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『シンデレラに転生したけど王子と結婚したくない』

シンデレラに転生したけど王子と結婚したくない 蛇足の1

作者: 安和

お久し振りです。笑いがとれるかどうかわかりませんが、楽しんでいただけたら幸いです。

 ふっと目を覚ませば、それはそれは豪華な天井が見えました。虚ろな目で天井を見つめている彼女を傍から見ればそれはそれは怖かったでしょう。ですがそんな人物はここにはいません。ベッドから身体を起こそうとすれば身体が動きませんでした。なぜかと思い恐る恐る自分の身体を確認すると腕が巻きついていました。服を着ていただけマシなのでしょうか。いや、そんな事ないでしょう。その腕をたどっていけば銀色の塊が見えました。ビクッとして体を動かせば抱きついていた人間は「んんー……」と声を漏らしました。起きる気配はありません。ジタバタしているとまた何かが体に触れました。そこで後ろを振り返れば――――――



「おはよう」



 柔和な笑みを湛えた腹黒天使様が微笑んでいました。それを見た彼女―――シンデレラ――はついに悲鳴を上げました。



「また勝手に入ってんじゃないわよこの変態共っ! さっさと出てけ!!」



 悲鳴と言うには、いささか慣れてと言うか、呆れの色合いの強い叱責に近かったですが。



「嫌」


「んん……ど~したの~?」



 それに対する返答はシンデレラの望むものではありませんでした。シンデレラの声で目が覚めた銀色の塊(まほうつかい)はシンデレラに巻きついている腕にさらに力を込めて擦り寄りました。対する腹黒天使様(おうじさま)はいつもの笑顔で即答しました。シンデレラはその返答をした似非(えせ)天使を睨みつけました。



「そんな怖い顔しないでください。だって私たち、婚約者でしょう?」



 天使様な笑みと態度を崩さずに言った悪魔にシンデレラは叫びました。囲われるように置かれている王宮の一室で。



「そんな話、私は認めてないって言ってるでしょーが!!」



 シンデレラの叫びを聞いた魔法使いは驚いて飛び起き、王子様は「往生際が悪いなぁ」と悪い笑みを浮かべていました。なお、シンデレラがそう叫ぶのは日常茶飯事のことなので、何事だと誰かが走ってくる事はありませんでした。ただ、この兄弟の幼い頃を知る乳母、侍女、教育係の者達はため息をこぼしていました。



 こうして、シンデレラのいつもの一日が始まるのです。掃除をしなさい、料理をしなさいと言われる叱責ではなく、王子様達のスキンシップと言う名のセクハラで。











「はぁ……」



 セクハラから脱出したシンデレラは遠くから呼ばれた名高い学者から教育を受けていました。それは何故かと言いますと――



「お妃様、溜め息はみっともないですよ」


「気を付けます。……ですが先生、私は妃ではないのですから、名で呼んでいただけると……」


「確かにまだ、【妃】ではないかもしれませんが、結局なるのですから同じ事です。では、昨日の復習をしますよ」



 そう、これは花嫁修業(シンデレラは断じて認めていない)の一環なのである。幼い頃は貴族として生活していたとはいえ、教育まで十分に受けられたわけではありません。ですからシンデレラはここで、教育を受けているのです。どうして逃げないのかといえば、習っておいて損は無いし、勤勉な元日本人だから、という建前を持っているからです。本音は罪も無い先生達を放って置けないというより、勇気の無いただのヘタレなだけです。ただし、あの変態魔法使いが手の届く所にいるシンデレラに何もしていないわけはありませんし、何よりここは王城。周りは王子様達のシンパばかりです。そればかりか今のままではシンデレラが望む、市井での生活はとても難しいでしょう。貴族の教養を『習って置いて損は無い』とシンデレラは思っていますが、貴族の教養を身につけたらそれが自然な所作となってしまいます。ですから、例えお金が無くても(性格がどうであっても)お金を持っている貴婦人に見られてしまうのです。周りからは距離を置かれて孤立無援、ガラの悪い男達から狙われてしまう可能性が高いのです。そこまで考え付かないシンデレラ。因みにこのカリキュラムを組んでいるのは王子様ですから、シンデレラのその考えすら解っているのでしょう。その間はシンデレラはずっと王城にいます。それまでにシンデレラの外堀を埋めてしまえばシンデレラはきっと逃げられません。遠くで王子様がほくそ笑んでいるようです。あぁ、シンデレラ。なんて残念な子なんでしょうか。



「クシュンッ」


「お妃様、風邪を召されましたか?」


「いえ、なんだか一瞬だけ寒気がしただけです。大丈夫です」


「そうですか。でも大丈夫ですよ」


「なにがですか?」


「次は、ダンスのレッスンですから」



 先生からその言葉を聞いたシンデレラはガタッと音を立てて椅子から立ち上がりました。何故か解りますか?ダンスは二人でするものです。そうなりますと―――



「シンデレラっ。さあ、僕と一緒におどろ―――」


「嫌来るな変態魔法使いわたしにダンスなんて必要ないんださっさと家に帰せ!!」



シンデレラが椅子から立ち上がってどこかに行こうとしたのを察知したかのように魔法使いがやってきましたが、シンデレラはその言葉を遮って反論しました。怒りで目尻を吊り上げて睨むシンデレラを魔法使いは幸せそうに見つめていました(頬を染めて)。


(いやぁ、なにこのドM。気持ち悪い!!)


シンデレラの思いはもっともです。シンデレラは身を守るように自分を抱きしめました。その腕にびっしりと出た鳥肌が隠しきれていません。顔色は青色を通り越して真っ白です。どうやらシンデレラはこの魔法使いの事を相当気持ち悪がっているようです。

 (気持ち悪がってみているシンデレラを見て)さらにうれしそうな顔をした魔法使いの後ろから―――ではなく、シンデレラの後ろから声が聞こえてきました。



「私なら良いのかい?」


「そんなわけないでしょう腹黒天使アンタが一番油断ならないんだっていうか放せ触るな変態魔法使い舐めるなっ!!」



(いつの間に背後に!! すっごく怖いんだけど……はっ、しまった!! 魔法使いに接近を許しちゃったじゃない!!)


半ギレ状態のシンデレラを気に留めず、本人の許可も取らずに王子達はベタベタと(魔法使いの方にいたっては頬ずり)触れていました。王子様(弟)は後ろから抱き込むようにガッチリとシンデレラを捕獲。魔法使い(兄)はたっているシンデレラの前に片足を着いてしゃがみ手の甲にキスした後頬ずりをしていました。空気を読める世界最高峰の学者様はシンデレラが気がついたときにはすでに部屋に居ませんでした。侍女達も居ません。シンデレラと王子兄弟が部屋に取り残されています。頬を染める銀髪の野性味あふれる美男子と、意地悪い笑みを浮かべる金髪の儚い系の美少年にくっつかれている美少女シンデレラ。なんて絵になる光景でしょう。国の頂点に居る美しさですから。ただ、外見の美しさが内面の美しさと直結しないところが現実です。



「天使って、照れるな」



嫌味で【天使】と言われた王子は優しい笑みを崩さずにそう言いました。まるで嫌味などわかっていないような笑顔でしたが、そんなことはありえないということはシンデレラが良く理解していました。何と言っても、シンデレラが王城に捕獲されたのはこの王子が原因なのですから。シンデレラが王子のことを苦々しく思っていると、



「いやぁ、すごいねシンデレラ。読点が無いよ」



魔法使いの気の抜けるような声が聞こえてきました。シンデレラの(心の)叫びなど、気にしないというような感じでした。



「人の話を聞け!!」



 シンデレラは王子の腕の中から脱却してそう怒りました。舞踏会あたりまでは王子二人に怒鳴りつけて青くなるという事を繰り返していたはずですが、今はそんな様子はみせません。言葉から戸惑いと遠慮が消えています。どうやら、少し見ない内にシンデレラは王家に対する不敬罪の事は忘れたようです。確かにこんな王子に遠慮などしていたら、『結婚せずに一人で物静かに暮らす』という妙齢の女性としては些か枯れた――――いえ、ずれた願いをかなえることは出来ないでしょう。ただ、シンデレラより腹黒い王子と変態魔法使いが逃がさせてくれるとは思いませんが。


 シンデレラはダンスのレッスン(王子達も含む)から逃げるために部屋を飛び出しました。裾の長いスカートを穿いているのに躓く様子をみせません。ここ何日かの王城追いかけっこで慣れたようです。逃げ出したシンデレラを見た王子達は笑顔でシンデレラを見ていました。我が侭な子どもを見守るような穏やかな笑顔で。


(怖っ!!)


 余計にシンデレラを恐怖に陥れただけでしたが。



「そんな照れる事もないのに。我が姫は恥ずかしがり屋だな」


(どこが照れているんだ!! どこからどう見ても純粋に嫌がってるでしょ!!)


 照れるようにそう言った王子にシンデレラは憤慨しました。それでも走るスピードは落としません。対する王子様は歩いているのでどんどん差が開いていきます。それなのにどうして逃げるスピードを落とさないかと言えば、



「シンデレラ、そうやって僕たちの愛を試しているんだね。人が信じられなくなっているんだね、かわいそうに。大丈夫、僕が何度も捕まえて愛を囁いてあげるから」


(何だその前向きな思考は!! ふざけんな!!)



 勘違いを直そうともせず己の思い込みのままそう言って追いかけてくる魔法使いがいるからです。愛を囁くといった事にシンデレラは身体を震わせました。たとえ格好良くても、気持ち悪さには勝てません。この魔法使いはあの舞踏会の後から何か変わったようです。進化した、と言いましょうか。何が進化したかって? もちろん『変態度』です。主にシンデレラに対しての。シンデレラがちらりと後ろを振向けば、魔法使いは空を飛んで追いかけてきています。力の使い方が何か間違っていると思うのはシンデレラだけではないはずです。それにシンデレラがギリギリ逃げられる速度で追いかけてくる鬼畜さ(無自覚)があの王子と血のつながりを感じます。それに半泣きに状態になっていると、前方に王子達の乳母だったと紹介された年嵩の侍女を見つけました。シンデレラが期待を持ってその侍女を見つめます。こちらに気が付いた侍女は(シンデレラは必死だが、魔法使いは楽しんでいる)追いかけっこをみて呆れた顔をしました。そしてシンデレラのほうに手を合わせて少し頭を垂れたのです。まるでご臨終とでも言うように。実際にはご愁傷様の意味合いでしょうけど、シンデレラにはそう感じました。それだけで、シンデレラが王子達をどう思っているかがわかります。


(あきらめていないで助けてよぉーーー!!)


 城の住人はそろってシンデレラから目を逸らしました。






「大丈夫ですの? ほら、落ち着いて深呼吸なさって」


「す、すみま、せん。はぁ、はぁ……。すぅっ、はぁ…」



 シンデレラはある一室にいました。王城と言うのは攻め込まれたときに敵が迷うように複雑な造りになっています。そこでグネグネ曲がって魔法使いを振り切ったのです。振り切った先にあった一室からこちらを呼ぶ手があったのです。それはあの王子達の母親―――王妃様でした。前回も、前々回も、こうやって王妃に匿ってもらっていたのです。それに王子たちにバレないように、毎回別の部屋なのです。



「ごめんなさいね。私の息子が」


「そんなことはないです。……と、言いたいところですが、本当にきついです」



 そう言って項垂れるシンデレラに王妃はおっとりと笑ってその後に眉間に軽くしわを寄せて言葉を続けました。 



「……残念な子ねぇ」


「本当にそうですよ。格好良いのに」


「腐ってもわたくしの子どもで、王子ですからね」



 そう言った王妃もとても美しい顔を持っていました。何この美形王家。とシンデレラが僻みのこもった愚痴をこぼしたくなるのも分かります。



「変なところで魔法を使うし。制御が難しいって聞くのに」


「腐っても国一番の魔法使いですからね」



 先程から自分の子どもについて『腐っても』と言っている王妃様。意味が分かっていっているんでしょうか。それを気にせずに話すシンデレラはいったい何なのでしょうか。それに気がつけないほど疲れているのでしょうか。それともシンデレラの持つ【秘儀☆聞いている振りして実は聞いていない】のスキルが発動しているのでしょうか。どうして王子達のどうでもいいようなことを聞いていて、王妃のどこかおかしい言動を聞いていないのでしょうか。



「まったく、脳みそ湧いているんじゃないんですか」


「まぁ、うふふふふ」



 なんたってすでに腐ってますから、虫が湧くのも当然です。傍に居る侍女や侍従は内心で突っ込む事に疲れたようです。天然で少し腹黒そうな王妃様とちょっとお馬鹿さんなシンデレラの組み合わせは、周りに多大な被害を与えているようです。



「見つけた。俺の姫」


「わぁぁぁぁぁ!! 来たぁぁぁぁぁ!! イヤァァァァァァァ」



 突然開いたドアから登場した王子に、シンデレラは悲鳴を隠せませんでした。王妃はそれに驚くことはなくにっこり笑って優雅にお茶を飲んでいました。大物です。侮り難し、王妃様。



「まぁ、早いのね」


「当然ですよ」



 にっこり微笑み合いながらそう会話する親子は眼福でした。そう、こんな状況でなければ。そっと逃げ出そうとしているシンデレラをどこからか現れた腕に引き込まれ、その腕の中に捉えられてしまいました。



「捕まえた」


「ひっ。どっから湧いた変態ぃぃぃぃぃぃ!!」



 魔法使いに捕獲されたシンデレラは持っていたクッションでバシバシと叩いてその腕の拘束を緩めると、一本背負いのようにシンデレラより大きい魔法使いを投げ飛ばしました。投げられた魔法使いはタンスに頭をぶつけて意識を飛ばしました。その間にシンデレラは逃走します。罪悪感なんて初対面のときからありません。魔法使いに何かしら情を抱けば、足元を救われると本能で理解しているからです。しかし、一応一般市民のシンデレラに二回も意識を飛ばさせられた魔法使い。これが国一番って、どうなんでしょうか。


 シンデレラが逃げていった後、部屋に控えていたお付の者は魔法使いを介抱する為に、部屋から出て行きました。残されたのは王子と王妃のみです。開かれたドアを見ていた王妃は王子によってそっと閉められたのを見て口を開きました。



「あの子は面白い子ですね」


「そうでしょう?」



 王妃はにこやかな表情をしながらそういいました。王子もそれに笑顔で答えます。猫をかぶっていたのでしょうか、王妃はシンデレラと居た時と雰囲気がどこか違います。



「ただ、腹芸が出来ないのが心配ではなくて?」


「そこは心配してません」



 真意を読み取ろうと深読みしてくる貴族(バカ)が勝手に自滅してくれるでしょうから。と王子は微笑みました。それに王妃は満足したと言うように笑いました。



「母上のお陰で、彼女を速く捕まえる事ができます。感謝いたします」


「可愛い息子のお願いだもの。叶えるのが親ですわ」



 どうやら王妃も王子たちとグルだったようです。しかし、よくよく考えてみれば分かる事です。シンデレラが逃げる先々で王妃にかくまわれるとは少しおかしいと思いませんか? 毎回違う部屋だというのにもおかしいと思いませんか? その答えは王妃が待機している部屋に行くように、魔法使いが追い詰めているのです。そもそも王子達はこの城でずっと育ってきたわけですから、最近来たシンデレラが王子達を撒けるはずがないのです。しかもこれは王妃が次期王妃となるものを見定める試練にもなっているのです。それに、自分達の愚痴をこぼせて少しはストレス発散になるだろうと言う思惑が隠されているのです。因みに考えたのはこの王子。母親である王妃は止める気はないようですから、どうやらシンデレラは妥協点はもらえたらしいです。王子はにんまりと笑います。王子の包囲網がだんだんと完成に近づいているのです。【王妃】(7割の演技と2割の腹黒、1割の天然で【王妃】はつくられている)にも、王子の策略にも気が付かないシンデレラ。あぁ、なんて可哀相で残念な子なんでしょうか。逃げ道はこんなにも細くなっていると言うのに気が付かないなんて。


 色々考えていたらしい王子は王妃の方に向き合いました。ここに残された理由を聞くためです。



「来客があったと聞きましたが」


「ええ。隣国の王子よ」



 その言葉に、王子はピクリと眉毛を動かしました。そして、かなりイイ笑顔を浮かべました。シンデレラが見たら顔を引きつらせて『悪魔め!!』と内心叫んだに違いないような顔でした。



「どちらの『隣国』ですか?」


「もちろん、あの人が攻めに行っている『隣国』よ」



 確認するように問われた事に対し、王妃も楽しそうな笑みを浮かべてそう答えました。





 その頃シンデレラはというと―――――――廊下で盛大な迷子になっていました。


(何所よここは?!)


 そりゃ闇雲に走って逃げてしまえば、複雑な王城の中で迷子になってしまうのも当然です。言ってしまえばシンデレラの自業自得です。そろそろその事実に気が付いてもいいと思いますが、それに気が付かないほど魔法使い―――いや、変態によるストレスが大きいのでしょうか。本当に可哀相――――いえいえ、本当に残念な子です。シンデレラ。



「――――――?」



 そんな中、シンデレラは懐かしい名前を聞いたような気がしました。そう、シンデレラの前世の名前です。お忘れかもしれませんがこの娘、転生者なのです。転生チートなんて呼ばれるものは一つも持っていませんが、転生者なのです。振り返れば、この国の王族とはまたちょっと違った美男子がシンデレラの方を見ていました。何故その名を知っているのか、何故その名で呼ぶのか疑問に思いながらシンデレラはその青年を見つめていました。そしてその青年が花開くように笑って、シンデレラの前世の愛称を呼んだ瞬間、シンデレラは顔を引きつらせました。



(アイツかよ!!)



 そう、彼女の男性不信の原因―――浮気して別れた彼氏―――だったのです。その愛称でシンデレラを呼ぶのは彼一人だったので、シンデレラはすぐに分かりました。固まっているシンデレラに抱きついたその元彼はシンデレラに頬擦りをして身体をベタベタと触っていました。お前もアレと一緒か!!と叫ぶのがここ最近のシンデレラでしたが



(え? 何でコイツが居るの? まさかコイツが居るってことはあの女も? いやまて、さすがにそこまでは……いや、でもあの粘着質のイカレ具合を思えばここまでストーキングしてきてもおかしくない、と思う。え、じゃぁ、コイツと居たら私危険じゃない? やばい。これはやばいよっ!!)



 パニック状態に陥っていてそれどころではありませんでした。どれだけ怖かったのでしょうか、そのシンデレラを殺しに来た元彼の浮気相手の幼馴染とやらは。

 元彼にされるがままのシンデレラはそのまま問いました。



「ね、ねぇ。今世でも幼馴染って居る?」


「ん?幼馴染?居ないけど。どうかした?」



 その返答にシンデレラはホッとしました。どうやら世界を越えてまでストーキングはしなかった――――



「あ、でも。気心知れた人ならいるよ。女性だけど、なんだか俺のことを一番わかってくれてる」



 ――――と思ったのが間違いだったようです。やっぱり想像通り、世界を越えてまでストーキングしたようです。恐ろしい執着です。ちょー怖いです。すごく、なんて表現できません。

 項垂れるシンデレラを撫でている男は、シンデレラの悲しみに気が付くことなくそのまま口を開きました。



「今度こそは、絶対に離すものかと思ったのに……。半年後に結婚しちゃうなんて。どうして待っててくれなかったんかい?」


(待てるか!! 私に自殺願望はない!!)



 そう心で叫んだ後に、何か違和感を感じたので男の口にした言葉を反芻しました。何かがおかしいと思ったのです。



「ねぇ、もう一回言ってくれない?」


「待っててくれ―――」


「それより前!!」


「……半年後に結婚?」



 そうです。男はシンデレラの物凄く不本意な結婚を半年後、と言ったのです。シンデレラが言われていたのは二ヵ月後、だった筈なのですが――――。



「半年後? 二ヵ月後ではなくて?!」


「二ヶ月? そんなのは無理だよ。王族の結婚式なのだから各国から呼ばなきゃいけないし、衣装も会場も食事も【ちょっと豪華】な程度じゃいけないんだ。……なんで知らないの」


(騙された!!)



 低い声で問われた声にシンデレラは答えることなくシンデレラはパニックになっていました。半年もあれば、あんなにもレッスンを一日に詰め込む必要が無いのですから当然です。詰め込む事でシンデレラの逃げる時間と精神的余裕を奪っていたのです。何て恐ろしい策略なのでしょうか王子よ。



(あの腹黒王子!! 一体全体何やって―――――)


「私の妃に気安く触らないでいただきたい」


「みぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」



 噂をすれば何とやら。シンデレラの背後に現れてしまいました王子様。そして猫のような叫び声を上げてしまったシンデレラ。笑顔の増す王子。暴れるシンデレラ。



「そんなに暴れるな。俺の愛しい姫よ」



 耳元でそんな色っぽく囁かれてしまったシンデレラは撃沈しました。気障なセリフに耐性が無いのです。正直に言えばシンデレラは今すぐ失神したいと思っていることでしょう。



「妃? まだだろう。それに嫌がっているように見えるが?」


「照れ隠しでしょう?」


「……二ヶ月なんて嘘を教えてみたいだが?」


「彼女の聞き間違いでしょう。そういうことは誰にでもありますからね」



 男たちの間で火花が散りました。まさに『私のために争わないでっ』なシチュエーションです。ですがその『私』であるシンデレラと言えば



(何ここなんか怖い。でもなんかアイツがカッコいい!! 王子を負けさせろ!!)



 と元彼に対して応援し、興奮していました。その間でも火花の散らし合いは続いています。しかしその応援の心もすぐになくなってしまいました。



「それで、隣国の王である貴方が何故こちらに?」


(王様?!)


「ただの挨拶だ。それに私が王になったのは君たちの父親が私の父親を殺した所為だろう? まぁ、感謝はしているが」


(あの隣国ってコイツのところだったの?!)




 新しい事実にシンデレラは驚きます。不思議な事に彼女の周りはどんどん高貴な人間が増えていきます。それもシンデレラに対して好感度MAXから始まるというなんて(向けられる人間がどう思うかは別として)羨ましい状況でしょう。シンデレラ自身は乙女ゲーム的展開を受け入れたくないと思っていますが、最初から好感度MAXなんて所謂『糞ゲー』に分類される乙女ゲームがあるわけありません(しかもヒロインがことごとく男を拒否するなんて話が進まない)



「感謝しているならいいじゃないですか。挨拶は終わったのでしょう? さっさとお帰りになったらどうです?」


「それとこれとは話は別だ。そちらも王になる立場なのだろう? 他国の王に対するその慇懃無礼な態度は改めるべきだと思うが」


(うわぁ、腹黒大戦勃発。ちょー怖い。あぁ、甘い匂いがする。今日のおやつはマフィンかしら)



 恐怖によって壊れてしまったシンデレラは現実逃避をする事にしたようです。話の中心、と言うより最も重要な人物が話の外に出てしまいましたが。男たちは気にしません。むしろシンデレラの意見を気にするような人間はこの王城にはいません。まぁ、王族ですからシンデレラの意見なんて聞かなくても問題はないのですが。



「彼女が幸せになるなら別に良いと思っていたが……気が変わった」


「へぇ……。今から間に合うとでも思っていらっしゃるのですか?」


「『愛に順番など無い』んだろう? 王太子よ」


「……チッ」


(何でお前がそのセリフを知ってんだよ!!)



 お互いに密偵を送りあっていると知らないシンデレラ。裏社会にはシンデレラは知らない方が良い事がどうやらたくさんあるようです。あの腹黒王子が外面をはがして舌打ちをするくらいですから。第一回腹黒大戦は王子の負けです。シンデレラの応援の通りになりましたが、シンデレラはそれに喜ぶ余裕はありません。にっこり笑ったシンデレラの前世の元彼。目の前で話されている言葉を全部右から左に流して聴いていない振りをしようとして失敗していたシンデレラは元彼の視線を感じてゆっくりと視線を元彼に合わせました。それが失敗でした。熱視線だったのです。何かの熱に浮かれたような。そう、まるでこれから告白する人のような―――――。



(やばい。やばいやばいやばいっ)



「ソレが嫌なら、俺を選んでくれないか」


(王子をソレ扱い?! 何様だよお前!! あ、王様か)



 シンデレラは怒りで身体をプルプルと震わせて叫びます。そう、いつもの言葉を。



「私は結婚なんてしたくないの。王子だろうと王様だろうと、大して差なんか無いでしょーが!!」



 叫んだのが捕獲されている王子の腕の中であったのが、なんとも説得力に欠けていました。



「俺は、あきらめないから」


「渡しませんよ」


 

 シンデレラの叫びなど聞かなかったかのようにそう言い合う男たちにシンデレラは脱力しました。いい加減慣れてもいい頃ですがなんて残念――――この一日でいったい何回言ったのでしょうか、この言葉。それくらい残念です。ええ、本当に。


(乙女ゲーム的展開なんて求めてないつーの!!)



 本日、シンデレラ取り合いに一名追加されました。


参加者:王子(腹黒)

    魔法使い(変態)

    隣国の王(前世の元彼)



 波乱しか起きそうにありません。この面子。

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[一言] 良かったです。相変わらず魔法使いいいー!
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