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現代ダンジョンのF級探索者の俺、常に美少女魔王が1m以内にいるせいで一人になれず詰んでいる。  作者: 水乃ろか


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第18話 カエデという先輩について

「よし! さっそく、新調したこの武器を試しに行くか!」


 ギルドのリビングに、カエデの元気な声が響き渡った。


 その手には、先ほど武器屋で購入したばかりのバトルアックスが握られている。

 ずっしりとした重量感のある刃が、室内の明かりを反射して鈍く光った。


「うん、楽しみだね!」

「久しぶりのダンジョンですから、しっかりと肩慣らしをしておきたいところです」


 ヒナタさんとイチカも、やる気は十分といった様子だ。

 ヒナタさんは杖をバトンのように器用にくるくると回し、イチカは腰に帯びた二本のロングソードを軽く叩いて、二刀流の準備を整えている。

 

 だが、俺たちの隣に立つレイカだけは、少し雰囲気が違っていた。

 レイカが携えているのは、そこらのチェーン展開している武器屋ではまずお目にかかれない代物——『竜刀』。

 一見すれば洗練された日本刀だが、鍔や柄、さらには刀身にまで禍々しくも美しい竜の紋章が刻まれている。

 上位の竜種からのみドロップするという、まさにS級探索者にふさわしい伝説級の武器だ。

 

「これだけの人数で一度に潜るのも効率が悪そうですし、二組に分けましょうか?」


 レイカが、周囲を見渡して提案した。


「たしかにそうだね。私とイチカはブランクがあるし、じっくり感覚を取り戻したいかな」

「それならば、私が御二人のお供をさせていただきますね」


 結局、レイカがヒナタさんとイチカに同伴することになり、俺とコロモチは、カエデと一緒にダンジョンへ向かうことになった。


 ――――――


「よおし! 我の新兵器で、魔物どもをギッタギタにしてやるぞ!」


 ダンジョンに一歩足を踏み入れた途端、コロモチが鼻息荒く宣言した。


 今日やってきたのは、いつもの初心者用ではなくF級ダンジョンだ。

 カエデ自身はD級の実力者だが、今日は新調した武器の練習ということで、俺たちに付き合ってくれている。


「……なぁコロモチ。お前、肝心の武器は忘れてきたのか?」


 俺は隣のポンコツ魔王をジト目で見た。

 その手には、武器屋でもらったはずの大鎌(サイス)が見当たらない。

 まさかギルドに忘れてきたんじゃ……


「何をボケておるのだ。ここにあるではないか」


 コロモチがふんと鼻を鳴らした瞬間、コロモチの手の中から虚空を裂くようにして、大鎌(サイス)がヌッと出現した。


「うわっ!? おま、どこから出したんだよ!」


「どこからとは、どういう意味だ? 手から出したに決まっておるだろう」


「手から出したって……どういう理屈だよ」


 よく見ると、コロモチはまるで手品か何かのように、大鎌(サイス)を掌の中に吸い込ませたり、再び生み出したりを繰り返している。


「おいおい、なんだそれ!?」

「おーい、どうしたぁ?」


 俺の絶叫を聞きつけて、前を歩いていたカエデが不思議そうに振り返った。


「カエデよ、聞いてくれ。マオがおかしいのだ。武器を出し入れしただけで腰を抜かさんばかりに驚いておってな。ほれ」

「うわっ! えっ!? ちょ、それどうなってんだよ!?」


 実演して見せたコロモチに、カエデも俺と同じように目を丸くして驚愕した。


「なんじゃ、お主らには出来ぬのか?」

「普通の人間には逆立ちしたって無理だよ……」


 ケロリとした顔で武器を消したり出したりするコロモチ。

 やっぱりこいつ、中身はとんでもない魔王なんだなと改めて実感させられる。


 そして、俺の今日の格好はといえば。今日のために買った5本の剣を、無理やり背中や腰に装備している。

 どの剣が自分に合うか分からなかったから全部持ってきたわけだが、正直、重いし動きにくい。

 俺もあんな風に、武器を自由に出し入れできたらどれだけ楽だろうか。


 試しに、腰に下げていた剣の1本を握ってみる。


「……剣よ! 手に収まれ!」


 半分はヤケクソだ。

 心の中で、剣に対して強く命令を下すようなイメージをぶつけてみた。


 すると——

 

 にゅるん!


「うえっ! 嘘だろ!? 剣が消えた!?」

「おお! なんじゃマオ、お主もできるではないか!」

 

 握っていたはずの剣が、俺の手の平に吸い込まれるようにして消失した。

 じゃあ、出すこともできるのか?


「剣よ、出ろ!」


 にゅるん!


「わっ、出た! 本当に出たぞ!」

「おいマオ! どうやってんだよ!? やり方教えろよ!」


 カエデが興奮した様子で食いついてくるが、教えろと言われても困る。

 

「いや、どうやるって言われてもな……もしかしてこれ、コロモチの影響なのか?」

「ふむ、おそらくはそうであろうな。便利であろう? 我を褒めてもよいぞ」

「便利どころか、革命的だよ……」


 驚いている俺を余所に、コロモチはさらに得意げな顔をした。

 

「それに、こういうこともできるぞ!」


 コロモチが指をパチンと鳴らすと、コロモチの手元の大鎌(サイス)がふわふわと宙に浮き、コロモチの周囲をゆっくりと旋回し始めた。

 

「なんだそりゃ……」

「お主もやってみるが良い!」


 促されるまま、俺も手の中の剣が浮かび上がる様子を強く思い描く。


 すると……俺の手を離れた剣が、見えない力に支えられるようにして空中に静止した。


「……できた。マジかよ……!」

「おわぁ! マオ、すげえな! マジで浮いてんじゃん!」


 掌への武器の格納、そして空中浮遊。


 どうやら俺は、知らない間にまた一つ、人間離れした能力を手に入れてしまったらしい。

 

 ――――――


「うむうむ。なかなか様になってきたではないか!」

「よし、その調子だ! 頑張れマオ!」


 その後、俺はダンジョンの一角で、5本の剣を浮かせて操る特訓に明け暮れた。

 カエデとコロモチは、まるで子供の成長を見守る親のように、後ろから野次を飛ばしたり応援したりしてくれている。


 数時間の練習を経て、俺は5本の剣を自由に出し入れし、さらにはそれらを同時に宙に浮かせて、ある程度自在に動かせるまでになった。


 とはいえ、精密に操れるのは自分のすぐ近く——至近距離だけだ。

 おまけに、5本バラバラの軌道を同時に制御するのは、脳が焼き切れそうなほど神経を使う。


 例えるなら、両手足で別々のラジコンを同時に操作しているような感覚だ。


「マオ、それでモンスターと戦ってみるか?」


 カエデが期待に満ちた目で提案してくるが、俺は力なく首を振った。


「いや……もう、限界。めちゃくちゃ疲れた……」

「あははは! だよな! よし、今日はこれくらいにして帰って休もうぜ。でもよ、それ完全に使いこなせたら、お前とんでもないことになるぞ!」


 カエデの豪快な笑い声に送られるようにして、俺たちは早めにダンジョンを引き上げ、ギルドへと帰還した。

 

 ギルドのリビングに戻ると、レイカたちはまだ戻っていないようだった。


「ふう……」


 俺は泥のように椅子に沈み込んだ。

 あの浮遊する剣の操作のせいか、それとも精神的な疲労か、とにかく体が重い。

 

「おいマオ、お前もコーヒー飲むか?」

「あ……ああ。助かるよ、カエデ」


 カエデがキッチンに立ち、手際よくコーヒーを淹れてくれる。


「疲れたのう……」

 

 何もしていないコロモチも俺の隣に座り、机に突っ伏した。


 今日は結局、一匹も魔物を倒していない。

 つまり、素材も魔石も収穫はゼロだ。


 以前の俺なら、「今日の飯代はどうしよう」と絶望していたはずだが、ドクアーク商会の一件が片付いたので今はそんな不安はない。


 今は仲間がいて、信じられない力があって。

 世界がガラリと変わってしまったような感覚だ。


「ほらよ、コーヒー。コロモチのはミルクたっぷりのカフェオレだぞ」

「ありがとう、カエデ」

「おお! すまぬな!」


 温かいマグカップを手に取り、一口啜る。

 苦味と香りが、疲れた脳に染み渡っていく。

 ほっと一息だ。


「……なぁ、マオ」


 ふと、隣でコーヒーを飲んでいるカエデが、真剣な声を出した。

 

「ん? どうした?」

「この前のダンジョン……あたしの失態で、とんでもねー迷惑かけちまったなって」

「……何言ってるんだよ。あれはカエデのせいじゃない。全部あのドクアークの連中のせいだろ」


 あの時の光景が脳裏をよぎる。倒れるカエデを前にしたときの、あの心臓が止まるような焦燥。

 二度と味わいたくない。

 

「まあ、そうなんだけどさ……マオがあたしを担いで、必死にダンジョンから連れ出してくれたんだろ?」

「ああ……必死だったからな。覚えてないくらいだよ」

「マオはさ……昔、あたしとギルマスがドクアークの野郎に襲われた時も、体を張って守ってくれたよな」

「そうだな。まあ、あいつらにはきっちり借りを返せたし、今となっては背中の傷は勲章みたいなもんだよ」


 俺は自分の背中にある、あの日についた大きな傷跡を意識しながら、カエデに笑いかけた。

 家族を守った証だと思えば、不格好な傷だって愛着が持てる。


 俺の言葉に、カエデも少し照れくさそうに、にっこりと微笑んだ。


「へへ、なんだかんだ、あたし……マオに守ってもらってばっかりだなって思ってさ」

「そんなことないって。カエデはD級探索者で、F級の俺からすれば、ずっと先を走ってる先輩なんだから」

「でも、今日の浮かぶ剣といい、ダンジョンの地下のあの変身といい……お前はどんどん、あたしの手の届かない先に行っちまうんだなって思ってさ」


 カエデがふと、遠くを見るような目をした。


「そんなことないよ。俺は、みんながいてくれるから今の俺なんだ。一人じゃ何もできないよ」

「……マオらしいな。でもよ、だからあたし、決めたんだ」

「決めたって……何をだよ。……まさか」

 

 カエデの真っ直ぐな視線に、俺の胸の中にざわついた予感が走る。


 ギルドを抜けるとか。

 もっと強い奴のところへ行くとか。

 そんな、別れを告げられるんじゃないかって。

 

「カエデ、俺は……その、俺はカエデがいないと、絶対に嫌だ! カエデがいてこそ、今の俺がいるんだ! 俺から離れないでくれ!」

「え……? そうか、マオもそんな風に想ってくれてたのか……」

「……ん? 想ってって、何がだ?」


 動揺する俺の手を、カエデが両手でぎゅっと包み込んだ。


「なぁ、マオ。あたしは……マオが好きだ! ずっと隠してきたけど、今言わないと、いつか絶対に後悔すると思ったんだ!」

 

 カエデの瞳は、これまでに見たことがないほど真剣で、熱を帯びていた。


 コロモチは俺の横で、飲んでいたカフェオレを勢いよく吹き出していた。

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