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現代ダンジョンのF級探索者の俺、常に美少女魔王が1m以内にいるせいで一人になれず詰んでいる。  作者: 水乃ろか


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20/20

第20話 10万円のスパチャ!?

「に、2万人……!?!? や、やばっ!?」


 スマホの画面に表示された同時視聴者数を見た瞬間、俺の心臓は跳ね上がり、一瞬で喉がカラカラに乾いた。


 あまりの衝撃に、持っていたスマホを落としそうになり、指先がガタガタと震える。

 俺の叫び声に反応して、隣にいたコロモチが「マオよ、どうした?」と不思議そうに顔を覗き込んできた。


 だが、俺にはコロモチに返事をする余裕なんてなかった。

 配信画面のコメント欄は、目にも留まらぬ速さで下から上へと流れ去っていく。


『おい今の見たか!? 5本の剣が宙に浮いて動いてたぞ!』

『初心者ダンジョンだよな、ここ。何が起きてるんだ?』

『いや待て、新手のCGじゃないか?』

『それより隣の女の子! あの謎の美少女だろ?! アップで見せろ!』


「うわ、ちょっと……速すぎて読めない……」


 あまりの情報の量に頭がクラクラし、視界がチカチカとなった。

 さらに、追い打ちをかけるように画面に虹色の光がピカーン!と走った。


『――【S級】レイカが100,000円をスパチャしました!』

『レイカ:マオさん! 配信始めたんですね! 全力で応援します! 私も今すぐそっちに行きますね!』


「……え、10万!? ちょ、レイカ!? 来るな! 来なくていいから!!」


 俺は思わず、スマホに向かって叫んでしまった。

 レイカのコメントに、配信画面は一気に地獄のようなお祭り騒ぎになった。


『レイカ様が10万投げた!?』

『本物のレイカ降臨きたあああ!! 神配信確定!』

『ていうかマオさんって誰だよ……? こいつのことか?』

『【悲報】国民的アイドル・レイカ様、よく分からん男にスパチャする』


 胃がキリキリと痛み出し、冷や汗が背中を伝い落ちる。

 注目されることに慣れていない俺にとって、この状況はもはや拷問に近い。

 いっそこのまま、スマホをダンジョンの奥底に投げ捨てて、配信を切りたいという衝動に駆られる。


「のうマオ、今の虹色に光ったのはなんだ? キレイだな!」


 能天気に画面を覗き込むコロモチの無垢な笑顔が画面いっぱいに映し出された。

 その瞬間、コメントの加速は限界を突破する。


『美少女のアップ最高!! 心臓が止まるかと思った!』

『かわいすぎだろ!? 誰だ!?』

『謎の美少女キタ!』


 コメントの多さに、俺は慌てて配信を切ろうとしたが、指が震えて操作がままならない。


 その時だ。

 俺たちの方へ、凄まじい速度で接近してくる複数の足音が聞こえた。


「いたぞ! やっぱり配信の場所はここだ!」

「おい、あんた! 今の剣のスキルを見せろ! どんなスキルカードをを使ってやがる!?」


 現れたのは、三人の探索者たちだった。

 装備はどれも一級品で、俺のボロボロな装備とは比べるべくもない。


 だが、その目は獲物を追い詰めたハイエナのように卑屈にギラつき、欲望で濁っている。


「おい、そこのガキ。その剣のスキル、どこで手に入れた?」


 先頭のガタイのいい男が、威圧的に肩を揺らしながら歩み寄ってくる。

 鼻を突くような不快な優越感を隠そうともせず、男は俺の胸ぐらを掴もうと汚れた手を伸ばしてきた。


「初心者ダンジョンなら、お前F級だよな? F級の分際で、そんな宝は持ち腐れだ。俺たちに譲れば――」


 瞬間、俺の脳内を冷ややかなモノが支配した。

 怒りというよりも、大切なものを土足で踏み荒らされるような不快感。


 気づいた時には、反射的に体が動いていた。


「……近寄るな」

 

 男が言葉を吐ききる前に、周囲の空気が凍りついた。

 俺が指一本動かした記憶もないのに、いつの間にか5本の剣が、鋭い切っ先を男の首筋へピタリと突きつけていた。


「うっ!? な、なにを!?」


 男の顔から一気に血の気が引き、土気色に変わる。

 さっきまでの威勢はどこへやら、男は膝がガクガクと笑い、蛇に睨まれた蛙のように硬直している。


 俺自身、いつ剣を出したのか確かな自覚がない。

 ただ、心の底から「こいつらを追い払いたい」と願った瞬間、勝手に剣が動いたのだ。

 

「なんだよお前ら、いきなり失礼じゃないか?」


 自分の声が、自分でも驚くほど冷たく響く。

 剣の切っ先がわずかに男の喉元をかすめ、これ以上1ミリでも動くと血が出るような状態だ。


「や、やだなぁ……冗談ですよ……! ちょっとした挨拶のつもりで……!」


 首筋に死を突きつけられた男が、滝のような汗を流しながら、引き攣った笑みを浮かべる。

 その情けない姿に、俺は呆れとともに剣を収めた。


「ふうん……? 二度目は無いぞ。さっさと消えろ」


「は、はい……! 失礼しましたッ!」


 男たちは脱兎のごとく背を向け、一目散に逃げ出していった。

 彼らの背中が見えなくなると、俺は一気に全身の力が抜け、その場にへたり込みそうになった。


「マオ、お主、その力を使いこなしておるのう! 今の、少しだけカッコよかったぞ!」


「いやぁ……なんか勝手に剣が動いたんだよ。俺も驚いた……」


 俺は弱々しく笑いながら、震える手で膝を叩いた。


 まるで剣が俺の意志を先回りして、自分自身を守ってくれたような感覚。

 だが、それは同時に、自分でも制御しきれない大きな力を握っているという恐怖でもあった。


「マオさん! 大丈夫でしたか!?」


 聞き慣れた凛とした声。

 振り返ると、レイカが肩を激しく上下させながら、必死の形相で駆け寄ってくるのが見えた。


「レイカ、本当に来たのか。いいって言ったのに……あ、あとさっきはスパチャありがとな。見てたんだな」

「見てた、というか、今も見てますよ。ずっと」

「えっ?」


 レイカの視線の先――俺のスマホを見ると、画面の端で赤く「LIVE」の文字が点滅していた。


 そうだ。配信を切ろうと思って、変な探索者に絡まれたんだった。


『すげぇ! 有名ギルド『ジャイアント』の探索者を一瞬で黙らせたぞ!?』

『あのギルド、初心者を恐喝してるって噂は本当だったんだな』

『武器を奪おうとして返り討ち……ダサすぎて草』

『あいつら、ざまああああああああああああああ!!! 配信主、よくやった!』


 どうやら、先ほどの一部始終が全世界に垂れ流しになっていたらしい。

 羞恥心で顔が爆発しそうになり、俺は頭を抱えてしゃがみ込んだ。


「マオさん。さすがです! いつの間にこんな技術を? マオさんの力は留まる事を知りませんね! 私はまた感動してしまいました!」


 レイカの称賛の言葉が、俺のダメージをさらに深める。

 画面上のコメントは、もはやお祭り騒ぎを通り越して暴動に近い。


『レイカちゃん!? 本物だ!』

『あれ、この男……もしかしてレイカちゃんの命を救ったあの時の男か?』

『ほんとだ、例の動画で美少女とキスしてた奴だろ?』

『うらやましい……変われ! 俺と変われ!』


「うん……もう、無理」


 俺は……そっと配信の電源を切った。


「全部、配信しちゃってたな……これ、絶対に後で面倒なことになるやつだ。あーあ、どうしてこうなるんだ……」

「マオさん。先ほどの探索者は、悪評の絶えない『ジャイアント』というギルドの連中ですね。もし何か嫌がらせをしてくるようなら、私からギルド本部に抗議を入れますが」

「ああ、大丈夫だよレイカ。怪我もしてないし、もう追い払ったから」


 ダンジョン内で探索者同士の恐喝があるとは聞いていたが、まさか自分がそのターゲットになるとは思わなかった。

 底辺探索者だった頃には想像もできなかったトラブルの連続に、俺の精神的疲労はピークに達していた。

 

「マオよ、我はお腹が空いたんだが?」


 そんな俺の苦悩を知ってか知らずか、コロモチが俺の服の裾を引っ張りながら、おねだりするように見上げてくる。


「……そうだったな。よし、ギルドへ戻って飯にしよう」


 レイカとコロモチを連れ、俺は重い足取りでギルドへと戻った。

 せっかくの初配信だったが、収穫よりも不安の方が大きい。

 

 だが、ギルドの扉を開けると、そこには暖かい光景と美味しそうな匂いが満ちていた。


 キッチンではヒナタさんとイチカ、それにカエデが並んで楽しそうに料理を作っている。


「あ、おかえり! マオくん、コロモチちゃん、レイカちゃん! 今、ご飯作ってるよ!」


 ヒナタさんが太陽のような明るい笑顔で迎えてくれる。

 その笑顔を見た瞬間、張り詰めていた心の糸がふっと緩み、安堵感が胸の中に広がった。


「おお! 我も手伝うぞ! 美味しいものをたくさん作るのだ!」


「ありがと! じゃあ、まずは綺麗に手を洗ってきてね!」


「うむ!」


 騒がしくも温かい、いつもの光景。


 外でどんなに面倒なことに巻き込まれても、ここに戻ってくれば俺はいつもどおり『ただのマオ』でいられるのだ。

 

 リビングに響く賑やかな声を聞きながら、俺は今日一日の疲れを癒やすように、深く、静かに息を吐いた。

 

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