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現代ダンジョンのF級探索者の俺、常に美少女魔王が1m以内にいるせいで一人になれず詰んでいる。  作者: 水乃ろか


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第3話 プライバシー終了のお知らせ

「え……誰?」


 俺は思わず、すぐ背後に立っていた銀髪の少女にそう尋ねた。


「いやぁ……あはは……こ、こんにちは……」


 少女は自分の(ほお)をポリポリとかきながら、蚊の鳴くような細い声で答えた。

 

 だが、その声には聞き覚えがある。

 この声こそ……間違いなく、俺の身体を乗っ取って暴れ回っていた奴の声だ。

 

 しかし……なぜ俺の後ろに立っている? なんでそんなにモジモジしているんだ?


「お前、なんでここにいるんだ? ずっといたのか?」


「う……うん……声、掛けるタイミング、分からなくて……」


 少女――魔王は目を泳がせながら、しどろもどろにそう答えた。

 魔王のダンジョン内での威勢は、完全に消え失せている。


 これではまるで、俺がいたいけな少女をいじめているようにすら見えてしまうじゃないか。

 

 そんな奇妙な空気を見かねたのか、ヒナタさんが魔王に優しく声を掛けた。

 

「ねえ、魔王ちゃん? 立っているのも何だし、椅子に座ったら? ささ、どうぞ」


 ヒナタさんが空いている椅子を引き、手で座面をポンポンと叩く。

 魔王はこくりと頷いて、小さくペコリと頭を下げると、おずおずとその椅子を引っ張った。


 そして――ズルズルと椅子を引きずり、俺の真横にセットして座った。


 なぜか密着状態で並ぶ、俺と魔王。


「えっと……なんで俺の真横に座ってるんだ……? その、嫌とかそういう意味じゃないんだけど……」


 できるだけ気を悪くさせないように尋ねてみる。

 いや、気まずいだろう。

 座る場所なんて、たくさんあるのに、なんでわざわざ俺と肩が触れ合う距離なんだ?


 ……もしかして、隙を見て俺を殺そうとしているのか?

 背筋に冷たいものが走る。


 俺は立ち上がり、自分の椅子を持って二メートルほど離れた場所に移動し、改めて座った。

 

 すると――


 いつの間にか、魔王が俺の真横に直立していた。


 ……怖すぎるんだが。


「な、何してるんだよ……?!」


 恐る恐る、無表情で佇む魔王に聞く。

 

 だが、口を開いたのは俺たちを観察していたヒナタさんだった。

 

「ねぇ、もしかしたらなんだけど……二人は離れられない仲なの?」


 ヒナタさんの質問の意味を理解するまで、数秒かかった。


 離れられない仲? 恋人とか、そういう意味か?


「ヒ、ヒナタさん? そんなわけ無いじゃないですか。俺、こいつに身体を乗っ取られてたんですよ?!」

「あら……でも、今マオくんが椅子を持って移動した時、魔王ちゃんが引っ張られるみたいについて行ってたわよ?」


 ……引っ張られてた? どういう事だ?


「おう、マオ。お前ちょっと立って、テーブルの周りをグルグル歩いて回ってみろ」

 

 カエデが面白がるような目で俺に言った。


 意味は分からないが、逆らうと怖いので言われた通りにしてみた。

 俺は立ち上がり、テーブルの周囲を歩き始める。


 すると……


「わっ! わぁっ! ちょっと待って!」


 魔王が短い悲鳴を上げながら、俺の背後をついてくる。

 いや、ついてくるというより――強制的に歩かされている感じだ。


 ヒナタさんの言う通りだ。

 

 まるで、俺と魔王の間に(ひも)が繋がっているかのように、俺が移動すると魔王が引きずられている。


「なぁ、魔王さんとやら……引っ張られているように見えるけど、どういうことなんだ……? なんかそういう、パントマイムの芸をやってるわけじゃないよね?」


 検証を終えて改めて椅子に座り、俺は少女に詰め寄った。

 少女は観念したのか、気まずそうに視線を逸らしながら説明し始めた。


「……我、こいつの身体を乗っ取ったのに、いきなりダンジョンの外に出るもんだから……我が身体から変に弾き出されてしまったのだ……」


 魔王の説明を要約すると、こうだ。

 

 俺の身体を乗っ取った魔王だったが、ボス討伐後の強制転移システムによって、不完全な状態で分離させられた。

 本来、ダンジョンの外に出られないはずの存在が、俺という器を通して無理やり外に出てしまった。

 

 結果として――俺たちの魂と肉体は中途半端に同調してしまい、物理的に離れることができなくなったのだと。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。え? それ、本当か?」


 慌てて俺が確認する。

 しかし、うつむいた魔王は静かに頷くだけだった。


 ……二十四時間、ずっと魔王が俺に付いてくるのか?

 しかも、検証した限りだと離れられる範囲は1メートルくらいだ。


 俺は、震える声で、最も重要な懸念事項を確認した。

 

「……それって、トイレも一緒って事か?」

「う、うむ……」

 

「……寝る時も一緒なのか?」

「うむ……」


「風呂も……一緒なのか?」


 魔王は顔を真っ赤にしながら、俺の言葉に黙ってコクリと頷いていた。


 その場に、重苦しい静寂が訪れる。


 終わった。俺のプライバシーも、平穏な日常も、何もかも。


 その絶望的な静寂を断ち切ったのは……ヒナタさんだった。


 ヒナタさんが両手をパチンと合わせて、花が咲くような笑顔で皆に言った。

 

「ねえ、もうお昼過ぎてるし、お腹すいてるでしょう? ご飯にしましょう! ささ、いつもどおり、みんなで料理を作ろうねー!」


 ヒナタさんが、うつむいて小さくなっている魔王に声を掛ける。


「ねぇ魔王ちゃん? 一緒にご飯食べよう? 一緒に手伝ってくれると嬉しいな。じゃ、マオくん、魔王ちゃんに料理教えてあげてね!」

「えっ!? 俺がですか!?」

「マオしかいねぇだろうがよー。お前ら、離れられないなら、なおさらだろ」


 カエデが冷たく言い放つ。


 ぐうの音も出ない正論だ。

 物理的に離れられない以上、俺が面倒を見るしかない。

 

 俺は恐る恐る、魔王に声を掛けた。できるだけ刺激しないように、優しく。

 

「じゃあ……料理、作ろうか?」


 そうして、俺たち三人と魔王の、奇妙な共同作業が始まった。


 ――――――――


 だが、悲惨な事件はすぐに起きた。


 魔王は……どうやら壊滅的に不器用、かつ料理が苦手のようだった。

 魔王の悲鳴が、昼下がりのダイニングにたびたび響き渡る。


「あぁっ! 滑った!」

「ひ、ひぃ! 熱いっ!」

 

 皿を持てばパリンと落として割り、炒め物をさせれば一瞬で炭に変える。

 誰も咎めはしないものの、魔王は魔王で、自分のあまりの不出来さにプライドが傷ついているようだった。


 目に涙を浮かべて縮こまっている魔王を見かねた俺は、誰でもできそうな簡単な仕事を頼むことにした。

 お皿に、茹でたブロッコリーやほうれん草、トマトを盛り付けるだけの作業だ。

 少しやって見せて、魔王に同じようにするように頼む。


 すると魔王は、ブロッコリーひとつひとつを慎重につまみ上げ、眉間にしわを寄せながら置き場所を吟味し始めた。

 しばらくすると――そこには、すべての食材が芸術的なバランスで配置された、美しい一皿が完成していた。


「すごいな! さすが魔王だ! 美的センスがある!」


 生きてきて、魔王をおだてる日が来るとは思わなかったが、本心からの称賛だった。

 俺の言葉に、魔王の表情がパァーっと明るくなる。


 そして、今まで聞いたことがないくらい張りのある声が響いた。


「ふん!! そうだろう!! 我がやれば、これくらい造作もないわ!!」


 魔王は鼻高々に腕組みをして、フンっと鼻を鳴らした。

 さっきまでの涙目はどこへやら。チョロい……いや、切り替えが早い。

 

 ヒナタさんも、そんな魔王を見てニコニコと拍手を送っていた。


 そして、三人と一魔王で遅い昼ご飯を食べている時だった。


「魔王も食事ってするんだな」

「そりゃ自分で作ったんだ! 食べるに決まってるだろうが!」


 魔王は俺に文句を言いつつもフォークを不器用に使いながら、うめぇうめぇとパスタやサラダを頬張っていた。

 

 そんな和やかな空気の中、ヒナタさんがふと核心を突く質問をした。


「ねえ、今のマオくんの身体ってどういう状態なのかしら?」


 口いっぱいにパスタを詰め込んでいた魔王が、リスのように頬を膨らませたまま反応する。

 ゴクリと飲み込むと、偉そうに解説を始めた。

 

「こいつの身体の中に、盗まれた我の力が入っている状態だな」

「盗まれたって……お前が俺の身体を盗んだんだろ」

「……ふ、ふん!」


 魔王がバツが悪そうにそっぽを向く。

 

 こいつ、自分が悪いことをしたという自覚はあるようだが、根底では自分が「不遇な被害者」だと思い込んでいる節がある。


「じゃあ、マオくん。魔王ちゃんのすごい力を使えるってことなの?」


 ヒナタさんの言葉に、俺の箸の動きがピタリと止まった。


 ……俺が魔王の力を?

 

 あのダンジョンの奈落で見た光景。

 指先一つでモンスターを消し飛ばし、ドラゴンを雑巾のように振り回していた、あの圧倒的な暴力。


 そんな力が俺に備わっているとしたら……


「いや、我の力を全て使うのは無理だ。今は同調率5%といった所だろうしな」

「……同調率? それを高めれば、俺がお前と同じくらい強くなるってことか?」

「まぁそういう事になるな。だがな、お前如きが我の力を使うとは片腹痛い。使わせるわけには、いか……な……」


 魔王が言いかけて、唐突に動きと言葉を止めた。


 フォークを咥えたまま、何かを計算するように目を細め、ニヤリと口角を上げる。

 

 そして次の瞬間、魔王は身を乗り出して大声を上げた。

 

「お、おい! すぐに同調率を高めるぞ! どんどん我の力を使え! そうすれば100%になるからな!」


 そう言った魔王の目は、下心丸出しでギラギラと輝いていた。

 

「え……なんだよ突然。お前、もしかして……」


 あまりにも露骨すぎる掌返し。

 怪しいなんてレベルじゃない。


 俺はジト目で魔王を見据え、核心を突いた。

 

「……同調率が100%になったら、俺がお前に乗っ取られるとか言わないよな?」


「ひぇぇえ!?! な、なんで分かった!?」


 図星を突かれた魔王は、驚きのあまり椅子から転げ落ち、情けなくへたり込んだ。

 目を丸くして震えている魔王。

 

 分かりやす過ぎるだろ……


 つまり、同調率が100%になったら、俺の自我は消滅し、こいつが完全に復活するというわけか。

 うかつには魔王の力を使えないようだ。


 俺は心に固く誓いながら、床に転がったポンコツ魔王に手を貸して起こした、その時だった。

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