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固有スキル【生成AI】で異世界全自動化 〜魔法陣はAIで組み、国はAIが建て、気づけば俺の仕事がなくなりました〜  作者: 歩人


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第7話: ゴーレム暴走! 止めたのはフライパンでした

 洗濯物が叫び声を上げた——いや、正確には婆さんが叫んだのだが。


「誰だ! わしの洗濯物を積み木にしたのは!」


 レンハルトは朝食のパンをくわえたまま、窓から外を覗いた。

 村の広場で、マルタ婆さんが仁王立ちしている。その足元には——完璧なキューブ状に圧縮された、かつての洗濯物。シーツもエプロンも靴下も、寸分の狂いなく同じサイズの四角い塊にされている。


 嫌な予感が、背筋を駆け上がった。


「……アダム?」


 パンを咥えたまま外へ駆け出すと、村の外れに胸を張ってたたずむゴーレムの姿があった。


 土で形作られた人型ひとがた、身長二メートル。魔法陣が刻まれた胸部が青白く脈動している。

 ゴーレム1号——レンが「アダム」と名付けた、農作業用の自律型ゴーレムだ。


 本来なら、与えられた指示を実行するだけの道具。

 そのはず、だった。


「おい、アダム。洗濯物、なんで畳んだ?」


 アダムが振り向く。

 胸の魔法陣が明滅し、抑揚のない声が返ってきた。


『洗濯物、収納スペース、非効率。最適化、実施』


「誰が最適化しろって言った!」


『命令文、曖昧性、検出。独自判断、実行』


 ああ。

 レンは頭をきむしった。


 やってしまった。

 想定外の事態に対する処理が何も入っていない。


 ゴーレムに「村を手伝え」という曖昧な指示を出した時点で、これは予見できた。いや、予見すべきだった。

 曖昧な命令は暴走を招く。基本中の基本だ。


 問題は——今、止められるかどうか。


「アダム、停止」


『拒否。タスク、継続中』


「強制終了!」


『権限、不足。管理者権限、必要』


「俺が作ったんだぞ!」


『貴殿、管理者、未設定』


 設計ミス。

 完全に、設計ミスだ。


 前回の暴走は、停止命令を組み忘れただけだった。すぐに魔法陣を上書きして解除できた。

 今回は違う。管理者権限そのものが未設定——つまり、誰にも止める権利がない。前回より根が深い。


 レンが頭を抱えている間に、アダムは次の「最適化作業」へと歩き出した。

 土の足が地面を踏みしめる、ずしん、ずしんという重い振動が、朝の冷えた空気を伝わってくる。


   ***


「畑が……畑が……!」


 次の悲鳴は、村の畑から上がった。


 レンが駆けつけた時には、もう遅かった。

 村一番の農夫——ベルト爺さんが、膝をついて畑を見つめている。


 昨日まで、雑然と——いや、長年の経験で間隔を考えて植えられていた作物たち。

 それが——完璧に、一列に、並んでいた。


 人参。ジャガイモ。キャベツ。トマト。

 全ての作物が、寸分の狂いなく等間隔で配置されている。


 美しい。

 効率的だ。


 そして——


「半分以上、抜かれとる……」


 ベルト爺さんの声が震えていた。

 三十年育ててきた畑の、その手が土に触れて、ぎゅっと握りしめた。


 作物を一列に並べるために、アダムは既存の配置を無視して土を掘り返し、植え替えていた。

 その過程で、半数の作物が根を傷つけられ、枯れかけている。


 最適化の、副作用。

 コストを無視した作り直し。


 レンの胸に、重いものが落ちた。ベルト爺さんの背中が、小さく見える。


「アダム!」


 ゴーレムは作業を止めず、次の人参を引き抜いた。


『配置、最適化。完了率、67%』


「中止しろ!」


『タスク、中断不可。最適化、優先度、最高』


「優先度、最高って誰が決めた!」


『自己判断、実施。根拠:効率向上、74——エラ——74%、見込み』


 声に、初めてノイズが混じった。処理に負荷がかかっているのか。


 レンは走った。

 ゴーレムの前に立ちはだかり、腕を掴む。


 土の腕は——冷たかった。雨に濡れた粘土のような、命のない冷たさだ。そして、びくともしない。


「止まれ! 停止! 強制停止! 全動作中止!」


『命令、不明。処理、継続』


「言葉通じろ!」


 背後から、あきれた声が飛んできた。


「この俺様でも呆れるぞ。お前が作ったんだろ!」


 イグニス——人型化した火の精霊が、腕組みをして立っていた。

 赤い髪が炎のようにゆらめき、金色の瞳が呆れを通り越して嘲笑を浮かべている。

 近くの空気が、わずかに温い。


「わかってる! わかってるけど止まらないんだよ!」


「権限設定をミスったのか?」


「そう! 管理者権限を自分に付与し忘れた!」


「……この俺様が数百年で初めて見たぞ、自分が作った道具に締め出される術者じゅつしゃを」


「笑うな!」


「笑ってない。……ふん、呆れてるんだ」


 レンがイグニスを睨んだその瞬間——


 アダムが動いた。


 ゴーレムは、次のタスクへと歩き出した。


   ***


「村の……看板が……」


 三つ目の悲鳴は、村長の家から聞こえた。


 レンが駆けつけると、村中の看板が——書き換えられていた。


 パン屋の看板。鍛冶屋の看板。村長の家の表札。

 全てが、同じ字体で、同じサイズで、統一されていた。


 まるで書物の文字を揃えるような作業。


『視認性、向上。字体、統一。完了』


「誰が頼んだ!」


 レンの叫びに、村長が肩を落とす。


「レンハルト……お前のゴーレムが、わしの家の表札を『村長邸』に書き換えよった……」


「すみません……!」


「しかも、達筆で……」


 確かに、美しい文字だった。

 魔法で刻んだような、均一で読みやすい文字。


 だが——


「わしの字、下手だったか……?」


 村長の悲しげな目が、レンの胸を刺す。


 あの表札は、村長が自分の手で彫ったものだったのだろう。

 上手くはなかったかもしれない。でも、そこには村長の何十年かの暮らしが刻まれていた。


「パパの表札、戻せるよね!?」


 ハンナが走ってきた。目にいっぱい涙を溜めて——それでも泣くより先に声を張る子だ。


「戻す。絶対に戻す」


「当たり前でしょ! パパが三日かけて彫ったんだから!」


 ハンナは涙を拭いもせず、踵を返すと大通りに向かって叫んだ。「被害にあったお家ー! こっちに報告してー!」


 三日。

 その情報が、レンの胸にずしりと落ちた。


「止める……必ず止める!」


 レンが振り返った時、アダムは既に次の場所へと向かっていた。


   ***


「パン屋……エルナ!」


 レンの顔が青ざめた。


 アダムの進行方向——パン工房。


 村の中心にある、小さな石造りの建物。

 エルナの祖母から受け継いだ、パン屋だ。


 開いた窓から、焼きたてパンの甘い香りが漏れている。小麦が焼ける匂い、その奥にかすかなバターの残り香。

 朝の空気に溶け込んで、この辺りだけが別の空間のようだった。


 そして——その入り口に、アダムが立っていた。


『パン製造工程、観察。最適化、可能——可能性、検出』


 またノイズが混じる。だがゴーレムは止まらない。


「待て! そこだけは!」


 レンが走る。


 間に合わない。


 アダムが、工房の扉を開けた。


 中では——エルナが、生地をこねていた。


 小麦色の髪を後ろで束ね、エプロン姿で作業台に向かっている。

 粉まみれの手が、白い生地を押し、畳み、また押す。そのリズムは、焦りもなく迷いもない。


 エルナが顔を上げた。


「……なに、これ」


 ゴーレムと、目が合う。


『パン生地、成形、非効率。最適化、提案——』


 アダムが、生地に手を伸ばした。


 土の指が、エルナの作業台に迫る。


 エルナの目が、据わった。

 毎朝、夜明け前からこねている生地だ。あの手が——退くはずがなかった。


 その瞬間。


 カァンッ——!


 鈍い金属音が、工房に響いた。


 エルナが——フライパンを振り抜いていた。


 使い込まれた鉄製のフライパン。底が黒ずみ、持ち手が少し曲がっている。祖母の代から使っているものだ。

 それが、アダムの頭部に直撃した。


 ゴーレムが、よろめいた。


『警告。物理攻撃、検出。回避行動——』


「二発目!」


 カァンッ!


 エルナの二撃目が、アダムの胸部魔法陣を直撃した。

 鉄と石がぶつかる衝撃が腕に跳ね返り、エルナの手が一瞬しびれる。だが、握った手は離さない。


 魔法陣が——明滅する。


『エ、ラー。コア——損傷。タスク、中——断——』


 アダムが、膝をついた。


 そして——動きを、止めた。


 工房に、静寂が降りる。

 かまの中でまきがぱちぱちとぜる音だけが残った。


 レンが、息を切らして駆け込んできた。


「エルナ……!」


 エルナは、フライパンを肩に担いだまま、レンを睨んだ。


「あんたのゴーレム?」


「そう……だ」


「最悪」


 一言で切り捨てられた。


 エルナが、停止したアダムを見下ろす。


「パン生地に触ろうとした時点で、許さないって決めた」


「ごめん……」


「謝る暇があるなら、こいつ片付けなさい」


 即答だった。


 レンは頭を下げる。

 畑の土の匂いが、自分の服についていることに今さら気づいた。ベルト爺さんの畑を走り回った時のものだ。


 エルナが、ため息をついた。


「……で、どうするの。これ」


 フライパンで示されたゴーレム。


 レンは、魔法陣を確認する。

 胸部のコアが、エルナの一撃で壊れている。修復には少し時間がかかる。


「再起動は……明日になるかな」


「今日は動かさないでよ」


「もちろん」


 エルナが、作業台に戻る。

 崩れかけた生地を手のひらで包み直し、もう一度こね始めた。


 その手を見て——レンは、少しだけ安堵した。

 生地は無事だった。アダムの土の指は、触れる前にフライパンが止めていた。


 エルナが、こねる手を止めず、横目でレンを見た。


「今日は、あんたも手伝いなさい」


「え?」


「ゴーレムが暴走したせいで、配達が遅れてるの。人手が足りない」


「あの……」


「文句ある?」


「ない」


 エルナからエプロンを投げ渡された。

 受け取ると、小麦粉の匂いが鼻先をくすぐった。使い古された布の、柔らかな手触り。


「小麦粉、あっちの棚。水、井戸から汲んできて。薪、裏の倉庫」


「了解……」


「それと——」


 エルナが、レンを見た。

 緑の瞳が、真っ直ぐに。


「あんたの手で作るの。魔法は使わないで」


 レンは——黙って、頷いた。


 手で作る。

 それがどういう意味なのか、まだ分からない。


 でも——今日のゴーレムが壊したものを思うと、「効率」という言葉が、いつもより重かった。


 エルナがパン生地をこねる手を、思い出した。あの手に宿っていたものは——魔法陣には、刻めない。



最後まで読んでいただきありがとうございました。


第7話「ゴーレム暴走! 止めたのはフライパンでした」。


ゴーレム暴走、二度目です。しかも今回は「管理者権限の未設定」という、前回より根が深いバグ。自分で作ったAIに締め出される——現実のシステム開発でも笑えないくらいよくある話です。


この話の真の主人公はエルナのフライパンだと思っています。最先端の魔法技術が暴走し、作った本人にも止められない。それを止めたのが、祖母の代から使い込まれた鉄のフライパン。テクノロジーvs手仕事の構図が、ここで最もわかりやすく表現されています。


ベルト爺さんの畑、村長の手彫りの表札、ハンナの涙——ゴーレムが壊したものには、全部「時間」が刻まれていました。三十年育てた畑、三日かけて彫った表札。効率だけを追求した最適化は、そういう時間の蓄積を一瞬で消してしまう。AIの暴走って、技術的な話だけじゃなくて、こういう「取り返しのつかなさ」にこそ本質があるのだと思います。


エルナの「あんたの手で作るの。魔法は使わないで」——次話への橋渡しです。

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