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現代ダンジョンのF級探索者の俺、常に美少女魔王が1m以内にいるせいで一人になれず詰んでいる。  作者: 水乃ろか


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22/22

第22話 行け!剣よ!

「ということで、今日はC級ダンジョンである『3丁目ダンジョン』に来ました」


 唐突に始まったレイカのライブ配信。

 俺とコロモチは今、レイカの配信チャンネルにゲスト……というか、パーティメンバーとして参加させられていた。


「では、私がお世話になっているギルド『アンバーローズ』のメンバーを紹介しますね」


 実は昨日、今日の配信に向けて入念な台本作りと練習を繰り返してきた。

 人前に出るのが苦手な俺にとって、それは地獄のような特訓だったが、準備があればなんとかなるはずだ。


 ――そう自分に言い聞かせていた。


 だが、現実は非情だ。練習と本番は、天と地ほども違っていた。

 何が違うって、この独特の空気感と環境だ。


 いつものギルドハウスの中で行なう練習は、緊張感なんて皆無。

 しかし今このC級ダンジョンに関しては、もっとも異なる点。


「おい、あれ四条レイカじゃないか? ……本物?」

「マジだ、ドローンが浮いてる。配信中か?」

「なんでS級がこんなC級ダンジョンにいるんだよ。さすがに偽物じゃねーの?」


 凄まじい数の野次馬、もとい他の探索者たちの視線だ。

 居心地の悪さに背中がムズムズし、俺は思わず首をすくめてしまった。


 探索者たちの言う通り、C級ダンジョンにS級のレイカがいること自体が不自然なのだ。

 F級の俺とS級のレイカ、その間を取ってC級に決まっただけなのだが、周囲から見れば「場違いなアイドルが降臨した」ようなものだろう。


「まず、こちらが我がギルドの誇る最強の戦士、マオさんです!」

 

 レイカが俺を指し示す。

 

 ……待て、『最強の戦士』なんて台本にはなかったはずだ。


 レイカの無邪気すぎるアドリブに、俺は一瞬でパニックに陥った。

 だが配信ドローンのレンズが、無慈悲に俺の顔をアップで捉える。

 

「えっ……と……『アンバーローズ』のマオ、です。その、一応探索者をやってます。……よろしく」


 ドキドキしながら自己紹介を終える。

 顔が火を噴くほど熱い。


 視界の端にあるコメントボードには、容赦ない言葉が並んでいく。

 

『レイカが最強って紹介したってことは、S級か? あんな地味な奴いたか?』

『ソロ専のレイカ様がパーティだと……?』

『こいつ、昨日噂になってた剣を出すやつか』

『代われ。レイカ様の隣を今すぐ俺に代われ!』


 ……見なきゃよかった。

 殺気にも似た視聴者のコメントに、俺は胃のあたりをギュッと押さえた。

 

 だが、俺以上にヤバそうな奴が隣にいた。

 コロモチだ。


 ギルドでの練習中、コロモチは鼻息荒く宣言していたのだ。

 練習では「我の可愛さを最大限に発揮する自己紹介を考えたぞ! 見ておれ!」と豪語していた。

 そう言って、指でハートマークを作りながら、「皆の衆、こんにちは! 我、魔王のコロモチだ! よろしく頼むぞ!」と満面の笑みを見せていた。


 だが、今のコロモチはどうだ。

 

 今のコロモチは、顔色が真っ青。

 身体はガタガタと震え、いつもの傲慢な態度は微塵もない。

 泣きそうに潤んでいる目。

 そして時折、緊張のせいか「……ぉ、おぇ……」と嗚咽を漏らしている。


 ……大丈夫か? これから本番の自己紹介だというのに。このままだと放送事故だぞ。


「それでは、次は我がギルドの魔王こと、コロモチさんです」


 レイカの声が響き、ドローンのカメラと野次馬の視線が一斉にコロモチに集中する。


「……………………」


 沈黙。

 コロモチは口を金魚のようにパクパクさせるだけで、言葉が出てきてない。


 コロモチは何も言わない。いや、言えないのだ。緊張のせいで。

 目が泳ぎまくっているコロモチ。

 今にも泣きそうな目だ。


 視線はあちこちを彷徨い、今にも泣き出しそうなコロモチを見て、俺は思わず配信にのらないような小声で耳打ちした。

 

「……コロモチ、無理すんな。今日はやめておくか?」


 俺の言葉を聞こえたのか、コロモチはぎゅっと目を(つぶ)った。

 そして意を決したのか、震える唇を開いた。

 

「あ、あの……わ、わたし……コロモチって……いいます……その、よろしくおねがい……しま……す……」


 ……『わたし』? 『我』じゃなくて、今『わたし』って言ったか?

 

 最後の方は消え入りそうな蚊の鳴くような声だったが、確かにそう言った。

 

 いつもの『我』はどこへ行ったんだ。あまりの緊張に、人格が変わってしまっている。

 コロモチは緊張のせいで、ついにおかしくなってしまった。


 だが、コメントボードの反応は予想外のものだった。


『待って、めちゃくちゃ可愛いんだが』

『緊張してるのかな? 大丈夫だよ。リラックスして』

『コミュ障キャラか? 俺たちの仲間じゃん!』

『小動物系コミュ障? 守りたい、この笑顔(泣き顔)』

『あんな小さな子が大きな鎌を……ギャップ萌えがすごい』

 

 めっちゃ高評価。

 どうやら、視聴者には『守ってあげたい(はかな)げな美少女』として映ったらしい。

 コロモチが受け入れられたことに、俺はホッと安心した。


「それでは、ダンジョンに入りましょうか」


 レイカに促され、俺たちはゾロゾロと付いてくる野次馬を引き連れて内部へと足を踏み入れた。

 湿った冷気とダンジョンの匂いが鼻を突く。


 探索を開始してすぐ、通路の奥から重い足音が響いてきた。


 現れたのは、2体のオーク・ウォリアー。

 豚の頭部を持つ巨大な獣人が、威圧感を放ちながら武器を構えている。

 ゴブリンとは比較にならない、C級ダンジョンの強敵だ。

 

「ふっ!」


 レイカが動いた。

 残像すら見えない神速の一閃。


 レイカが通り過ぎた瞬間、1体のオークは声も上げられずに魔石へと変わった。


「マオさん! あとの一体はお任せします!」

 

「あ、ああ! 分かった!」


 俺はにゅるんと、腕から5本の剣を顕現させた。


「うわ、なんだあれ! 手から剣が出たぞ!?」

「スキルか? あんなの見たことない!」


 ギャラリーの声が響くが、俺は戦闘に集中する。


 俺は昨日、C級ダンジョンに行くと聞いて、自分の戦い方を考えていた。


 なにせ、格上のモンスターと戦うのだ。

 そもそも俺はモンスターと戦った回数自体、少ない。


 この5本の浮遊する剣を、どのようにつかえば有利に戦えるのか?


「行け! 剣よ!」


 俺の号令とともに5本の剣がオークに突き進む。

 だが反応の早いオークは、退きながら剣を叩き落とす。

 さらには、片手に持った盾で攻撃が防がれる。


「やっぱり、正面からじゃ通じないか。……なら、これだ!」

 

 昨日考えた、俺なりの戦術。

 それはこうだ。


「剣よ!」


 俺の再びの号令で剣が動く。


 5本の剣が、意思を持った生き物のようにオークを包囲するように展開した。

 

 1本は正面、1本は盾を狙う。

 案の定、オークの注意はその2本に引きつけられた。


 ……かかった!


「そこだッ!」


 残りの3本の剣が、無防備になったオークの背後と死角から一斉に突き刺さる。

 断末魔を上げる暇もなく、巨躯が光の粒となって消え、地面に魔石だけが転がった。


「さ……さすがです! マオさん!」


 レイカの賞賛の声が響く。

 コメントボードも、今度は驚愕の色に染まっていた。

 

『なんだよあの戦い方……カッコよすぎるだろ!』

『あの地味な兄ちゃん、マジで最強の戦士だったのか……』

『はぁ? 強すぎないか?』

『剣が浮いてたよな? なんのスキルだ? あれ』

『見たか今の動き、マジで最強かもしれないぞ!?』


 これが俺の考えた戦術。


 5本の剣が、対象の360度から襲う。

 防御不可能な、オールレンジ攻撃だ。


 背中を伝う冷や汗が、達成感で少しだけ心地よく感じられた。

 5本の剣を手元に戻しながら、俺は自分の手がまだ震えていることに気づき、それを悟られないよう強く握りしめた。

 

 手が震えている原因は、恐怖ではない。

 底辺だった俺が、初めて自分の力で『戦える』と証明できたことへの、高揚感だった。

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