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3章 第27話 神月家のひととき(2/4)

俺が空腹で意識を朦朧してしていると話声が聞こえてくる。


「どうして僕の客人にこんな無礼なことをしたんだい。

 玄関でかわいそうにお腹を押さえて倒れているじゃないか?」


たぶん俺のことをだろうな。

やっと俺の救世主であるお兄さんが帰って来てくれたのか。


「だってこの目狐は兄さんを体で誘惑してお金をむしり取ろうと

 企んでいた女なんだよ」


そんな兄妹で言い争いする道を選択するよりも早く飯を食べさせてよ……

しかし俺の想像を遙かに越えてお兄さんの妹さんには酷い言われようだな。


「はぁ~なんだい、その春美の被害妄想は。この奈緒ちゃんは

 僕の命の恩人なんだよ。手荒な真似しちゃ可愛そうじゃないか?」


「だってだって、聞いてよ兄さん。

 このヒトは自分の弟に手をあげようとする鬼みたいなヒトよ。

 それに何人の男をたぶらかして夜通し遊んでいる女なんだよ」


「どう弁解しょうが最低の女よ。人間のクズだよ、兄さん」


さすがに人間のクズはないだろう。その言葉はかなりへこむって。


「それは……ちょっと僕もヒトしてどうかと思うけどそれでも食事を与えずに

 いじわるするなら、春美だってその最低のクズの仲間入りをするんだよ」


お兄さん、もっと春美さんに言ってやれ。

俺はご飯を人質に取られて何も言い返せないんだ。


「何でもあんな小学生みたいな子のことばかりかばうのよ。

 この兄さんのロリコン。てめぇ~きもいんだよ、もうあっちに言ってよ」


「そんな~、僕が悪かったって、春美」


俺の影ながらも応援もお兄さんには届かなかったみたい。

お兄さんの慌てふためく声が聞こえてくる。


「ふんだ、兄さんなんか知らないんだもん。

 これからはもうお弁当を作ってあげないんだから。

 汗臭いんだよ、わたしの前からさっささ消えなさいよ」


「春美ごめんな。お前の気持ちも考えないで……」


「もー謝らないでよ、兄さん。これだとわたしが悪者みたいじゃないの?

 悪いのはそこでタヌキ寝入りしている奈緒さんが全ての現況なのに」


「わたしたちの会話をコソコソと聞かないで奈緒さんにも

 ご飯を作ってあげるから、そのまま地面に這いつくばって

 兄さんにありがたく感謝しなさいよね。分かった?」


「……それって本当なのか?」


ご飯を食べられるってことで俺の意識がはっきり覚醒する。

途中で起きようと何度も思っていたんだけどあの俺を誹謗中傷した

会話だと起きるに起きれなかったんだ。


「こんなところで立ち話もなんだし、早くご飯にしよう~」


俺は不死鳥のごとく立ち上がる。


「まったく意地汚いヒトね。ご飯を食べれると聞いただけで

 よだれを垂らして。まるでエサを求めるハイエナみたい?」


「こら、春美。僕の命の恩人にそれは余りにも失礼じゃないか?

 奈緒ちゃんに謝りなさい」


お兄さんが俺の肩を持ってくれるが……


「お兄さんもう明日からお弁当はいらないのかしら?

 近くにコンビニもスーパーもないけどわたしにご飯で逆らうき?」


何だか雲行きのあやしい展開になってきたぞ。

お兄さんの顔がだんだんとこわばっていく。


「う~ん。それは非情に困る。父さんが海外に農業を指導に行っていて

 母さんも一緒について行ったから、この家の食事は妹の春美が

 全ての権限を一任させているんだよ」


「だから奈緒ちゃんも僕と一緒に春美に謝って、お願い」


通りで妹さんの力が兄さんよりも強いはずだ。

俺の偏見の考えもあるが妹とは兄のことを重んじて優しい子に育つはず。

だが、早く生まれた兄の年上の力よりも命を揺るがす食事の権力の方が

それを遙かに凌駕して兄と妹の絶妙なバランスが崩れて行ってしまったんだ。

お兄さんの妹さんは食事と言う名の強大な力を手に入れてしまい、暴君となり

この屋敷に君臨する大魔王みたいな存在に膨れあがって行ったのかもしれない。


「はぁっはっ……お代官様。

 どうかわたしどもにも愚民にもお米のお恵みをっ。」


頭を床にこすりつけて兄さんの妹さんに頭を下げる俺。

この手のツンデレタイプは反論してご飯のありつけるチャンスを

みすみす逃すよりもおだてて持ち上げるぐらいの方が適切な対処のはずだ。

これも学校で俺が生き延びるために学んだ知恵である。

お代官様も悪徳代官って意味も込めて皮肉として使っていたが、

それは学生時代のクセみたいな名残である。


「僕も春美に対する態度も大きかったよ。春美さんいや春美殿。

 ここは何とぞ、お慈悲の言葉を我々に」


兄さんも俺につられて兄さんの妹さんに頭を下げる。

お代官様である兄さんの妹さんの判決は以下に。

くすくすと笑い声だけが聞こえてくるけど顔を上げるのが怖い。


「何それ? 奈緒さんの言葉に兄さんも影響を受けちゃって、もう~」

 顔をあげて2人とも。明日の会社帰りにイチゴショートを

 2つ買ってきてくれたら、今回のことは水に流しましょう」


「ありがとう、春美。今日は客人が多い。

 酒瓶を開けてみんなで楽しもう」


「もう、兄さん以外はみんな未成年だよ。

 兄さんがお酒を飲みたいだけでしょう?」


「あはは、バレたか?」


「何年一緒に暮らしていると思っているのよ。まったく。

 部屋も空いているから、今晩ぐらいは奈緒さんたちは泊まっていきなよ」


「……本当にいいの?」


「もう日もすっかりと暮れてきたからね。お風呂も沸かしてあるから、

 食事をする前に入ってよね。家が汚れると行けないから。

 それと脱いだ服は別のカゴを用意しとくからそこに入れるように」


「嫌だ。嫌だ。兄さんの彼女が家出した高校生なんて。

 わたしが居なかったら兄さんは未成年監禁容疑で警察行きだよ」


「奈緒ちゃんは彼女じゃなくてその命の恩人だって」


「分かっていますって兄さん。それと奈緒さんは

 自分の家にも電話していてよね」


「アンシャお兄様に家に電話して下さい言っても家に電話するのが

 恥ずかしいのか『電話ってなに?』みたいな反応だったので」


とうぜん魔神だったアンシャが電話のことなんか知るわけがないよな。

アンシャの中に入る奈緒の心がアンシャに浸食されていなくて

情報の共有化ができていないことは嬉しいことだけど……


「ありがとうわたしに気を使って頂いて。春美さん。

 ところでアンシャとあゆむはどうしていますか?」


もしかして俺のことを心配してくれて食事を待っていてくれていたんじゃ。

待たせてごめんよ、2人とも。俺もすぐみんなの食卓へ駆けつけるから。


「アンシャお兄様とあゆむくん。あの2人なら食事もお風呂も終わって

 居間でテレビを見ながらくつろいでいるわよ」


「あはは、ですよねぇ……」


あの2人にはご飯の残りをおにぎりにしてこっそりと

俺に持ってくる配慮の心もなかったのか? この白状の男どもっーーー。


「きっと男と女で性別が違うから、照れているだけだよ。

 気にすることはないよ、奈緒ちゃん」


お兄さんの妹さんのことを相談に乗ってのに今度は俺が励まされてしまった。

何が起こるか分からないのは世の末である。


「奈緒さんはとっとと家に電話してお風呂に入る。

 兄さんは……そうね、あゆむくんの相手をして上げて。

 あの子は寂しがり屋さんみたいだから、誰かが構ってあげないと」


「ところでその、あゆむくんって誰だい?」


「知らないの兄さん? 奈緒さんの弟だよ。

 じゃあ、取りあえずこんなところに突っ立っていないでスタート、スタート。

 奈緒さんは早く家に電話する。兄さんもほらさっささと動いて、動いて」


「分かったよ、春美。そう僕をせかすなって」


春美さんの指示により、お兄さんは奥にある廊下を歩いて行く。


「ほ~ら、奈緒さんも早く」


「……うん」


俺は春美さんに強制させられる形で服のポケットからスマートフォンを

取り出し、慌てて家に電話をかける。

アンシャの件やアキエルのことで頭がいっぱいになって

肝心な奈緒のお父さんのことをすっかりと忘れていた。娘として失格だ。


プルプルプル……ガチャ。


「奈緒は今どこにいるんだ。父さんは心配しているんだぞ」


家に電話をかけるとすぐにお父さんの声が聞こえた。

どうやらわたしのことを凄く心配して

スマートフォンの近くにいてくれたみたい。


「それが急遽友達の家にしばらくお泊まりすることになって。

 連絡が遅れてごめんなさい」


「奈緒には悪いがそんな友達いないってことぐらい父さんは知っているんだぞ」

 まさか……矢ノ内って男の家じゃないだろうな?」


父さんの声のボリュームが矢ノ内の部分でマックスになる。


「また奈緒さんの男だの?」


春美さんが間髪入れずに俺にツッコミを入れてくる。


「そこの外野ちょっとうるさいって。

 それだけは神様に誓ってもないから安心して、お父さん」


「外野ってそこに友達がいるのか? 奈緒の言葉を信じたいけど……

 本当に奈緒の友達がそこにいるのならお父さんに電話を代わりなさい」


「でもその友達はシャイな内気な子で……」


「いいから、代わりなさい奈緒。少しだけ声を聞けたらそれでいいんだ」


どうしたらいいんだろう?

代役候補生である春美さんは俺ことをまだ煙たがっているようだし。


「わたしが出て上げるよ、その電話」


なぜか? 俺に優しくしてくる春美さん。もしかして裏があるんじゃ……


「お父さんに変なことを言わないでよ」


「分かっているって、それぐらい常識でしょう」


「ならスピーカーモードにしてお父さんとの会話を全て横で聞くからね。

 もし途中で変なことをしゃべったら、その……お兄さんに

 愛の告白をするんだからっ」


俺は口を滑らして爆弾発言をする。

春美さんがお兄さんことを大好きって知っているからこその嫌がらせである。


「するなら、してみなさいよ。どうせ、兄さんにあっさりと振られるだけよ。

 尻軽奈緒さん」


「またわたしのことを尻軽って……」


俺と春美さんの間に見てない閃光がバチバチと走る。

俺の軽はずみで出た言葉が春美さんの女心に火をつけたみたい。

俺は恐る恐るスピーカーモードに切り替えてスマートフォンを春美さんに渡す。


「始めましてお父様。わたしの名前は神月春美っていいます。

 兄共々奈緒さんにはいつもお世話になっております」


何だか春美さんの声色が変わったような気がする。

さっきまであんなに怒っていたのに女って怖ぇぇ~。


「少し揉め事のような声が聞こえてきたから、ずっと心配していたんだ」


「あれは、お父様。……そう女の子同士のスキンシップみたいなですわ」


「そうか、なら良かった。本当に奈緒の友達になんだね。

 小学生の時は友達が1人いたんだけど引っ越して私立に行ってしまってから、

 友達の気配がまったく感じられなくなってずっと気になっていたんだ」


「学校なんかずる休みしてお泊まりしても構わない。

 僕が出しゃばるのもおこがましいけど……

 その奈緒のじっと友達でいてくれるか? 神月さん」


「分かりましたわ。お父様。義理の妹になるかもしれませんものね、おほほ。

 ところでアンシャお兄様との未来の話ですが……」


何でそこでアンシャの名前が出てくるの?

せっかくいい感じなのにまた話がややこしくなるだろうって。


「いきなりに何するのよ? 奈緒っ」


俺は春美さんから強引にスマートフォンを奪い取ると

春美さんの威圧に動じずに。


「わたしは元気にしているからお父さんも心配しないでね。

 じゃあ、わたしそろそろお風呂に入らないと。じゃあ切るね」


「ちょっと待ちなさい、まだお父さん様との話が……」


プー、プー、プー……

無造作に聞こえる電子音。


「何でわたしとお父様との会話を邪魔するのよ。奈緒にお友達がいないからって

 嫉妬してわたしとアンシャお兄様と仲を割こうとするのはやめてよね」


「俺はそんなつもりは……」


「だから、奈緒にはお友達ができないのよ」


「…………」


俺には春美さんに反論する言葉も浮かばなかった。


「……ごめん。少し言い過ぎた。あなたもお兄さんを他のヒトに取られたくない

 だけなんだよね。その気持ちはわたしが1番によく知っているはずなのに。

 わたしたちは似たもの同士かもしれないね」


「春美さん……」


「ところで矢ノ内くんって誰だの? わたしの兄さんは魅力的だから

 好きな気持ちは仕方ないとして2股3股に兄さんを巻き込むことだけは

 やめてちょうだいね。尻軽奈緒さん」


「だからわたしとお兄さんの関係は何もないって。

 それとまたわたしのこと尻軽ってセクハラするのはやめてよね」


「そんなことを言ってまた別の男と付き合うとして、もう奈緒さんの不潔者。

 さっさとお風呂に入ってその邪悪なる心を洗い流してきなさい」


「もう分かりましたよ、春美さん。

 1人で歩けるからわたしの腕を引っ張らないでよ~」


「のこのこと迷子になって兄さんの部屋に行かれたら困るからね」


「だから春美さんのお兄さんとは付き合ってないって……」


春美さんは俺よりも年下のクセに強すぎる。

さすがはこの屋敷の家事全般を司る大魔王の力であった。

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