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現代ダンジョンのF級探索者の俺、常に美少女魔王が1m以内にいるせいで一人になれず詰んでいる。  作者: 水乃ろか


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第7話 初めての同調

「精霊よ、我らを護りたまえ!」


 A級探索者の魔導士が、凛とした声と共に杖を掲げる。

 瞬時に、俺たちを包み込むように結界(バリア)が展開された。


「おい、その結界(バリア)から絶対に出るなよ! 死にたくなければな!」


 盾を構えた戦士の叫びには、隠しきれない緊張が混じっている。

 無理もない、周囲を取り囲んでいるのは伝説級の化け物たちだ。


「おいマオ! これは一体どういう状況なのだ!」

「知るかよ! コロモチこそ魔王なんだから、お前の方が分かってるんじゃないのか?!」

「無茶を言うな! 我だって全然分からんわ!」


 コロモチは俺の背中にがっしりとしがみつき、震えながら周囲を(うかが)っている。

 どこをどう見ても、魔王の威厳なんて欠片もなかった。


 ……いや、よく考えたら、魔王の力は今、俺の身体に宿ってるんだったか。


 ふと視界の端で、相変わらずブンブンと飛び回っているコメントボードが目に入った。

 流れる文字の速度は、猛烈な速度で更新されている。

 そして、ついその文字を追ってしまった。


『え、待て。高難易度ボスの複数同時湧き? バグだろこれ』

『レイカ様でもこれキツくないか? やばいって、全滅するぞ』

『F級の奴、死んだな。せめて女の子だけは助かってくれ……』


 ……読むんじゃなかった。精神衛生上、これほど毒なものはない。

 

 その時、まるで老人を思わせる低い声が、静かに響き渡った。


「……解呪(ディスペル)


 パチン、と乾いた音がした。

 次の瞬間、俺たちを護っていたはずの結界が、まるで霧のように儚く霧散する。

 

「そんなっ!? 私の結界が……一瞬で!?」

「くそ、リッチキングか!? なんてデタラメな奴だ!」


 戦士と魔導士が同時に叫ぶ。


 リッチキング。名前からして、ただのリッチより数段格上の存在なのだろう。


 「二人を護って。……ここからは私がなんとかする」


 レイカが短く、けれど鉄のような意志を感じさせる声で告げた。

 

 彼女は愛刀を(ひるがえ)すと、重力を無視したような跳躍を見せる。

 直後、巨大な化け物たちの殺意が、一斉に上空の彼女へと集中した。


 刹那。

 凄まじい肉塊の裂ける音と共に、ベヒーモスの顔面に深い十字の斬痕が刻まれ、(おびただ)しい鮮血が噴き出した。

 何が起きたのか、俺の目には一切映らなかった。だが、やったのは間違いなく彼女だ。

 

 ベヒーモスが怒り狂った叫び声を上げ、大地が激しく揺れる。


「おいコロモチ。俺の身体って、5パーセントくらい魔王の力があるんだよな!? だったら戦えるってことだよな?!」

「バカ者! それはお主と我が同調して初めて引き出せる力だ! 今のままでは、お主はただの人間にすぎん!」

「え!? 嘘だろ!? じゃあ、どうすれば同調できるんだよ!」


 俺たちが必死に打開策を言い合っている間にも、現実は容赦なく襲いかかってくる。


「おい! 伏せろッ!」


 戦士の悲鳴が響いた。

 視界を埋め尽くすような巨大な影。

 首無し騎士(デュラハン)が、その大剣を俺たちめがけて振り下ろしていた。


 ――バキィン!


 鼓膜を突き刺すような金属音が轟き、猛烈な土煙が舞い上がる。

 衝撃に備えて目を閉じていたが、痛みはない。


 ひとまず、俺とコロモチは無事だった。


 視界を覆う砂埃の向こう側で、何かが地面に叩きつけられているのが見えた。

 

 ……戦士だ。

 

 彼女が誇っていた巨大な盾は、まるで豆腐でも切ったかのように無残に両断され、地面に転がっている。

 あの音は、デュラハンの剣がA級探索者の防具を粉砕した音だったのだ。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「ぐっ……くそ、なんて馬鹿力だ……」


 俺とコロモチが駆け寄ると、戦士は呻きながらも立ち上がろうとしていた。

 だが、頭部から流れる血が目に入り、苦悶に表情を歪めている。


「精霊よ……もう一度……護りたまえ……!」


 すかさず、魔導士が結界(バリア)を張り直した。

 だが――


「……解呪(ディスペル)

 

 瞬時に、結界(バリア)はまたも消滅した。

 

 まただ。リッチキングの冷酷な声が響くたび、俺たちの希望は無慈悲に消される。


 戦線に目をやれば、レイカが鬼とベヒーモスを同時に相手取り、死線を潜っていた。

 彼女の動きは神速だが、鬼もそれに呼応するかのように速度を上げ、じわじわと彼女を追い詰めている。

 こちらを気に掛ける余裕など、もはや彼女にも残されていない。


「コロモチ! 早くどうにかしてくれ! このままだと俺たちも死ぬぞ!」

「ど、どうにかって、どうするんだ! マオが我から力を奪ったから、我にはどうにもできんぞ!」


 同調。一体どうすればいい。

 そういえば昨夜、狭いベッドでコロモチと触れた時に、ほんの少しだが意識が混ざり合うような感覚があった。


 もしかして、あれが同調なのか?


「コロモチ! ちょっとこっち来てくれ!」

「な、なんじゃ!? うわっ、何をする!?」


 俺はなりふり構わず、コロモチの小さな身体を強く抱きしめた。

 抱きしめながら、ふと視界に入ったコメントボードが見える。


『は? この状況であの二人、抱き合って何してるんだ? 愛の告白でも始めんのかよ』

『ついにおかしくなったか……絶望のあまり頭がイカれやがった……』

『というかあの美少女、誰だよ! もっと近くで映せドローン!』

『うらやましい、代われ。死ぬ前に代われ!』


 ――勝手に言ってろ。

 

 だが抱きしめた瞬間、俺の中に熱い何かが流れ込んできた。

 コロモチの中に眠る魔王の力と、俺の身体が共鳴を始めているのが分かる。


「おお! マオよ、同調率が上がった気がするぞ! ……だが1パーセントも無いな、これでは」

「これでダメなら、これ以上どうやったら同調率が上がるんだよ!?」

 

 叫んだ瞬間、俺の脳内に一つの「答え」が降ってきた。

 言葉ではなく、本能が理解してしまう。

 理屈ではない。ただ直感的に「こうすればいい」と分かってしまう。


 そしてそれは、同調しているコロモチにも瞬時に伝わったようだった。


 コロモチの顔が、火が出るほど真っ赤に染まっていく。

 たぶん、今の俺も同じような顔をしているはずだ。


 その時、再びリッチキングが杖を掲げた。

 

「……呪詛(カース)


「うっ、あ……あああああッ!」


 黒い霧が魔導士を襲い、彼女は苦悶の声を上げてその場に倒れ伏した。

 戦士が彼女を必死に抱え上げ、血を吐き捨てるように叫ぶ。


「走れ! 逃げるぞ! ここで足を止めたら全員死ぬ!」

「ええっ、そんな無茶な!」


 魔導士を担いだ戦士と共に、俺たちは無力なまま全力で走り出した。

 だが、逃走経路を遮るように、馬に跨ったデュラハンが立ち塞がる。

 

 死を覚悟した――その時。


「はああぁぁぁぁ!!」


 閃光のようなレイカが飛来し、デュラハンの胴体を一閃した。


 一瞬の静止。

 次の瞬間、騎士は愛馬ごと綺麗に両断され、霧散していく。


 背後では、ベヒーモスと鬼が血を流して地面に倒れていた。

 

 ……これがS級探索者。

 本当の、本物のバケモノ。


 たった一人で、あの伝説級の群れを圧倒してしまった。


 レイカがこちらを振り返り、肩で息をしながら叫ぶ。

 

「どうやら……リッチキングがここのボスみたいね。あいつさえ倒してしまえば、すぐに上に戻れるわ」


 レイカとリッチキングが互いに向き合い、対峙した。


 だが、リッチキングは俺たちの方を見て……(わら)っていた。

 骸骨の頭蓋骨が、ケラケラと嘲笑うように動く。


 その(あざけ)りの声がフロア中に響き渡った瞬間、最悪の光景が広がる。


 倒れていたベヒーモス、鬼、首無し騎士(デュラハン)が、まるで何事もなかったかのように再び立ち上がった。

 先ほどレイカが与えた傷は、既に消えていた。


 絶望はそれだけでは終わらない。

 リッチキングの背後から、地面を割り、壁を突き破り、おびただしい数のスケルトンやゾンビが湧き出し始めた。

 

 ……そうだ。崩落の直前、アプリは警告していた。これはスタンピードだ。

 

 際限なく湧き続ける魔物の群れ。それらを率いる最上位の三体が、一斉にレイカへと牙を剥いた。


「私が囮になる! 逃げて!」


 レイカの悲痛な叫びが響く。

 彼女は懸命に剣を振るうが、数に、そして再生能力に押され、ついに鬼が彼女の隙を突いた。


 鬼の剛爪がレイカの脇腹を裂き、彼女の身体を無慈悲に吹き飛ばす。

 畳みかけるベヒーモスの追撃を竜刀で受け止めるが、その衝撃で完全に動きを封じられた。

 そこへ、鬼の渾身の蹴りが彼女の腹部を抉る。

 

「……っ、が……は……」


 ついに、無敵のS級探索者が地に伏した。

 鬼が彼女の細い首を掴み、まるでボロ切れのように軽々と吊り上げる。

 レイカの衣装は無残に切り裂かれ、その腹部からは鮮血が滴っていた。


 周囲を見渡せば、俺たちは死の軍勢に完全に包囲されている。

 魔導士を抱えた戦士の足は止まり、その顔は深い絶望に塗りつぶされていた。


 どこにも逃げ道はない。


 だが、俺には、この状況をひっくり返す唯一の手段が残されていた。


「コロモチ!」


「……くっ、ああもう! 仕方ないのう! マオ、ちゃんと責任を取れよ!」


 俺とコロモチは、逃げることをやめ、互いを強く抱きしめ合う。


 そして。


 ――俺たちは、迷わず唇を重ねた。


いつもお読みいただき、ありがとうございます!

もしよければ、ブクマや★★★★★をして頂けたら嬉しいです!ヽ(・ε<〃)

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