻してくれたみたい。


「春美さん、わたしのご飯はまだかな?」


「後3分ぐらいできるから、もう少し待っててね」


俺のご飯は即席めんかな? 急にきた来客だもんな。

仕方ないって、食べられるだけありがたい。

ご飯だ、ご飯だ待ちに待った美味しいご飯だ。


「そうそう夜ご飯のハンバーグ美味しかったね。お兄ちゃん」


「そうだな、挽肉と脂身のバランスが絶妙に合わさっていて

 中に黄色いネバネバしたものがまた隠し味になっていて

 実に美味しかったよ」


メロンをスプーンにすくいながらアンシャとあゆむの楽しげな会話。

やったね。俺の晩ご飯はハンバーグだ、肉だ、やっぽーー。

俺の舌はお肉モードに切り替える。あふれ出す唾液がもう止まらない。


「黄色いネバネバしたものはチーズって言うんですよ。

 アンシャお兄様。はーい、奈緒さんの分もできましたよ。

 熱々なので気をつけて召し上がれっ」


俺の前に出されたのは期待を裏切り、テーブルに置かれたのは

即席めんのカップだった。


「いいな。お姉ちゃんだけ特別裏メニューのラーメンだ」


「今の貧相な体のレオエルにピッタリに食事じゃないか?」


「春美さん、これはさすがにちょっと酷いんじゃないかな?」


「嫌だったら別に食べなくてもいいのよ?

 明日の兄さんのお弁当にでも詰めるだけだから」


春美さんって案外鬼畜なの? お兄さんのお弁当にラーメンを入れるって。


「食べますよ、食べますって。

 わたし、こう見えてラーメンが大好きなんだ」


俺は春美さんに逆らえず割り箸を掴むと。


「ごめんね、ラーメンじゃなくて奈緒さん。くすくす」


春美さんの言葉でよくラーメンカップ見ると……

フタがセロテープで固定してあった。

俺はラーメンカップを恐る恐るフタを開けると

肉々しいお肉の香りが部屋に広がっていく。


「これってもしかして、ロコモコ?」


ラーメンカップの中にはご飯が敷き詰められてハンバーグに目玉焼き

にレタスやトマトがご飯の上に乗せられていた。


「久しぶりにお客さんが来て、お皿が足りなかったんだよね。

 ごめんね。奈緒さん」


「美味しい、美味しいって……春美さん」


お口中でとろける肉汁のハーモニーが何とも言えない。

俺の口に運ぶお箸がもう止まらない。


「もう奈緒さんったら、ご飯粒を口いっぱいにつけて

 誰も取らないからもう少し落ち着いて食べたらいいのに?

 あー、兄さんも夜の一杯のおつまみの準備もできていますよ」


「ありがとう、春美。お皿ぐらい洗って奈緒ちゃんの分も

 僕たちにのように綺麗に盛り付けてあげたら良かったのに」


お兄さんは冷蔵庫を開けてビールを片手で取りながら

春美さん返事していた。


「油汚れのお皿一枚だけ洗うのにまた洗剤を使うでしょ。

 サプライズとエコの両立で地球環境にも優しいのよ」


「春美がただ奈緒ちゃんにいじわるしたいじゃ……」


「もうお兄さんそれ以上しゃべるとお弁当のおかずが

 一品ずつ減っていきますよ~」


「春美、僕が悪かったってごめん」


俺にはお兄さんと春美さんの会話が全然入ってこなかった。

耳から耳へとすり抜けて言ったような気さえする。

ロコモコよりもお兄さんの姿が気になって仕方なかったんだ。

お兄さんはお風呂に入っていたんだろうか?

お兄さんの服は上下同じ色の青いパジャマ姿に変わっていた。

俺が入った風呂の湯に男性が入るって、何だかとても恥ずかしい。

時折俺は乙女になってしまう。


「奈緒ちゃん、顔が赤くなってきているけど

 お風呂でのぼせたんじゃないの? 大丈夫?」


俺のことを心配してくれるお兄さん。


「またレオエルは男のことを考えているのか?」


「お姉ちゃんのビッチ、ビッチ」


「食事中にその、ふらちなことを考えるのはやめてよね」


春美さんは豪快にテーブルを叩く。揺れるカップメンの器。


「みんな違うから? だたハンバーグが少し熱かっただけなのっ」


俺は箸を休めずにお腹に全力でロコモコを駆け込んで

気を紛らわせるあった。

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