黒白のヨゴレ
僕が物心ついたときには、すでにそれの存在に気づいていた。僕が泣いて、笑って、怒っているとき、泣いて、笑って、怒っているそれは、ボクだけど僕じゃない。
僕はボクのことが気になって、僕の心の奥に住んでいるボクのことを母に話してみたことがある。けれど母は、すごく不思議そうな、呆れたような、微妙な表情を作って、
「まーくんはお話を作るのが、大好きなのね」
と言っただけだったから、僕はそれきり他の人にボクのことを話すことをやめた。母に不審そうに見られることが嫌だったから。
そのとき僕は幼くて、何故僕の言っていることが伝わらないのかわからなかったけれど、今はもうわかっている。
ボクが心の奥にいるのは僕だけだっていうことを。
最近、気づいたことがある。ボクは、僕の心の奥に、黒い黒い染みを落としていっている、ということだ。黒い染みは、心の奥の奥から、ゆっくり、じわじわと、広がっている。ボクが長い長い年月をかけて落としたんだろう黒い染みが、僕はどうしようもなく恐い。
僕がその黒い染みに気付いたときにはもう遅すぎて、僕の心の白い部分と黒い部分が、逆転していた後だった。僕はボクと話したい野に、ボクは僕と話してくれない。恐い。僕が僕でなくなることがどうしようもなく恐い。でも、恐いと思っているのは本当に、僕?
そして 僕は ボクに なっていく。
ボクが意識、というものを持ったときには、ボクは黒い球体の様なものの中にいた。ただ、ボクの中に流れ込んでくるものがあって、ボクは、泣いたり、笑ったり、怒ったりという感情を知った。
ボクの意識が次第にはっきりとしだしてから(昔はもっと意識が不安定だった)、ボクは、その流れ込んできたものは、僕だということを知った。僕は全く意識していなかったけれど、ボクは僕から色々なことを学んだ。だから、僕が泣いて、笑って、怒ったときは、ボクも泣いて、笑って、怒った。
最近、どうしようもなく、恐い。あるとき、ボクの住む黒い球体が、白い光に侵されていることに気づいたからだ。僕が、ボクの外から白い光を掲げて、居場所を奪っていくんだ。長い長い年月をかけてボクが浸食されていくことが、ボクは恐い。ボクの居る黒い球体は、見る見る小さくなって、白い光がボクにせまってくる。そして、とうとう、ボク自身が浸食されて、白く白く染まっていく。
ボクが浸食されていると気づいてからはとても早く、ボクが何もできない内に、ボクの身体の黒い部分と白い部分は逆転していった。いつもは僕がボクに何でも教えてくれるのに、今回に限って、僕は何も教えてくれない。ボクは待っているのに。身体の白く浸食された部分が痛い。我慢できない程に痛いのに、耐えるしかない。痛い。痛い痛い恐い。でも、痛くて恐のは本当に、ボク?
そして ボクは 僕に なっていく。
彼らは繰り返しに永遠に気づかない。
あぁ、永遠に終われない「黒白のヨゴレ」は、
もう何度「繰り返」した?
ほら、もう一度。
今度は僕が黒い染みを落として、
ボクが白く浸食していく。