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2章 第13話 閉鎖空間に閉じ込められた奈緒(2/2)

「……おーい。そこに誰かいるのか?」


俺の知らない男の声が聞こえてくる。

そこでどうにか俺は自我を取り戻し、ヒトに戻っていくような気がした。

ようやくヒトとの思いが通じ合ったような気がして

心が落ち着いていったような……


「います。わたしはここにいます」


「そうか? なら直ぐに開けるからな。お嬢ちゃんが怪我をしたら

 わしらが困るから安全のために少し後ろに下がって待っていてくれるかい?」


「はい、ありがとうございます」


男の言葉の指示通り俺は後ろに1歩下がって、扉との距離を開ける。


「OKです。下がりました」


「なら、開けるぞ」


ギィィーー……ガシャン……


俺を閉じ込めていた体育倉庫の扉が開かれ、

眩しい懐中電灯の光が闇に包まれている俺を照らす。


「大丈夫かね、お嬢ちゃんって……

 何だね、その手は……傷だらけじゃないか?」


体育倉庫の扉が開くなり、俺の手のことを先に心配してくれる

メガネかけた気さくで優しそうなおじさんだった。

腕には警備中の腕章が巻かれ、校内を巡回中してくれていたようである。


「……わたしの手ですか?」


警備員のおじさんに言われ、俺は自分の手を目視すると手の皮が

破れ見るも無惨な血だらけの手だった。手がグロ過ぎて何だか吐き気がする。

俺と私闘を繰り広げていた体育倉庫の扉も血だらけでボコボコにへこんでいた。


「……くぅ……痛い、痛い、痛いよう……」


脳で手の怪我を認識できると痛みの旋律が急に俺に襲いかかってくる。

俺は自然と泣き言が漏れていた。


「お嬢ちゃんがここにいた理由は後でゆっくりと聞くからな。

 今はばい菌が入って化膿したら、大変なことになるかもしれない」


「先に保健室に行くぞ。わしについてこい、怪我を見てやる。

 お嬢ちゃんは本当に運がいい。これでもわしは医者を目指していた人間なんだ」


「おじさんの親切は確かに嬉しいです。

 けどわたしは早く家に帰って病院まで奈緒を迎えにいかないとっ」


おじさんの行為を断って振り切ろうとするが……


「病院に行くのはお嬢ちゃんの方だろ。

 救急車を呼ぶと後々で面倒なことになるんだ分かってくれ」


「わしが見る限りだと消毒して包帯を巻いとけば何とかなる。

 明日は絶対に家族に頼んで、お医者さんに診て貰うだぞ。いいね。

 言い訳など後でいくらでも聞く。さあ、保健室に行くぞ」


「はい?」


警備員のおじさんは俺の腕を強引に掴み、俺が否定する暇も

与えずに歩いて行く。

おじさんに顔がわれてしまったので俺は逃げるわけにもいかなかった。


夜の保健室は学校に七不思議でも有名なぐらいの人気スポットだ。

奈緒の家であゆむの霊を目撃してしまった事実がある俺は、保健室の中に

置いてあるイスに腰掛けると足が自分の意思とは無関係に震えていた。

これが武者震いなら格好が良かったんだけど……


おじさんは保健室の棚から消毒液や包帯などを取りながら

怯える俺に話しかけてくる。


「お嬢ちゃんは見かけ通りで、びびりだのう。

 わしはこの学校で働いて勤続9年ぐらいになるがお化けなど

 1匹たりとも見たことはないぞ」


「ただし、お嬢ちゃんのように学校の卒業生やここの生徒のいたずらで

 見る人間の数は最近は少なくなってきて、わしは嬉しかったのに。

 また学校の不名誉な記録を更新してしまったわ」


そう言って俺の破れた手の皮膚に消毒液をかけて

ピンセットで皮膚を持ち上げるおじさん。


「痛いよ、おじさん。

 乙女の肌は優しく扱いなさいって学校で習わなかったの?」


「乙女ってわしを笑わせるな。お嬢ちゃんはまだ乳臭いガキじゃないか?

 ごめんごめん、もう今の時代だとセクハラになるんだったね。

 こんなことでわしを訴えないでくれよな、あはは」


おじさんは笑いながら、ピンセットで消毒のわたを掴み

俺の手にポンポンと叩く。


「おじさん、痛いってもう……」


「傷口が染みるのは細胞がまだ生きている証拠だ。

 皮膚が破れているだけで骨まで大丈夫だと思うんだけど

 念のために明日病院でレントゲン写真を撮って貰えよ」


おじさんは俺の指1本ずつにガーゼを添えて優しく包帯で包み込んでいく。


「ところで体育倉庫の中になんでお嬢ちゃんがいたのかい?

 ひょってとして誰かに閉じ込められたのかな?

 最近は社会問題で学校のいじめが多発しているからね」


俺の確信たる部分を的確に突いてくるおじさん。

そのおじさんの優しい眼差しにウソはつきたくないけど俺は……


「それはおじさんの勘違いだよ。みんなを驚かせようと思って

 隠れていたら、その物が落ちる音がして出られなくなったの」


根拠もなく九条さんたちのせいにしたら、何も証拠がなくて

俺はただの虚言癖ある人間だと思われてしまう。

それに奈緒や奈緒のお父さんを巻き込むのも嫌なんだ。


「あんなところにホウキが偶然に挟まれるものかね?」


「おじさんは宝くじの高額当選したヒトたちをなめているよ。

 年間に何人の億万長者が出ているのか知っているの?」


「そうお嬢ちゃんに問われるとホウキが倒れて挟まるってことも

 絶対にないとは言い切れないな」


「おじさん、このことは絶対に学校と親には連絡しないで下さい。

 わたしはこれ以上に家族を心配させたくないんです」


「わしがここでお前さんを脅してお嬢ちゃんの体を求めたら

 わしが若い頃読んでいたエロ漫画の展開になるかもしれないな」


ちょっとお節介だが、優しいおじさんだと思っていたのに。

このエロじじいはいったい何を考えているんだ……


「ごめん、お嬢ちゃん。またセクハラしてしまったよ。

 わしのセクハラ発言を黙っていてくれたら、今回だけは見逃してあげよう。

 悪くない取引だと思うけどどうかね? 愛川さん」


体操服のししゅうで名前がばれたんだと思うけど。

2回目のセクハラは俺の立場を有利にしてくれるためにワザとしてくれた

おじさんの愛情を感じてしまった俺は……


「仕方ないな、おじさん。その取引は成立でお願いします」


頷いて、了承するしか選択肢は残されていなかったのである。


「なら話が早い。わしの勤務時間もあと少し終わる。

 だからわしの仕事が終わったら、車で家まで送ってやろう。

 こんな深夜にお嬢ちゃん1人を歩かせるわけにはいかないからな」


「あとこれは予備の懐中電灯とお嬢ちゃんの教室の合い鍵だ。

 さっさと制服とカバンを取ってこい。

 わしは勤務時間までに他の教室を見舞わないと行けないから忙しいんだ」


「わしはまた見回りが終わったら、いったん事務室に戻るから。

 それでまた落ち合おう」


「ありがとう。おじさん」


おじさんから束になった鍵と懐中電灯を受け取った俺は

いったんおじさんと別れ1人で3階にある自分の教室に向かった。

おじさんと共犯したことで俺の気持ちはそうとう楽になりお化けや

幽霊などちっとも怖くなった。ようは気の持ちようである。


ガチャ……


俺はおじさんに渡された鍵を使い教室を開けて入り口の近くに

ある照明のスイッチを押した。

闇に包まれた教室が白い光が灯された光景は実に神秘的で

何とも言えない満足感が俺の中で生まれた。


「先生とクラスメイトもいないこれが本当の自由な世界なんだ」


俺は自分の机にには目もくれずにゴミ箱と掃除ロッカーを向かう。


「もうあいつらの行動はお見通しなんだよ」


俺の予想通りに掃除ロッカーの中に制服とカバンが突っ込まれていた。

ゴミ箱には気まぐれシェフのクリームパンの外袋が見つかった。


「これで俺が体育館に閉じ込められたことは偶然じゃなく

 必然的に行われたことが裏づけされたわけだ」


「それにしてもヒトのカバンを中を勝手に取るってどう言う教育を受けて

 あいつらは育ったんだ。ちゃんと1から小学校の道徳を学んどけって」


グゥ~


「気まぐれシェフの顔を見ただけなのにお腹が減ってきた。

 早く帰ろうっと……」


俺は制服を丸めてカバンに突っ込み教室を後にした。

そして俺は事務室に向かいおじさんと合流する。


「お嬢ちゃんもう家に連絡したのか?

 こんなに遅かったさぞ親御さんも心配しているだろ?」


「あ、すっかりと忘れていた」


俺はカバンの中からスマートフォンを取り出して

液晶画面にタッチしようとするが……


「ダメみたい、バッテリーが切れているみたいで

 液晶画面が真っ黒のままで何も反応しない」


「なら、わしの携帯を貸そうか?」


「それはそれでおじさんの通話履歴が残って後から色々と問題が

 起きそうだから、その気持ちだけありがたく受け取っておくことにするね。

 ありがとう、おじさん」


「通話した番号が表示されるとか残るとって、便利なようで

 こんな大事な時には融通の利かないありがた迷惑の機能だよな」


「……そうだね、セールスの電話の時には便利なんだけどね」


俺たちは駐車場に止めてある白い車に乗り込むと

おじさんはハンドルを握り車はエンジン音を立てて動き出す。


おじさんは疲れていたようで車内の中は無言の静けさが続く。

車がしばらく走っていると窓からラブホテルのネオンがサンサンと輝いている。

ピンクのいやらしい光に俺の心臓がバクバクと早くなってくるのが分かる。

おじさんが途中でオオカミに変身してラブホテルに直行したら

俺はどうなるんだろう? 俺はおじさんの腕力に勝てるのだろうか?

そんなふしだらな妄想に捕らわれていると車はラブホテルの横を

通り過ぎて行った。良かった。俺のどうやら思い過ごしだったみたい。

悲しいことだけど俺は身も心も女の子に浸食されて行っているのかもしれない。


グゥ~……グゥ~……


突然不意に俺の腹の虫が車内に響く。

俺は恥ずかしくなり、顔赤らめてもじもじしていると。


「わしもちょうど酒のあてを買おうと思っていたんだ。

 少しコンビニに寄って行くが構わんか?」


「……はい」


おじさんは俺のことを思ってくれたんだと思う。

俺には断る理由もなくただおじさんに頷いた。

車は飲食店を通り過ぎてコンビニの駐車場で止まる。


「お嬢ちゃんはさすがに体操服ままではコンビニに入るわけには

 いかないな。好きなの買ってやるから遠慮せずに言ってみろ」


おじさんを俺に魅力的な提案を出してくれた。

男の俺だったら格好つけて「ごめん被るお主の施しは受けないとか」って

きざなことを吐いて自分に酔っていたかもしれないけど……

女の子なら少しは甘えてもいいよね。今の俺はお腹が減って死にそうなんだ。


「……あの……その……気まぐれシェフのクリームパンが食べたい」


「商品名まで決定しているってそんなにうまいのか? それ。

 そんなにうまいのなら孫の分まで買って帰らんとな」


「……でもまだ美味しいかどうか分からないんだけどって」

 ちょっと待ってよおじさんって……」


俺の言葉も聞かずに車から降りていくおじさん。

ただ俺はおじさんの背中を見送った。


そしてしばらく立ってからおじさんがコンビニから戻り、車に乗り込んだ。


「ごめんな。お嬢ちゃん。気まぐれシェフの朝まで煮込んで

 鍋をまで焦がしたカレーパンしか売ってなかったよ」


「へぇ~、そんなのもあったんだ」


俺に気まぐれシェフの朝まで煮込んで鍋をまで焦がしたカレーパンを

差し出してくれるおじさん。

商品のうたい文句の通り真っ黒のカレーパンだった。

クリームパンがカレーパンに変わっただけのことだ。

胃の中に入ってしまえば全てが平等だ。

カロリーや栄養素だど知ったことじゃない。


「ありがとう、おじさん」


俺はおじさんから気まぐれシェフの朝まで煮込んで鍋をまで

焦がしたカレーパンを奪い取ると女の子を忘れて口いっぱいに開いて

かぶりつく。


モグモグ……パクパク……ゴックン


おじさんは俺のかぶりつく様子を呆れた表情で見ていた。

きっと口の周りにたくさんカレーがついているだな。

そんな上品なマナー知るもんか? 俺はまたカレーパンにむしゃぶりつく。


「そんなにお腹を減らしていたんだね。で、どうだい味は?」


「……えっーと中のカレーの苦みがお焦げ再現していて美味しいかな?

 でもお孫さんには食べれない大人の味だと思う」


「お子様のお嬢ちゃんがよく大人の味とか抜かすなって

 実は一緒に食べよとわしも分に買ってあるんだ。そのカレーパン」


「さてはおじさん、わたしを実験台にしたなぁ~」


「さーてそれはどうかな? もぐもぐ、本当だ。

 鍋底をまさぐるような苦みが後から来るのが病みつきなるな」


「そうでしょう。気まぐれシェフのおっさんに外れなしって」


気まぐれシェフのパッケージのおっさんに惹かれて買ったんだけど

俺の目に間違いはなかった。

その後は気まぐれシェフのパッケージのおっさんの話題で

車内が盛り上がり、あっという間に車は愛川家の前で止まった。


「もし困ったことがあったら、担任の先生やわしに相談するんだぞ」


「うん、ありがとう。おじさん」


「名を名乗らないで去るのが男のポリシーだけどおじさんってだけでは

 お嬢ちゃんがもし事務室を尋ねた時に困ってしまうな。

 わしの名前は佐武権三郎だ」


「わしには奥さんや孫までいるんだ。わしに惚れるんじゃないぞ」


「わたしにはおっさんの趣味はないんです。

 ありがとう、おじさんいや佐武さん」


「1人で問題を抱えないでわしたち大人の力も少しは頼ってくれな」


「……はい、機会があれば是非お願いします」


俺は佐武さんに心を全てを見抜かれていたかもしれない。

佐武さんに手を振って、俺は遠くなっていく車体を見送った。

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