ペテン師と勇者
「そういえば騎士様は、どうしてそんなにお強いのですか?」
荒野を2人で黙々と歩く中、唐突に彼女がそんな事を聞いてきた。
何故、と来たものだ。正直返答に困る。
「あのような王族派遣の精鋭PTを容易く撃退するだなんて・・・・
並みの魔族では不可能ですのに」
(勇者だから・・・なんて言えんだろう)
「それにその身から漂う瘴気・・・ヘタをすれば私たち魔王よりも
禍々しく強い瘴気なんですよ?」
(勇者の加護を無くす為に着ている鎧のせいです何て言えん・・)
「そしてその大剣・・・・・。
巨人族ですら扱えそうにありませんのに・・・・。」
(そりゃ勇者の聖剣ですからなんて絶対言えるわけ無いだろう!?)
心の中でツッコミを入れる。
どれか一つでも感づかれれば、俺の正体なぞ2秒で白日の元に晒されるだろう。
やはり魔王の言った通り、この世界では”勇者 と言う肩書きが不便に負い回る。
何としてでも隠し通し、城まで辿りつかなければならない。
となれば自分を別の”魔族 に置き換え、その力を証明出来る存在にすればいい。
俺は必死に思考を回転させた。
(俺が今まで対峙して来た中で、最も強く、苦戦し、限りなく俺に近い 存在・・・・・・。)
思考回路と記憶を直結させ、全てを洗い浚いフィルターに通す
考えに考え抜き、そして魔族の中で最も俺に近い存在
ソレを俺は顔を上げ、高らかに思考した。
(魔王しか居ねぇじゃねぇかあああああああああああああああ!!!)
それもその筈だ。
そもそもほかの魔族と人間。勇者、魔王は”次元が違う
人間の腕利きが何万に集まって掛かれば倒せるとか。
魔族の上位種が何億集まれば勝てるとか。
そいう次元に自分たちは存在しない。
故に古代何億と紡いで来た歴史は、全て魔王と勇者の一騎討で行われる
何故なら其れ以外決着をつける方法がない。
存分に力を震える相手そのものが存在しないのだ。
その事実に俺は目眩を覚え、頭を抱えた。
(怪力でいえばゴーレムとかオーガ・・・って馬鹿か、んな種族が鎧なんて着てる筈が無い。
となれば鎧を着てる連中で・・・・・・・・)
少なくとも鎧を着ている魔族でこんな馬鹿デカイ剣を扱っているような魔族は存在しなかった。
「それで、騎士様は一体・・・・?」
ーうっ。
純粋無垢な瞳が向けられる。
単純に優れた技能を褒めようとしてくれているのだ。
だがそれに”はいそうですか と答えられる種族に俺は居ない。
ならば、ソレを偽りとこけ込むことを許して欲しい。
俺は多少の心傷と先代魔王に若干の謝罪を入れながら、歴史を頭の中で反芻した。
ー・・・・・・実を言うとな。
「はい」
きらきらと見つめる純粋な瞳を前に、開こうとした口が直前で閉じる。
だが俺はそんな締め付けられるような戒めを言葉を紡ぐ事で解いた。
ー・・・・・・私は、古来魔王の”懐刀 だったんだ。
「古来・・・魔王?」
歴史を知らないのなら好都合
身振り手振りも合わせ、少し大げさに話し出す。
その内心はペテン師にでもなった気分だった。
ー嘗てこの地は”恐怖王セシリア という魔物に支配されていた。
魔族の中でも飛び抜けて魔力が高かった恐怖王は、散り散りに存在していた
部族を纏め、ひとつの軍団を作り上げた。
それが初代”魔軍 と呼ばれた郡族だ。
魔軍は筆頭格を合わせて10000程度の軍勢でしかなかったが、その力は人間を圧倒した。
恐怖王....もとい、「魔王」を筆頭として四天王が先陣を切り
一時期は世界の7割を手中に収めた、歴代魔王の中でも最強と呼ばれる魔族だ。
「ほぇ~・・・・・・・凄いんですね~・・・」
ーああ、その進軍は正に鬼の如く。
今人間が最も恐れているのは、この”セシリア の復活だろうな。
「成程、成程・・・・・って、え?」
ミラがふと足を止めて、こちらを凝視する。
その目は信じられないものを見たような色をしていた。
僅かにぎこちない動作で、俺を指差す。
「え、え・・・ってことは騎士様・・・”懐刀 って事は・・・」
俺はここだ!と言わんばかりに、力強く頷いた。
ー俺は恐怖王セシリアが率いる”四天王最後の砦 と呼ばれた騎士....「黒騎士」だ。
まぁ本音を言うと、この世界の歴史と
俺の世界の歴史が同じかどうかは知らないけどネ。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?!?」
そんな素っ頓狂な悲鳴が上がる夕方、夜近く。
3姉妹率いる魔王城は、徐々にその姿を見せていった。