第1話
失敗が許されない仕事なら、熟練の冒険者を雇う。
金がないなら、寄せ集めの新人でごまかす。
――じゃあ、どっちも用意できない時は?
俺を雇え。
剣士になるには力が足りない。
治癒師になるには清廉さが足りない。
召喚師になるには頭が足りない。
赤魔導士。
万能だが中途半端。
便利だが、いつでも使い捨て。
生き延びるには十分。
役に立つには、ちょうどいい。
奇襲ってのは、気づいた時点でもう失敗なんだ。
腐った臭いを嗅いじまったら、終わりだからな。
雨が、奴らの臭いを運んできた。
濡れた毛皮。古い血。
そして、死体を長く喰ってきた獣特有の、鼻につく酸味。
五つの影が、雨の路地を忍ぶように動く。
濁った光を灯す目。
群れの長――左耳が、わずかに動いた。
左から来る。
一拍の溜め。
後脚に力。
狙いは喉。
跳びかかった瞬間、俺の短剣はすでに気管を裂いていた。
刃が淡く青く光る。
反対の手に握った魔晶石と、同じ色だ。
戦いは始まる前に終わっていた。
崩れ落ちてきた死体を受け止め、そのまま押しのける。
足は止めない。急ぐ必要もない。
二匹目は右から。
分かりやすい。爪が高い。喉が空いている。
速いと思わせて、横に流れる。
顎の下から、刃を叩き込む。
熱い血が、冷たい雨とぶつかって音を立てた。
残りは三。
動きが鈍る。
賢い――が、遅い。
水たまりを踏み越えるみたいに距離を詰める。
無駄のない斬撃。
無駄のない詠唱。
三十年、生き残ってきた人間だけが身につける精度だ。
魔力を帯びた鋼が湯気を上げ、
空気は、断末魔の湿った呼吸で満たされていく。
最後の一匹は、逃げた。
俺は振り向かずにナイフを投げる。
一拍遅れて、鈍い音がした。
「ずいぶん手際がいいのね」
錆びた宿屋の庇の下から、声が飛んできた。
自信たっぷりの調子とは裏腹に、尻尾が苛立たしげに揺れている。
「私のために、そんなに優雅に殺してくれるなんて。
……感謝した方がいいのかしら?」




