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現代ダンジョンのF級探索者の俺、常に美少女魔王が1m以内にいるせいで一人になれず詰んでいる。  作者: 水乃ろか


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第8話 二人の初体験

 俺とコロモチが唇を重ねた。


 

 次の瞬間――



「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」


 

 大量の血液が爆ぜるように心臓から全身へ一気に送り込まれるような感覚。

 脳髄を突き抜ける強烈な電流が流れ、指先まで異様なエネルギーが満たされていく感覚。

 俺の体内の魔力が沸騰され、一気に臨界点を突破し爆発する感覚。

 

 感覚だけじゃない。

 俺の身体を起点に放たれた魔力が、衝撃波となって周囲の空気を圧し潰した。

 

 衝撃波を浴びたスタンピードの魔物どもは、悲鳴を上げる暇さえなくバラバラに崩壊し、塵へと還っていく。

 

 視界が真っ赤に染まるほど、身体中に力が(みなぎ)る。

 ……(おびただ)しいまでの魔力。


 へえ、これが……【魔王】の力ってやつか。悪くない。

 

「おお……お主、マオか? 随分と凛々しい姿に変わったな!」

「……ああ、コロモチのおかげだ。ちょっとあいつら、ぶっ潰してくるか」

「うむ! 同調率も上がったみたいだしな! よし、存分に暴れてこい!」


 コロモチが当然と言わんばかりに、俺の背中へぴたりと張り付いた。

 

 そうだった。俺たちは1メートル以上、離れられないんだったな。


 ちらりとA級探索者の戦士を見ると、彼女はただ呆然と、目を丸くして俺を見ていた。

 

 俺は今、一体どんな姿になってるんだか。

 だけど、今はそんな事を考えている場合じゃない。


 今はただ、目の前に群がる美味そうな『魔力の塊』を、喰らい尽くしたくて仕方がなかった。


「マオ! 魔王の威光を見せつけてやれ! 行けぇ!」

「おうよ! エサども……逃げられると思うな!」


 地面を蹴り砕き、俺は一瞬で鬼の眼前へと躍り出る。

 

 反応すらできていない鬼の頭と腕を握りつぶし、宙に投げ出された四条レイカを空中で受け止めた。


「レイカ!? 生きてるか!?」


 レイカの焦点の合わない瞳が、俺を捉えようとしていた。息はある。


「う……あっ……」


 俺の顔を間近で見たレイカは、震える声でそう(こぼ)すと、魂が抜けたように意識を失った。

 安堵による気絶か、あるいは今の俺の姿に恐怖したのか。


 まあ、命があるならどっちでも構わない。


 俺は鬼の死骸を蹴り飛ばし、レイカをそっと床に寝かせると、次は巨大なベヒーモスの目の前へ跳んだ。

 

 その太い角を力任せに掴み、そのままベヒーモスの巨体をリッチキング目掛けて弾丸のように投げつける。

 

 だが、リッチキングの前に首無し騎士(デュラハン)が立ちはだかり、俺が投げたベヒーモスの巨体が、綺麗に真っ二つに両断した。


 大した忠誠心だ。死してなお、主を守る騎士を気取ってるってわけか。


 だが、両断されたベヒーモスと、さっき俺が潰した鬼の死骸がゆっくりと動き出すと、再び元の姿へと再生を始める。


 やはり、あのリッチキングを倒さない限り、こいつらは無限に湧いてくるらしい。


 俺は一直線に、リッチキング目掛けて突っ込んだ。


「ぬおおおお! マオ、速すぎるぞ! 我を振り落とすなよ!?」

「しっかり捕まってろ、コロモチ!」


 立ちはだかる首無し騎士(デュラハン)が、迎え撃つように巨大な剣を振りかぶり、それが俺の頭上に迫る。


 避けるまでもない。

 俺は正面から、その剣身に向かって全力の蹴りを叩き込んだ。

 

 ――バキィン!


 耳を突き刺すような、乾いた破砕音。

 それは首無し騎士(デュラハン)の巨大な剣が、根元からへし折れ、四散した。

 

「おいマオ!? 今のは死ぬかと思ったぞ!」

「大丈夫だって、心配性しすぎだ!」


 俺はそのまま首無し騎士(デュラハン)の身体を蹴り貫き、リッチキングの顔前へと躍り出た。


 感情を失った骸骨の面。

 だが、カチカチと顎を鳴らす奴が絶望に染まっているのは、今の俺には手に取るように分かった。


 俺はにやりと笑い、リッチキングの頭蓋を鷲掴みにした。


 そして――そのまま、一気に握り潰す。


 

 その瞬間、(おびただ)しい量の魔力が、リッチキングの身体から俺の身体へと雪崩れ込んできた。

 

 美味い……! 途轍(とてつ)もなく、美味い! モンスターどもは、こんなに美味い魔力(もの)を食っていたのか!?


 ボスを倒したことで、周囲のモンスターたちも次々と消滅していく。

 奴らの残滓もまた魔力体となり、すべて俺の中へと吸い込まれていった。

 

 全ての魔力を呑み込みきった、その時――


 ――ピコン!


 ポケットの中で、通知音が鳴り響いた。


 *ダンジョンボス討伐を確認。探索者がダンジョンの外に転送されます*







 気が付けば、俺の姿は元に戻っていた。

 背中には、相変わらず俺にしがみついたままのコロモチ。

 そして気絶した四条レイカと、生き残った二人のA級探索者。


 俺たちはダンジョンの入り口――地上へと引き戻されていた。

 

 俺たちを取り囲むのは、シャッターを切る手すら止まった記者たち。

 ブーンという音を立てて周りを飛び交う、数えきれないほどの配信ドローン。

 四条レイカのファン、警察官、市の職員たち。

 そして、大量の野次馬。


 ダンジョン突入時の大歓声が嘘のように、その場は不気味なほどの静寂に包まれていた。


 誰もが、あんぐりと口を開けたまま、俺を直視している。


 浮遊するコメントボードは、凄い勢いで更新されていた。


『レイカちゃん……奇跡だ、生きてる!』

『誰だよあの男!?』

『おい、今の何だったんだよ……』

『新星現る?』

『おい! あの銀髪の美少女は誰なんだよ!』

『さっきキスしてなかったか……?』

『やらせだよな? これ、やらせだよな!?』

 ・

 ・

 ・


 

 俺は、背負っていたコロモチをゆっくりと地面に降ろした。


「コロモチ、助かったよ。ありがとな」

「ふん! 我がいなければお主は死んでいたからな! 感謝するがよい!」


 コロモチの誇らしげな笑顔に、俺は少しだけ口角を上げた。


 とりあえず、他の生存者の確認だ。

 俺は魔導士を抱きかかえたままのA級探索者の戦士に声を掛けた。

 

「大丈夫ですか? 怪我は平気ですか?」

「……え、あ……あ、ああ。大丈夫だ。……護れなくて、すまない……」

「ああ、気にしないでください。全員、こうして生きてるんですから」


 次は横たわっている四条レイカだ。

 手を貸して上半身を起こし、声を掛けて肩を揺すった。


「四条レイカさん? 大丈夫ですか? おーい」

「う……あ……こ、ここは……?」


 レイカはまだ現実感が追いついていない様子で、視線を彷徨わせている。

 相当な身体への負担だったのだろうか。


「なんだ? こいつ、死んでるのか? 叩けば直るか?」


 コロモチが横から物騒なことを言ってくる。


「いや生きてるからやめろって……四条さん、俺です。分かりますか?」


 突然、四条レイカの瞳がカッと見開かれた。

 どうやら状況を一気に理解したらしい。


「私、生きてる……? まさか、あなたが……あのボスを倒したの……!?」


 俺は質問には答えず、彼女に手を貸して立ち上がらせた。

 そして、努めて淡々と、何でもないことのように告げた。


「俺がっていうか……トドメはたまたま俺でしたけど、四条さんのおかげだよ。みんなで生還できた。それでいいじゃないですか」

「そ、そう……そうね。よかった……本当によかった……っ! ありがとう!」


 レイカは震える両手で俺の手を握りしめ、言葉にならない感謝をぶつけてくる。

 

 ……と思ったら、レイカの緊張の糸が切れたのか、彼女はいきなり俺の胸に抱き着いてきた。

 

「うへぇ!? ちょっ!? 四条さん!?」


「こ、こわかった……本当に、もうダメだと思って……生きてて、よかった……」


 レイカの細い肩が震え、俺の胸元が涙で濡れる。

 

 S級探索者とはいえ、やはりあんな絶望的な状況は怖かったのだろう。

 人間なんだな。俺たちと、何ら変わらない。

 

 だが、人間じゃない奴が、面白くなさそうに口を尖らせていた。

 

「おい貴様ッ! 我のマオに気安く抱き着くんじゃない! それは我のものだと言っただろうが!」


 コロモチがレイカの背中を、人差し指でこれでもかとツンツン突き始めた。

 俺は溜息交じりにコロモチを(なだ)めた。

 

「おい、やめろって。恐怖で混乱してるんだから……それに、いつから俺はお前の所有物になったんだよ」

「……はあ!? マオ、お主……忘れたのか!? 我と、あんなに……あんなに激しく唇を奪い取っておきながら! 責任を取ると言ったのはお主だろうが!」

「責任? いや、流れで言ったような気もするけど……それって、どういう意味の……?」

「き、貴様あぁぁぁ!?」


 コロモチが一気に沸騰し、怒りでわなわな震えている。


「我とのことは……我とのことは、ただの遊びだったのかぁぁぁッ!!!」

 

 涙目になったコロモチが、ポコポコパンチを俺に叩き込んできた。


「わ、わかった! 落ち着け! 後でちゃんと話を聞くから! な!?」


 ……俺はこの時、致命的なミスを犯していた。


 国民的スターである四条レイカに抱きつかれているという事実を。

 「激しく唇を奪い取った」なんていう誤解しか招かない爆弾発言を。


 ――そして、その全てがリアルタイムで配信されているという最悪の事実を。


 案の定、このやり取りは秒速で切り抜かれ、ネットという海に広がり収集がつかなくなっていた。

 

 コメントボードはもはや光の速さで流れていき、もはや超高速すぎて一文字も読み取れない。


 俺の人生が、また別の意味で終わった予感がした。


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