2章 第19話 ゴモスとソドラ(2/2)
「……死ぬなら玲音くんを巻き込む前にとっくに死んでいるよ。
今宵は月が綺麗。うさぎさんがお餅をついているのかな?」
わたしが月の観賞に浸っていると、その数秒後に教会の扉が動き出す。
眉間にしわを寄せて臨戦態勢の心構えをするわたし。
「お邪魔します。先ほど奈緒ちゃんがお邪魔していたと
思うのですが……」
背に大きな翼が生えている。あれはまさにエニシエルと同じで天使さんだ。
でもエニシエルとは違い体のラインがとても女性らしい印象である。
少し血の跡が純白の衣装が汚れているが少し気になるが
それでも美しいことには変わりないドングリ目の天使さん。
「あたし暗いところが苦手なんだよね。
きゃあぁぁーー……ってネズミさんか? 驚かせないでよ」
「あ、いた!? って何でこんなところにテーブルがあるのよ……」
あれ? あの天使さん1人で自滅して弱点をばらしているよ。
しかも天使さんって怖がって全然前を向かないで下ばっかり向いているし。
わたしが闇に目が慣れているかもしれないけどそれでも中央にいる
わたしに気づいてくれないっていったいどんな神経をしているの?
天使さんはとても目が悪いのか、それとも少しネジが
外れたポンコツさんなのか?
少なくともわたしの目には悪い天使さんには見えなかった。
「……ひぃ~、今度は蜘蛛の巣なの?
翼に蜘蛛の巣まとわりついて、もう嫌だ」
わたしは天使さんが自滅する前に足踏みしておどおどしている
天使さんに向かって叫ぶ。
「奈緒が悪魔に刺されたの。だから早く助けにきてよーーー」
わたしの叫びが教会全体に響く。
奈緒(玲音くん)を刺したのはわたしのに悪魔のせいにして心が痛む。
でも悪魔と血の契約を交わしたんだ。もうわたしも悪魔その者なんだ。
鈍感の天使さんもさすがにわたしの言葉に気づいたようで。
「レオエルって……ぷぷぷ、何だのその姿は?
漆黒の翼の異名を持ったあなたがなんて無様な格好をしているのよ」
「もしかして、悪魔を倒そうとして返り討ちにあったの?
時は残酷なものね、天魔戦争では上位悪魔まで倒したって伝説があるのに
何だかおかしいってお腹が痛いよ……ぷぷぷ」
わたしを見て腹を抱えて笑う天使さん。
ようやくわたしに気づいてくれたけど何なの、あの天使さんの態度。
わたしたちを助けに来たくれた天使さんなのに何だか異様に腹が立つ。
わたしが悪女だって見抜いて挑発しているのかな?
うんうん、こんなことぐらいでバレるもんか。
それにしても玲音くん(奈緒)ってそんなに凄い天使だったんだ。
天使さんはわたしと奈緒を発見すると安心したみたいで
まったく恐がりもせずにまっすぐに玲音くん(奈緒)をところまで来てくれた。
あの前振りはわたしを油断させる天使さんお得意の
渾身のギャグだったのかな?
わたしが天使さんの内面を疑っている間に天使さんは……
「またあの子は1人で無茶して突っ走って、本当におてんばなんだから。
連続使用は余りしたくないけど血を止めるだけの応急処置にとどめて
置かないと奈緒ちゃんの体が持たなそうね」
玲音くん(奈緒)に傍にきて傷口を診察して、ぶつぶつと呟いていた。
「エクストラ・ヒーリングっ」
天使さんの手が急に光り出して、玲音くん(奈緒)が傷口が綺麗に閉じていく。
玲音くんにはできない力だったから余計に感動したかもしれない。
これぞまさに子供の頃に読んだ絵本の天使さんの奇跡の力だった。
この力が玲音くんにもあれば病院代が押さえられ、家計も助かったのに。
「次はレオエルの番だね。天界からレオエルの帰還命令が出ていたんだけど、
このまま十字架ごと引き抜いて天界まで運んだ方が以外と簡単で
楽かもしれないわね?」
天使さんは腕まくりをする。
そんな力技されるとわたしのお父さんの命が……
それだけはやめて下さい天使さん。
「そんな悲しい目でわたしを見ないでよ、レオエル。
わたしが肉体派じゃないってことぐらいとっくの昔に知っているでしょう」
びっくりしたよ、これまた天使さんの冗談だったの?
「それよりもレオエル。
ここに悪魔はいないみたいだけど、どこに行ったか知らない?
ここは邪気に汚染させていてあんまり感知ができないんだよね」
「悪魔ならわたしが一刀両断で倒したんだ。
でもその最後の敵の罠に引っかかちゃって、この有様なんだ」
こんな優しい天使さんをわたしは殺めないといけないのか?
とても心が苦しいよう。でもお父さんを助けてみんなでお家に帰らないと。
でもきっとこの天使さんにもきっと大事な家族がいるんだよね。
「レオエルもわたしと同じでうっかり属性があったんだ。
長年一緒にいたけど全然気づかないよ。
それにレオエルは人間と接してずいぶんと丸くなったね」
「あはは、そうかしら……」
わたしは天使さんに誤魔化しながら会話して、てきぱきとわたしを
縛っているロープをほどいていく天使さん。
「両腕のロープが外れたから、レオエルは足のロープを外すのを
あたしと一緒に手伝ってくれる?」
「胸と腰のロープを先に外して貰えないとしゃがめなくて
手が届かないんだけど……」
「ごめん、ごめん。ならレオエルは胸のロープをお願い、あたしは
腰のロープほどくから」
ロープが徐々に外れ行く中でわたしの心の中で天使さんを殺す
カウントダウンが開始される。
それにともなってわたしの罪悪感も大きく膨れあがっていく。
順調に胸と腰のロープが外れ、天使さんは足のロープに移り姿勢を低くする。
わたしはその隙に服の内ポケットからナイフを取り出す。
奈緒(玲音くん)ことはすんなりと刺せたのに天使さんだとまるで勝手が違う。
奈緒(玲音くん)は自分自身の肉体だったから自殺に近かったかもしれない。
でも天使さんは他人だ。天使さんを殺すともうわたしは
あの頃に自分に戻れなくなってしまう気がする。それが1番怖いんだ。
手が震えて止まらない。ごめんなさい、天使さん。
わたしは天使さんに向かってナイフを突き落とす。
だが、わたしの心の迷いがナイフの狙いを変えてしまう。
しまった。外した……ナイフは天使さんの脇の外をかすめていく。
終わった。わたしは非情の悪女になりきれず、お父さんの命も救えなかった。
玲音くんにも天使さんにもわたしは責められ、悪魔たちにも咎められる。
こんな結果じゃ……自殺していた方が何倍も楽だったよ。
そうだ、翼がなくて忘れていたけどわたしも天使さんだったんだ。
その理屈が正しいのなら、わたしが死ねばお父さんの魂は元に戻るんじゃ……
わたしはナイフを逆手に持ち替えて、自分に目がけてナイフを突き落としていく。
これで何もかも終わりだ。玲音くん、お父さんごめんね。
……あれ、痛いがない? わたしは怖くなって閉じた目を開けるとそこには。
「……なんで、わたしの邪魔ばっかりするのさ、玲音くん」
自分に目がけてナイフが玲音くん(奈緒)の胸に向かって刺さっていた。
玲音くん(奈緒)の体からぽたぽたと血が流れる。
「奈緒をしそうなことぐらい俺にでも分かるにさ」
「レオエル、あなた何やっているのか分かっているの。
奈緒はちゃんは……」
「天使さんの力はあれば……」
「エクストラ・ヒーリングを多様すると死んでしまう場合だってあるのよ。
それぐらいのことはあなたも知っているでしょ、レオエル」
「そんなぁ……」
「悪魔に捕らわれたぐらいで自決するなんて、正直な気持ちわたしは
そんな弱くなったレオエルの姿は見たくなかった。
そうでしょ奈緒ちゃんもっ!」
「……そんな悲しい顔をしないでよ、男のプライドが許さなかったんだよね、
レオエル。だからアキエルもレオエルを責めたらダメだよ」
玲音くん……
「またこの子は、おませさんなんだから。
ここのままだと奈緒ちゃんが本当に死んでしまうわよ」
「レオエルがした過ちは後でわたしが責任持ってお説教するから
今は奈緒ちゃんを病院に連れて行くわよ。
レオエルもぼーとしていないで奈緒ちゃんを運ぶのを手伝って」
「でもお父さんが……」
「レオエルが悪魔を一掃したんじゃなかったの?」
「……ウソをついてごめんさない」
「男のプライド何だか知らないけど、そんな大事なことは
見栄を張らないで先に言ってよ」
「……ごめんさない、ごめんさない」
「男がそんなにめそめそと謝らないでよ。わたしも訳が分からなくなるから」
「騒がしいな、レオエル。天使はそろそろと始末できたのか?」
わたしと天使さんの嘆き声がゴモスにも聞こえたのだろうか?
ゴモスは準備室からのそのそと出て来る。
ゴモスは周りを見渡し状況を瞬時に理解したようで。
「レオエル、お前は俺様たちの盟約にどうやらそむいたようなだ。
残念ながらあのお父さんのと呼ばれた男には死んで貰う。
殺したくなければ今すぐにそこの天使を殺せ」
ゴモスの低い声がわたしたちを一括りに鎮圧する。
「やっぱりレオエルは悪魔に脅されていたんだよ。
アキエルお姉ちゃん」
「脅されていたんならいたって私たちに言ってよレオエル。
言ってくれないとわたし分かっていって……」
「脅されているから言えなかったんだよ。アキエルお姉ちゃん」
「……そうか、そうよね」
アキエルっていう天使はやっぱり天然さんだったんだ。
もう、2人を手にかけることはわたしにできない。
これは簡単な引き算だったんだ。
みんなを助けるの中にアキエルさんじゃなくて、わたしがいなかったんだ。
どうしてこんな簡単なことに気づけなかったんだろう。
どこかで自分だけが助かりたい願望にわたしはずっとすがっていたんだ。
やっぱりわたしは心までも腐っている。
「わたしが死ねば、血の契約が完了してお父さんは助かるよね。
だってわたしも翼はないけど天使のはしくれなんだから」
「ごめんね、奈緒にアキエル。お父さんのことは頼んだよ」
お母さん、あゆむ。
長い間またせて、ごめんね、わたしも2人に会いに行くからね。
わたしは目を閉じて自分自身にナイフを突き落とす。
「奈緒ぉーーーー」
玲音くんの声が聞こえる。これでわたしも悪魔のしがらみから
解放されるんだ。わたしを心配してくれてありがとう玲音くん。
あれ、痛みがない? わたしは恐る恐る目を開けるとそこには……
「ねぇ、レオエル。あなたの考えは間違っている」
わたしを殺そうとしたナイフは今度はアキエルの体に
ナイフが刺さっていた。
「何でアキエルも自分の体を犠牲にしてわたしを助けるのよ。
あんなにわたしのことを怒っていたのに」
「あたしがこうしないと奈緒ちゃんがまたレオエルを助けようと
していたからね。それに自ら命を絶つバカ者はほって
置けない平和主義なんだ。ようは長年の腐れ縁ってね」
アキエルの美しかった純白の衣装が真っ赤のバラのように染まっていく。
バタリと床に倒れ込むアキエル。
「レオエル、お前は天才じゃないか?
自決しようとして天使に致命傷を与えるなんて」
「この天使には俺様がとどめをさす、そう言えば天魔戦争では
こいつにいたぶられた借りがあったんだ」
「このままおとなしく死ねよ、アキエルっ!」
ゴモスの膝蹴りがアキエルの傷口に向けられる。
「……死ぬのは愛のことをバカにしたお前だ、ゴモスっーーー」
玲音くん(奈緒)がいきなり飛び出してきてゴモスを銀の短剣で刺し貫く。
「ぐぁーーー……何だよ、お前。
お前は愛とか俺様に語っておいてヒトを殺すためらいがないのか?」
ゴモスは玲音くん(奈緒)に言葉を吐いて倒れていく。
「ごめんよ、矢ノ内……」
玲音くん(奈緒)は何だか寂しげな顔をしていた。
「玲音くん、ゴモスの影に気をつけてっ! ソドラって悪魔がいるの」
「……っ!」
「もう遅い、お前の首は我が貰った。そのまま死ぬがいい」
だが、ソドラの鋭い爪が玲音くん(奈緒)の首元直前で止まる。
「……しまった血の契約より、我は奈緒に攻撃できなかったんだった」
「そらどうもご苦労なこった」
「お前には慈悲の心、ヒトを敬う心もないのか?
まだそんなに生きていないチビのクソガキだろうが……」
「……もうそんな心はとっくの昔に捨てたよ」
玲音くん(奈緒)は容赦なくソドラの体を銀の短剣で切り捨てる。
天使エシニエルさんのように闇の炎に包まれて消え行くのを待つソドラ。
「これで、これで勝った思うなよ人間よ。
これだけ人間、天使、悪魔の血が入り交じったんだ。
ようやく悲願であった魔神アンシャ様を現世に降臨することができる」
「魔神アンシャだって……」
「知っているの玲音くんじゃなかったレオエル」
「知っているとも魔神アンシャ・ルータ・イゲリオン。
天魔戦争で熾天使様が封印したってバケモノの1人だぞ。
俺はあいつに……」
「熾天使様ってレオエルよりも強い天使さんなの?」
「俺よりも強いかは別次元の問題の話で熾天使様って言うのは
もっとも神様に近い天使だ」
「奈緒と言う女は人間のクセにやけに詳しいな、
まさかお前が……レオエルじゃないのか?」
「……その、レオエルに天魔戦争について色々と教えて貰ったんだ。
そうだよね、レオエル」
「……うん、そうだよ」
何も聞いていないけどここは玲音くん(奈緒)に合わせておかないと
いけないような気がする。
「これも愛がなせる信頼か? 実に下らぬ。
愛する人間を巻き込んできっと後悔するぞ、レオエル」
「大丈夫。奈緒とは恋人の関係じゃないよ、その肉体関係だけだもん……」
「……はぁレオエル、きみは何を言っているの?」
……しまった、何言っているだろう、わたし。
玲音くん(奈緒)もドン引きしているよ。
照れ隠しのはずがこんなのって単なる破廉恥な女? 男じゃない?
「ちょっと天使が人間の女の子に手を出して最低よ、レオエル」
当然に立ち上がり、わたしに掴みかかってくるアキエルさん。
アキエルさん意識を失っていたんじゃなかったの?
「誤解だよ、アキエル。少しは落ち着こうよ、その……傷口に触るよ」
「天使が人間の女に肉欲に溺れるか。実に面白い」
ソドラ、消え行く前に何でアキエルさんの火に油を注ぐ真似をするのよ。
「それが落ち着いてもいられますか?
天使は人間を守護する立場なの、人間界で例えるなら先生が教え子に
手を出す、いや親が子供に手を出すぐらいにしてはいけないことなの」
「落ち着いて、アキエルお姉さん。
今は仲間割れしている時じゃないんだよ」
「奈緒ちゃん、レオエルをかばってムダだよ。
これは大人の大事な問題だの。この際にレオエルにしっかりと
お説教をしないといけないのって何なのよ、この揺れは?」
グラグラグラ……
教壇を始め銅像やイスが揺りかごに乗っているように揺れている。
「わたしは心霊現象とかってたぐいは苦手なのに」
アキエルさんはまたのんきなことを言って……
「魔神アンシャ・ルータ・イゲリオン様の蘇る前兆だ。
我々の死はムダでなかったようだ。ゴモス、我も直ぐに行くぞ」
「アキエルお姉さん、レオエルと遊んでいないで逃げないと
魔神アンシャが復活するんだよ」
「確か魔神アンシャって……天魔戦争で大地を火の海にしたヤツよね。
でもよかった、お化けの仕業じゃなかったんよね」
「アキエルお姉さん、安心していないで、
この場所から逃げないとやばいってみんな殺されちゃうかもしれないよ」
「奈緒ちゃんが何で魔神アンシャのことが知っているのかって
色々と聞きたいところだけどまたどうせレオエルのやつね。
まったくしょうがないな」
満面に笑みを浮かべているアキエルさん。
あの余裕なアキエルさんのおもむきある顔は何か秘策があるんじゃ。
「ここは愛の天使アキエルお姉さんに任せて、奈緒ちゃん。
あたしにいい考えがあるの。醜い争いが魔神アンシャに復活の引き金に
なったんなら、また全てをまた愛してあげればいいのよ」
わたしを掴んでいる手を離してアキエルさんはソドラに振り返る。
「それってまさか……」
「レオエルにはできないけどあたしにはできる。それが愛の天使アキエルよ。
エクストラ・ヒーリングっで全て解決ってねっ」
アキエルさんの手の輝きがソドラに向かっていく。
そうか、アキエルさんはソドラを助けることで魔神アンシャの復活を
阻止しようとしているんだ。さすが愛の天使アキエルさんだ。
「アキエル貴様だけは揺るさんぞ、絶対に揺るさぞ……」
あれ? ソドラはアキエルさんに暴言を吐いて消滅した。
ソドラにとどめをさしてどうするの? アキエルさんーーー。
無意味にソドラの憎しみの憎悪をプラスさせているんだけど。
「アキエルお姉ちゃん、ソドラにとどめを刺してどうするの?」
玲音くん(奈緒)もわたしの思った通りにアキエルさんに
ツッコミを入れていた。
「……ごめん、奈緒ちゃん。悪魔族には逆効果だったみたい。
でもちゃんと奈緒ちゃんのお父さんの魂は取り返したわよ」
お父さんの魂が天に昇っていく。
転んでもたたでは起きないアキエルさん。
「これで奈緒ちゃんのお父さんの魂は依り代である元の体に帰っていくの。
だから安心して逃げるわよ。奈緒ちゃんにレオエルって……
ちょっとレオエル、何しているのよ?」
「何って……その矢ノ内くんも一緒に逃げないと。
さっきの地震で矢ノ内くんの足がガレキに埋もれちゃって」
矢ノ内くんの心臓はまだ動いて息もしていた。
例え死んでいたとしても遺体をこのまま放置して逃げるわけにもいなかい。
「矢ノ内は奈緒に何をしたのか分かっているのか?
まさかまたアキエルの愛の理論なのか?」
「……それもあるかもしれないけどわたしはやっぱり矢ノ内くんを
助けたい。だって一方通行でも奈緒のことを愛してくれたんだもん」
「奈緒、じゃなかったレオエルお前ってヤツは優しすぎるよ……」
「レオエル、やっぱりあなたも天使のはしくれだね。
あたしも協力するよ。あなた1人では荷が重たいでしょうに」
わたしに賛同してアキエルさんも矢ノ内くんの挟まれた
ガレキの撤去に手伝ってくれる。
直近の揺れで教会が倒壊して来ているのにアキエルさんは……
「矢ノ内もう助からない……いやでも2人が矢ノ内を助けるんだったら
わたしも協力しないとダメだよね。数の暴力(多数決)は
嫌いなんだけど……」
「……奈緒」
玲音(奈緒)くんも矢ノ内くんの腰に手を回す。
この3人なら巨漢の矢ノ内くんでも動かせるはず。
「みんな行くよ、一斉のうで……それっ」
ガレキの中から矢ノ内くんを引っ張り出すことに成功するわたしたち。
「奈緒ちゃんあなたやるわね、ゴモスを倒して矢ノ内くんの外傷も
かなり押さえている。この傷ならまだ矢ノ内くんを助けられるかもしれない」
「ただの偶然だよ、偶然」
奈緒の顔が赤くなっている。玲音くん(奈緒)は偶然って言い張っているけど
わたしには違うような気がする。
だって玲音くん(奈緒)も天使のはしくれなんだもんね。
「エクストラ・ヒーリングっ」
アキエルの治癒の力で矢ノ内くんの傷が見る見るうちにふさがっていく。
それに比例して揺れも多少だけ増しになったような気がする。
やっぱり世界は愛に満ちあふれていたんだ。
「このまま一気に教会から走り抜けるよ、みんなもう一頑張り頑張ってっ」
アキエルさんのかけ声と共にわたしたちは矢ノ内くんを
背負い崩れる教会から脱出した。




