2章 第18話 ゴモスとソドラ(1/2)
教会の窓から月の光が血塗られたわたしを照らす。
奈緒(玲音くん)の返り血を浴びたわたしはもう悪魔そのものだった。
わたしは自然を装い奈緒(玲音くん)を刺し傷を地面に接触させて寝かせる。
少しでも出血を押さえるためのわたしのなりの配慮だ。
気絶していた矢ノ内くんも何事もなかったように後ろのイスに腰掛けて
わたしをさげすむように見ていた。
「……約束通りにわたしを救いに来たヤツを返り討ちにしたよ。
だからお父さんの魂を解放して」
わたしは矢ノ内改めゴモスに問う。
「くくく……バカかお前は。血の契約では追随する天使を殺せって
盟約になっているんだ。
だから自分の意思でお前は無関係な奈緒をやったんだ」
そんなことあなたに言われなくても分かっている。
「なら、どうして奈緒が矢ノ内くんを一方的に叩いていた時に
ゴモラは反撃をしなかったの?
あなたの力なら簡単に奈緒を倒せたはずなのに?」
今はだけはゴモスたちに従順しているようにクールに徹して
玲音くんから注意を引かないと……
「そりゃあ、矢ノ内ヤツは俺の嫁何だか知らんが奈緒と食べ物のことしか
脳みそにない哀れな男だったから、正直邪魔だったわけさ。
そこで俺様は考え、矢ノ内自信に奈緒を殺すことを委ねたんだ」
「矢ノ内は奈緒に惚れて余り抵抗もできないと思ったのが見事ビンゴにしてよう
まんまと奈緒にボコられてやがったの、くくく」
「これでようやく俺様は一時的なかりそめの時間を手に入れることができたんだ。
やっぱり自由に動ける肉体って最高だな。ソドラ」
偶然じゃなかったんだ。わたしが玲音くん(奈緒)と接触できたのは……
ゴモラが玲音くん(奈緒)に手を出さなかったことは運がついているぞ、わたし。
玲音くん(奈緒)が殺されてしまってはわたしはただ泣くことしかできない。
でも玲音くん(奈緒)はまだ生きている。
「また喋りすぎだぞ、ゴモラ」
矢ノ内くんの影から声が聞こえる。きっとゴモラの相方であるソドラだ。
またゴモラの影からこそこそしてってもう……あれ?
何だか、女子高生だった頃のわたしみたい。
まぁ、矢ノ内くんの一件でわたしは九条さんたちから逃げていたんだけどね。
「まあいいじゃないか? 人間を守護して見守ることを命じられた天使が
ヒトを殺す楽しいショーを俺様たちに披露してくれた今回の主役なんだぜ。
だからレオエルはよ、少しぐらいはねぎらってやらないとな」
「特にレオエルが奈緒に言い放った『裏切りもの』の言葉に感動したよ。
お前が裏切っておいてそれはねえだろって、くくく」
「あれは実に愉快なショーだった。はらわたが震えるほど痛快だったな。ゴモラ」
「そうだろ、ソドラ。それによう俺様たちが持っている人間の魂がある限り
レオエルは逆らえないって。
こいつはしもべにして、もはや俺様たちのオモチャさ」
「それもそうだな。レオエルも元々の本質は我々悪魔と同類だからな。
大天使の命より悪魔を殺してきた代行者が今度は
人間や天使に置き換わることだけのこと」
「裏切りの罪の意識もその内に快楽に切り替わるって
我々をもっと楽しませてくれるだろう」
「そりゃあ、また楽しみだな。くくく……」
ゴモスの奇妙な笑い声が教会に響く。
これでゴモスとソドラ注意が完全に奈緒から離れた。
あれだけ本音100%で玲音くん(奈緒)とぶつかったんだ。
そう簡単にバレてたまるもんか。たぶん奈緒の急所は外せたと思う。
どれだけわたしは刺されたと思っているのよ。
斬られ役の免許皆伝の腕前なんだからね。もちろん自称だけど……
これでも入院中にお医者にいっぱい質問して血の流れのこととか、
色々と医学の勉強していたんだから。まあ、暇もあったんだけどね。
それにまだはっきりとした理由は分からないけどわたしと玲音くん(奈緒)が
近くにいる時は明らかに回復スヒードが違っていた。
今はその未確定要素にかけるしかない。
あのままわたしが助かったところで奈緒がゴモスたちに殺されては意味が無い。
それにお父さんの命もわたしの手にかかっているんだ。
わたしは悪女、次現れる天使さんを殺してお父さんの魂を解放して
玲音(奈緒)くんと一緒にお家に帰るんだ。
「そろそろ儀式の準備を始めるぞ。また十字架まで早くこい、レオエル」
「少しは緩めてロープを縛ってよ、ゴモス。
途中で痺れて手元が狂いそうになったんだからね」
「天使が悪魔に注文をするとは世も末だよな。了承だなぁまったく。
まぁレオエルには頑張って次々と天使を殺して貰わないといけないからな。
せいぜい魔人アンシャ様の復活のためにも人肌脱いでくれや」
「また余計なことをしゃべるな、ゴモス」
「ソドラの用心深いさには反吐が出るけどこれは内密ってことだったもんな。
すまん、すまん。すっかりと忘れていたよ」
「魔人アンシャ様って誰なの? それに今さらっと次々と天使をって」
「それはそう……言葉のあやだよ、そう怖い顔をするって。次が本当にラストだ。
魔人アンシャ様のためにも精々頑張ってくれよ、レオエル」
わたしの肩を軽く叩くゴモス。
「ゴモス、お前は内密って意味が分かっているのか?」
「へいへい俺様が悪かったって、ソドラ。
お前がちゃっちゃっと縛られないから悪いんだっ!」
パシーン……
「きゃあーーー」
「また女みたいな悲鳴をあげやがって、ふぬけになったな。レオエル」
ゴモスに頬を叩かれ、また十字架にまた縛られるわたし。
女みたいな悲鳴って、身構えていないのに急に叩くんだから仕方ないじゃない。
魔人アンシャ様って言葉も気になるけど今はどうでもいい。
追従する天使さんを殺すとお父さんの魂を解放してくれるって約束したけど
ゴモスはきっと永遠にわたしを利用して天使さんたちに復讐する気だ。
だって矢ノ内くんはまたあの時のように同じでいやらしい目をしていた。
わたしを平然と裏切った学校での目だ。
何とかしてその残酷な運命の輪をわたしの手で変えないと
永遠の殺人鬼になってしまう。
「あぁ~、眠たい。これで大丈夫だ。さっきよりも気持ち緩めてやったぞ。
これで天使の心臓を一突きできるな」
ゴモラはわたしと十字架を結ぶロープが完了するとあくびをかみ殺して
わたしに話しかけてくる。
「俺様は少し奥くの準備室で休んでくる。矢ノ内のヤツ
『俺の嫁はいつ来るんだ』って喚き散らして座りもせずに
ずっと奈緒のことを待っていたからな」
「矢ノ内のデブには立つことも重労働なのによ。
後からきた奈緒にもボコボコに殴られるし、今日は散々だったぜ。
じゃあ、俺様は寝てくるからせいぜい自殺とかバカな気だけは起こすなよ」
「誰が自殺なんかするもんですか」
「へいへい、そうピリピリと怒るって。次もその調子で頼むわ。
ざっくりと奈緒のように一撃で仕留めてくれよな」
「……うん」
わたしはゴモスに軽く頷く。
「あぁ……あ、眠い」
ゴモスは安心いたようでまたあくびして奥くにある教会の準備室へと消えた。
騒がしかった教会も沈黙してまた次の生け贄を待つ死刑台へと変わっていく。




