表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宝石は油で揚げ、涙で味付けしてから「食え」なさい。無様な悪役令息は今日もスパルタメイドに殺されない  作者: 怒れる布団


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/13

6、死にぞこないは拾われた

「やあ……生きてる? お嬢さん。あ、失礼。お坊ちゃんだったね」


仰向けに倒れたヨハンの視界を、一人の男の影が遮った。

現れたのは、眼鏡を光らせた怪しげな男。

月光を背負い、場違いなほど端正な身なりをしている。

眼鏡の奥の瞳は、珍品を見つけたような好奇心を宿していた。

ヨハンは反射的に血に濡れたナイフを握り直そうとした。だが指先には感覚がなく、銀の刃は虚しく地面に転がった。


「……うせろ……」


「おっと、思ったより元気だね。口の周りを血だらけにして……ああ、野兎を“生”で食ったのか。その野性。実に醜悪だ」


散らばる兎の残骸を見て、男は屈み込み、ヨハンの顔を覗き込む。

手袋を嵌めた指が、唇に残った生血をぬるりと撫でた。

ヨハンは噛みつこうとしたが、男はひょいと手を引き、愉快そうに肩を揺らした。


「もう間に合わないかと思っていたけれど……想定より生命力は強そうだね。フォークスの血も、泥水に浸かって形無しだ」


「……な……んだよ……あんた……」


「俺? 君の兄君が手配した“家庭教師”だよ。死体ならそのまま埋めて帰るつもりだったけれど」


シードと名乗った男は懐から銀の水筒を取り出し、ヨハンの唇に押し当てた。

冷たい水が喉を通る。

泥水とは違う、透き通った水の味。


「……っ、げほっ……!」


「慌てなくていい。……話は聞いているよ、ヨハン・フォークス。宝石を盗み、王太子に捨てられ、家族からも放り出された白粉人形」


一拍置き、シードは獲物を鑑定するように目を細めた。


「……でも今の君は、人形というより腹を空かせた野良犬だね」


シードが手を差し伸べる。


(……なんなんだ、こいつ)


屈辱と不審感に、ヨハンは泥まみれの顔を歪め、手を払った。


「……殺すなら、今がチャンスだぞ」


「殺さないよ。このまま放っておいても死ぬだろ?」


シードの手がヨハンの脇に差し込まれた。


「な……やめろ! 触るな!」


「暴れないで。落っことして首の骨を折れば終わりだ。いいじゃないか。君は生きたい。俺は君という“素材”に興味がある。利害は一致している」


軽々と抱え上げられ、森の奥へ運ばれていく。


「……どこへ、連れて行く気……」


「僕の隠れ家。医術の心得もあるし、着替えもある。おしろいが欲しければ買ってあげるよ。……君の肌は、死人のように白い方が映える」


「……ふざけるな……」


毒づきながらも、男の体温は凍えた身体を溶かし、数日の疲労が一気に押し寄せる。

意識が混濁する中、ヨハンは見た。

眼鏡の奥で光る瞳を。

それは人間を見る目ではない。値打ちを測る“宝石”を見る目だった。

豚。人形。宝石。

どこへ行っても、自分を一個の人間として見る者はいない。


(……それでも)


カトラを救い出し、あの二人を地獄へ叩き落とせるなら。

この男の指先が悪魔の爪であっても、今は喉元に食らいついて生き延びてやる。

腕の中の少年が眠りに落ちたのを確認し、シードは小さく笑った。


「想定より面白いな。君の兄上は、いい素材をよこしてくれた」


その声はヨハンの夢の境界をかすめ、答えを求める間もなく夜の森に溶けた。

――この日、ヨハンは復讐の道具になることを選んだ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ